傲慢な堕天使も来るそうですよ?   作:問題児愛

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オリ主は登場しません。

十六夜と黒ウサギがメインです。

一つに纏めたら8000文字突破してしまった…


五羽 蛇神とコミュニティの現状

「見つけたのですよ十六夜さん!」

 

「あん?………お前黒ウサギか?どうしたんだその髪の色」

 

 黒ウサギの髪色の変化を尋ねる十六夜。しかし黒ウサギは怒っていたため聞こえておらずウサ耳を逆立てて問いただした。

 

「もう、一体どこまできているんですか!?」

 

「〝世界の果て〟まで来ているんですよ、っと。まあそんなに怒るなよ」

 

 ヤハハ、と笑う十六夜は、スッと目を細めて黒ウサギの脚を見た。

 

「しかしいい脚だな。遊んでいたとはいえこんな短時間で俺に追いつけるとは思わなかった」

 

「むっ、当然です。黒ウサギは〝箱庭の貴族〟と謳われる優秀な貴種です。その黒ウサギが」

 

 そこまで言って、アレ?と黒ウサギは首を傾げた。

 

「(黒ウサギが………半刻以上もの時間、追いつけなかった………?)」

 

 疾風より速く、力は生半可な修羅神仏では手が出せない程強い黒ウサギ。

 その黒ウサギに気づかれることなく姿を消したことも、追いつけなかったことも、思い返せば人間とは思えない身体能力だった。

 

「ま、まあ、それはともかく!十六夜さんが無事でよかったデス。水神のゲームに挑んでしまわれたのかと思いましたよ」

 

「水神?―――ああ、アレのことか?」

 

「え?」と黒ウサギは硬直する。十六夜が指差したのは川面にうっすらと浮かぶ白くて長いモノだ。黒ウサギが理解する前にその巨体が鎌首を起こした。

 

『まだ………まだ試練は終わってないぞ、小僧ォ!!』

 

 十六夜が指したそれは―――身の丈三十尺強はある巨躯の大蛇だった。黒ウサギは声を上げて問いただす。

 

「蛇神………!って、どうやったらこんなに怒らせられるんですか十六夜さん!?」

 

「なんか偉そうに『試練を選べ』とかなんとか、上から目線で素敵なこと言ってくれたからよ。俺を試せるのかどうか試させてもらったのさ。結果はまあ、残念な奴だったが」

 

『貴様………付け上がるな人間!我がこの程度の事で倒れるか!!』

 

 蛇神の甲高い咆哮が響き、牙と瞳を光らせる。巻き上がる風が水柱を上げて立ち昇る。

 黒ウサギは周囲を見ると、戦いの傷跡と見て取れる捻じ切れた木々が散乱していた。あの水流に巻き込まれたが最後、人間の胴体など容赦なく千切れ飛ぶだろう。

 黒ウサギはすぐさま十六夜を庇おうとした。

 

「十六夜さん、下がって!」

 

「何を言ってやがる。下がるのはテメェだろうが黒ウサギ。これは俺が売って、奴が買った喧嘩だ。手を出せばお前から潰すぞ」

 

 しかし十六夜は鋭い視線を黒ウサギに向けてさせない。声も本気の殺気が籠っており、黒ウサギが出しゃばれば本気で潰しに掛かってきそうだ。

 黒ウサギも始まってしまったゲームには手出しできないと気づいて歯噛みする。十六夜の言葉に蛇神は息を荒くして応える。

 

『心意気は買ってやる。それに免じ、この一撃を凌げば貴様の勝利を認めてやる』

 

「寝言は寝て言え。決闘は勝者が決まって終わるんじゃない。敗者を決めて終わるんだよ」

 

 求めるまでもなく、勝者は既に決まっている。その傲慢極まりない台詞に黒ウサギも蛇神も呆れて閉口した。

 

『フン―――その戯言が貴様の最期だ!』

 

 蛇神の雄叫びに応えて嵐のような川の水が巻き上がる。竜巻のように渦を巻いた水柱は蛇神の丈よりも遥かに高く舞い上がり、何百tもの水を吸い上げる。

 竜巻く水柱は計三本。それぞれが生き物のように唸り、蛇のように襲い掛かる。

 

「十六夜さん!」

 

 黒ウサギが叫ぶ。しかしもう遅い。

 竜巻く水柱は川辺を抉り、木々を捻じ切り、十六夜の体を激流に呑み込む―――!

