傲慢な堕天使も来るそうですよ?   作:問題児愛

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このSSで登場するオリジナル設定の悪魔達は箱庭とはまったく無縁なので悪しからず。


三羽 乱入の兆しと箱庭入門

 ―――場所は箱庭外。煉獄塔第五層『ぼうしょくのま』の扉前。

 アスタロトはドンドンドンドンと『ぼうしょくのま』の扉を何度も強く叩いて叫んだ。

 

「ベルゼブブ様!いるのでしたら此処を開けてください!緊急事態なんです!」

 

『アァ?騒がしいヤツだなァオイ………俺様の昼寝を邪魔するたァどういう了見だゴラァ!!』

 

 男の声がしたと思ったら扉を蹴り破って―――

 

「きゃあ!」

 

 アスタロトごと吹き飛ばした。少女の悲鳴を聞いて中から燻んだ深緑の髪の青年ベルゼブブが出てきた。

 壁に体をめり込ませているアスタロトを見たベルゼブブは紅い瞳を瞬かせた。

 

「………何やってんだ、アスタロト」

 

「ベルゼブブ様に蹴っ飛ばされたんです。あと扉を蹴り破るクセ………直してくださいね?」

 

「何だと!?そいつァ悪ぃことしちまった―――な!」

 

 ベルゼブブは壁に埋まってるアスタロトの手首を掴んで引っこ抜いて救出した。フワリと弧を描くように彼女は廊下に着地した。

 

「助けてくださりありがとうございますベルゼブブ様」

 

「おうよ。褒美に抱きしめてくれてもいいんだぜェ?」

 

「フフ、そうですね。そうしたいのは山々なんですが、緊急事態ですので後の楽しみに取って置きます♪」

 

「そうかい。―――それで、緊急事態ってのは何だァ?」

 

「あ、はい。これなんですけど………」

 

 アスタロトは例の手紙をベルゼブブに見せる。それを彼は読み上げた。

 

「アァ、何々?『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能を試すことを望むのならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの〝箱庭〟に来られたし』だと!?ほー、面白そうな事になってんじゃねえか!」

 

「え?ベルゼブブ様………?」

 

「こうしちゃいられねえ!よし我が愛しの部下よ!俺様達も〝箱庭〟ってとこに行くぞ!!」

 

「い、行くって〝箱庭〟とかいうところにですか?」

 

「応とも!つーわけで、アスタロト、我が嫁よ!おめぇの魔法なら〝箱庭〟へ行けるはずだろ?」

 

「は、はあ………」

 

 ベルゼブブのキラキラした瞳を見て溜め息を吐くアスタロト。この男はどうやら本気みたいだ。

 なのでここは一つ忠告することにした。

 

「あのですね、ベルゼブブ様。私達が行ったことのない世界ですし、必ずしも行けるとは限らないんですよ?」

 

「そうだなァ。ならものは試しだ、俺様とおめぇで下見に行くぞ!それなら構わねえよなァ?」

 

「………はあ、分かりましたよ。どうなっても知りませんからね?」

 

「クッハッハ!構わねえからドンと来い、アスタロト!!」

 

 豪快に笑うベルゼブブは黒いフードつきローブを手に取り、黒い軍服の上に羽織る。もう一つをアスタロトに手渡した。

 アスタロトはそれを受け取り白いワンピースの上から羽織る。そしてブツブツと何やら呪文を唱え始めて―――右手を前に出し翳す。

 

「転移先は〝箱庭〟。―――オールクリア。いつでも行けます、ベルゼブブ様」

 

「よぉし、そんじゃ行くか!」

 

 ベルゼブブが言うとそれを確認したアスタロトは自分の足下から魔法陣を展開させ、二人を陣の中に招き入れる。

 指を鳴らすと魔法陣は闇色の輝きを放ち次の瞬間―――二人を何処かへと転移させたのだった。

 

 

―――――――――――――――

 

 

 ―――場所は戻って箱庭2105380外門・内壁。

 ルシファー、飛鳥、耀、ジン、三毛猫の四人と一匹は石造りの通路を通って箱庭の幕下に出る。ぱっと頭上に眩しい光が降り注いだ。遠くに聳える巨大な建造物と空を覆う天幕を眺め、

 

『お、お嬢!外から天幕の中に入ったはずなのに、お天道様が見えとるで!』

 

「………本当だ。外から見たときは箱庭の内側なんて見えなかったのに」

 

「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんですよ。そもそもあの巨大な天幕は太陽の光を直接受けられない種族の為に設置されていますから」

 

 耀の疑問にジンが答える。すると飛鳥はピクリと眉を上げて皮肉そうに問う。

 

「それはなんとも気になる話ね。この都市には吸血鬼でも住んでいるのかしら?」

 

「え、居ますけど」

 

「………そう」

 

