傲慢な堕天使も来るそうですよ?   作:問題児愛

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七羽 〝サウザンドアイズ〟と変態幼女

日が暮れた頃に噴水広場で合流し、話を聞いた黒ウサギはウサ耳を逆立てて怒っていた。突然の展開に嵐のような説教と質問が飛び交う。

 

「な、なんであの短時間に〝フォレス・ガロ〟のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」「準備している時間もお金もありません!」「一体どういう心算(つもり)があってのことです!」「聞いているのですか四人とも!!」

 

 

「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」

 

 

「黙らっしゃい!!!」

 

「別に悪いことしたつもりはないから私は謝らないわ」

 

「ルシファーさんは反省してください!このお馬鹿様!!!」

 

 黒ウサギはどこからともなくハリセンを取り出してルシファーの頭を叩こうとした。だがそれよりも速く飛鳥がルシファーの手首を掴んで引き寄せた。

 

「え?」

 

 これにより黒ウサギのハリセン一閃は空を切り、ルシファーは飛鳥に抱き寄せられた。

 ルシファーがキョトンとする中、飛鳥は彼女を抱き寄せたままの状態で言った。

 

「駄目よ黒ウサギ。ルシファーさんを苛めていいのは私だけだもの」

 

「そうそう私を苛めていいのは飛鳥だけ―――ってんなわけないでしょう!?」

 

「そうですよ飛鳥さん!ルシファーさんを苛めていいのは皆さんなのですから」

 

「そうそう私を苛めていいのは本気で怒るわよこの畜生共ッ!!!」

 

 ルシファーの怒号が噴水広場に響き渡った。それに飛鳥は右手を振り上げて、

 

「五月蝿い」

 

 ルシファーの脳天に手刀を落とす。

 

「いぎゃ!」

 

 例の謎の悲鳴を上げて頭を押さえるルシファー。どうやら非力な飛鳥でも頭を叩かれれば痛いらしい。

 自分でも叩けば黙らせることができることを知り、飛鳥は上機嫌でルシファーの頭を優しく撫でる。

 

「ふぁ………」

 

 するとルシファーはその場にペタンと座り込んでしまった。飛鳥が驚いて覗き込むと、ルシファーの瞳は潤んでいた。

 

「ルシファーさん!?急に座り込んでどうしたの!?」

 

「………飛鳥が、叩いた後に、優しくするからよ………」

 

「え?」

 

「―――っ、な、何でもないわ!」

 

 プイッと頬を赤くした顔を背けて立ち上がろうとするが、足に力が入らず立てない。それに飛鳥がルシファーの手を掴んで引っ張り起こした。

 

「立てる?はい、ルシファーさん」

 

「………ありがとう飛鳥」

 

「ふふ、どういたしまして」

 

 微笑み合うルシファーと飛鳥。その様子をニヤニヤと眺める三人。苦笑するジン。それにハッと気づいたルシファーは慌てて飛鳥から顔を背けた。

 十六夜はニヤニヤと笑って飛鳥に問いかける。

 

「しかしいつの間にか堕天使ロリと仲良くなってるんだな、お嬢様。『人間』じゃなくて名前で呼ばれるほどに、な」

 

「あら、知りたいのかしら十六夜君?土下座の一つでもやってくれたら教えてあげなくもないわよ?」

 

「ヤハハ、遠慮しとくよ。それに俺も黒ウサギから褒美もらって気分がいいからな」

 

 チラッと十六夜は黒ウサギの方を見て笑いかける。黒ウサギは「あぅ!」と頬を赤らめて俯いてしまった。

 その様子に飛鳥、ルシファー、耀、ジンが瞳を瞬かせた後、「ほう」とジン以外の三人がいやらしい笑みを浮かべた。

 十六夜は話を戻して黒ウサギに言う。

 

「だいぶ話が脱線しちまったが黒ウサギ。お嬢様方は見境なく喧嘩を吹っ掛けたわけじゃないんだしここは許してやれよ」

 

「………まあ、十六夜さんがそう仰るなら黒ウサギはこれ以上とやかく言いませんが………くれぐれも油断しては駄目ですからね皆さん?」

 

「ええ、勿論よ。保険にルシファーさんもいるから万が一でも敗北はありえないわ」

 

「へえ?そいつは頼もしいことだな」

 

 十六夜が瞳を光らせてルシファーを見つめると、彼女はフンと鼻を鳴らした。

 

「あら?そんな瞳で見つめてきても貴方とは遊んであげないわよ」

 

「そりゃ残念。あの時の続きができると思ったが………ま、いずれは挑ませてもらうからな?」

 

「………そうね。気が向いたら遊んであげるわ」

 

「おう。是非ともよろしく頼むぜ」

 