 

「―――ハッ―――しゃらくせえ!!」

 

 突如発生した、嵐を超える暴力の渦。

 十六夜は竜巻く激流の中、ただ腕の一振りで嵐を薙ぎ払ったのだ。

 

「嘘!?」

 

『馬鹿な!?』

 

 驚愕する黒ウサギと蛇神。それはもはや人智を遥かに超越した力である。蛇神は全霊の一撃を弾かれ放心するが、十六夜はそれを見逃さなかった。獰猛な笑いと共に着地した十六夜は、

 

「ま、中々だったぜオマエ」

 

 大地を踏み砕くような爆音。胸元に跳び込んだ十六夜の蹴りは蛇神の胴体を打ち、蛇神の巨躯は空中高く打ち上げられて川に落下した。その衝撃で川が氾濫し、水で森が浸水する。

 また全身を濡らした十六夜はバツが悪そうに川辺に戻った。

 

「くそ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代ぐらいは出るんだよな黒ウサギ」

 

 十六夜の冗談めかしで呟いた声は黒ウサギに届かない。彼女の頭の中はパニックでもうそれどころではなかったのだ。

 

「(人間が………神格を倒した!?それもただの腕力で!?そんなデタラメが―――!)」

 

 ハッと黒ウサギは思い出す。彼らを召喚するギフトを与えた〝主催者(ホスト)〟の言葉を。

 

「彼らは間違いなく―――人類最高クラスのギフト保持者よ、黒ウサギ」

 

 黒ウサギはその言葉を、リップサービスか何かだと思っていた。信用できる相手だったが、ジンにそう伝えた黒ウサギ自身も〝主催者〟の言葉を眉唾に思っていた。

 

「(信じられない………だけど、本当に最高クラスのギフトを所持しているのなら………!私達のコミュニティ再建も、本当に夢じゃないかもしれない!)」

 

 黒ウサギは内心の興奮を抑えきれず、鼓動が速くなるのを感じ取っていた。

 ―――だがふとある疑問が浮上してきた。それは彼女が召喚した人数が一人多くて、しかも人間ではなく堕天使の少女のことだ。

 

「(………そういえば、ルシファーさんが召喚した時に一緒に来ていましたね………彼女は人間ではなく堕天使のはずです。〝主催者〟は人間三人と仰っていましたのに、彼女は一体………?もしかして別の誰かが彼女を………?)」

 

 黒ウサギが難しい顔をしていると、

 

「おい、どうした?ボーっとしてると胸とか脚とか揉むぞ?」

 

「え、きゃあ!」

 

 背後に移動した十六夜は黒ウサギの腋下から豊満な胸に、ミニスカートとガーターの間から脚の内股に絡むように手を伸ばしていた。押しのけて跳び退く黒ウサギは叫ぶ。

 

「な、ば、おば、貴方はお馬鹿です!?二百年守ってきた黒ウサギの貞操に傷をつけるつもりですか!?」

 

「二百年守った貞操?うわ、超傷つけたい」

 

「お馬鹿!?いいえ、お馬鹿!!!」

 

 疑問形から確定形に言い直して罵る。

 

「ま、今はいいや。後々の楽しみに取っとこう」

 

「さ、左様デスか」

 

 ヤハハと笑う十六夜は黒ウサギの天敵かもしれない。黒ウサギは一瞬だけ遠い目をした。

 

「と、ところで十六夜さん。その蛇神様はどうされます?というか生きています?」

 

「命まで取ってねえよ。戦うのは楽しかったけど、殺すのは別段面白くもないしな。〝世界の果て〟にある滝を拝んだら箱庭に戻るさ」

 

「ならギフトだけでも戴いておきましょう。ゲームの内容はどうあれ、十六夜さんは勝者です。蛇神様も文句はないでしょうから」

 

