飛鳥達に置いてけぼりを食らっていたルシファーは、未だ〝フォレス・ガロ〟の屋敷付近にいた。蹲った状態で。
しかも全身を小さく震わせながらポタリ、ポタリと地面に紅い瞳から涙の雫を零しながら。
「………ッ、飛鳥………独りぼっちはもう嫌っ!私を……………独りにしないでよ………」
泣きながら独り呟くルシファー。すると、
「―――ルシファー」
不意に上空から優しい声音がルシファーの名を呼んだ。その声にルシファーは泣くことをピタリとやめ、ゆっくり顔を上げると、驚愕して瞳を見開いた。
そうなるのは無理もない。なぜなら、その声は、二度と聞くことができないと思っていたものだったから………。
ルシファーは視界を涙で滲ませながら、自分の前に降り立った天使の顔を見上げて、震え声で大好きだった少女の名を呼ぶ。
「………ミ、ミカエルお姉ちゃん―――ッ!!」
名を呼んだ瞬間、衝動に駆られたように勢いよく立ち上がり、大好きな姉ミカエルの胸に飛び込んだ。
ミカエルと呼ばれた黄金の御髪と瞳を持つ、黒いワンピースを着た幼い少女は少し驚きながらも優しく受け止める。
ミカエルはルシファーの燻んだ黄金の御髪の頭にそっと触れて優しく撫で始めた。
ルシファーは気持ちよさそうな顔をしながらミカエルの背に腕を回してギュッと抱きしめる。
「………この感触、この香り、頭の撫で加減………どれも本物のお姉ちゃんだあ!」
「そう。私が偽者だと思っていたの?失礼な妹だね」
「えへへ、ごめんなさい」
無邪気な笑顔を見せるルシファー。ミカエルはやれやれと苦笑した。久しぶりに妹の笑顔が見れて怒る気力はどこかへいってしまったようだ。
「それはそうと、随分と性格が変わってしまったようだね。昔は私にベッタリの優しくて、泣き虫で、寂しがり屋な子だったのに」
「う………恥ずかしいよお姉ちゃん!誰かに聞かれたらどうするの………!」
顔を真っ赤にしてあわあわするルシファー。ミカエルはクスクスと悪戯っぽく笑った。
「ふふ、馬鹿だね。わざと聞こえるように喋ってるんだよ」
「え?」
キョトンとするルシファー。ミカエルはクスクスと笑いながら一本の太い木に向かって声をかけた。
「そうだよね?―――久遠飛鳥さん?」
「(!?)」
ドキリ、とした太い木に背を預けて隠れていた飛鳥。結局あの後、ルシファーのことが心配で一人引き返してきていたのだ。
飛鳥は観念したように紅いドレスを風に靡かせて木の後ろから姿を現した。
「………貴女達姉妹水入らずのところを邪魔しないように隠れていたのに、バラすなんて酷いわ。えーと、ルシファーさんのお姉さん」
「ミカエルでいいよ。私以上の人間嫌いの妹に好かれている不思議な人間さん?」
「………そう。ところでミカエルさんは何で私の名前を知っているのかしら?私達、まだ初対面なはずなのだけれど」
「私の妹が所属している〝ノーネーム〟のメンバーのことなら白夜叉から伺ってるよ。今は〝サウザンドアイズ〟に匿ってもらってるからね」
ミカエルが答えると、飛鳥は「そう」と返した。だがルシファーと目が合った瞬間、気まずそうに視線を逸らす。
その様子にミカエルは「ああ」と納得してルシファーに視線を戻す。
「そう言えばルシファーは彼女に〝絶交〟と言われたんだっけ?」
「え?貴女、あの時ここで聞いていたの!?」
「そうだよ。いくら自分の仲間を傷つけたからって絶交は酷くない?ルシファーは貴女のことが大好きだったみたいだよ?だから凄く傷ついて私が声かけるまで泣いていたよ?」
「え?」と驚きルシファーを見る飛鳥。すると顔を真っ赤にしたルシファーはコクリと頷いた。
飛鳥は申し訳なさそうな顔をして謝る。
「ご、ごめんなさい!私、ルシファーさんを泣かせるつもりで言ったわけじゃないの!少しでも人間嫌いを克服して欲しくて意地悪しただけなの!だから―――ごめんなさい!」
「ふうん………そう」
頭を下げて謝る飛鳥を一瞥したミカエルは、フッと笑みを浮かべてルシファーの頭を撫でた。
「ふふ、良かったねルシファー。彼女に嫌われたわけじゃないみたいだよ」
「………!うん!」
嬉しそうな顔で笑ったルシファーは、飛鳥に振り向いて笑いかけた。
「ありがとう飛鳥!私を嫌いにならないでくれて。あの時飛鳥に絶交って言われて凄く胸が苦しかったんだよ?私、泣き虫だから本当に嫌われたんじゃないかと思って泣いちゃったもん」
「そうだったのね………ごめんなさい、酷いこと言って貴女を傷つけてしまって。もうあんなこと言わないわ!だからルシファーさん………私のことを嫌いにならないでほしいわ」
「うん!これからもよろしくね―――飛鳥お姉ちゃん」
