「今戻ったわ、春日部さん。ジン君」
「飛鳥、今まで何処に―――!?」
「あ、ルシファーさん………!」
飛鳥の声に振り返った耀とジン。そこには、飛鳥と手を繋いだルシファーの姿も確認できた。
耀とジンはすぐさま飛鳥とルシファーの下に駆け寄る。
「飛鳥………ルシファーと仲直りできたの?」
「ええ。私は平気よ。………ルシファーさん」
「………え、ええ。分かってるわ」
ルシファーは頷き、耀をジーっと見つめ口を開いた。
「………そ、その………悪かった、わね………酷い事、言って」
「え?」
耀は驚いた。まさかルシファーから謝罪の言葉が出てくるとは思わなかったのだろう。
ルシファーは頬を掻きながら続けた。
「………私、生意気だから………すぐにああいう事を言っちゃうのよ。だから本当に………ごめんなさい、耀」
「―――!」
再度驚く耀。また名前で呼んでくれた事が嬉しかった。ルシファーが手を出すと、耀はそれを受け入れ仲直りの握手をした。
その一方で、飛鳥は嘘を吐くルシファーに憐れみの視線を向けていた。
「(どうしてそんな嘘を吐くのよルシファーさん………。人間嫌いには昔虐めを受けていた過去があるというのに、ね)」
ルシファーの人間嫌いの理由は、彼女の姉・ミカエルによると、善人と思って信じては裏切られてきたからだ。
耀やジン、十六夜と仲良くしないのも、過去のトラウマで信じたくても信じられないからだろう。
この事を知っているのは唯一ルシファーが心を許している飛鳥だけだ。
だがミカエルがこの箱庭なら大丈夫、と言った事によりルシファーの心境にも変化が現れ始めていた。
これならば平気そうね、と仲直りの握手をしているルシファーと耀を見ながら飛鳥は思った。
「ふふ、仲直りは済んだようね。ルシファーさん、こちらへ来てくれるかしら?」
「………?ええ」
ルシファーは小首を傾げるものの、飛鳥の言葉なら信じられるのか素直に言うことを聞く。
歩み寄ってきたルシファーに微笑を向けて、飛鳥は彼女を引き寄せ抱きしめた。
「………え?飛鳥?」
「大丈夫よルシファーさん。私が貴女を怖いのから全部、守ってあげるから」
「―――!!うん!飛鳥お姉ちゃん♪」
小声でそう返したルシファーは、飛鳥の背に腕を回して嬉しそうに抱きしめ返す。
飛鳥は本当の自分を晒け出してくれる彼女が愛らしくて頭を優しく撫でる。
目を細めて気持ちよさそうにしているルシファー。そんな油断している彼女の後ろ髪を掻き分けて小さな黒い羽を露にさせると―――
「それじゃあ春日部さん。私がこの子を押さえているうちに、ね?」
「え?飛鳥お姉ちゃ―――」
「うん、分かった!」
耀は飛鳥の意図を読み取ると、ニコォリと邪悪に笑ってルシファーの小さな黒い羽の両方を根っこから鷲掴み、
「………っ、待っ」
「問答無用」
二人の企みに羽を握られた事でようやく悟ったルシファーは慌てて待ったをかけようとしたが、時既に遅し。
―――ぐいっ!