 なんとも複雑そうな顔をする飛鳥。

 三毛猫は耀の腕からスルリと下りると、感心したように噴水広場を見回す。

 

『しかしあれやなあ。ワシが知っとる人里とはえらい空気が違う場所や。まるで山奥の朝霧が晴れた時のような澄み具合や。ほら、あの噴水の彫像もえらい立派な造りやで!お嬢の親父さんが見たらさぞ喜んだやろうなあ』

 

「うん。そうだね」

 

「あら、何か言った?」

 

「………別に」

 

 飛鳥に尋ねられて素っ気なく返す耀。三毛猫に話す優しい声音も態度も全く対照的だ。

 飛鳥は「そう」と返して目の前で賑わう噴水広場に目を向ける。噴水の近くには白く清潔感の漂う洒落た感じのカフェテラスが幾つもあった。

 

「お勧めの店はあるかしら?」

 

「す、すいません。段取りは黒ウサギに任せていたので………よかったらお好きな店を選んでください」

 

「それは太っ腹なことね」

 

 四人と一匹は身近にあった〝六本傷〟の旗を掲げるカフェテラスに座る。

 すると注文を取る為に猫耳の少女が素早く店の奥から飛び出てきた。

 

「いらっしゃいませー。ご注文はどうしますか?」

 

「えーと、紅茶を二つと緑茶を一つ。あと軽食にコレとコレと………ルシファーさんは何飲むの?」

 

「………じゃあ珈琲にするわ」

 

『ネコマンマを!』

 

「はいはーい。ティーセット三つに珈琲一つにネコマンマですね」

 

「ん?」と飛鳥とジンが不可解そうに首を傾げる。耀は驚いて信じられない物を見るような瞳で猫耳の店員に問いただす。

 

「三毛猫の言葉、分かるの?」

 

「そりゃ分かりますよー私は猫族なんですから。お歳の割りに随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスもさせてもらいますよー」

 

『ねーちゃんも可愛い猫耳に鉤尻尾やな。今度機会があったら甘噛みしに行くわ』

 

「やだもーお客さんったらお上手なんだから♪」

 

 猫耳娘は長い鉤尻尾をフリフリと揺らしながら店内に戻る。するとルシファーが三毛猫に冷たい目線を向けて、

 

「貴方なに可愛い猫耳娘に出逢えたからって発情してんのよ、このエロ猫。あと猫のクセにネコマンマって何?ダジャレのつもりなら寒すぎて凍え死にそうだわ」

 

『な、なんやと小娘!そういうオマエも堕天使ロリのクセに珈琲なんか頼みおって、後で「こんな苦いの飲めないわよ!」って逆ギレしてお嬢に押しつけたら許さへんで!?』

 

「はあ?そんなことするわけないわよ!苦かったら苦かったで角砂糖20個ほど入れれば飲めるっての!」

 

「「「いや、角砂糖20個は入れすぎでしょ」」」

 

「ちょっとそこの人間共っ!横槍入れないでくれるかしら!?」

 

「「「え?だって幾らなんでも多すぎだから」」」

 

「アンタら仲良すぎでしょう!?なんでそんなに息合ってんのよ!」

 

 ルシファーが叫ぶと飛鳥は邪悪な笑みを浮かべて彼女の頭を掴み、

 

「他のお客に迷惑だからいい加減静かにしなさい、ルシファーさん」

 

 ガンッ!とテーブルに叩きつけた。

 

「いぎゃ!」

 

 おでこをテーブルに強打し謎の悲鳴を上げて跳び上がるルシファー。さらに、ゴッ!と膝をテーブルにぶつけて、

 

「ひぎゃ!」

 

 別の謎の悲鳴を上げて椅子に思いっきり背中を凭れかからせると、椅子が後ろに倒れて―――ゴンッ!と床に後頭部を打ちつけた。

 

「みぎゃっ!?」

 

 トドメの一撃に一回目と二回目よりも大きな謎の悲鳴を上げるルシファー。悲劇の三連コンボである。

 飛鳥は少し黙らせようとして意地悪したつもりだったが、まさかここまで悪い方向に発展するとは思いもしなかった。

 

「ル、ルシファーさん!?大丈夫なの!?」

 

「…………………………きゅぅ」

 

 しかし既に手遅れであり、目を回して気絶してしまった。

 飛鳥は慌てて彼女を抱き起こすと、両脇に手を通してヒョイっと持ち上げてみる。

 

「え?何よこの軽さ!?10㎏あるかないかってほど軽いわ。ちゃんとご飯食べてたのかしら?」

 

 飛鳥はルシファーの余りの軽さに驚愕した。彼女は知らないが、ルシファーは魔法で自分の体重を10㎏以下にしていたりする。

 ルシファーの顔をマジマジと見つめた飛鳥はボソリと呟く。

 

