心を失った少女も異世界から来るそうですよ?   作:ほら、死の花が咲いた

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第10話になります!

ずっと更新できていなかったのにお気に入りが増えていて・・・・・・・さらには評価も頂けて凄く嬉しいです!!
ありがとうございます!

感想評価お待ちしています。


第10話:造物主の決闘と新たなギフト、だそうですよ?

第10話

 

それぞれが思い思いに街を見て回っていた頃・・・・・・・

 

"造物主の決闘"予選の決勝までコマを進めていた耀は、サポーターである雅と共に選手控え室で出番を待っていた。

 

「とりあえず、ここまでは順調に来れたね」

 

「うん・・・・・むしろ、楽勝・・・・・・・だった」

 

雅の返答に、耀は思わず笑ってしまった。確かにその通りだと思ってしまったからだ。

一回戦の相手は同じ7桁出身のコミュニティだった。創作ギフトは剣・・・・・見た目は豪華で、美術的にはなかなか綺麗な作品だったが使い手の方は大した事がなく、カウンター気味に入った耀の蹴り一発で倒してしまった。

2回戦の相手の創作ギフトは連弩と呼ばれるもので、再装填の時間がほぼゼロで数十の矢を放てるのは確かに凄かったが、グリフォンのギフトの前では敵では無かった。

3回戦の相手のギフトは脚力増強シューズ・・・・・蹴りの威力や走るスピードが大幅に強化されていたが、もっと速い動物の力を借りる事が出来る耀には気にするほどの物では無かった。

 

そして準決勝・・・・・相手のギフトはキメラと呼ばれる数種類の動物を合成した怪物が相手だったのだが、試合が始まると同時に相手が放った言葉が耀の逆鱗に触れてしまったのだ。

 

「我が研究の成果!多くの犠牲を払いながらも完成した究極のキメラが、貴様らを叩きのめす!!さぁ行け!我が研究成果よ!!!」

 

耀にとって、動物は友達という認識だったため、キメラを作り出すために多くの犠牲を払ったという彼の言葉は許しがたいものがあったのだ。主人の命令に忠実なキメラは、猛然と耀へ向かって走り出したが・・・・・・・。

 

「可哀想に・・・・・聞こえるよ、貴方達の悲鳴が・・・・・・・。今・・・楽にしてあげるからね」

 

そう言って・・・・・耀は出来るだけ苦しまないようにと、雅から借りた血の刀で真っ二つに斬り殺した。そして両手を合わせて祈りを捧げると、対戦相手を睨みつけた。

 

「本当なら・・・・・この子達を苦しめた貴方も斬ってやりたいけど、それはルール違反になっちゃうから斬らない。けれどもし、また動物達を苦しめた時は・・・・・容赦無く斬るから」

 

それだけ吐き捨てるように言うと、耀は控え室へと下がっていいったのだった。

 

準決勝の時の事を思い出すと、今でも怒りが湧くが今は決勝の事に集中しなければいけない。耀は気持ちを切り替えると、丁度呼びに来たスタッフに応えるように雅と共に控え室を出るのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一方その頃、十六夜と飛鳥はレティシアと合流していた。どうやら彼女は耀と雅がギフトゲームへ参加するので応援してくれる同士を探していたらしい・・・・・。

しかし十六夜と飛鳥を見つけたは良いものの・・・どことなく気まずい雰囲気に要件を切り出せず、仕方なく近くのクレープ屋でクレープを3つ買うとそれぞれに1つずつ渡したのだった。

 

2人は、気を使わせてしまった事が気恥ずかしかったのか、若干頰を染めながらも礼を言った。

 

「その、ありがとな」

 

「ありがとう・・・。けれど、これはどうやって食べれば良いのかしら?どんなに頑張っても、口の回りが汚れてしまうわ」

 

「構わんよ。・・・・・というか、飛鳥はクレープを食べた事がないのか?」

 

「そうかな?私はこの温かくて柔らかい皮を噛み破いた時に溢れる赤くて甘いドロリとしたソースが、口の中で滑りながら広がる感触が好きなのだが」

 

「吸血鬼のお前が言うとシャレにならねぇな・・・・・」

 

「えぇ・・・・・」

 

