「テ、テメェら何者だ!?」
ガルドはなんとか恐怖に打ち勝とうと声を上げて三人に問う。
その問いにアスタロトが一礼して名乗った。
「私はアスタロト。ネクロ・D・アスタロトです。私の隣にいるのは」
「我はサタン。ラース・I・サタンだ。それで我の前方にいる駄バエが」
「俺様はベルゼブブ。グラトニー・G・ベルゼブブ様だ。おめぇが悪魔に魂を売った我が同胞かァ?ガルド=ガスパー」
「「なっ!?」」
三人の正体が大悪魔であることを知り、驚きを隠せないガルドとレティシア。
ガルドに至ってはサタンと名乗った少女の顔が、ルシファーの顔と瓜二つだったことに驚く。名を名乗ってくれなかったら間違えるところだったかもしれない。
「その反応は当たりだなァ。まァ全知の俺様が知らねえことは何一つねえがな!」
「は?全知だと……!?」
「アァ、そうだ。んでおめぇは遥か昔に壊滅した〝箱庭の騎士〟っつう箱庭の太陽しか浴びることができない純血の吸血鬼の生き残り………正確には裏切り者を皆ブッ殺した魔王様ってことらしいがな。
んでそんなおめぇは元・〝ノーネーム〟の仲間で三年前にコミュニティを滅ぼされて魔王に連れ去られた元・魔王様の神格持ちの吸血鬼のお姫様。
現在はその神格を魔王に渡して自由の身を得たがそれも仮染めで〝ペルセウス〟ってコミュニティに所有されている身分らしいな。
だがここにいるのは白夜叉とかいう星霊様が〝ペルセウス〟からおめぇを盗み出したことによりこうして〝フォレス・ガロ〟のリーダーであるガルド=ガスパーと接触出来ているってわけだなァ。
肝心のおめぇの名前はレティシア=ドラクレア―――どうだァ?全問正解だろォ………?」
「―――――ッ!!!!」
レティシアはゾッとして絶句した。全知というのは本当らしいが、いくらなんでも詳しく知りすぎている。
初対面の大悪魔にこれほどの情報を―――しかもガルドの目の前で暴露されたのは最悪だった。
そして案の定ガルドがレティシアを鋭い視線で睨みつけて獰猛に唸り声を上げた。
「な、〝箱庭の騎士〟であの〝名無し〟に所属していた純血の吸血鬼だと!?やはり奴らと繋がっていやがったのか!テメェ、何が目的だッ!!」
「………っ、」
レティシアはこの状況がかなりまずいと分かっていながらも、動くことも声を発することもできない。
これはガルドに恐れているわけではない。目の前に佇む大悪魔三人の醸し出す重すぎる空気にだ。
ガルドはチャンスと思いワータイガーに体を変幻させて動けないレティシアを叩き潰しにかかった。
―――が、ベルゼブブがガルドのその一撃を指ひとつで受け止めて呆れたように笑う。
「おっと待ちなガルドォ。折角そこの純血の吸血鬼のお姫様が〝鬼種〟をくれるってのにそのチャンスを自ら砕くのはよくないぜェ?」
「そうはいっても〝鬼種〟を得たところで堕天使には勝ち目ねえんだよ………!」
「アァ、ルシファーはたしかに強えぜ。俺様も魔法勝負じゃ万に一つも勝ち目はありゃあしねえ!格闘に持ち込めれば勝ち目は十分あるがなァ」
ケラケラと楽しそうに笑うベルゼブブ。すると重すぎる空気が消え失せてレティシアは体の自由を取り戻した。ベルゼブブが発した言葉に疑問を抱き、尋ねた。
「………お前はルシファーと親しげに名前で呼んでいるが、実は同士だったりするのか?」
「オォ!?中々鋭いじゃねえかお姫様ァ!そうだ、ルシファーは俺様たちの同士で一人箱庭に遊びに抜け駆けしやがったから嫉妬の余り俺様たちも外界から遊びにきたわけだッ!!」
「そ、そうか」
ベルゼブブが爛々と瞳を輝かせながら熱く語る。レティシアは若干引き気味に苦笑いを浮かべた。
その話を聞いたガルドはギロリとベルゼブブを睨み吼えた。
「な、テメェらはあの堕天使の小娘の仲間だと!?じゃあここにテメェらが来た理由って」
「オイオイ、つれねえことを言うなよガルドォ。俺様たちはたしかにルシファーの同士だ。だが俺様はルシファーの邪魔をしに来たはた迷惑な悪魔様でなァ!〝ノーネーム〟を襲いには行くが入る気はさらさらねえよ」
「は?」
「は?じゃねえよ。つまり俺様たちは〝ノーネーム〟には興味ねえ!おめぇは箱庭の悪魔共に魂を売った奴だが、悪魔の力をもらってんなら俺様たちの同胞でもある。見捨てたりはしねえよ!」
同士は見捨てない、とベルゼブブは笑って言う。ガルドは嬉し涙を見せて彼の手を取った。
ニヤニヤと笑うベルゼブブとは対照的に顔を青ざめる。