「いぎゃああああああああああ!?」
耀の手によりルシファーの小さな黒い羽は力いっぱいに引っ張られる。
羽が繋がっている部位に激痛が走り絶叫を上げるルシファー。
飛鳥は申し訳なさそうな顔―――ではなく悪戯っぽい笑みを見せながらルシファーを捕縛する。
「ごめんなさいねルシファーさん。春日部さんは黙って許してくれるほど優しい子じゃないのよ。だから、しばらくはこうさせてもらうわ」
「………ッ、………ッ!」
飛鳥に嵌められてルシファーは声にならない怒りを彼女に向けた。しかし飛鳥を傷つけたくないのか、暴れることができずにされるがままだった。
その事を察した飛鳥は、悪い顔で素敵な
―――数分後。
「………飛鳥の、ばかぁぁぁ!!」
「よしよし」
耀に羽を散々虐め抜かれたルシファーは、ピクピクと全身を痙攣させた後、泣きながら飛鳥に抱きついていた。
飛鳥は優しく頭を撫でながら彼女を慰める。
ちなみに耀は二人から少し離れたところで満足げな表情を見せていたりする。
ジンは苦笑して、三人に言った。
「あはは………。黒ウサギ達が心配してると思うから、戻りましょう?」
「ええ、そうね。―――あとでたっぷり羽を撫でてあげるから、泣くのを止めなさい」
「………!うん!飛鳥お姉ちゃん♪」
飛鳥の一言で元気を取り戻すルシファー。扱いやすい事この上ないのである。
だが、今回の会話は小声ではなかったため、
「「飛鳥お姉ちゃん?」」
「―――――ッ!」
耀とジンにバッチリ聞かれてしまっていた。
ルシファーは真っ赤にさせた顔を耀達から背ける。
「………なんでもないわっ!」
「「………?」」
その反応が余計怪しく思えた耀達は小首を傾げる。飛鳥は苦笑いを浮かべた。
誤魔化すようにルシファーは先へと急ぎ、それを飛鳥達が追うような形で黒ウサギと十六夜の下へ戻るのだった。
―――――――――――――――――――――
「―――さて、ギフトゲームも終わったことだぁ………俺様達は去るとするかァ」
「はい、ベルゼブブ様」
ベルゼブブの提案に頷いたアスタロトは、足元に紫色の魔法陣を展開する。
アスタロトを中心に展開された紫色の魔法陣は、近くにいたベルゼブブとレティシアの足元にまで及んだ。
そこへ、
「おい貴様ら!我を放置して帰ろうとすんな!」
激怒しながら飛翔してきたサタンがベルゼブブの隣に降り立つ。
新たな敵襲に身構える十六夜と黒ウサギ。
しかしサタンは彼らを一瞥したあと、アスタロトに向き直った。
「アスタロトまで我を置き去りにはしないよな?」
「はい。私は仲間にそんな扱いはしませんよ、サタン様」
「うむ。それを聞けて安心した」
サタンはうむ、と頷いてアスタロトの頭を撫でた。
去ろうとしたベルゼブブ達を―――否、レティシアを黒ウサギが呼び止める。
「ま、待ってくださいレティシア様!今ここで黒ウサギと十六夜さんでその魔神三人の手から解放して―――」
「駄目だ、黒ウサギ。彼らの実力を見縊るな。恐らく四桁………最悪三桁クラスの大悪魔かもしれないんだ。お前達に勝ち目はない」
レティシアは小首を横に振って黒ウサギの提案を拒む。
それに十六夜がへえ?と不敵な笑みを浮かべて告げた。
「オマエこそ俺の力を見縊ってねえか?なんなら今ここで魔神様三人を纏めて俺が相手してやろうか?」
「なっ………!」
十六夜の挑発に絶句するレティシア。このままではまずい、と即座に思ったからだ。
案の定、サタンがぴくっと反応して十六夜を睨んだ。
「ふん。人間風情が我ら魔神に勝てるとでも?傲るな雑魚が」
「あ?テメェ、俺を雑魚扱いするといい度胸してんな魔神ロリ」
「は?誰が魔神ロリだ!我には」
「ロリサンタという素敵ネームが」
