21世紀ももうすぐ折り返し地点に入ろうとしていた頃――アメリカ合衆国大統領はIS学園にいた。
2040年5月初頭開催のクラス
しかしこの時、遠く離れた月から、1人の天災がこのクラス対抗戦への乱入を計画していた。
鋼鉄の異形、無人IS“ゴーレム”。
今まさに、白騎士事件から10年ぶりに“天災”対“大統領”の第2幕が始まろうとしていた――。
IS インフィニットストラトス×メタルウルフカオス
短編 vol.2 「
「さぁて、今日はいっくんの晴れ舞台だなぁ。普通に見てるだけなのもつまらないし、ちょっと“盛り上げて”あげようかな!」
月面で巧妙に偽装され目立たなくなっている建造物。そこが世界中から指名手配された篠ノ之束が拠点とする研究所だ。
「束さま。準備ができました」
「おお、えらいえらい! よくできたねくーちゃん!」
銀髪に三つ編み。見た目は12歳程の少女。篠ノ之束の唯一の助手、通称くーちゃんだ。
彼女が言う通り、地球に向けられた多目的電磁カタパルトに“それ”はあった。
深い灰色のカラーリングに、不規則に並べられたセンサーレンズを持つ
月面にごく小さな穴が開く。そこから射出用のレールが延びていく。
「ハッチ、開放します。電磁レール伸長完了。ゴーレム、発進」
「行けっ! ゴーレムちゃん!」
まるで3分間のタイマーを胸に着けた光の巨人のようなポーズで、ゴーレムは電磁カタパルトから地球へと打ち出された。
彼女は完全に忘れていた。かつて自らが苦心して作り上げたIS“白騎士”を大破まで追い詰めたアメリカ大統領の存在を。
いや、彼女の場合はそれが当たり前だった。篠ノ之束は、興味を持った相手以外のことを認識していない。親友とその弟、妹と両親。
それ以外は、彼女にとって取るに足らない有象無象。
――だから、この時。その興味対象にもう1名追加されるなど、夢にも思っていなかった。
*
IS学園第2アリーナに用意されたアメリカ用の来賓席に座る、ネクタイとスーツが似合うナイスミドル。その背後で空っぽのダークブルーの特殊機動重装甲が圧倒的な存在感を放っていた。
彼の名は第47代アメリカ合衆国大統領、マイケル・ウィルソンJr。
20年前には副大統領とアメリカを賭けた戦いを繰り広げ、10年前には突如世界に出現した“インフィニットストラトス白騎士”から日本を守るべく、東京湾上空で激戦を繰り広げ、そして惜しくも敗れた。
あれから10年。58歳になった大統領は今も現役であり、歴代最長在任記録を更新し続けていた。
ISに屈辱の1敗を喫し、9年前のアラスカ会議こそ激怒していた彼だが、終わったことは水に流す性格なのでいつまでもそれに拘らない。
別件だが、しばらく前にアメリカと全世界を騒がすテロリスト“
そもそもアメリカを中心に活動する亡国機業とは、第2次世界大戦の頃にアメリカに存在したとされる、“影の政府”の特殊部隊である。
影の政府が倒れたのが先か影の政府のコントロールを離れたのが先かは分からないが、ともかく亡国機業の存在はアメリカがきちんと対処すべき物であり、愛する家族をテロで失った大統領にとって、テロリストとは決して許せない存在である。
「あ、あの!」
「うん? どうしたんだい、お嬢さん」
「かんちゃん頑張れ~」
そんな彼に、1人の少女が近づいてきていた。日本代表候補生、更織簪。
アニメのヒーローが大好きな彼女が、その背後に立つ袖がだぼだぼの少女から応援されながらパワードスーツを背にする男に話しかける。
これが逆の立場であり、彼が大統領でなければ“パワードスーツで少女を怯えさせた不審人物”として通報されてもおかしくなかっただろう。
「さあ、ついに始まりました! IS学園クラス
「IS学園新聞部部長、“ペンはISより強し”エイミー・マクドナルド。親子でお送りします」
『Oh, My god! あの男に娘がいたなんて! これではIS学園の報道の自由は死んだも同然です』
大統領が放送席へと目を向ける。そこには長年大統領と行動を共にする――というより、勝手に付きまとってくる腐れ縁のDNNリポーターとその愛娘。
愛娘については大統領も今までその存在を知らなかった。如何に大統領とて万能ではない。そして彼を補佐する優秀な秘書、ジョディは上空で待機している。