「(大悪魔三人が〝ノーネーム〟を襲うだと!?………なんとかして食い止めないと………!)」
レティシアの焦りを感じ取ったベルゼブブはニヤリといやらしく笑い―――ガルドにこう提案した。
「んじゃあさっさとそこのお姫様から〝鬼種〟をもらいな。そうしたらおめぇの代わりに―――サタンがルシファーを押さえてくれるぜェ?」
「いやちょっと待て駄バエ!?なぜ貴様ではなく我なんだッ!!」
ベルゼブブのいきなりのご指名にズカズカと歩み寄りながら激怒するサタン。
それにベルゼブブはゲラゲラと笑って答える。
「そんなもん簡単な話だァ。まずこの〝フォレス・ガロ〟を傘下に持つコミュニティ〝六百六十六の獣〟の魔王っつったら………獣の数字『666』は皇帝ネロしかいねえだろ。
んでその現在どっかに隠居中の魔王ネロに関係を持つのは赤い龍―――即ちおめぇしかいねえよサタン。俺様や嫁より適任だってこったァ!」
「………チッ、素直にルシファーの化身である我だからこそ適任だ、とか言ってくれれば素直に従ってやったんだがな」
「はい。では私からもお願いしますサタン様」
「うむ。可愛い娘の頼みなら仕方がないな。この我がルシファーの相手をしようぞ!」
アスタロトに様づけされて上機嫌に承諾するサタン。ベルゼブブは額に青筋を立てて笑う。
「オイ、サタン。俺様の時と嫁の時ィ………随分と温度差が違うじゃねえかァ!?」
「フン。貴様もアスタロトを見倣うことだな、駄・バ・エ」
「ほほほォ?おめぇ、ルシファーの化身のクセに俺様より実力低能な分際で喧嘩売ってんのかァ!?」
「何だと貴様ッ!そういう貴様は魔法に関してはダメダメの低能ではないか!」
「アァ?やんのかロリサンタァ!!」
「それはこっちの―――ってサタンだと言っているだろう!?この糞バエがッ!!」
大悪魔の二人が睨み合う。彼らが放つ凄まじい殺気に当てられてガルドとレティシアは息を呑む。
そこへアスタロトが割って入る。
「ベルゼブブ様もサタン様も喧嘩はやめてください!他の二人も巻き込んでますよ!?」
「「アスタロトがそう言うなら仕方がないな!」」
あっさりと解決。これにレティシアは「なんだこの茶番劇は………」と深い溜め息を吐いた。
ガルドはホッと一息を吐いて、レティシアに振り向く。
「おい、〝箱庭の騎士〟。俺は覚悟を決めた!だからさっさと吸血鬼の〝鬼種〟を寄越せ」
「………む。その態度は人に頼む姿勢か?まあ、いい―――いくぞ」
レティシアはガルドの態度を不服に思いながらも、彼の首筋に牙を突き立てて噛みつき血を吸い上げていく。
「ギャ、ガッッッ!??」
刹那、獣の本能を呑み込む紅い紅い血潮が体中を駆け巡る。鼓動は濁流のように不規則に波打ち、細胞の一つ一つが火中にくべられた薪の如く燃えて悲鳴を上げている。そしてガルドは地獄の釜に意識を沈めていった。
レティシアはペロリと舌で唇を舐める。その様子をニヤニヤと見つめていたベルゼブブは、アスタロトとサタンと共にレティシアを包囲した。
「………逃がしてくれそうにない、か」
「アァ。お姫様は暫く俺様たちと行動を共にしてもらうぜェ?」
「はい。私達の目的を知られてしまった以上、貴女の交友関係の者と接触させるわけにはいきませんので………すみませんが大人しく従ってもらいます」
「力ずくでくるなら来い。もっとも貴様程度ではハナから相手にすらならんがな」
大悪魔三人と神格を失った純血の吸血姫。確認するまでもなくレティシアに勝ち目はない。苦虫を噛み潰したような顔で承諾するほかなかった。
「ああ………こんなところで死にたくはないからな………悔しいがお前達の言うことに従うよ」
レティシアは大人化を解いて幼い少女の姿になる。すると、ベルゼブブは衝撃を受けたように目を見開いた。
「ッ!!?オイオイ、コイツァ………俺様好みのロリっ子吸血姫じゃねえかッ!!!」
「は?」
「我が嫁にサタン!このロリっ子吸血姫レティシアは何があっても殺すなッ!!〝ペルセウス〟とやらの襲撃も場合によっちゃあ全力で消し飛ばせッ!!いいなァ!?」
「ふふ、承りましたベルゼブブ様!」
「流石は
ベルゼブブの言葉に頷いて承諾するアスタロトと、嫌々ではあるが承諾するサタン。
レティシアはそんな彼らに苦笑いを浮かべ、『ひとまず殺される心配はなくなったみたいだな………』と安堵したのだった。
―――――――――――――――
―――ここハ、全てガ漆黒ニ染まっタ世界………。
