―――時はルシファー達が門の中へ突入したところまで遡る。十六夜と黒ウサギは門前で待機していると、不意に黒ウサギの背に少女の声がかけられた。
「黒ウサギ」
「え?」
黒ウサギは名前を呼ばれて振り返る。しかもその声は黒ウサギの聞き馴染んだ声だったため、少し驚きながら。
そして幼い金髪の少女が瞳に映った瞬間、黒ウサギは驚愕して目を見開き声を上げた。
「レ、レティシア様!?」
「あん?」
黒ウサギの騒がしい声に十六夜も振り返る。レティシアと呼ばれた幼い金髪の少女を見て「へえ」と驚嘆の声を発した。
「コイツは………中々見応えのある美少女だな」
「ん?………ふふ。嬉しいことを言ってくれるじゃないか。それと黒ウサギ。今の私は所有されている身分だから敬意を払う必要はないぞ」
十六夜に愛想笑いをしたあと、黒ウサギの言葉に苦笑するレティシア。
黒ウサギはレティシアの下へ駆け寄り尋ねた。
「レティシア様はどうしてこんなところへ?まさか、」
「ああ。黒ウサギが思っている通り、その木々を鬼化させたのは―――私だ」
「………!やっぱりそうだったのですか」
予想はしていたが、木々の鬼化がレティシアの仕業であることを知り黒ウサギは落ち込む。
十六夜は「ふうん」と適当に相槌を打ち、レティシアに歩み寄り問う。
「アンタがやったのは分かった。それで、どうしてそんな真似をしたんだ?」
「それは、黒ウサギ達のコミュニティに入った新人達の中に堕天使と神格級のギフト保持者がいると聞いて試してみたくなったからだ」
「………十六夜さん達が〝ノーネーム〟を救えるだけの力があるかどうか、ですか?」
「ああ、そうだ」
黒ウサギの言葉にレティシアは首肯する。だが十六夜が不可解そうにレティシアを見つめた。
「納得いかねえな。アンタはわざわざそんなことを報告するために俺達の前に姿を現したわけじゃねえよな?」
「………ふむ。中々鋭いな。そうだ、私がお前達の前に姿を現したのは―――お前達の実力も測りたいからだ」
「何?」
十六夜が疑問の声を発した瞬間、レティシアの背後から紫色の魔法陣が展開され、そこから二つの影が現れた。
一つは燻んだ深緑の髪の長身の男で、もう一つは紫色の髪の幼い少女だ。
「話は終わったかァ?お姫様」
「ああ、終わったよ」
「そうですか。私達に試して欲しい方々は彼らですか?」
「そうだ。だがあくまで力試しをしてほしいだけなんだ。だから」
「アァ、殺すなってことだろ?心配はいらねえよ、コイツらはルシファーの仲間なんだからなァ」
ルシファーの名を聞き、黒ウサギと十六夜は思わず身構えて問いただす。
「ルシファーだと!?テメェら、堕天使ロリとどういう関係だ!!」
「どういう関係だァ?んなもん、俺様たちはルシファーの同士に決まってんだろ。………アァ、俺様は魔神ベルゼブブだぜェ?」
「そして私は魔神アスタロトです。今日は彼女に頼まれてあなた方の力を見せてもらいます」
「ま、魔神!?」
〝魔神〟と聞き、黒ウサギは驚愕する。だがすぐさまレティシアを見て問う。
「ま、まさかレティシア様!彼ら魔神に脅されて、」
「いや。たしかに私は彼らと行動を共にすることを強要されているが、私に何かするつもりは更々ないらしいんだ」
「へ?」
キョトンとする黒ウサギ。ベルゼブブはニヤニヤと笑って話した。
「アァ、俺様はロリコンで変態だからなァ。このお姫様を殺すつもりはねえよ。ただ俺様達の目的を知っちまってるから白夜叉とかいう星霊様の元へ返すつもりはない。つーかこのお姫様の持ち主は〝ペルセウス〟っつーコミュニティだからなァ。用事済ませたら返す予定だぜェ?」
