近「いやぁ、久し振りだな、
行き先は武州という名の地獄。
そこは既に、敵の手中である電車の中だった。
近「どいつもこいつも、喧嘩ばかりしてる荒れた所だったが…、考えてみると、やってる事は今と変わらんのかもな。
だからかは、わからんがたまに不安になる。俺ァ、あの頃からちったァマシな奴になれたのか……ってな。」
黙って聞くのは、この遠征の目的の首謀者、伊東だった。
伊「君は立派な侍だ。
僕は君程、清廉…いや、無垢な人物に会ったことがない。
君は白い布のようなもの、何ものも受け入れ、何色にも染まる。
真選組とは、皆がその白にそれぞれの思いを描いた御旗なのだろう。」
近「…………。」
伊「…僕の色は黒だ。何ものにも染まらず、黒く塗りつぶす。私の通った後は、全て私の色になる。」
―――ザッ!!
伊東がそう言うと、周りにいた隊士たちは刀を抜き、近藤に向けた。
伊「すまないね、近藤さん。君たちの御旗は既に、真っ黒に染まってしまったんだ。」
そんな中、豪快に笑い出す近藤。
近「ワハハハハハ、さすが先生だ、面白いことを言うな。
……が、少し違うな。」
伊「……?」
近「俺達が真っ黒に染まる?
そりゃあ、俺が白い布だとするならばたしかにそうかもしれんが、俺ァ、そんな大層なもんじゃないんでな。
いいとこ、ちぢれ毛だらけのふんどしってトコかな。
それに、『皆がその白にそれぞれの思いを描いた御旗』?そんな甘っちょろいもんじゃないさ。
奴等は色じゃねェ。“垢”だよ、“垢”。洗っても、取れることのねェ汚れだ。
洗っても取れねェから、愛着わいてきて…。汚れも寄せ集まって年季が入りや、見れるようになってな。
いつの間にやら、立派な御旗の完成だ。
何を考えてんのかわからん、得体の知れねェ連中だ。あんたの手にゃ負えんよ。」
近藤の乗る車両に乗り込む者が一人。
長年、一緒にいる者同士。もはや、気配だけでわかる。
近「……伊東先生、奴等も同じだ。何ものにも染まらんよ。」
そこに立っていたのは、伊東派に乗り換えたと思われていた、沖田総悟の姿だった。
伊「沖田くん。見張りのはずの君が、ここで何をやっている?」
総「そりゃあ、こっちのセリフだ。」
伊「!」
顔をあげた総悟の顔は、殺気が溢れていた。
総「てめーが何やってんだ、クソヤロー。
その汚ェ手、離せ。」
伊「……。」
―――ゴォシャァァ!!!!
その場から一歩も動かず、近くにいた隊士を斬った。
総「その人から、手を離せって言ってんだ!」
―――コツコツコツコツ
静まる車内で、総悟の足音だけが響く。
伊「やはり君は、土方派……。僕をあざむくための芝居か…。」
総「はぁ?ちげーよ。
俺の眼中にあるのは、副長の座だけだ。土方が消えた次は、
テメーの番だよ、伊東先生。」
そう言って、切っ先を伊東に向ける総悟。
総「俺の大将はただ一人…、そこをどけ。
近「総悟……。」
そう言うと途端に、総悟は笑い出した……いや、ニヤリとした。
伊「残念だが、それは無理だな。君の隣には、もう時期誰もいなくなる。
この戦場にいるのは、俺達だけでは「そりゃあ、俺たちもでィ。」!?」
総「俺ァ、優しいから、一つ忠告しに来てやったんでさァ。
実はこの列車の後ろに、こんなもんがあったんでィ……百個ほどな。」
総悟の手に握られていたのは、爆弾だった。
自分の仕掛けを、わざわざいう必要は無い。
伊東派ではない奴の中で、こんなことが出来るのは一人しかいなかった。
伊「なっ!?」
近「フハハハ!伊東先生、さっきの話少しだけ訂正しよう。」
伊「!?」
近「一人だけいるよ、垢じゃなく綺麗な色が。
俺らみたいな垢の集まりのために戦ってくれる…、何ものにも染まらん俺らに、自ら染まろうとしてくれる奴がな…。
伊東先生、知ってるか?
真っ黒に塗りつぶされた御旗にも、染まれる色がある…、そりゃあ、“金”だ。」
伊「……っ!まさかっ!?」
近「どんなに汚ェ色でも、ものでも、その輝きだけは消えないだろ?」
伊東が思い浮かべるのは、真選組で常に輝きを放っていた一人の存在。
目立つものではないが、確実にその中にあった、それ。
伊「くっ……!!」
―――ザッ!!!
総悟の後ろから飛び出す、二人の隊士。
―――ピッ……ドォォォン!!!!
それを見計らったように響く、爆音。
「「「「「「「うわァァァァ!!!」」」」」」」
伊「ちっ、爆弾を……」
龍「よそ見してて、いいんですか?
後ろ……気をつけた方がいいですよ。もう遅いですけど。」
伊「!!」
伊東の背後には、刀を振り上げる総悟の姿。
前には、いつの間にか乗り移っていた、長い髪をなびかせる龍菜の姿があった。
伊「貴様ァァ…。」
龍「こんにちは、伊東先生。」
龍菜は、総悟の剣をかわした伊東に笑ってそう言うと、総悟の方へ向き直った。
龍「総悟、近藤さんをお願い。」
総「わかりやした。」
龍「近藤さん……、、、お願いします。」
龍菜は、近藤にだけ聞こえるように、なるべく小さな声で言った。
近「……。」
近藤と総悟が出ていった後、龍菜は伊東たちの方を向いた。
龍「さてと…、伊東先生。私の言ったこと、覚えてますよね?」
それまで纏っていた、暖かいオーラが一気に冷えた。
龍「私は、攘夷浪士と…鬼兵隊と手を組んだ君の味方ではありませんよ。」
伊「……!?」
龍「見誤ってしまったんですね、本当に求めていたものを…。」
龍菜は少し残念そうに言った。
相変わらず、龍菜さんはかっこいいなぁ。