 ヤハハと笑う十六夜。フフフと笑うルシファー。今ここに再戦の誓いを立てたのだった。

 

 

―――――――――――――――

 

 

「それでは〝サウザンドアイズ〟に皆さんのギフト鑑定をお願いしに向かいましょう♪」

 

「〝サウザンドアイズ〟?コミュニティの名前か?」

 

「YES。〝サウザンドアイズ〟は特殊な〝瞳〟のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」

 

「ギフトの鑑定というのは?」

 

「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」

 

 同意を求める黒ウサギに四人は複雑な表情で返すが、拒否する声はなく黒ウサギ・十六夜・ルシファー・飛鳥・耀・ジンの5人と1匹は〝サウザンドアイズ〟に向かう。

 道中、十六夜・ルシファー・飛鳥・耀の四人は興味深そうに街並みを眺めていた。

 商店へ向かうペリベッド通りは石造で整備されており、脇を埋める街路樹は桃色の花を散らして新芽と青葉が生え始めている。

 日が暮れて月と街灯ランプに照らされている並木道を、飛鳥は不思議そうに眺めて呟く。

 

「桜の木………ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」

 

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合いの入った桜が残っていてもおかしくないだろ」

 

「………?今は秋だったと思うけど」

 

「私の世界は季節なんか面倒くさいから創ってなかったわね」

 

「ん?」と噛み合わない三人は顔を見合わせて首を傾げる。ルシファーだけは〝季節は創らなかった〟とあたかも自分が世界創造を行ったかのような台詞を呟いていた。

 黒ウサギが笑って説明した。

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ」

 

「へぇ?パラレルワールドってやつか?」

 

「近しいですね。正しくは立体交差並行世界論というものなのですけども………今からコレの説明を始めますと一日二日では説明しきれないので、またの機会ということに」

 

 曖昧に濁して黒ウサギは振り返る。どうやら店についたらしい。商店の旗には、蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記されている。あれが〝サウザンドアイズ〟の旗なのだろう。

 日が暮れて看板を下げる割烹着の女性店員に、黒ウサギは滑り込みでストップを、

 

「まっ」

 

「待ったなしですお客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

 ………ストップを掛ける事もできなかった。黒ウサギは悔しそうに店員を睨みつける。飛鳥も冷めた瞳を店員に向けた。

 

「なんて商売っ気のない店なのかしら」

 

「ま、全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

 

「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

 

「出禁!?これだけで出禁とかお客様舐めすぎでございますよ!?」

 

 キャーキャーと喚く黒ウサギに、店員は冷めたような瞳と侮蔑を込めた声で対応する。

 

「なるほど、〝箱庭の貴族〟であるウサギのお客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

 

「………う」

 

 一転して言葉に詰まる黒ウサギ。しかし十六夜は何の躊躇いもなく名乗る。

 

「俺達は〝ノーネーム〟ってコミュニティなんだが」

 

「ほほう。ではどこの〝ノーネーム〟様でしょう。よかったら旗印を確認させて戴いてもよろしいでしょうか?」

 

「ぐ、」と黙り込む十六夜。黒ウサギが言っていた〝名〟と〝旗印〟がないコミュニティのリスクとはまさにこういう状況の事だった。

 

「(ま、まずいです。〝サウザンドアイズ〟の商店は〝ノーネーム〟お断りでした。このままだと本当に出禁にされるかも)」

 

 黒ウサギが冷や汗を掻いていると、ルシファーは店員の前に躍り出た。

 

「何ですか貴女は」

 

「貴女、〝ノーネーム〟が〝名〟も〝旗印〟も持っていないこと―――知ってて言ってるわよね?」

 

「はい、それが何か?」

 

「………そう。随分と舐めた真似してくれるわね、バカ店員」

 

〝バカ〟と言われてピクリと眉を上げる店員。だが冷静さを保ちつつ返す。

 

「別に舐めてはいませんよ。私はただ確認を取っただけです。あなた方が〝ノーネーム〟であるということを。そしてここ〝サウザンドアイズ〟は〝ノーネーム〟お断りのお店です。お帰りください」

 

「………そう。フフフ、いい度胸じゃないバカ店員。ところで私がキライな三つってなんだと思うかしら?」

 

「知りませんね。それは何ですか?」

 

「ええ、特別にバカな頭の貴女に教えてあげるわ。私がキライな三つ。

 一つ、『人間』

 二つ、『痛いこと』

 三つ、『差別』

 ―――これが私のもっともキライな事よ。そして貴女がやっていることはこの中の三つに当てはまるわ。この意味が分かるかしら?」

 

「………どういう意味ですか?」

 

 恐らく分かっているだろうが知らないフリをする店員。ルシファーはその態度に遂に堪忍袋の緒が切れたように燻んだ金髪を戦慄かせて、ズドンッ!とその場の地面を思いっきり踏み砕いた。