思わず苦笑いになる十六夜と飛鳥。流石の十六夜でも今の例えには少しばかり恐怖を感じたらしい。そんな2人の表情に、してやったりという顔になるレティシア。

そして気づけば、飛鳥が悪戦苦闘している間に十六夜とレティシアは半分以上食べ終わってしまっていた。

十六夜は物は試しと齧り付かせても良かったのだが、このままではいつになるか分からなかったので自分の分を一気に平らげると、近くの店でジェラートを買うとスプーンを二本もらって来た。

 

「飛鳥、これ使え」

 

「スプーン?」

 

「中のクリームなんかはスプーンで掬って、生地は齧りつけば口周りも汚れないだろ?」

 

飛鳥はなるほどと納得すると、一口・・・・・。

 

「・・・・・・・ん!美味しいわ!」

 

途端に笑顔になる飛鳥に、微笑みを浮かべる2人。しかしレティシアはふと、遠い表情を浮かべた。

 

「しかし・・・・・飛鳥は南側へ行ったら苦労しそうだな」

 

「あん?南側の料理はそんなに豪快なのか?」

 

「あぁ・・・・・以前に、"六本傷"の旗を掲げている店に入ったのだが、あれは凄かった。切る!焼く!齧る!の三工程を食事だと説明された時は、流石の私も頭を抱えたよ」

 

またもや遠い目をするレティシアの姿に、苦笑いを浮かべる十六夜と飛鳥。ふと、ジェラートの方の味も気になってチラチラ見ていた飛鳥の視界の隅に小さな影が映った。鮮やかな切子細工のグラスを売る出店の棚の下に、尖った帽子のーーー。

 

「十六夜君、レティシア・・・・・あれは、何?」

 

ん?と指を向ける方向に首を傾ける2人。十六夜はなんだあれ?と思うが、レティシアは目を丸くして驚いた。

 

指の先にはーーー手の平サイズしかない身長の、とんがり帽子を被った小人の女の子が、切子細工のグラスをキラキラとした瞳で眺めていたのだ。

 

「あれは、精霊か?あのサイズが1人でいるなんて珍しいな。"はぐれ"かな?」

 

「「"はぐれ"?」」

 

「あぁ。あの類の小精霊は群体精霊だからな。単体で行動していることは滅多にないんだ」

 

そう(へぇ?)と相槌を打つ飛鳥と十六夜。2人は物珍しそうにとんがり帽子の精霊に近ずく。

背後から2人の影がかかったのか、とんがり帽子の精霊は驚いて2人に振り返る。

 

3人の視線は、自然に交差した。

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、」」」

 

途端、「ひゃっ!」と可愛らしい声を立てて逃げ出すとんがり帽子の精霊。

飛鳥はクレープをレティシアへ預け、十六夜はジェラートを一気に口へ放り込むと、その小さな背中を追う。

 

「わっ、おい、2人とも!」

 

「残りはあげるわ!ちょっと追いかけてくる!」

 

「右に同じだ!」

 

嬉々としてとんがり帽子の精霊を猛追する十六夜と飛鳥。だがそれも仕方ない。

逃げられれば追いかけたくなるのは、問題児としては当たり前すぎる習性だろう。

 

「やれやれ・・・・・もうすぐ夕方だが・・・・・・・十六夜が一緒なら大丈夫だろう」

 

レティシアは困ったようにクレープを齧り、その背中を見送るのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一方、黒ウサギとジンの2人は耀と雅を応援するために"造物主の決闘"の会場へと足を運んでいた。

フランから2人が頑張っていると聞かされて、それなら応援に行かなくてはと思ったのだ。

 

しかし・・・・・来てみれば既に予選決勝で、しかも一方的な戦いになっていた。

相手は"ロックイーター"のコミュニティに属する自動人形、石垣の巨人だったが、耀のスピードについていけず腕をブンブン振り回すだけで掠りもしていない。

雅に至っては、リング上にはいるものの結界を張ってお茶を飲みながら耀の戦いを見ているだけだった。

 

遂に業を煮やしたのか、自動人形の巨人は両腕を思い切りリングへ叩きつけ足場を崩しにかかるが、その程度で耀の機動力を奪える筈もなく・・・・・。

耀はグリフォンのギフトで上空へ退避すると、一気に巨人の真上へと移動し急降下・・・・・・・。さらに、像のギフトで自身の体重を増加させるとそのまま巨人を踏みつけた。

 