「………よく見るとルシファーさんって可愛らしい子なのね。生意気だけれど」

 

 ふふ、と笑みを浮かべる飛鳥。だがふと、今この状況ならば彼女の羽を弄り放題なのでは?と悪い顔をしたが、

 

「いいえ。羽を弄ってはきっと起きてしまうわ。それに寝顔(?)が愛らしくて起こすのが勿体ないわね」

 

 飛鳥は羽弄りよりもそちらを取り、席に座ると膝の上にテーブル側に向かせたルシファーを乗せ落ちないようお腹辺りに腕を回して抱きしめた。

 この状態で彼女が目を覚ましてしまったらきっと、

 

「なっ、ちょっと離しなさいよ人間!私に触れるどころか抱きしめるとか何様よ!人間風情に抱きしめられるとか虫酸が走るっての!!」

 

 などと言われた挙げ句、最悪の場合骨身一つ残らないだろう。まあ、だからと言ってこの絶好の機会を飛鳥が見逃すわけないのだが。

 一方、ジンは倒れた椅子を元に戻して自分の席に戻る。耀は三毛猫の言う悪口に注意していた。

 

『フン。お嬢を名前で呼ばずにワシにも舐めた態度を取るからそうなるんや!ホンマいい気味だわ!』

 

「駄目だよ三毛猫。そんなこと言っちゃ」

 

 そんな耀の一人芝居にしか見えない光景に、ふと飛鳥は思い出して問いただす。

 

「そういえば春日部さんはもしかして猫と会話ができるの?」

 

「うん、出来るよ」

 

「もしかして猫以外にも意思疎通は可能ですか?」

 

「うん。生きているなら誰とでも話は出来る」

 

「それは素敵ね。じゃあそこに飛び交う野鳥とも会話が?」

 

「うん、きっと出来………る?ええと、鳥で話したことがあるのは雀や鷺や不如帰ぐらいだけど………ペンギンがいけたからきっと大じょ」

 

「「ペンギン!?」」

 

「う、うん。水族館で知り合った。他にもイルカ達とも友達」

 

 耀の声を遮るように飛鳥とジンが声を上げた。

 耀はそれに驚きながらも飛鳥の膝の上に鎮座するルシファーに目を向けて、

 

「そういえば、ルシファーも三毛猫の言葉が分かるみたいだった。堕天使って異種とも会話できるのかな?」

 

「え?だ、堕天使ですか!?」

 

「そうね。たしか十六夜君がルシファーさんのことを別名で魔王サタンとか言ってたわ。なんだか凄そうだってことはわかるのだけれど」

 

「ま、魔王サタン!?」

 

 一人騒がしいジンに首を傾げる飛鳥と耀。

 

「あら、どうかしたのかしらジン君?」

 

「え?あ、いえ!別に何でもありません!………しかし全ての種と会話が可能なら心強いギフトですね。この箱庭において幻獣との言語の壁というのはとても大きいですから」

 

「そうなんだ」

 

「はい。一部の猫族やウサギのように神仏の眷属として言語中枢を与えられていれば意思疎通は可能ですけど、幻獣達はそれそのものが独立した種の一つです。同一種か相応のギフトがなければ意思疎通は難しいというのが一般です。箱庭の創始者の眷属に当たる黒ウサギでも、全ての種とコミュニケーションを取ることは出来ないはずですし」

 

「そう………春日部さんと恐らくルシファーさんは素敵な力があるのね。羨ましいわ」

 

 飛鳥が笑いかけると耀は困ったように頭を掻く。だが飛鳥の憂鬱そうな表情を見た耀は尋ねた。

 

「久遠さんは」

 

「飛鳥でいいわ。よろしくね春日部さん」

 

「う、うん。飛鳥はどんな力を持っているの?」

 

「私?私の力は………まあ、酷いものよ。だって」

 

「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ〝名無しの権兵衛〟のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

 

 品の無い上品ぶった声が飛鳥の声を遮りジンを呼ぶ。振り返ると、2mを超える巨体をピチピチのタキシードで包む変な男がいた。

 ジンは顔を顰めて男に返事をする。

 

「僕らのコミュニティは〝ノーネーム〟です。〝フォレス・ガロ〟のガルド=ガスパー」

 

「黙れ、この名無しめ。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいじゃないか。コミュニティの誇りである名と旗印を奪われてよくも未練がましくコミュニティを存続させるなどできたものだ―――そう思わないかい、お嬢様方」




ルシファーの同士二人目はベルゼブブです。

グラトニー・(グレ)・ベルゼブブ
髪の色:燻んだ深緑色
瞳の色:紅色
肌の色:白色
服装:黒の軍服
   黒の靴下
   黒の靴

ギフト等はネタバレ要素なので〇羽の更新時ご確認ください。
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