「あん?」

 

 十六夜は怪訝な顔で黒ウサギを見つめ返す。それに黒ウサギは思い出したように補足した。

 

「神仏とギフトゲームを競い合う時は基本的に三つの中から選ぶんですよ。最もポピュラーなのが〝力〟と〝知恵〟と〝勇気〟ですね。力比べのゲームをする際は相応の相手が用意されるものなんですけど………十六夜さんはご本人を倒されましたから。きっと凄いものを戴けますよー。これで黒ウサギ達のコミュニティも今より力をつける事が出来ます♪」

 

 黒ウサギが小躍りでもしそうな足取りで蛇神に近寄る。しかし十六夜は不機嫌な顔で黒ウサギの前に立った。

 

「―――――」

 

「な、なんですか十六夜さん。怖い顔をされていますが、何か気に障りましたか?」

 

「………別にィ。オマエの言うことは正しいぜ。勝者が敗者から得るのはギフトゲームとしては間違いなく真っ当なんだろうよ。だからそこに不服はねえ―――けどな、黒ウサギ―――――オマエ、何か決定的な事をずっと隠しているよな?」

 

「………なんのことです?箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームの事も」

 

「違うな。俺が聞いてるのはオマエ達の事―――いや、核心的な聞き方するぜ。黒ウサギ達はどうして俺達を呼び出す必要があったんだ?」

 

 十六夜の質問に黒ウサギは内心ドキリとした。

 

「それは………言ったとおりです。十六夜さん達にオモシロオカシク過ごしてもらおうと」

 

「ああ、そうだな。おれも初めは純粋な好意か、もしくは与り知らない誰かの遊び心で呼び出されたんだと思っていた。俺は大絶賛〝暇〟の大安売りしていたわけだし、他の三人も異論が上がらなかったってことは、箱庭に来るだけの理由があったんだろうよ。だからオマエの事情なんて特に気にかからなかったんだが―――なんだかな。俺には、黒ウサギが必死に見える」

 

 その時、初めて黒ウサギは動揺を表情に出した。瞳は揺らぎ、虚をつかれたように見つめ返す。

 

「これは俺の勘だが。黒ウサギのコミュニティは弱小のチームか、もしくは訳あって衰退しているチームか何かじゃねえのか?だから俺達は組織を強化するために呼び出された。そう考えれば今の行動や、俺と堕天使ロリがコミュニティに入るのを拒否した時に本気で怒ったことも合点がいく―――どうよ?100点満点だろ?」

 

「っ………!」

 

 黒ウサギは内心で痛烈に舌打ちした。この時点でそれを知られてしまうのは余りにも手痛い。苦労の末に呼び出した超戦力、手放すようなことは絶対に避けたかった。

 

「んで、この事実を隠していたってことはだ。俺達にはまだ他のコミュニティを選ぶ権利があると判断できるんだが、その辺どうよ?」

 

「……………」

 

「沈黙は是也、だぜ黒ウサギ。この状況で黙り込んでも悪化するだけだぞ。それとも他のコミュニティに行ってもいいのか?」

 

「や、だ、駄目です!いえ、待ってください!」

 

「だから待ってるだろ。ホラ、いいから包み隠さず話せ」

 

 十六夜は川辺にあった手頃な岩に腰を下ろして聞く姿勢を取る。しかし黒ウサギにとって今のコミュニティの状態を話すのはあまりにもリスクが大きかった。

 

「(せめて気づかれたのがコミュニティの加入承諾を取ってからならよかったのに………!)」

 

 加入承諾を得た後ならコミュニティの状況を知られても簡単に脱退することはできない。

 なし崩しにコミュニティの再建を手伝ってもらうつもりだったのだが………くじ運が悪かった。相手は世界屈指の問題児集団なのだ。

 

「ま、話さないなら話さないでいいぜ?俺はさっさと他のコミュニティに行くだけだ」

 

「………話せば、協力して戴けますか?」

 

「ああ。面白ければな」

 