砂煙が舞う中、ゆっくりと姿を現した耀は雅とセコンドについていた三毛猫に向かってVサインを送る。それに応えるように雅もVサインを返すと、会場から歓声が上がった。

 

「耀さん・・・・・実際に戦っているところを見るのは初めてだったけど、あんなに強かったんだね」

 

「そうですね・・・・・"フォレス・ガロ"との戦いでは手傷を負っていましたが、今の耀さんには余裕があります。雅さんが後ろに控えている・・・・・というのもあるでしょうが、グリフォンのギフトを使いこなしてきているのが大きいのかもしれません」

 

「・・・・・僕は、それだけじゃないと思うけど・・・・・・・。とにかく、耀さんの戦う姿を見られて良かった。飛鳥さんと十六夜さんの戦いは見た事があるから・・・・・後ちゃんと見た事がないのは雅さんだけかな・・・・・ルイオスとの戦いは参考にならないし」

 

恐らく実際に自分が指揮を取る時の事を考えているのだろう。ジンは先ほどの戦いを何度も頭の中で思い返し、耀の戦闘力を叩き込んでおく。

 

(実際に耀さんを運用するなら・・・・・空も飛べるし遊撃的な立ち回りが良いんだろうけど・・・・・・・問題は決定力の低さかな?十六夜さんや雅さんと違って耀さん個人の攻撃力は高くない。それを補うギフトがあれば・・・・・・・)

 

真剣な表情で考えているジンを見て、黒ウサギは本当に頼もしい表情をする様になったと思うと同時に、寂しさを感じる。

 

(きっと・・・・・これから先、ジン坊ちゃんは大きく成長していくでしょう。黒ウサギが守らなくても大丈夫なくらいに・・・・・・・もう、ジン坊ちゃんなんて呼ぶのは失礼かも・・・・・しれませんね)

 

そこまで考えて、黒ウサギはブンブンと小さく頭を振ると、だけど今はまだ・・・・・ともう一度ジンの顔を見た。

 

その時ちょうど、宮殿の上から見ていた白夜叉が柏手を打ち、観衆の声がピタリと止む。

白夜叉はバルコニーから朗らかに微笑むと、耀と雅、そして一般参加者に声をかけた。

 

「最後の勝者は"ノーネーム"出身の春日部 耀とサポーターの陸奥 雅に決定した。全試合通してサポーターは一切なにもしていなかったが・・・・・まぁ良いじゃろう。これにて最後の決勝枠が用意されたかの。決勝のゲームは明日以降の日取りとなっておる。明日以降のゲームのルールは・・・・・・・ふむ。ルールはもう1人の"主催者"にして、今回の祭典の主賓から説明願おう」

 

白夜叉が振り返り、宮殿のバルコニーの中心を譲る。舞台会場が一望できるそのテラスに現れたのは、深紅の髪を頭上で結い、色彩鮮やかな衣装を幾重にも纏った幼い少女。

 

龍の純血種ーーー星海龍王の竜角を継承した、新たな"階層支配者"。

炎の龍紋を掲げる"サラマンドラ"の幼き頭首・サンドラが玉座から立ち上がる。

華美装飾を身に纏い、緊張した面持ちの彼女に、白夜叉は促すように優しく笑いかける。

 

「ふふ。華のお披露目だからの。緊張するのは分かるが、皆の前では笑顔を見せねばならぬぞ。我々フロアマスターは下層のコミュニティの心の拠り所なのだからな。私の贈った衣装も、その様な硬い表情では色褪せてしまうというもの。此処は凛然とした態度での」

 

「は、はい」

 

サンドラは大きく深呼吸し、鈴の音の様な凛とした声音で挨拶した。

 

「ご紹介に預かりました、北のマスター・サンドラ=ドラトレイクです。東と北の共同祭典・火龍誕生祭の日程も、今日で中日を迎える事が出来ました。然したる事故もなく、進行にご協力下さった東のコミュニティと北のコミュニティの皆様にはこの場を借りて御礼の言葉を申し上げます。以降のゲームにつきましてはお手持ちの招待状をご覧ください」

 

観衆が招待状を手に取る。

書き記されたインクは直線と曲線に分解され、別の文章を紡ぎ始めた。

 

『ギフトゲーム名"造物主達の決闘"

 

・決勝参加コミュニティ

 

・ゲームマスター・"サラマンドラ"

・プレイヤー・"ウィル・オ・ウィスプ"