「ロリコン?………へえ。じゃあ一応確認するが、黒ウサギに手は出すつもりはねえな?」
「アァ。俺様がこの世でもっとも愛しているのはロリだッ!!条件は俺様の身長から-30㎝以上ッ!!つまり145㎝以下なら老若幼女問わずッ!!貧乳でも巨乳でもロリならば問わねえッ!!Welcome『
熱く語るベルゼブブ。苦笑するのはレティシアだけで、アスタロトは痛い頭を抱えている。黒ウサギに至ってはドン引きして後ずさっていたりする。
十六夜はケラケラと笑いながらも殺気を滲ませて言った。
「そいつは良かったぜ。生憎だが黒ウサギは俺のモノだ。お前が黒ウサギに手を出すつもりだったら今ごろ俺にブッ飛ばされてたからな」
「え?」
十六夜の意味深な言葉に黒ウサギはドキリとした。彼の『俺のモノ』発言………それは単に弄るのが面白いからなのかそれとも―――
「(ないない!ありえないのですよ!十六夜さんが黒ウサギのことを好きなわけ―――)」
「おい。何顔を赤らめてんだ黒ウサギ?熱でもあんのか?」
「へ!?」
考え事に夢中だった黒ウサギは、十六夜の顔が目の前にあったことに驚く。さらに黒ウサギの熱を測ろうとしたのだろう。十六夜が黒ウサギのおでこに自分のおでこをぴとっとくっつけてきた。
「ふきゃあっ!?」
変な悲鳴を上げた黒ウサギは恥ずかしさの余り十六夜を押しのけて飛び退く。
「なななな、何をするんですか十六夜さん!?」
「何って、お前の熱を測ろうとしただけだぜ?手で確認するよりは正確だと思ってな」
「そ、そうでしたか………」
安堵する反面、少し残念そうな顔をする黒ウサギ。それに十六夜は「へえ?」とさっきの行為を別の意味で捉えているのではないかと思いニヤニヤと笑う。
一方、レティシアは「ふむ」と顎に手を当てて、
「私達は無粋な真似をしたのか?まさか逢い引きを始める前だったんだな………邪魔したな」
「え?」
「そうみてえだなァ!んじゃ、俺様はあっちで嫁と戯れるとするぜェ!」
「今のベルゼブブ様はなんだか危険な香りがしますので全力で御断りさせて戴きます」
「つれねえ事を言うなって嫁よォ………」
アスタロトに拒絶されて傷つくベルゼブブ。だがすぐに立ち直り十六夜を睨みつけて嗤う。
「つーかクソガキ。さっきは面白えこと抜かしてくれたじゃねえかァ!俺様をブッ飛ばすだァア?」
「ああ。黒ウサギに手を出したら―――な?」
十六夜が鋭い視線で睨み返す。するとベルゼブブはクックッと笑い、
「面白れェ………。なら予定変更だァ。アスタロトォ!悪いが魔法で結界を張ってくれ」
「え?何をなさるつもりですかベルゼブブ様?」
「アァ。力試しじゃ物足りねえ!手加減はするが―――
ベルゼブブは凄まじい殺気を解放して嗤う。瞳だけは真剣そのもので。十六夜は黒ウサギを背に隠して不敵に笑った。
「いいねえ!そいつは―――最ッ高に面白そうじゃねえかッ!!」
十六夜は拳を叩くとお互いに睨み合い笑う。アスタロトは「はぁ」と溜め息を吐いたのち、右手を翳しながら紫色の魔法陣を足元に出現させ―――
「封絶」
「いや待て。それは某アニメの
「ふふ、すみません。では改めて―――〝
アスタロトが叫んだ瞬間、五人を氷で出来た特大の半球形の結界が囲い込み逃げ場を塞いだ。
黒ウサギと十六夜は上下左右くまなく見回したが、隙間なく氷に覆われており外に出ることは難しそうだ。
そんな様子を見ていたベルゼブブはケラケラと笑い、