 

「いいわ!アンタがその態度を改めないってんなら―――魔神として然るべき絶望という名の地獄を見せてやろうかしら!?」

 

「―――魔神ッ!?」

 

〝魔神〟と聞いて店員はどこに隠し持っていたのか、薙刀を取り出して臨戦態勢に入る。その表情はかなり焦っており、背中からは嫌な汗を流していた。

 ルシファーは店員の顔など気にせず右手を掲げて―――

 

「そこまでよ、ルシファーさん!」

 

「え?―――いぎゃあ!?」

 

 飛鳥がルシファーの背後に回り、彼女の羽を左右ともに鷲掴むと引っ張り持ち上げた。ルシファーは羽と繋がっている部位に突如激痛が走り悲鳴を上げる。

 あの時もそうだったが、店員との言い争いで飛鳥の接近に気づけず、またしても羽を引っ張られ―――

 

「痛い痛い痛い痛いっ!!ちょっと離しなさいよバカ飛鳥!」

 

「あら?何か言ったかしら?ル・シ・ファ・ー・さ・ん!」

 

「いぎゃああああああああああっ!!?」

 

 大絶叫。飛鳥がルシファーの羽を強引に開いてさらに引っ張ったことにより大絶叫を上げたのだ。

 余りの激痛に瞳から本気の涙がポロポロと出始めている。飛鳥に捕まっているにも拘わらず〝バカ〟と言ったのが運の尽きだった。

 その様子に唖然とする店員。一方、十六夜と耀だけはニヤニヤとそれを眺めて、ジンと黒ウサギはあたふたする。

 するとそこへ、

 

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!」

 

 店内から爆走してきた白髪で着物風の服を着た少女が黒ウサギにフライングボディーアタックを決めて、

 

「え?―――きゃあーーーーー…………!」

 

 ボチャン、と揃って空中四回転半ひねりして街道の向こうにある浅い水路まで吹き飛び落下した。

 十六夜・耀・ジンは瞳を丸くして、店員は痛そうな頭を抱えていた。

 しかしそれでも飛鳥の調k………教育は止まらず、遂に堪え切れなくなったルシファーは泣きながら謝った。

 

「わかっ、たわ………私が悪、かったわよ………だから、お願い……離して?」

 

 珍しく上目遣いのルシファー。しかも涙目ということで飛鳥のハートを撃ち抜いた。

 

「(か、可愛い!)」

 

 飛鳥は羽から手を離して、ルシファーが浮かしていた足を地面につかせたのと同時にその背中に抱きついた。

 

「ひゃあ!」

 

「ふふ、ルシファーさんも可愛いところがあるじゃない。生意気な態度さえ取らなければ痛い思いはしないのよ?だから以後気をつけなさい?」

 

「………はい」

 

「ふふ、いい子ねルシファーさん♪」

 

 飛鳥に頭をポンポンと叩かれて少し不機嫌な表情を見せるルシファーだが、ここで逆らえばまた痛い思いをするだろうってから大人しくした。

 フライングボディーアタックで黒ウサギを強襲した白髪の幼い少女は、黒ウサギの胸に顔を埋めて擦りつけていた。

 

「白夜叉様!?どうして貴女がこんな下層に!?」

 

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろに!フフ、フホホフホホ!やっぱりウサギは触り心地が違うのう!ほれ、ここが良いかここが良いか!」

 

「し、白夜叉様!ちょ、ちょっと離れてください!」

 

 白夜叉と呼ばれた少女を無理矢理引き剥がし、頭を掴んで店に向かって投げつける。

 縦回転した白夜叉を、十六夜が足で受け止めた。

 

「てい」

 

「ゴバァ!お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」

 

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

 

 ヤハハと笑いながら自己紹介する十六夜。

 黒ウサギは濡れた服やミニスカートを絞りながら水路から上がって複雑そうに呟く。

 

「うう………まさか私まで濡れる事になるなんて」

 

「因果応報………かな」

 

『お嬢の言う通りや』

 

 耀が呟いて三毛猫は同意した。

 悲しげに服を絞る黒ウサギに対し、白夜叉は寝れても全く気にせず店先で十六夜達を見回してニヤリと笑った。

 

「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たという事は………遂に黒ウサギが私のペットに」

 

「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」

 

 ウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギ。白夜叉は笑って店に招く。

 

「まあいい。話があるなら店内で聞こう」

 

「よろしいのですか?彼らは旗も持たない〝ノーネーム〟です。規定では」

 

「〝ノーネーム〟だと分かっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する詫びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」

 

「む」と拗ねるような顔をする女性店員。

 女性店員に睨まれながら6人と1匹は暖簾をくぐった。

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