・プレイヤー・"ラッテンフェンガー"

・プレイヤー・"ノーネーム"

 

・決勝ゲームルール

 

・お互いのコミュニティが創造したギフトを比べ合う。

・ギフトを十全に扱うため、一人まで補佐が許される。

・ゲームのクリアは登録されたギフト保持者の手で行う事。

・総当り戦を行い勝ち星が多いコミュニティが優勝。

・優勝者はゲームマスターと対峙。

・授与される恩恵に関して

 

・"階層支配者"の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームに参加します。

 

"サウザンドアイズ"印

"サラマンドラ"印

 

 

 

これにて本日の大祭はお開きとなった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

サンドラのお披露目がされていた頃、飛鳥は捕まえる事に成功したとんがり帽子の精霊を肩に乗せながら、境界壁の麓の街道を歩いていた。

隣では、精霊の頰を突いて遊びながら十六夜が一緒に歩いていた。

突かれる度に「ひゃぅっ!」と可愛らしい声を上げる様子に、飛鳥はクスクス笑いながら声をかけた。

 

「別に取って食おう、という訳じゃないの。ただ旅の道連れが欲しかっただけよ」

 

「じゃあ俺もその道連れの一人ってわけか」

 

「あら、嫌だったのかしら?」

 

茶目っ気たっぷりにそう返しながら、飛鳥は売店で買ったクッキーを割って、とんがり帽子の精霊に分け与えた。

 

「はいコレ。友達の証よ」

 

「ーーーーーー!?」

 

ガバ!!と甘い匂いに釣られて起き上がるとんがり帽子の精霊。

焼きたてのクッキーはアーモンドの香ばしい香りとキャラメルの焼けた香りが混じり合い、追いかけっこで疲労した精霊の食欲を刺激した。

自分の背丈ほどのクッキーをシャリシャリと齧ったとんがり帽子の精霊は「キャッキャ♪」と愛らしい声を上げて飛鳥の頭の上まで登る。

 

ーーー飛鳥はこっそり思った。(餌付けは成功した様ね)、と。そしtr十六夜も(餌付けに成功・・・・・か)よ思いながらクックと小さく笑っていた。

 

「それじゃ、仲良くなった所で自己紹介をしましょうか。私は久遠飛鳥よ。言える?」

 

「・・・・・・・あすかー?」

 

「ちょっと伸ばしすぎね。締まりがなくてだらしないわ。もう少し最後をメリハリ付けて」

 

「・・・・・・・あすかっ?」

 

もう少しよ、頑張って。最後を綺麗に区切って発音するの」

 

幼い口調のとんがり帽子の精霊は二度三度と頭を横に振り、小首を傾げて名前を呼んだ。

 

「・・・・・・・あすか?」

 

「そう。その発音で元気よく、疑問形抜きで」

 

「・・・・・・・あすか!」

 

「ふふ、ありがとう。次はこっちの人の名前を呼んでみましょうか。彼は十六夜よ」

 

そう言いながら飛鳥は十六夜の名前を教えた。自分の名前よりも少し呼びづらいかしら・・・・・と思いながらも、「むぅ〜」と必死に名前を呼ぼうとするとんがり帽子の精霊を見つめた。

1分ほどだろうか・・・・・精霊は意を決したように顔を上げると、十六夜の名前を呼んだ。

 

「・・・・・・・いじゃよい!」

 

ズルッと転びそうになった十六夜・・・・・・・。その姿に、飛鳥は思わず吹き出してしまい軽く睨まれるが、若干恥ずかしそうなその表情が普段の十六夜とは違って可愛く見えてしまい笑いが止められなかった。

 

「あは・・・・・ふふ・・・・・・・ご、ごめんなさい。ちょっと・・・この子には難しかったかしらね」

 

「・・・・・・・ったく、お前じゃなかったら殴ってたぞ」

 

不貞腐れた様に顔を背ける十六夜の姿に、また笑いがこみ上げてくる飛鳥だったが、なんとか堪えると今度はとんがり帽子の精霊に名前を聞いた。

 

「そ、それじゃあ今度は貴女の名前を教えて貰えるかしら?」

 

とんがり帽子の精霊は飛鳥の頭の上で立ち上がると元気よく答えた。

 

「らってんふぇんがー!」

 

「・・・・・・・?ラッテン・・・・・?」

 