「さァ、舞台は整ったぜクソガキ。この
「ハッ、そんじゃ遠慮なくいかせてもらうぜ?魔神様よぉ!」
十六夜は嬉々として飛び出し、ベルゼブブに戦いを挑んだ。
一方、アスタロトは黒ウサギを見つめてクスリと笑う。
「それでは黒ウサギさん。私達も始めるとしましょうか」
「………えっと、ルールはなんでございましょうか?」
「はい、それは―――」
黒ウサギの問いにアスタロトは白いワンピースのポケットから白い薔薇つきの眼帯を取り出して、それで紅い瞳を隠した。
黒ウサギはその行動の意味が分からず首を傾げていると、アスタロトは蒼い瞳を一回閉じて―――開眼した。
「―――ふふ、最初に忠告しておきますが………紅い瞳を隠すことによって蒼い瞳のギフトが使用出来るようになり、そしてこの瞳は相手の行動や言動などを未来視することが可能です」
「なっ、」
「なので私の試練は―――未来を見透かすことができる私に『一撃与える』ことです。どんな手を使っても構いません」
「……………ッ!!」
アスタロトの試練に黒ウサギは絶句した。自分の行動が読める相手に、果たして『一撃与える』など可能なのだろうか、と。
アスタロトは「あっ」と思い出したようにつけ足した。
「あと私は一切黒ウサギさんには攻撃致しませんし防御もしません。回避以外の行動は行いませんのでご心配なく」
「!?」
回避以外の行動はしない。これがアスタロトの最大のハンデであり、黒ウサギの闘志に火をつけさせるには十分すぎるルールだった。
「(回避以外は何もしないですって!?流石に〝箱庭の貴族〟と謳われているウサギを舐めすぎでございますよっ!!この黒ウサギを甘く見たことを―――後悔させてやるのですッ!!!)」
黒ウサギは白黒のギフトカードを取り出してアスタロトに特攻を仕掛けた。
だが彼女はのちに知ることになる。行動を見透かされている相手に『一撃与える』という行為が―――どれだけ難しいことなのかを。
―――――――――――――――
―――場所と時は少し経過して屋敷の中。
ルシファーがサタンを押さえている間にガルドと接触していた飛鳥・耀・ジンだった―――のだが、
「―――――………GEEEEEYAAAAAaaaa!!!」
「「「なっ!?」」」
もはやカフェテラスであった頃のガルドではなく、言葉を失った虎の怪物と化し白銀の十字剣を背に守って立ち塞がっていた。
飛鳥はすぐさまジンに〝威光〟で「今すぐこの部屋から逃げなさい!」と一喝してジンをひとまず扉の外へ逃がす。
安堵したのは束の間、ガルドが飛鳥めがけて突進してきた。このタイミングではルシファーに渡された魔法紙片を起動することはできない。
飛鳥に突進するガルド。それを耀が飛鳥を抱きかかえて飛翔することで助け出した。
「あ、ありがとう春日部さん」
「当たり前のことをしたまでだよ」
飛鳥がお礼をし耀が笑って返す。だが笑っている暇はない。標的を見失ったガルドは、扉の外へ逃げていたジンに向かって突進した。
「え?」
「な、ジン君!?」
「ま、まずい………!」
耀は飛鳥を下ろすとジンを助けに向かう―――が、ガルドは急に振り返って、
「………え?」
「GEEEEEYAAAAAaaaa!!!」
耀にめがけて強靭な鋭い爪を振るった。耀は不意の一撃を避ける暇などなく体を切り刻まれる―――はずだった。
ガルドの振るった強靭な鋭い爪は、耀を切り裂く寸前で闇の膜に阻まれて弾かれる。