「サタンという名前があるんだぞ!?―――って誰がロリサンタだッ!!会話に割り込むな駄バエ………!」
キッと鋭い目付きでベルゼブブを睨みつけるサタン。
ベルゼブブはゲラゲラと笑い、フッと真剣な顔でこう提案した。
「あァそうだなぁ………確かに俺様は全力でお前と戦いたいと思ってる。そこでだお前ら。俺様が〝ペルセウス〟と決闘出来るように頼み込んでやろう。そこで本気のゲームといこうかァ小僧ォ!」
「お?ソイツはいいねえ!期待していいのか?」
「おう!最高の舞台を用意してやるぜェ。クッハッハッハ!」
十六夜がワクワクという感じの表情を見せる。
ベルゼブブもクハハと笑う。
「んじゃまぁ、ルールとしては俺様、嫁、ロリサンタ、〝ペルセウス〟のリーダーを撃破出来ればお前らの勝ち。お姫様は返してやろう」
「!!」
「ただし、負ければお前ら〝ノーネーム〟は全員俺様の傘下に下れ。いいなァ?」
「おう。俺は構わねえよ。黒ウサギはどうする?そこの吸血鬼ロリを取り戻す絶好の機会だが」
「………そうですね。黒ウサギは―――」
「その条件、僕達〝ノーネーム〟は呑みましょう」
え?と第三者の声に振り返る黒ウサギ。
そこには、我らのリーダー・ジンと同士の飛鳥、ルシファー、耀がいた。
「ジン坊っちゃん!?」
「御チビか。ヤハハ、そうこなくちゃな!」
驚く黒ウサギを余所にヤハハと笑う十六夜。
飛鳥の隣にいたルシファーは、ベルゼブブ、アスタロト、サタンを見て呟く。
「………貴女達、どうしてここにいるのよ」
「ん?―――あァ、ルシファーか。お前俺様達に内緒でお出掛けたァどういう了見だコラ!」
「え?いや、私は強制的に箱庭に拉致されただけよ!」
「そうですか。急に居なくなられたので心配しましたよ、ルシファー様」
「アスタロト………ごめんなさい。心配かけちゃったわね」
「ふん。我らの主が不在だとソコの駄バエが仕切ることになるから………早いとこ帰ってきてもらいたいところだ」
「………悪いけど私は貴女達の下へ戻るつもりはないわ。〝ノーネーム〟に所属してるから、ね」
ルシファーはそう返して飛鳥の手を握る。飛鳥はそれに気づくとギュッと握り返して笑う。
「ええ、そうよ。残念だけどルシファーさんは私のものだから、元同士だろうと譲らないわ」
「!!飛鳥!」
ルシファーは嬉しそうに頬を赤らめる。
その様子にニヤニヤと笑うベルゼブブは、燻んだ深緑の髪を掻き上げて言った。
「コイツは面白ェ!いいぜェ………お前らがその気なら確実に倒して俺様の傘下に下してやる。行くぞお前ら!」
「はい。それではまた、ルシファー様」
「ではな、我らが主。それと人間共」
紫色の魔法陣が光り輝くと、ベルゼブブ、アスタロト、サタン、レティシアの四人を呑み込んで消滅した。
黒ウサギはレティシアの居た場所を見つめて、絶対に取り戻して見せる、と心に誓った。
一方、十六夜達はルシファーの下に集まって質問攻めしていた。
「つうか本当にあの魔神様はオマエの同士だったとはな。ベルゼブブに、アスタロトに、サタンか。どいつも強敵じゃねえか」
「ええ。私の仲間は最強揃いよ。油断は禁物だから」
「あら、それは素敵ね。白夜叉の件でリベンジしたいと思っていたところよ」
「え?でも弱点が有るといっても飛鳥達で勝てる相手かどうか………」
「弱点?それを教えて。まだ勝てないと決めるのは早いよ」
「そ、そうね。分かったわ。まず―――」
―――――――――――――――――――――
―――場所は箱庭第五桁・二六七四五外門。〝サウザンドアイズ〟第八八本拠。
〝ペルセウス〟の本拠である白亜の宮殿には、白い布地の〝ゴーゴンの首〟の旗印が飾られていた。