「あ、あの……その……」
「フム、少し待っていたまえ。Hey! この子に美味しいグリーンティーを頼む」
「畏まりました」
来賓への給仕として近くに控えていた茶道部の少女が、新しく用意したティーカップに緑茶を注ぐ。
「Oh、いい香りだ。このグリーンティーはどこのものかね?」
「はい。全国茶品評会で入賞した、京都産の宇治玉露です」
「OK、後で差し入れに買って行こう。さあお嬢さん、飲みなさい」
「い、いただきます」
こくこく、と恐縮しきった簪は玉露で喉を潤す。それを大統領は笑顔で見つめていた。
正面のアリーナでは日本の倉持技研が製作したIS“白式”と中国の“甲龍”の試合が始まっているが、今はそんなことより目の前の少女の方が大事だった。
試合の記録なぞ、別に大統領がやらなくても他にやる者がいる。
事実、大統領の右隣の席では最先端の技術と雰囲気を追い求めるアメリカ企業の“フロントムーディ社”、通称フロム社が熱心な目を向けている。
フロム社はISで後れを取ったアメリカがアメリカの複数の航空機メーカーとISと同じパワードスーツである特殊機動重装甲のメーカー、フロム社が合併してできたものである。
何故か趣味に走ったISや武装を提供し続けるフロム社。最も有名なのは“フロントムーディ・ヨーロッパ”がラファールリヴァイヴ、及びそのライセンスIS向けに製作したパイルバンカー"
ネタで出したら本当に高威力の面で採用されてしまったのだから驚きだ。
「大統領! ついに時代が我々に追い付きました! 時代は
『ブレオンなんて言いながら、ファング・クエイクなんて物を作ったのはどこだったかしら?』
「男は拳で語れ!」
「……それでお嬢さん、どうしたのかね」
「は、はい! その、サインをください!」
「OK、そのくらいお安い御用さ」
大統領は色紙にサインペンでフルネームを書いた後、見事としか言いようのない達筆で“大統領魂”と書き加えた。
フロム社の社長はいつものことだったので大統領に無視されてしまった。
「あ、ありがとうございます! 家宝にします!」
簪が感激の余り破顔する。いつもの暗い表情の彼女を見慣れたクラスメイトが見ていれば、彼女のイメージは今頃一新されていたのかもしれない。
彼女にとって、少し前までヒーローとは二次元空間にしか存在しない、架空の存在だった。
だが、彼女がISを学び、その過程で白騎士事件で男でありながらISと互角に戦って見せた史上初の“戦う大統領”の存在を知った時、彼女にとってヒーローとは架空の存在ではなくなった。
ISではないにも関わらずISと張り合う大統領とプレジデントフォースは、全世界の男性にとって暗雲立ち込める世界に差す希望の光。女性からすれば女尊男卑の枠に当てはまらない数少ない例外。
世界的に見れば、大国であるにも関わらず“男女平等”かつ“ISに依存しない軍事力”を掲げる自由の国アメリカの指導者。ある意味、織斑一夏以上に重要な存在だ。
「やはり女の子は笑顔の方がいい。ところで、君は試合を見ないのかね?」
「私は――」
「おぉっと! この土壇場で白式が
ピーターが叫んだその時。大統領の類い稀な直感が何かが起きることを予感していた。
「
「えっ!?」
大統領は目の前にアリーナの遮断シールドバリアーが存在することも忘れ、簪を抱き寄せながら伏せる。その瞬間、空から2条の光が降り注ぎ、1発がアリーナの遮断シールドを突破し中央に着弾。
もう1発は上空で待機していたオラジワンⅢの電磁バリアを直撃し、オラジワンⅢの巨体を揺らした。
「
「無事か!? ジョディ!」
「いいえ! ケーキが落ちちゃったわ!」
「状況は?」
「モンブランがひっくり返って滅茶苦茶です! 大統領! 今何かがアリーナに乱入しました! あんな奴叩きのめしちゃってください!」
「Oh……それは残念だ……」
緊急事態の発生により、アリーナの観客席を保護するシャッターが下りていく。もちろん来賓席もその例外ではない。
「か、かんちゃ~ん! 扉が開かないよぅ」
「ええっ!? そ、そんな……!」