 ケラケラ笑う十六夜だが、その目はやはり笑っていない。黒ウサギはようやく己の目が曇っていたことに気がつく。話を聞くだけだった三人の少女と違い、この軽薄そうな少年の瞳は〝箱庭の世界〟を見定めることに真剣だったのだと。

 

「………分かりました。それではこの黒ウサギもお腹を括って、精々オモシロオカシク、我々のコミュニティの惨状を語らせて戴こうじゃないですか」

 

 コホン、と咳払い。内心では殆んど自棄っぱちだった。そしてコミュニティの現状について語り始めた。

 

「まず私達のコミュニティには名乗るべき〝名〟がありません。よって呼ばれる時は名前の無いその他大勢、〝ノーネーム〟という蔑称で称されます」

 

「へえ………その他大勢扱いかよ。それで?」

 

「次に私達にはコミュニティの誇りである旗印もありません。この旗印というのはコミュニティのテリトリーを示す大事な役目も担っています」

 

「ふぅん?それで?」

 

「〝名〟と〝旗印〟に続いてトドメに、中核を成す仲間達は一人も残っていません。もっとぶっちゃけてしまえば、ゲームに参加でくるだけのギフトを持っているのは122人中、黒ウサギとジン坊っちゃんだけで、後は十歳以下の子供ばかりなのですヨ!」

 

「もう崖っぷちだな!」

 

「ホントですねー♪」

 

 十六夜の冷静な言葉にウフフと笑う黒ウサギは、ガクリと膝をついて項垂れる。口に出してみると、本当に自分達のコミュニティが末期なのだなあと思わずにはいられなかった。

 

「で、どうしてそうなったんだ?黒ウサギのコミュニティは託児所でもやってんのか?」

 

「いえ、彼らの親も全て奪われたのです。箱庭を襲う最大の天災―――〝魔王〟によって」

 

「ま………マオウ!?」

 

〝魔王〟と聞いた途端、十六夜の瞳はさながらショーウィンドに飾られる新しい玩具を見た子供のように輝いた。

 

「魔王!なんだよそれ、魔王って超カッコイイじゃねえか!箱庭には魔王なんて素敵ネーミングで呼ばれる奴がいるのか!?」

 

「え、ええまあ。けど十六夜さんが思い描いている魔王とは差異があると………」

 

「そうなのか?けど魔王なんて名乗るんだから強大で凶悪で、全力で叩き潰しても誰からも咎められることのないような素敵に不敵にゲスい奴なんだろ?」

 

「ま、まあ………倒したら多方面から感謝される可能性はございます。倒せば条件次第で隷属させることも可能ですし」

 

「へえ?」

 

「魔王は〝主催者権限(ホストマスター)〟という箱庭に於ける特権階級を持つ修羅神仏で、彼らにギフトゲームを挑まれたが最後、誰も断ることはできません。私達は〝主催者権限〟を持つ魔王のゲームに強制参加させられ、コミュニティは………コミュニティとして活動していく為に必要な全てを奪われてしまいました」

 

 これもまた比喩ではない。黒ウサギ達のコミュニティはその地位も名誉も仲間も、全て奪われたのだ。残されたのは空き地だらけとなった廃墟と子供達だけである。

 しかし十六夜は同情する様子もなく、岩の上で脚を組み直す。

 

「けど名前も旗印もないというのは不便な話だな。何より縄張りを主張できないのは手痛いだろ。新しく作ったら駄目なのか?」

 

「そ、それは―――か、可能です。ですが改名はコミュニティの完全解散を意味します。しかしそれでは駄目なのです!私達は何よりも………仲間達が帰ってくる場所を守りたいのですから………!」

 

 仲間の帰る場所を守りたい。それは黒ウサギが初めて口にした、掛け値のない本心だった。

 

「茨の道ではあります。けど私達は仲間が帰る場所を守りつつ、コミュニティを再建し………何時の日か、コミュニティの名と旗印を取り戻して掲げたいのです。そのためには十六夜さん達のような強大な力を持つプレイヤーを頼るほかありません!どうかその強大な力、我々のコミュニティに貸して戴けないでしょうか………!?」

 

「………ふぅん。魔王から誇りと仲間をねえ」

 