空モ、地モ、建物モ何もかモ全てガ漆黒ニ染まっタ世界………。
―――――全てノ生き物さえヲ漆黒ニ染めテしまっタ………儚キ世界………。
だガ、そんナ世界にハ一人………漆黒ニ染まっテいなイ者ガ存在しテいタ。
そノ者ハ―――こノ世界ヲ漆黒ニ染めテしまっタ張本人だっタ………。
そノ者ノ髪ハ燻んダ金髪デ………紅い瞳からハ血ノ涙ヲ流し続けテいル……………。
漆黒ニ染まっタ〝ナニカ〟ヲとてモ大事そうニ抱きしメながラ泣いテいタ………。
それハかつテ燻んダ金髪ノ少女ガこノ世デもっとモ大切だっタ―――少女だっタものダ………。
そノ少女だっタものノ髪ハ美しイ金髪デ………紅い瞳ノ持ち主だっタ……………。
今ハ、少女だっタものハ………無残にモ漆黒ノ〝カタマリ〟ト化しテいタ………。
―――もウ、燻んダ金髪ノ少女ノ頭ヲ優しク撫でテくれル者ハいなイ………。
―――温かかっタ〝ヌクモリ〟モ………優しかっタ〝アイジョウ〟モ………楽しかっタ〝ジカン〟モ……………全テ………全テ消えテゆク……………。
だガ、世界ヲこんナ結末ニしテしまっタのハ他ノ誰でモなイ―――〝カノジョ〟だっタ………。
だかラ、〝カノジョ〟ハ願っタ………。
『―――〝***〟に終焉の時を………』
そしテ漆黒ニ染まっタ世界ハまるデ硝子ノ如ク容易ク砕け散リ―――全てハ〝ム〟へト還っタ……………。
―――――――――――――――
ルシファーが眠っている間に、十六夜・飛鳥・耀(及び耀に抱きかかえられているルシファー)は黒ウサギにより子供達に紹介された。
水樹セットの時にはまたしても十六夜がずぶ濡れになりかけたそうな。
眠りっぱなしのルシファーを除いた女性陣は大浴場で今日の疲れを癒す。
十六夜は侵入者達にご挨拶の石投擲によりジンが驚いて起きてきて、そんな彼を利用して〝魔王打倒〟のコミュニティを作ったと侵入者達に告げて彼らに希望を見出だした。
そして話はルシファーの寝室に訪れた飛鳥へと移行する。
ネグリジェを着た飛鳥はコンコンとルシファーを寝かせている部屋のドアをノックした。―――が、返事はない。
「ルシファーさん?………入るわよ?」
ガチャリ、とドアを開ける。部屋は真っ暗なままで電気をつけると―――
「え!?」
「―――ッ!!―――――ッ!!!」
飛鳥達が大浴場へ行く前は健やかな寝息を立てて眠っていたルシファーがうなされていた。
飛鳥はすぐさま彼女の元へ駆け寄り、手を握った。すると少しの間うなされ続けていたが、1分後には収まっていた。
飛鳥はつくづく自分の手はどうなっているのか、と思い苦笑を零した。
「………そう言えばルシファーさんに頭を撫でられた時………懐かしいと思えたのはなぜかしら?」
ふとルシファーに慰められた時のことを思い出して首を傾げる。
だが、いくら記憶を辿ろうとしてもルシファーと前に逢った記憶は一切出てこない。
―――そもそも、ルシファーである確証はなく別の誰かという可能性がなきにしもあらずだ。
「………まあいいわ。何かの弾みで思い出せるかもしれないのだし、今焦る必要はないのだもの」
飛鳥は自分にそう言い聞かせてルシファーの頭を優しくひと撫でしたあと、ゆっくりと立ち上がって握っていた彼女の手をそっと離して部屋の外へと歩みを進めようとした―――その時。
「………え?」
「……………」
クッ、とルシファーの手が飛鳥の服の端を掴んだ。飛鳥は驚いて振り返ると、眠っているルシファーの表情が泣きそうなものに見えた気がした。
飛鳥は「ふふ、しょうがない子ね」と言ってルシファーのベッドの中に潜り込んだ。そして彼女を引き寄せて優しく抱きしめた。
「飛鳥お姉ちゃんが一緒に寝てあげるわ♪」
冗談めいた飛鳥の言葉に、ルシファーはコクリと頷いて、
「………うん、もう私を一人にしないでね―――――お姉ちゃん」
「へ!?」
余りにもタイミングが合いすぎたルシファーの返答にドキッとする飛鳥。
まさか起きてるんじゃ、とルシファーの顔を覗き込んだが、健やかな寝息と愛らしい寝顔が飛鳥の眼に映っただけである。
飛鳥はホッと一息を吐いて、ルシファーの寝顔をマジマジと見つめた。
「ふふ、寝顔は本当に可愛らしいわね♪幼さからして人間だったら6、7歳くらいかしら。ジン君や他の子供達より幼かったりしてね」
もしそうならば、飛鳥がもし男ならば、相当のロリコンである。
飛鳥はクスリと笑って意識を手離し眠りにつくのだった。
明日になって二人とも大絶叫を上げることになるのだが、それはまた別の話である。