見れば、各国の来賓は慌てふためき、開かない扉に殺到している。そんな中、合衆国大統領は残っていたダージリンティーを静かに飲み干す。
そんな緊迫した状況の中、ピーターの声だけは相変わらず聞こえてくる。
「大変なことになりました! アリーナに白式と甲龍が取り残されています! 私も脱出したいところですが、放送席の扉がこちらからは開きません。
観念してここで実況を続けます」
「ちょっと父さん! なんでそんなに落ちついてるの!」
「ハハッ! 大統領の方があんな黒いのより何倍も危険さ!」
大統領は簪から手を離し、背後にあったメタルウルフを装着する。
そして、背中の武装コンテナを開き、巨大な砲門を取り出した。
「おお、大統領! それは我が社の新製品、波動砲“ヤマト”ですね!」
「ああ。これからアリーナの彼らを助けに行くぞ」
『大統領。アリーナでは白い“白式”と赤い“甲龍”。それと灰色のIS――とりあえず、“デザート”と呼びましょうか。
とりあえず、このデザートを叩き潰しちゃってください。この私のモンブランのように!』
「そうか。それなら――」
メタルウルフの構えた正義の波動砲“ヤマト”の砲身内部でエネルギーが収束していく。20年前、ニューヨークを闊歩した“タカアシグモ”と同型の波動砲を特殊機動重装甲サイズまでサイズダウンさせたもの。何故か戦艦のような形をしているのは、大統領の気のせいではない。
ちなみに、一度も使用されていない“ヤマト”には第三艦橋と呼ばれる突起が付いているが、一度でも波動砲を撃つと大破してしまうのであった。
ターゲットスコープがメタルウルフのディスプレイに開き、それを正面のシャッターに合わせた。迸る猛烈な閃光と爆発が、シャッターとレベル4の遮断シールドを吹き飛ばす。
「Year! オーケィ、レッツ、パァァァリィィィ!」
「アメリカ合衆国、万歳!」
*
「Year! オーケィ、レッツ、パァァァリィィィ!」
「な、なんだ!?」
一撃必殺の間合いを4度逃した白式の前に、突然大爆発を起こした遮断シールドから1機のパワードスーツが躍り出た。
着地の瞬間、ゴーレムのエネルギー砲がメタルウルフを直撃する。大統領は持ち前の大統領魂で無傷であったが、メタルウルフのシールドはちょっぴり減っている。
「Oh,私のスーツが煤けちゃったじゃないか」
「だ、誰だアンタ! 危ないぞ!」
「おや、私を知らないのかい?私は――」
ゴーレムが、突然現れた闖入者を排除しようと、その拳を振り上げる。そしてそれが振り下ろされ――
「アメリカ合衆国大統領だ!」
振り下ろされる前に、至近距離からメタルウルフの全門展開、バースト攻撃を見舞われ、吹き飛ぶ。
ゴーレムはまともに背中から墜落した。
*
「ゴーレムは、強いですね」
目の前に表示されるモニターの映像、灰色の巨人を見ながら、銀髪少女くーちゃんが呟く。
異変が起きたのは、その時だった。
「ああっ!? コイツ、ちーちゃんをいじめた奴じゃないか!」
それこそメタルウルフ。最強の大統領。ISと不条理を覆す男。
彼が歴代最強の大統領であるが故に、大統領を目指すアメリカの政治家が軒並み武闘派政治家になりつつあるらしいが、それはこの天災にとって何の意味もない情報である。
とりあえず、この男が存在する故に、ISは未だに世界最強の兵器という看板を掲げられずにいる。そもそもISは兵器ではなく宇宙開発用として作ったものだが、完璧を目指す彼女にとって、自分の作り出したものが別の何かに劣っているというのは不愉快である。
「やっちゃえ! ゴーレムちゃん!」
機械人形は、その矛先をメタルウルフへと定めようとして。
『一夏! 男ならそのくらいの敵に勝てなくてなんとする!』
「ゴーレムちゃんやめて! 箒ちゃんは殺せない!」
放送席に突然現れた彼女の妹、篠ノ之箒へと狙いを定めた。
*
「うわわわっ! なんだい君!?」
「そこをどけっ! 必殺、篠ノ之流古武術――ええっと……とにかく、食らえっ!」
突然、放送席の扉が開き、ピーターがよく分からない一撃を受け宙を舞う。だがピーターの場合、ここからが彼の本領発揮である。
「大変です! 指名手配された天災の妹が、突然報道官である私へ武力を行使しました!これはアメリカの報道の自由を武力で弾圧しようとする日本からのアメリカに対する内政干渉です!」