「え?お、お姉ちゃん!?」
〝お姉ちゃん〟と言われて素っ頓狂な声を上げる飛鳥。ルシファーは潤んだ瞳で小首を傾げた。
「………ダメ?」
「―――ッ!!!………え、ええ。ルシファーさんがそう呼びたいのであれば別に構わないわっ!」
「うん!飛鳥お姉ちゃん!」
「………ッ!!(何よその笑顔………反則だわ)」
ルシファーの笑顔に思わず頬を赤らめる飛鳥。それを見たミカエルはニコニコと笑った。
「(ふふ、彼女もしかしてルシファーに気があるのかな?でも、彼女なら―――久遠飛鳥さんになら私の妹を任せられそうだね)」
うんうん、と一人頷いた後、ミカエルは悪戯っぽく笑ってルシファーを見つめた。
「ふふ、仲直りしたのは嬉しいけど―――私という実の姉を差し置いて他の子を『お姉ちゃん』呼ばわりするのは感心しないねえ?」
「え?あ、ごめんなさい!お姉ちゃん」
「許す!………よしよし」
「ん♪」
ミカエルのナデナデに気持ちよさそうに目を細めて体を預けるルシファー。
その様子に飛鳥は自分の手を見て、「私も負けてられないわね」と密かに闘志を燃やしていた。
ミカエルはピタッとルシファーの頭を撫でる手をやめて耳元で囁く。
「ねえルシファー。人間には私達に酷いことしてきた〝悪〟と、彼女のような〝善〟がいると思うの。だからさ、全ての人間を嫌いにならないで―――彼女達を信じてみてもいいんじゃないかな?」
「………でも、そうやって〝良い人〟を信じては何度も何度も何度も騙されてきたんだよ?また騙されて酷いことされたら私」
「大丈夫だよ。彼女を信じられるなら他の人間も平気だよ。それにこの箱庭に私達の―――を知るものは誰もいないじゃない?」
「………あっ、」
ルシファーは気づいた。此処は自分達の住んでいた故郷ではない。―――を知るものは自分達しかいないから虐められる心配はないのだ。
ミカエルは優しく微笑み言う。
「だからもう一度信じよう?―――人間達を、ね?」
「………うん。もう一度頑張ってみるね、お姉ちゃん」
「はい、良くできました」
ご褒美のナデナデをするミカエル。嬉しそうな顔をするルシファー。
ミカエルはスッと目を細めて飛鳥を見つめた。
「………久遠飛鳥さん。余り私の妹を苛めないであげて。羽弄りも程々に、ね?」
「え?」
「ええ、分かったわ。―――ん?程々に?」
駄目ではなく程々にというミカエルの言葉に首を傾げる。ルシファーはすぐさまミカエルに抗議をした。
「お、お姉ちゃん!?程々にってどういうことなの!?」
「うふふ、どうって………ね?昔の私の妹は可愛いげがあったのに今は随分と生意気になったそうだね?
「!!!?」
この時ルシファーは思った。一番の要注意人物は―――自分の姉ではないか、と。
飛鳥はニッコリいい笑顔で頷いた。
「ええ、分かったわ。この後丁度いい
「な、飛鳥お姉ちゃん!?」
「いいよ。『妹の羽弄りをタップリしていい権』を貴女にあげるね。今日は私が許すから存分におやり」
「お姉ちゃん!?」
物騒に笑い合う天使と人間という皮を被った悪魔達。ルシファーは怖くなってミカエルの腕の中から脱出し、二人から離れた木の後ろに隠れてヒョコッと顔だけ覗かせた。
それをクスクス見つめたミカエルと飛鳥。ミカエルは飛鳥に歩み寄って話しかけた。
「ふふ、私の妹の面倒を見てくれているようだね?ありがとう久遠飛鳥さん」
「好きでやっているからお礼はいらないわ。それと私のことは飛鳥でいいわ。よろしくね、ミカエルさん」
「そう。こちらこそよろしく、飛鳥さん」
笑みを交わし握手する二人。ミカエルはクスッと笑って飛鳥を見つめた。
「私の妹をよろしくね、飛鳥さん。今は強がってるみたいだけど本当は凄く弱虫だから………二人きりの時は目一杯可愛がってあげてね?」
「ええ、分かったわ」
「それと、羽弄りはいいけど引っ張ったりばっかしないで優しく撫でてあげて。可愛い一面が見れるかもしれないよ?」
「あら、それは楽しみね。是非試させてもらうわ」
「あと、あの子は貴女のことを姉として好いているよ。恋人目指すなら積極的にアタックすることを勧めるよ」
「そ、そう。ありが―――じゃないわ!だ、だだだ誰がルシファーさんのことをそんな風に想っているのよっ!か、勘違いしないでほしいわっ!!」
顔を真っ赤にして声を上げる飛鳥。ミカエルはクスクスと悪戯っぽく笑った。
「ふふふ。―――最後に飛鳥さん、手を出してくれないかな?」
「え?………ええ」
飛鳥はミカエルに言われた通りに手を出す。するとミカエルはその手に自分の手を重ねて―――
「貴女に光の加護があらんことを―――」