「ラッテン・・・・・・・って事は、ネズミ捕り道化か?とてもそうは見えねぇが」

 

十六夜が頭を悩ませている中、飛鳥はもう一度聞いてみる事にした。

 

「それが貴女の名前なの?」

 

「んー、こみゅ!」

 

「コミュ・・・・・・・コミュニティの名前?じゃあ貴女の名前は?」

 

「?」

 

意味がわからない、という感じで小首を傾げる精霊。そんな彼女の様子に、十六夜が自身の推論を述べ始めた。

 

「多分だが・・・・・レティシアが"群体精霊"って言ってたしこいつには固有の名前が与えられてないんだろうな。もしかしたら、"ラッテンフェンガー"っていうコミュニティの名前そのものが、こいつのいた"群体精霊"を指す言葉である可能性もある」

 

「そう・・・・・名前がないのは不便ね・・・・・・・あら?」

 

そこで、飛鳥は洞穴の入り口にある看板が目に入った。どうやら展覧会をやっているらしい。

十六夜も興味が惹かれている様で、2人は精霊の名前は一旦置いておく事にして一緒に展覧会を見て回る事にした。

 

中は思っていたよりもずっと広く、出展物もどれも趣向を凝らしたものばかりで2人は感嘆の声を上げながら進んでいく。

中でも2人の目を引いたのは、キャンドルホルダーに旗印が刻まれている銀の燭台だった。

 

「ふふ。細工も綺麗な銀の燭台ね」

 

「きれー!」

 

「元の世界でなら、数百万って値段が付けられるんだろうが・・・・・これに値段を付けるのは野暮ってもんだな」

 

十六夜でさえ手放しに褒めているのだから、この作品はそれほど素晴らしい出来栄えなのだろう。飛鳥はそっと手に取ると、製作者を確かめた。

 

「制作・"ウィル・オ・ウィスプ"?あの歩くキャンドルを作ったコミュニティじゃない」

 

「へぇ?これを作った奴とは、ぜひ会って見たいな・・・・・」

 

巧緻な細工で施された紋様は、旗印をモチーフにしたものなのだろう。

燃え上がる炎の印を刻んだ燭台には、炎そのものにも特別な力があるのだろうか。

まるで篝火のように3人を温かく引き寄せるような気持ちにさせた。

 

その後も、色々な作品を見るたびに感動し・・・・・・・同じだけ、旗印があることを羨ましいと思ってしまう飛鳥と十六夜。口にこそ出しはしなかったが、お互いに是が非でも魔王から取り戻してやろうと思っている事は伝わってきていた。

 

だんだんと、お互いが何を考えているのか分かるようになってきた2人は、お互いに顔を見合わせるとフッと笑い出してとんがり帽子の精霊に首を傾げられてしまう。

 

そうして歩いていると、今度は大きな空洞に3人は出た。恐らく会場の中心に当たる場所なのだろう。

急に開けた場所に出た飛鳥と十六夜だったが、雑踏や周囲を見回す事なく、大空洞の中心に飾られていたものに眼を丸くして驚いた。

 

「あれは・・・・・・・!」

 

「やはは・・・・・・・こいつはすげぇな!」

 

人混みも、周囲の喧騒も、目の前に飾られた巨大な展示品の衝撃に掻き消された。

 

「紅い・・・・・紅い鋼の巨人?」

 

「おっき!」

 

「どこのコミュニティが作ったんだ?まさか上層ってことはないだろうが・・・・・」

 

十六夜の疑問はもっともだった。下層のコミュニティでこれだけの作品を作れるとなれば、1人だけ能力が突出しているケースなどが上げられるが・・・・・そんな事を考えながら、展示品の看板を見た十六夜はさらに驚いた。

 

「あすか!らってんふぇんがー!」

 

隣では、とんがり帽子の精霊が飛鳥の肩から飛び降りると看板を指しながら「らってんふぇんがー!」と何度も言っていた。

確かに、看板には『製作・ラッテンフェンガー 作名・ディーン』と記されてはいるが、十六夜は信じられなかった。

 

この小さな精霊の所属するコミュニティが、自分の知識の中の"ラッテンフェンガー"同じなのだとすれば、どう過大評価したとしてもこれだけの作品を作れる力は持っていない筈なのである。

