傲慢な堕天使も来るそうですよ?   作:問題児愛

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四羽 変な獣男とコミュニティの説明

 ガルドと呼ばれた男は先程ルシファーが座っていた席に勢いよく腰を下ろした。飛鳥とルシファーと耀に愛想笑いを向けるが、ルシファーは気絶中な為自然に無視したことになり他の二人はガルドの失礼な態度に冷ややかな態度で返す。

 

「失礼ですけど、同席を求めるならばまず氏名を名乗ったのちに一言添えるのが礼儀ではないかしら?」

 

「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ〝六百六十六の獣〟の傘下である」

 

「烏合の衆の」

 

「コミュニティのリーダーをしている、ってマテやゴラァ!!誰が烏合の衆だ小僧オォ!!!」

 

 ジンの横槍にガルドの顔は怒鳴り声と共に激変し、口は耳元まで大きく裂け、肉食獣のような牙とギョロリと剥かれた瞳が激しい怒りと共にジンを睨みつける。

 

「口慎めや小僧ォ………紳士で通っている俺にも聞き逃せねえ言葉はあるんだぜ………?」

 

「森の守護者だったころの貴方なら相応に礼儀で返していたでしょうが、今の貴方はこの2105380外門付近を荒らす獣にしか見えません」

 

「ハッ、そういう貴様は過去の栄華に縋る亡霊と変わらんだろうがッ。自分のコミュニティがどういう状況に置かれてんのか理解できてんのかい?」

 

「ハイ、ちょっとストップ」

 

 険悪なジンとガルドを遮るように飛鳥が声を上げた。

 

「事情はよくわからないけど、貴方達の仲が悪いことは承知したわ。それを踏まえて質問したいのだけど―――ねえ、ジン君。ガルドさんが指摘している、私達のコミュニティが置かれている状況………というものを説明していただける?」

 

「そ、それは」

 

 ジンは言葉に詰まった。このタイミングで言葉を詰まらせるのは明らかに怪しすぎる。飛鳥は畳み掛けることにした。

 

「貴方は自分のことをコミュニティのリーダーと名乗ったわ。なら黒ウサギと同様に、新たな同士として呼び出した私達にコミュニティとはどういうものなのかを説明する義務があるはずよ。違うかしら?」

 

 追及する声は静かだが、ナイフのような切れ味を持ってジンを責める。

 それを見ていたガルドは獣の顔を人に戻し、含みのある笑顔と上品ぶった声音で、

 

「レディ、貴女の言う通りだ。コミュニティの長として新たな同士に箱庭の世界のルールを教えるのは当然の義務。しかし彼はそれをしたがらないでしょう。よろしければ〝フォレス・ガロ〟のリーダーであるこの私が、コミュニティの重要性と小僧―――ではなく、ジン=ラッセル率いる〝ノーネーム〟のコミュニティを客観的に説明させて戴きますが」

 

「………そうね。でもその前に、ルシファーさん。ガルドさんが説明してくれるみたいだから何時までも気絶してないで起きなさい!」

 

 飛鳥はルシファーの両方の羽を掴むと、「せーの!」の掛け声と共にグイッと遠慮無用に引っ張った。

 

「いぎゃっ!?」

 

 ルシファーは謎の悲鳴を上げて飛び起きる。飛鳥は彼女が落ちないように両肩を掴んで膝の上に座り直させた。

 それに驚いたルシファーはバッと振り返ると、飛鳥の申し訳なさそうな表情が視界に映った。

 

「手荒く起こしてごめんなさい、ルシファーさん。これからガルドさんの説明があるからちょっと大人しくしてくれると嬉しいのだけれど」

 

「全くだわ!起こすならもっと優しく起こしなさいよ人間!これだから人間はキライよ!ガサツで乱暴で自分勝手で!ヤツらのせいで私は―――私達はどれだけ苦しめられてきたと思ってんのよッ!!」

 

「え?」とルシファーの意味深な叫びを聞いて驚く飛鳥。ルシファーはハッとして口を閉じて目線を飛鳥から逸らす。

 

「(………人間がルシファーさんを苦しめてきた?それは―――どういう意味なの?)」

 

 飛鳥はその意味が理解できなかった。堕天使が人間を貶めることはあっても、逆はそうそうない………というよりありえない気がする。

 外界の人間が束になったところで果たして堕天使を討つことが出来るのだろうか?