「一夏! 男ならそのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」
論理を大いに飛躍させながら、ピーターのマシンガントークが始まる。情報を知る権利の侵害から始まり、果てはIS至上主義への批判やIS学園の歪んだ指導体制に対するでっち上げまで。
しかし、でっち上げにも関わらず妙な説得力を誇るのは、ピーターの巧みな話術によるものだ。
「ピーター! 今助ける!」
「ああ、やはり頼りになるのは我らが大統領! ISより特殊機動重装甲! ご覧ください! 私がかねてから主張していたように、やはりISより特殊機動重装甲の方が優れて――ぎゃああ! ビームが放送席を掠めました! まだ砲口がこちらを向いています!」
メタルウルフのブーストタックル。その激突をまともに受けたゴーレムが弾き飛ばされる。
だが、既にゴーレムの目標入力とロックオンは終わっている。腕の砲口の射線は、放送席から外れていなかった。
「ああ、もうお終いです! やはり特殊機動重装甲よりISでした!」
「――父さん! 忘れたの!?」
IS寄りであったピーターは呆気なく持論をひっくり返し、そしてもう一度ひっくり返して元に戻ったピーターが目にしたのは、発射されようとしているビームの方向へ前進する愛娘。
「そう、ペンは
ビームが放送席を直撃。しかし、その光はピーターを蒸発させる前に不自然に逸れ、消えた。ピーターの目の前で、何故かマントがひらめく。
「え、エイミー!?」
「これが、アメリカ第2世代機、DNN専属取材用IS! “ペンバスター”よ!」
「や、やりました! 流石私の娘! ご覧ください! これがペンバスターの雄姿です!」
腕組みをして仁王立ち。青、白、赤が特徴的なカラーリング。それはまさしくDNN取材ヘリの着色。堂々と貫禄が溢れる姿だが、見た目に反して武装は貧弱。その代わり異常な防御力を誇っている。
どう見ても方向性を間違っているそれは、実は非戦闘用として開発された史上初のISだった。
「貴様ら、放送席で何をやっている! つまみ出せ!」
「ああっと、今度はブリュンヒルデです! ブリュンヒルデが私を掴み出席簿を――ぐえっ!」
「ま、待って父さん!」
3人全員が出撃できなかった教員に引きずられ、放送席から姿を消す。
熱線の直撃を受けて剥き出しになった放送席で、“ブリュンヒルデ”は複雑な視線をメタルウルフに向ける。
ブリュンヒルデ、織斑千冬。10年前にアメリカの“
「よもや、彼に助けられるとはな」
*
「おおおっ!」
白式必殺の零落白夜が、ゴーレムの右肩を切り付けた。右肩のビーム砲が真っ二つに裂け爆発。右腕が付け根から外れ、転がり落ちる。
「よくやった、少年(ボーイ)! これでチェックメイトだ!」
体勢を崩したゴーレムの背後に現れたメタルウルフが取り出したのは、巨大な大筒。特殊機動重装甲のバズーカ“TAIHOU”だ。
背中に密着した状態で発射され、大爆発を起こすゴーレム。最早、ゴーレムがこのアリーナから逃れることは叶わない。
「ジョディ! アレを用意してくれ!」
『はい、
上空のオラジワンⅢが、そのハッチを開く。
各国でISが広まり、最早従来のその鈍重な巨体では対抗できないと判断された超巨大強襲重攻撃ヘリ「オラジワンⅡ」は、特殊機動重装甲とISの技術の融合を果たし、超弩級強襲重攻撃ヘリ型IS「XH34-3 オラジワンⅢ」として生まれ変わったのだ。
主な製作はもちろん、フロム社。各武装にはバドゥ社も関係している。
技術の結晶と政府からの支援とフロム社の変態ぶりが凝縮された最高傑作にしてメタルウルフの武装コンテナを超える最大の問題作。
操縦席に2つのISを用意し、操縦士と副操縦士がそれを通じて巨体を操作することでPICで自在に空を舞うことができる。
あくまで人が操縦するISとして人型に拘った各国に対し、ISを操縦席として巨大兵器を運用するというぶっ飛んだ発想に世界は度肝を抜かれた。
『大統領へ
「ジョーカーは最後まで取っておくものだぜ!」
「やったっ! 遂に我が社の最終兵器!