ミカエルが呪文のような言葉を紡ぐと―――眩い光が飛鳥の全身を包み込んだ。
「(温かい………これはミカエルさんの力なの?)」
飛鳥はフッと目を閉じる。その瞬間、飛鳥の脳裏には無数のルシファーの笑顔がよぎった。
優しい・嬉しい・楽しい・喜び・ 照れetc.全てルシファーの笑顔だった。
「(これが、ミカエルさんの守っていたルシファーさんの笑顔なのね………)」
飛鳥はそう直感して目を開けると―――自分の首に何かがかけられているような感触がした。
下に目を向けて胸元にある黄金のペンダントを手に取って見ると、雷霆の絵が刻まれていた。
「ミカエルさん、これは?」
「それはおじ様―――コホン。我らが唯一神様の加護が宿ったペンダントだよ。絶対的な光の力で『闇』から守ってくれる優れものだから無くさないでね」
「わ、分かったわ」
神様の加護があるモノだと知り、気を引き締める飛鳥。ミカエルはクルリと身を翻して別れを告げる。
「それじゃあ、妹をよろしくね。私は白夜叉のとこに戻るから」
「ええ、任せて。………分かったわ、またね―――ミカエルさん」
「ふふ、飛鳥さんもまたね。―――ルシファーも辛くなったらいつでも私の胸に飛び込んできていいからね?〝サウザンドアイズ〟で待ってるから」
「う、うん!お姉ちゃんまたね!」
元気よく手を振ってミカエルを見送るルシファー。その様子に飛鳥は苦笑しながら歩み寄る。
「ルシファーさんのお姉さん………良い人ね」
「当然だよ!だって私の綺麗なお姉ちゃんだもん♪」
「………ルシファーさん、それ答えになってないわよ?」
「細かいことは気にしちゃダメだよ?―――それより早く戻ろ?飛鳥お姉ちゃん」
「そ、それもそうね(お姉ちゃん呼ばわりされるのに慣れるのは時間がかかりそうね………)」
お姉ちゃんと呼ばれるのがくすぐったい飛鳥は思わず苦笑を零す。
そんな飛鳥の顔を覗き込んだルシファーは、飛鳥の手を取る。
「なにボーっと突っ立ってるの?早く行こうよ飛鳥お姉ちゃん!」
「え、ええ。そうね―――ってルシファーさん、貴女キャラ変わりすぎじゃないかしら?」
「え?だってコッチが本当の私なんだもん!『傲慢』なんて魔法で後付けした性格だし、本当は甘えん坊で泣き虫で寂しがり屋のどじっ子だもん!」
「………それ、自分で言って恥ずかしくないの?」
「う………凄く恥ずかしいよ」
自分で言って頬を赤らめるルシファー。飛鳥はクスッと笑った。
「(………確かにどじっ子ね。でも、これはこれで可愛いから問題ないわ♪)」
「―――何がおかしいの、飛鳥お姉ちゃん?」
「え?な、何でもないわ!それより、その性格のまま春日部さん達と接するつもりなの?」
飛鳥が問うと、ルシファーは首を左右に振った。
「ううん。本当の私はお姉ちゃんと飛鳥お姉ちゃん以外には見せないよ!あの生意気な私に戻しちゃうけど、ちゃんと耀やジン、十六夜と頑張って接するから大丈夫だよ!」
「そ、そう。嬉しいわ。だけどどうして私には本当の自分を晒け出してくれるのかしら?」
「え?それは―――飛鳥お姉ちゃんのことが大好きだからだもん♪」
「―――ッ!!!!」
ルシファーが満面の笑みで答えると、飛鳥は顔を真っ赤にして驚き、「そう」と返した。
「(どうしてあんなこっ恥ずかしいことを平然と言えるのかしら!?これはもう『どじっ子』ではなく『天然』の領域じゃない)」
飛鳥は気を紛らわすように自分のギフトカードを手に取って見た。
ワインレッドのカードに久遠飛鳥・ギフトネーム〝威光〟〝鳶一折紙〟〝????〟〝雷霆の首飾り〟
「(………え?『鳶一折紙』って何かしら?―――もしかして私がピンチだった時に直接脳内に語りかけてきた女性の声の名前?)」
そう。ガルドの攻撃が来る寸前で飛鳥に語りかけた少女の声は、恐らく『鳶一折紙』のものだろう。
そして飛鳥の体が一瞬光になって掻き消え、次の瞬間には後方に数メートル離れたところに出現したのは、『鳶一折紙』の力で間違いないだろう。
ではなぜ飛鳥は『鳶一折紙』という見たことも聞いたこともない少女の名がギフトカードに記されているのか。
これは黒ウサギの時と同じで知らぬ間に飛鳥は『鳶一折紙』という少女と同化しているのだ。
だが飛鳥には、これが誰の仕業なのか解るはずもなく、思考を停止させてカードを仕舞い歩き出したのだった。
問題「というわけで、合わせる顔がないと言いながらもちゃっかり会いにいくミカエルさんです!」
ミカ「ふふ、だって私の可愛い妹が泣いていたからね。そんなことを言ってる場合じゃないでしょ?」
ルシ「お姉ちゃん♪」
ミカ「ルシファー、来ていいよ」
ルシ「うん!お姉ちゃあああああん!!」
ギュッ!