 結局どういう意味なのか分からない飛鳥は、ただルシファーの頭を優しく撫でて謝った。

 

「ごめんなさい、ルシファーさん。貴女がどんな目に遭ってきたのか分からないけど………本当にごめんなさい」

 

「え?なんでアンタが関係無い分まで謝るのよ!それにアンタに頭撫でられても、ちっとも嬉しくなんか―――ないんだから………」

 

 口ではそう言っているが、ルシファーの力は自然と抜けていき警戒心も薄れていく。

 

「(なんでこんな………人間なんかに頭撫でられて、気持ちいい感覚になるのよ……………それにこのヒトの手―――〝         〟みたい)」

 

 不意にルシファーの頬に涙が伝う。それを見た飛鳥は目を見開いて驚いた。

 

「え?ルシファーさん!?どうして泣いてるの?」

 

「………泣いてなんか、ないわよ………」

 

「え?でも、」

 

「泣いてなんか―――ないもんっ!」

 

「………もん?」

 

「―――っ!う、うっさいわよバカ人間!」

 

「なっ、誰がバカ人間よ!?」

 

「アンタ以外に誰がいんのよ!バカ飛鳥ッ!!」

 

「な、なんですって!?」

 

 睨み合う飛鳥とルシファー。それを見ていたガルドは咳払いをして、

 

「レ、レディ達?そろそろイチャついてないで私の話を―――」

 

「「イチャついてなんかないわよっ!!」」

 

 飛鳥とルシファーはつい先程猫耳娘の店員が持ってきた出来立て熱々の紅茶が、珈琲が入っているカップをそれぞれが手に取り―――ガルドに投げつけた。

 

「なっ、アッチィイイイイイ!!?」

 

「「………あっ、」」

 

 二人は気づいたが、もう手遅れだった。ガルドは再び怒りと共に顔を虎のような肉食獣へと変化させ睨みつけてきた。

 

「小娘共ォオオオ!!俺に喧嘩売ってんのかァア!!?」

 

「あら、ごめんなさい。手元が滑ってしまったわ」

 

「テメェ!今のどこが手元が滑ったで片付くんだよクソがァアアッ!!」

 

 一触即発の中、ルシファーは右手を前にパチンと指を鳴らした。

 

「―――はい。これで文句ないでしょう獣男」

 

「あぁ?誰が獣男だゴラァ!!俺にはガルド=ガスパーっつう名前が―――!?」

 

 ガルドはふと熱々のモノがかけられたはずなのに、熱さと痛みがなくなっていることに気づく。さらに、ピチピチのタキシードについていた紅茶と珈琲のシミさえなくなっていた。

 

「………小娘、テメェさっき俺に何をした?」

 

「何って、魔法で貴方の服のシミと苦痛を無くしてあげただけよ?」

 

「魔法だと!?………テメェは一体何者だ?」

 

「私はプライダ・S・ルシファー。堕天使だけど魔法使いでもあるわ」

 

「―――!?だ、堕天使だと!?」

 

 ガルドは衝撃を受けて虎の顔が人に戻った。目の前にいる見た目年端もいかぬ子供が堕天使を名乗ったのだ。それに驚くべきところはそこだけじゃない。

 

「(ルシファー………だと!?じ、冗談じゃねえ!噂じゃ三桁クラスの魔王だって聞いたことがある………そんな怪物を相手に出来るかッ!)」

 

 ガルドは盛大に舌打ちをした。ルシファーとはいえ、外界から召喚されてきた者だ。箱庭に存在していたとされるルシファーと同一人物とは考えがたいが。

 

「(違うにせよ何にせよ、俺じゃ堕天使には天地が引っくり返っても勝てるわけがねえ。堕天使の長ならなおさらだ。―――此処は上手く話を丸め込んで黒ウサギ共々堕天使も〝フォレス・ガロ〟のコミュニティに加入させるしかねえな!)」

 

 覚悟が決まったガルドは意を決して上品ぶった声音に戻して咳払い一つで問う。

 

「コホン。それで、レディ達?私の話を聞いて戴けますね?」

 

「え?ええ、お願いするわ」

 

 飛鳥が返事すると、ガルドは頷いて説明を開始した。

 

「承りました。まず、コミュニティとは読んで字の如く複数名で作られる組織の総称です。受け取り方は種によって違うでしょう。人間はその大小で家族とも組織とも国ともコミュニティを言い換えますし、幻獣は〝群れ〟とも言い換えられる」

 

「それぐらいわかるわ」

 

「はい、確認までに。そしてコミュニティは活動する上で箱庭に〝名〟と〝旗印〟を申告しなければなりません。特に旗印はコミュニティの縄張りを主張する大事な物。この店にも大きな旗が掲げられているでしょう?あれがそうです」

 

 ガルドはカフェテラスの店頭に掲げられた、〝六本傷〟が描かれた旗を指さす。

 

「六本の傷が入ったあの旗印は、この店を経営するコミュニティの縄張りであることを示しています。もし自分のコミュニティを大きくしたいと望むのであれば、あの旗印のコミュニティに両者合意で『ギフトゲーム』を仕掛ければいいのです。私のコミュニティは実際にそうやって大きくしましたから」

 

 自慢げに語るガルドはピチピチのタキシードに刻まれた旗印を指さす。

 彼の胸には虎の紋様をモチーフにした刺繍が施されている。

 飛鳥と耀が辺りを見回すと、広場周辺の商店や建造物には同様の紋が飾られていた。ルシファーだけは見向きもせずガルドの顔をつまらなさそうな瞳で見つめている。

 

「その紋様が縄張りを示すというのなら………この近辺はほぼ貴方達のコミュニティが支配していると考えていいのかしら?」

 