それは、かつて20年前に副大統領が最終決戦に用意した地球制圧用究極兵器。
NASAが残骸を回収し、フロム社が大統領専用に再建したそれは戦車モードと四脚モードの切り替えが可能な、まさにアルティメット。
元々はクラス対抗戦の優勝者とエキシビジョンマッチの為に用意されていたのだが、まさか使うとは大統領自身も思っていなかった。
『アルティメットウェポン、四脚モードに移行』
「ああーっ!
四脚に変形したアルティメットウェポン。背面に存在したカバーが弾け飛び、そこから巨大なミサイルが姿を現す。
「GoldenWeek」とペイントされたミサイルの側面が開く。その中は空っぽだ。
黒煙を上げ、逃れようとするゴーレムの足を掴む。大統領がメタルウルフのブースターで横回転を開始。メタルウルフより遥かに重いはずのゴーレムをジャイアントスイング。
しかし、そのような重量など大統領には何の問題もない。
何故なら彼は大統領。そして、メタルウルフを装着した彼の“大統力”は通常の数倍へと跳ね上がる。その状態の大統領は、時として既存の物理法則を覆すのだ。
「
綺麗な放物線を描いてゴーレムが飛んでいく。
「
「ちょ、ちょっと! 命令しないで――ああ、もう!」
衝撃砲に弾き飛ばされたゴーレムは、独楽のように回転しながらすっぽりと開いた空っぽのミサイルの中に転落する。
じたばたともがき、脱出しようとしたゴーレムを大統領が蹴り飛ばし、コンテナから1丁のスナイパーキャノンを取り、至近距離のゴーレムへと向ける。
「ストライク!」
それは対装甲弾の野球ボールを発射する“マッドリーガーボーイ2号”。
元々の1号は球種がストレート、カーブ、フォークを取り揃えたものの球種が選択できない不備で赤字兵器となっていた。
そこで、この開発元であるバドゥ社は考えた。“一度に3球投げれば簡単に打者を打ち取れる”と。その結果1号以上の大赤字となり、バドゥ社はフロム社に買収され、傘下企業となった。
とにかく、3連射された野球ボールはゴーレムの頭部に命中。センサーレンズをひしゃげさせ、剥き出しになった内部機構がバチバチとスパークを発している。
「ストライク!」
第2球。左肩のビーム砲のカバーに野球ボールが全弾ストライク。紫電を発し機能しなくなった。
「ストラァイク!」
第3球。左腕の間接とエネルギー回路を砕き、とうとうゴーレムは全ての武装を失った。
『やりました! デザートは
「チェンジだ。今度は私がホームランを撃ってやろう!」
『まぁ! 期待していますよ大統領!』
ミサイルのカバーを閉める。
そこを封印するように貼られたのは“代金着払い”と書かれたジョディお手製の耐熱シール。
「ところで、日本には“過労死”という言葉があるな。勤勉すぎる日本人が、休日も取らずに仕事をしてしまう。
そう、例えばゴールデンウィークを全部仕事に使ってしまうようにな」
流れるような動作で大統領はアルティメットウェポンの内部に収まった。
間を置かず、GoldenWeekミサイルのロケットに点火。
「お前にゴールデンウィークはなしだ!」
大統領の特大ホームラン。ゴーレムを乗せたミサイルは宇宙へと飛んでいく。
日付変更線を越え、どこまでも。その先には、真昼の月があった。
ミサイルは狙い違わず、何故か月の研究所に向かって行く。その誘導性能、まさに
*
「ぎゃああーっ!」
轟音と激震。ズガン、という音と共に、束の身体が揺れた。
「な、なんだい!? どうしたのさ! ゴーレムちゃんの視界は突然真っ暗になっちゃうしさ!」
「た、束さま! 大変です!」
くーちゃんに連れられ、天災が見たのは――
「なんじゃあこりゃあ!」
“代金着払い”と書かれたミサイルが、研究所の一角を粉砕していた。
空気の流出は既に止まっているが、束はあまりの光景に泣き崩れる。ゴーレムはミサイルの中でバラバラになっていた。
「うわぁぁん、どうしてこんなことになっちゃうのさ! うわぁぁん! ゴーレムちゃぁん!」
「た、束さま……どうか、元気を出してください。あの子がいなくなっても、私はいます」