 深く頭を下げて懇願する黒ウサギ。しかし必死の告白に十六夜は気のない声で返す。その態度に黒ウサギは肩を落として泣きそうな顔になっていた。

 

「(ここで断られたら………私達のコミュニティはもう………!)」

 

 黒ウサギは唇を強く噛む。こんな後悔をするなら、初めから話せば良かった。

 肝心の十六夜は組んだ脚を気だるそうに組み直す。

 

「(………そんな顔すんなよ黒ウサギ。勿論入ってやるさ。ただ………即答ってのはなあ、コイツは俺が指摘しなければコミュニティにつくまでだんまりするつもりだったしなあ………。よし、ここは罰としてたっぷり黙り込んであたかも入らないような雰囲気を作りつつ、不意のOKで驚かしてやるか!)」

 

 作戦が決まった十六夜は表情には出さずに内心で笑い、行動に移した。

 たっぷり三分間黙り込んだ後、

 

「いいな、それ」

 

「―――――………は?」

 

「HA?じゃねえよ。協力するって言ったんだ。もっと喜べ黒ウサギ」

 

 不機嫌そうに言う十六夜。呆然として立ち尽くす黒ウサギは二度三度と聞き直す。

 

「え………あ、あれれ?今の流れってそんな流れでございました?」

 

「そんな流れだったぜ。それとも俺がいらねえのか?失礼なこと言うと本気で余所行くぞ」

 

「だ、駄目です駄目です、絶対に駄目です!十六夜さんは私達に必要です!」

 

「素直でよろしい。ほれ、あのヘビを起こしてさっさとギフトを貰ってこい。その後は川の終端にある滝と〝世界の果て〟を見に行くぞ」

 

「は、はい!」

 

 黒ウサギは嬉しそうに跳躍すると蛇神の上に乗り、顎の辺りに移動する。遠巻きに何かを話している姿を十六夜が眺めていると、直後に青い光が周囲に満ちていく。

 光の源が蛇神の頭から黒ウサギの手に移ると、ピョンと跳ねて十六夜の前に出る。

 

「きゃーきゃーきゃー♪見てください!こんな大きな水樹の苗を貰いました!コレがあればもう他所のコミュニティから水を買う必要もなくなります!みんな大助かりです!」

 

 ウッキャー♪なんて奇声を上げながら水樹と呼ばれる苗を抱きしめてクルクルと跳び回る。

 

「喜んでもらえて何よりなんだが、一つ聞いていいか?」

 

「どうぞどうぞ!今なら一つと言わず三つでも四つでもお答えしますよ~♪」

 

「それは三段腹なことだな」

 

「誰が三段腹ですか!」

 

 ウガー!とウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギ。喜怒哀楽が忙しないウサギである。

 

「まあ、どうでもいい疑問だけど。そんなに欲しかったならどうしてオマエがこのヘビに挑まなかったんだ?俺が見たところ、オマエの方がよっぽど強いように見えるが」

 

「ああ………その事でございますか。それはウサギ達が〝箱庭の貴族〟と呼ばれるコトに由来します。ウサギ達は〝主催者権限〟と同じく〝審判権限(ジャッジマスター)〟と呼ばれる特権を所持できるのです。〝審判権限〟を持つものがゲームの審判を務めた場合、両者は絶対にギフトゲームのルールを破ることができなくなり………いえ、正しくはその場で違反者の敗北が決定します」

 

「へえ?それはいい話だな。つまりウサギと共謀すればギフトゲームで無敗になれる」

 

「だから違います。ルール違反=敗北なのです。ウサギの目と耳は箱庭の中枢と繋がっております。つまりウサギ達の意思とは無関係に敗北が決定して、チップを取り立てる事が出来るのですよ。それでも無理に判定を揺るがすと………」

 

「揺るがすと?」

 

「爆死します」

 

「爆死するのか」

 