「ええ。残念なことにこの店のコミュニティは南区画に本拠があるため手出し出来ませんが。この2105380外門付近で活動可能な中流コミュニティは全て私の支配下です。残すは本拠が他区か上層にあるコミュニティと―――奪うに値しない名も無きコミュニティぐらいです」

 

 飛鳥の問いにクックッと嫌みを込めた笑みを浮かべるガルド。ジンは顔を背けたままローブをグッと握りしめている。

 

「さて、ここからがレディ達のコミュニティの問題。実は貴女達の所属するコミュニティは―――数年前まで、この東区画最大手のコミュニティでした」

 

「あら、意外ね」

 

「とはいえリーダーは別人でしたけどね。ジン君とは比べようもない優秀な男だったそうですよ。ギフトゲームに於ける戦績で人類最高の記録を持っていた、東区画最強のコミュニティだったそうですから」

 

「………ふうん。人間が、ねえ」

 

 一転してつまらなそうな口調で語るガルド。ルシファーは少し興味を示したのかジンを一瞬だけ見て、すぐにガルドに視線を戻した。

 

「彼は東西南北に分かれたこの箱庭で、東の他に南北の主軸コミュニティとも親交が深かった。いやホント、私はジンの事は毛嫌いしてますがね。これはマジですげえんですよ。南区画の幻獣王格や北区画の悪鬼羅刹が認め、箱庭上層に食い込むコミュニティだったというのは嫉妬を通り越して尊敬してやってもいいぐいには凄いのです。―――まあ先代は、ですが」

 

「……………」

 

「〝人間〟の立ち上げたコミュニティではまさに快挙ともいえる数々の栄華を築いたコミュニティはしかし!………彼らは敵に回してはいけないモノに目をつけられた。そして彼らはギフトゲームに参加させられ、たった一夜で滅ぼされた。『ギフトゲーム』が支配するこの箱庭の世界、最悪の天災によって」

 

「「「天災?」」」

 

 ルシファーと飛鳥と耀は同時に聞き返した。ガルドは「はい」と答えて告げた。

 

「これは比喩に非ず、ですよレディ達。彼らは箱庭で唯一最大にして最悪の天災―――俗に〝魔王〟と呼ばれる者達です」

 

 

―――――――――――――――

 

 

 ―――場所はどこかの異世界。砂漠の真っ只中。

 そこには〝箱庭〟に転移したはずのアスタロトとベルゼブブの姿があった。

 

「………オイオイ、此処が箱庭ってわけじゃねえよな?」

 

「はい。恐らく箱庭ではないと思います。私の転移魔法は確実に箱庭へ繋いだはずだったのですが………」

 

「アァ。アスタロトの魔法はほぼ全能だからなァ………全能のルシファーより劣ってるが転移魔法に関しては狙った座標を違うことはねェ。だとしたら―――何者かが邪魔しやがったんだろうよ」

 

「邪魔を、ですか?箱庭には転移の邪魔を出来るものが存在するのですか?」

 

「そうとしか考えようが―――アン?」

 

 ベルゼブブは遥か上空からヒラヒラと何かが落ちてきているのを見て怪訝な顔をした。

 アスタロトは舞い落ちてきたモノが封書だと分かり手に取って中身を見る。そこにはこう書かれていた。

 

 

『招かれざる客をそう簡単に〝箱庭〟へは入れさせないわよ?

 入りたければ………そうね、あと9999回挑んだら通してあげるわ。

 つまり計10000回挑戦しなさいってこと。

 ふふ、健闘を祈ってるわ』

 

 

「………だそうですよ、ベルゼブブ様」

 

「ほほう。随分と面白え挑戦状(ラブレター)じゃねえか!俺様好みのロリっ子なら是非とも観光土産に持ち帰りたいところだッ!!」

 

 何者かが送ってきた手紙を読んで青筋を立てて歓喜するベルゼブブ。

 それを見たアスタロトは苦笑いを浮かべて問いただす。

 

「………それで、如何致しますか?ベルゼブブ様」

 

「クッハッハ!モチロン受けて立つぜ。―――っとその前にだ。魔力切れの心配があるからなァ………アスタロト」

 

「はい?」

 

「今日は特別だ。俺様の魔力も存分に使え」

 

「―――!はい♪では、失礼しますね」

 

「おう!」

 

 ベルゼブブが跪くと、アスタロトは彼の頬に手を添えて―――唇にキスをした。

 静寂が訪れ、数十秒後に互いの唇を離して微笑み合う。

 

「ベルゼブブ様の魔力、ご馳走様です♪」

 

「おう。俺様としてはあと1分でも10分でも100分でも我が嫁の唇の感触を楽しみたかったがなァ」

 

「………100分って、共に窒息死しちゃいますよ?」

 

「だな!………それじゃあサッサと後9999回の転移終わらせるとすっか!」

 

「はい!」

 

 ベルゼブブの言葉に頷いたアスタロトは、再び魔法陣を二人の足下にまで広がらせて―――別の場所に転移したのだった。

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