白亜の宮殿の最上階にある照らすには、玉座に腰掛けた亜麻色の髪に蛇皮の上着を着た線の細い男―――ルイオス。
その傍らには彼の側近とおぼしき男が控えていた。
「………さて、そろそろ逃亡した吸血鬼でも捕まえに行くか。ったくアイツはモノの分際で僕に迷惑かけやがって、取引相手は別に細かい事気にしない奴だし、多少いたぶっても」
「その必要はないぜェ。〝ペルセウス〟のリーダー・ルイオス=ペルセウスよぉ」
ハッと側近が声のする方に目を向けるとそこには、
燻んだ深緑の髪の男―――ベルゼブブ。
紫の長髪の幼い少女―――アスタロト。
漆黒の長髪の幼い少女―――サタン。
そしてルイオス達がこれから捜しに向かおうとした金の長髪の幼い少女―――レティシアがいた。
側近とルイオスは瞳を丸くして驚いた。
「は?誰だよお前ら!?―――ってソイツは取引商品の吸血鬼じゃないか!え?え?もしかして君らが捕まえてくれたの?」
「あァ。このお姫様は俺様達が捕まえたぜェ。………ってもタダで返すわけねぇがな」
「何?」
ベルゼブブの言葉に眉を顰めるルイオスと側近。
ベルゼブブは気にせず続けた。
「お前らが俺様の要求を呑んでくれりゃ、お姫様は返してやる」
「………要求ってのはなんだ?」
「至極簡単な要求です。我々〝***〟のコミュニティと共同でギフトゲームを開催し、〝ノーネーム〟と決闘をしてほしいのです」
「は?〝名無し〟のコミュニティに僕ら〝ペルセウス〟が決闘をしろと?」
「あァ。何、ただ俺様達が協力するだけじゃねェ。例えば………そうだなァ。お前の首にかかってる星霊様の強化―――ってのはどうだ?」
「―――!?」
ルイオスはギョッとしてベルゼブブを見つめた。
まあ、初見で自分の最強ギフトを見破られ、しかも弱体化していることさえ見抜かれるとは思いもしなかったのだろう。
それに気がついたベルゼブブは厭らしく笑った。
「俺様は全知の魔神様だ。お前の情報を識ることくれェは容易い。―――まあ、この箱庭じゃ俺様より格上の存在の情報までは得られねえ見てえだがな」
「ま、魔神だと!?」
今度は側近が驚愕し瞳を見開く。ルイオスも冷や汗を掻いて押し黙る。
ベルゼブブは今一度、二人に問いただした。
「それで、お前らはどうする?俺様の手を取ってくれりゃあ、星霊様の強化と決闘の人員も俺様達が加わる。断ればお姫様は返さねえし〝ペルセウス〟のコミュニティを『魔王』として木っ端微塵にしてやるぜェ」
「………ッ!!?」
それでは断る道理はないではないか!と二人は思った。
むしろ魔神という強大な力を借りれるのなら、断るのは勿体ないと考え、
「ああ、分かった。その条件を呑もう!それで、僕らが勝てばどんなメリットがあるんだ?」
「はい。我々
「は?名無しに魔神と―――兎だって!?ハハッ、そりゃいい報酬じゃないか!是非やらせてもらうよ」
「よォし。交渉成立だな!んじゃ、これから共闘する仲になるわけだ。よろしく頼むぜェお前ら」
「ああ。こちらこそよろしく!」
握手を交わしたベルゼブブとルイオス。こうして〝ペルセウス〟は〝***〟と共にギフトゲームを開催することになった。
―――〝ギフトゲーム・魔神と星霊と人類と〟の開催まで残り数時間と迫るのだった。
次回はルイオス&魔神戦です。
十六夜VSベルゼブブ
黒ウサギVSアスタロト
飛鳥&(ルシファー)VSサタン
耀VSアルゴール
の四本立てで展開する予定です。
話関係ないですがデアラ新巻買いました。
星宮六喰は『ほしみやむくろ』と読むそうですね。自分のことを『むく』って呼んでたから、むくかと思ってた(笑)
以降はネタバレになるので書きませんが。