地球は、日本は、ミサイルに書いてある通り翌日からゴールデンウィークを迎える。
しかし、月に住む彼女にとってゴールデンウィークなどありはしないのだった。
――そしてこの日。篠ノ之束の興味対象に、“宿敵”メタルウルフが追加された。
*
「す、すごい……!」
学園に進入した謎の敵は、大統領の活躍で文字通り星となった。簪は胸に抱いた大統領の直筆サインを思わず握り締める。
後にこのサインを家宝とするかどうかで彼女の姉、更織楯無と簪が対立。
簪は日本代表候補生の座と更織家を捨て、大統領を追ってアメリカに移住。プレジデントフォース隊長のロバート・ファイルス、その娘のナターシャ・ファイルスの家でお世話になることになる。
月日は流れ、少女から大人の女性となった簪は後に初のプレジデントフォース日本人女性パイロットとして本物の正義のヒーローへの階段を駆け上がることになるのだった。
*
そして、それから2日後。事後処理を済ませた大統領は既にアメリカへ帰国していた。
「それにしても、なんかすごいことがあったらしいな。アメリカの大統領を追いかけたテロリストがIS学園に乱入したんだろ?」
テレビゲームのコントローラを操作しながら、親友である織斑一夏に話しかける赤毛の少年。五反田弾。
彼ら2人がやっているテレビゲームは、“インフィニットストラトス・ヴァーストスカイ/セカンドシフト(日本版)”だ。
第2回モンドグロッゾまでのISデータ+αで対戦や面攻略式のストーリーモードを繰り広げるこのロボットアクションゲームは、各国が自国ISの性能にケチを付けた結果、各国ごとに仕様を変えて売りさばくことで大儲けしたというゲームである。
「お、おう。なんだかよく分からないうちに終わっちまった」
一夏と弾が操作するのはイギリスの“メイルシュトローム”とイタリアの“テンペスタ”。
ステージは東京湾上空、敵機はシールドエネルギー1万を誇る規格外スペック、プレイヤーキャラとして選択不可で敵キャラ専用のシークレットキャラ、白騎士。
“あれだけのミサイルと艦隊を退けたのだからこのくらいの性能がないとおかしい”という意見を受け、全世界で白騎士の性能は統一されている。
ちなみに、通常のISであればシールドエネルギーは500~800、多くて1000の状況で、しかも白騎士は一撃の攻撃が重い。
発売当初“日本からの挑戦状”と銘打たれ、裏ボスとしてストーリーモード多くのプレイヤーを苦しめた。
その白騎士が、彼らの目の前のディスプレイで東京湾に墜落。一夏と弾の勝利である。
「ふぅ、結構強かったな……。あれ?弾、ステージEx2が未クリアで残ってるぞ?」
「ステージEx2……? げっ! いかん、そいつに手を出すんじゃない!」
弾が急に慌て始めた。彼の言葉を待つことなくステージを選択した一夏は、弾の狼狽振りが何によるものなのか、すぐに思い知ることになった。
――暗転した画面に、ステージが映し出される。正面には、ある意味有名な白い建物。
――その白い建物の両脇にそびえ立つ2つの塔に設置された波動砲台。その名も“ファイト一発”。
『
――その建物の玄関が爆発し、どこかで見たようなパワードスーツが飛び出してくる。
「おい、まさか……」
――シールドエネルギー1万。強力無比な一撃、要塞のように固い装甲。このゲームの裏の裏ボスとして君臨するプレイヤーキャラとして選択不可のシークレットキャラ。
――他のISが簡単な説明のみで、白騎士に至っては“詳細不明”の一言で終わる中、唯一“非IS機体でISに立ち向かう男、全男性の希望、物理法則を超える者”etc……と長々と説明され、しかも肉声付きの喋るユニット。またの名を公式バグキャラ。
『
――彼こそ、謎の大統領。ISの対戦ゲームに参戦した唯一の男性。“ザ・プレジデント”である。
「こんなの勝てるかぁぁっ!」
「お、お前世界唯一の男性IS操縦者だろ! 何とかしろ!」
世界唯一の男性IS操縦者の悲鳴が、五反田食堂に響いた。
「