本来この闇の膜に触れた者は、触れた部分は光でないものは最悪『消滅』してしまうほど凶悪な膜なのだが、今回のギフトゲームによる〝
そして耀を襲う痛みは『切り裂かれた』が光以外を弾く闇の膜と〝契約〟の力が互いに反発し合ったことにより変質し『殴られた』ような衝撃に変わり後方へと吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。
「………っ!」
「春日部さん!?」
咳き込む耀を見てすぐさま彼女の元へ駆け寄ろうとした飛鳥。どうやら闇の膜は『攻撃』は防げても叩きつけられるなどの『衝撃』は防げないようだ。
飛鳥が耀の元へ向かうその無防備な背を見てガルドは牙を剥いて笑った。
「GEEEEEYAAAAAaaaa!!!」
「はっ!?」
飛鳥が振り返った時にはガルドが目前に迫っており、強靭な鋭い爪を振るい切り裂こうとしていた。
闇の膜によって切り裂かれることはないが、耀のように壁や床に叩きつけられれば―――打ち所が悪ければ最悪の場合―――
「(………っ!こんなところで私は死ぬの………?そんなの、絶対に嫌よ!友人ができて………ルシファーさんとも打ち解けてきたのに―――ッ!)」
飛鳥はギュッと目を閉じる。これは死を受け入れたわけではない。痛みに耐えるためだ。
「(私は諦めないわ………!たとえ骨を折られても、這ってでもこのギフトゲームをクリアしてみせるものッ!!)」
飛鳥の闘志は消えない。消えないどころか燃え上がってさえいる。そんな不屈の魂を持った飛鳥に、少女の声がかかる。
『………そう。なら貴女の思いに答えて―――少しだけ手伝ってあげる』
「え?」
少女の声に驚いて閉じていた目を開ける飛鳥。するとガルドの強靭な鋭い爪が飛鳥に触れようとした瞬間―――飛鳥の姿は光となって掻き消え、後方に数メートル離れた耀の傍に出現した。
この事に、耀やジンだけでなくて飛鳥までもが混乱した。無論のこと、ガルドも消えた標的に混乱している。
「え?飛鳥?さっきのは………何?」
「わ、私にも分からないわ。ただ聞いたことのない女性の声がした瞬間、あんなことになったとしか………」
お互いに首を捻って顔を見合わせる飛鳥と耀。だがすぐに現実に引き戻される。ガルドの獣の咆哮によって。
「GEEEEEYAAAAAaaaa!!!」
「「!!」」
ガルドが飛鳥と耀に突進を仕掛けてきた。飛鳥は魔法紙片を取り出して構える。耀は疾風を纏って飛翔し指定武具を取りに向かう。
ガルドは耀には目もくれずに飛鳥に突っ込んでいく。飛鳥は魔法紙片を掲げて叫んだ。
「今よ、
飛鳥の〝威光〟に答えるかのように魔法紙片から闇が溢れ出し、そこから無数の闇で出来た鎖が出現してガルドを拘束した。
「GEEEEEYAAAAAaaaa!!!」
ガルドは引き千切ろうともがくがビクともしない。それを確認した飛鳥は、耀に向かって叫ぶ。
「今よ、春日部さん!」
「うん」
飛鳥がガルドを引きつけていたおかげで簡単に白銀の十字剣を獲得できた耀は、ガルドへ一直線に飛翔して後ろから彼の胸を、心臓を串刺しにした。
「GeYa………!」
指定武具で心臓を貫かれたことにより、ガルドは最期に歯切れの悪い断末魔を上げて絶命した。
飛鳥と耀は勝利のハイタッチを交わしたのだった。
思いの外長くなったためルシファーと十六夜と黒ウサギの戦いが後回しになってしまいました、すみません。
飛鳥が顕現する天使は恐らく分かる人は分かるはずです………少女の声が誰なのかも。
ちなみにもう一つのはてなギフトは―――