「それはもう盛大に。〝審判権限〟の所持はその代償として幾つかの〝縛り〟が御座います。

 一つ、ギフトゲームの審判を務めた日より数えて15日間はゲームに参加できない。

 二つ、〝主催者〟側から認可を取らねば参加できない。

 三つ、箱庭の外で行われているゲームには参加できない。

 ―――とまあ、他にもありますけど、蛇神様のゲームに挑めなかった大きな理由はこの三つですね。それに黒ウサギの審判稼業はコミュニティで唯一の稼ぎでしたから、必然的にコミュニティのゲームに参加する機会も少なかったのデスよ」

 

「なるほどね。実力があってもゲームで使えないカードじゃ仕方ないか」

 

 十六夜は肩を竦めて川辺を歩き出す。身の丈ほどもある水樹の苗を抱えた黒ウサギも、それに続いて小走りで追いつく。

 

「その、黒ウサギも一つ十六夜さんにお聞きしたいことがあります」

 

「却下。嘘。どうぞ」

 

「え?ああ、はい。十六夜さんはどうして黒ウサギ達に協力してくれるのです?」

 

「んー………。答えてもいいけど、ただ答えるのはつまらんな。質問を変えるけど、黒ウサギはどうして俺が〝世界の果て〟を見て見たいのだと思う?」

 

「やっぱり………面白そうだからでしょうか?十六夜さんは自称快楽主義ですし」

 

「半分正解。なら、俺はどうして面白いと感じたんだろうな?」

 

 むむ~と半分本気で考え込む黒ウサギ。

 

「ハイ、タイムアウト」

 

「制限つき!?だ、駄目ですよ!ゲームの時間制限は最初に提示されない限り違反です!」

 

「マジか?じゃあ黒ウサギは爆死するのか?」

 

「なんで私が爆死するんですか!?」

 

 黒ウサギをからかいながら十六夜は川辺を突き進んでいく。

 

「結局、〝世界の果て〟が見たい正解はなんです?」

 

「そうだな………簡潔に言うと〝ロマンがあるから〟だな。俺のいた世界は先人様方がロマンというロマンを堀り尽くして、俺の趣向に合うものが殆んど残ってなかったんだよ。だからここじゃない世界なら、俺並みに凄いものがあるかもしれないと思ったのさ。だからつまり〝世界の果て〟を見に行くのは、生きていくのに必要な感動を補充しに来たってところかな」

 

「な、なるほど。十六夜さんはロマンのあるものを見て感動したいのですね」

 

「ああ。感動に素直に生きるのは、快楽主義の基本だぜ?」

 

「そうですか………んん?あれ、じゃあ十六夜さんが黒ウサギに協力してくれるのは、」

 

「随分と陽が暮れてきたな。日が落ちると虹が見えないかもしれないし、急ぐぞ」

 

 川辺を歩く速度を変えた十六夜に慌てて追いつく黒ウサギ。

 

「(む~はぐらかされたのです。結局、十六夜さんは黒ウサギの肝心な質問には答えてくれる気はないのですね………なんかズルいのです)」

 

 黒ウサギは拗ねたように膨れっ面になっていた。

 

「(俺が黒ウサギに協力する理由か。それは―――オマエに興味があるからだけどな。まあ、〝黒ウサギ目当てで入りました〟なんざ印象悪くしちまうから言えねえがな)」

 

 一人苦笑を零す十六夜。すると不意に黒ウサギが声を上げた。

 

「十六夜さん!」

 

「ん?なんだ黒ウサ―――!?」

 

 声に振り返った十六夜。その瞬間、彼の左頬に柔らかい何かが触れた。

 十六夜は左下を見ると―――黒ウサギの顔が間近にあり、その彼女の愛らしい唇が彼の左頬に触れていた。

 

「は?」

 

「これは黒ウサギのお礼です。け、決して特別な意味はないんですからね!」

 

「お、おう」

 

 勝手に一人で聞いてもいないことを断って、勝手に頬を赤らめて恥ずかしがっている黒ウサギ。

 十六夜はその様子が堪らなくおかしかった。

 

「(おいおい。コミュニティに入っただけでコレは随分とサービスがよくねえか?………変に期待してもいいのか?―――いや、期待しちまうからな?黒ウサギ)」

 

 黒ウサギの頬を赤らめた顔を見て、密かに笑うのだった。

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