ミカ「ふふ、よしよし」
ナデナデ
ルシ「ん♪」
問題「これは………いいですね、目の保養になります♪」
タタタタ、
飛鳥「み、見つけたわよルシファーさん!」
問題「ん?貴女は………もしや彼女達のお母さん!?」
飛鳥「違うわよ!?私はルシファーさんの」
ルシ「そうだよ。飛鳥お姉ちゃんは私とお姉ちゃんのお母さん!」
飛鳥「………いえ、『お姉ちゃん』言っている時点で『お母さん』扱いは矛盾してるわよ?」
ルシ「あっ………本当だ。じゃあ今日から飛鳥お姉ちゃんは―――飛鳥お母ちゃんだね♪」
飛鳥「言い直せばいいって問題ではないでしょう!?だから私は」
??『おや?なら私は君のおばあちゃんになるのかな?』
飛鳥「何でそうなるのかしら!?というより誰なのよ貴女は!」
??『うん?私か?私は』
問題「ん?―――ゲッ、貴女はネタバレ要因Aさん!?」
??『いや、誰なのかなその人?そもそも〝A〟ではなく〝F〟ならまだ分かるよ』
問題「それもそうですね!―――って〝F〟じゃバレるから敢えて〝A〟にしたんですけど!?」
??『そうだね。だけど〝『』〟を使っている時点で私の正体はバレバレじゃないかな?』
問題「仰る通りです!もう好きにしてください………幻影さん」
幻影『何で漢字なのかな?私は<ファントム>だよ。まあ、別に気にしてないけれど』
飛鳥「ファントムさん?随分と変わった名前ね。それで、私が『お母さん』だとなんで貴女は『おばあさん』になるのかしら?」
幻影『<ファントム>は私の名前じゃないけれど。まあ、それは置いといて。私が君の〝おばあさん〟になる理由?それは君の魂と繋がっている〝鳶一折紙〟という精霊が私の可愛い子供だからだよ』
折紙「呼んだ?―――ッ!!貴女は!」
幻影『………やれやれ、これはまずいことになってしまったね。悪いけれど、私はこれでおいとまするよ。じゃあね』
ジジジッ
折紙「待て!―――くっ、逃げられた」
飛鳥「………折紙さん、今のは?」
折紙「貴女に話すことはない。それより、この集まりは何?」
飛鳥「え?えーと、これはね」
ルシ・ミカ・問題「飛鳥は私達のお母さんだという話」
飛鳥「だから違うわよッ!!ってなんか増えてるわね!?というより問題児愛さんに至ってはもはや関係ないじゃない!!」
問題「ふふ、怒られてしまいました。というわけで今日はこの辺でお開きとしま」
折紙「そうはさせない。せっかく出番ができたのに終わらせるなんて私が許さない」
ガシッ
問題「へ?」
折紙「飛鳥。ちょっとコレ借りていく」
飛鳥「ええ、いいわよ」
折紙「わかった。じゃあ連れてく」
問題「え?ちょっと待」
折紙「問答無用」
ヒュンッ!
こうして問題児愛は折紙に拉致されたのだった………。
黒ウ「今回は本編ですら出番がなかったのですよ………」
十六「そうだな。てか問題児愛はまた拉致されたか。俺の水難の相みたいに誘拐の相でもあんのか?」
ベル「安心しろォ………俺様と嫁とロリサンタは前回すらこのコーナーに招待されてねえからなァ!」
サタ「サタンだ!いい加減にしろ駄バエッ!!」
レテ「私もなんだがな」
アス「ふふ」
耀「また出番がなかった………次こそは」
ジン「あはは………」