十六夜はとんがり帽子の精霊を訝しげに見るが、どう見てもこの小さな精霊が危険な存在には見えなくて・・・・・それに、飛鳥が素直に彼女のコミュニティを賞賛していたので、今はひとまず置いておこうと声をかけようとした・・・・・・・その時だった。

 

「・・・・・きゃっ・・・・・・・!?」

 

「飛鳥!?」

 

ヒュゥ、と。大空洞に一陣の風が吹く。

その風は数多の灯火を一吹きで消し去ってしまう。飛鳥は堪らず小さな悲鳴を上げて、十六夜はそんな彼女をほとんど何も見えない暗闇の中どうにか壁際まで移動させると、彼女を背に守るように陣取った。

どうやら他の観客たちも混乱しているようで、それは波紋のように浸透していく。

 

「どうした!?急に灯りが消えたぞ!」

 

「気をつけろ、悪鬼の類かもしれない!」

 

「身近にある灯りを点けるんだ!」

 

混乱の喧騒に大空洞全体が包まれていく中、飛鳥は咄嗟に近くにあった燭台を手に取り、備え付けられていたマッチで火を付けた。

すると、目の前に十六夜の背中が見えてホッとすると同時に恥ずかしい思いがした。

 

(また・・・・・私は守られるだけなの?)

 

しかし、そんな自己嫌悪を感じている暇もなく・・・・・次の瞬間には、大空洞の最奥から不気味な光が見え始めた。

 

『ミツケタ・・・・・・・ヨウヤクミツケタ・・・・・・・・・・!』

 

怨嗟と妄執を交えた怪異的な声が大空洞で反響する。十六夜と飛鳥は危機を感じ取りながらも、声の位置から犯人の居場所を特定しようと必死に周囲を見渡す。

しかし声が反響して居場所は分からない。十六夜はこんな時、春日部がいれば分かったかもしれないと内心で愚痴る。

そして飛鳥は、堪え切れなくなったのか力を込めて叫んだ。

 

「この卑怯者!姿()()()()()()()()()()()()()!」

 

飛鳥の支配力のある声が反響する。しかし犯人からの反応はない。

代わりに五感を刺激する笛の音色と、怪異的な声が響き渡ったのだ。

 

『ーーー嗚呼、見ツケタ・・・・・・・!"ラッテンフェンガー"ノ名ヲ騙ル不埒者ッ!!』

 

その大一喝は大空洞を震撼させ、一瞬の静寂を呼ぶ。誰もが顔を見合わせる中ーーーザワザワと洞穴の細部から何千何万匹という紅い瞳の、大量の群れが襲いかかって来たのだった。

 

途端、誰かの絶叫が響く。

 

「ね、ねず・・・・・・・ネズミだ!?一面全てがネズミの群れだ!!」

 

そう。大空洞の一面を埋め尽くす蠢く影。その見渡す限り全てがネズミだ。

一瞬・・・・・・・十六夜はポカンと間抜けな顔で出て来た大量のネズミを見ていたが、瞬時に頭を切り替えた。

 

(さっきの奴の言葉と笛の音・・・・・それにネズミとなると、俺の推測が正しければ噛まれるだけでもヤバい!)

 

そう考えた十六夜は、ネズミを殴ろうとして・・・・・・・止まった。

周囲にあるのは色々なコミュニティがこの日の為にと必死になって作った作品の数々・・・・・・・今、自分が暴れてしまえばこれらの作品たちを壊してしまう。

仮にこれが・・・・・店に売っているような量産品なら、十六夜も迷わず拳を振るっただろう。しかし、ここにあるのは極限まで技術を出し切ったこの世に1つしかない一点物。十六夜はそういった執念のような物が分かる程度には様々な美術品を見て来ていた。

 

だからこそーーー。

 

「飛鳥、確かガルドと戦った時の剣持ってたよな?」

 

そう聞いた。

 

「え、えぇ・・・・・・・。これの事よね?」

 

飛鳥は頷きながら、ギフトカードの中から銀の十字剣を取り出し十六夜へと手渡した。

十六夜はそれを受け取ると二度三度と軽く振ってみる。そして1つ頷くと既に目の前へと迫っているネズミの群れに向かって吼えた。

 

「テメェが何者かは後回しだ・・・・・飛鳥には、指一本触れさせねぇ!!!」

 

その声は、先程の怪異的な声以上の大きさで大空洞に響き渡り・・・・・逃げ惑う参加者達は一瞬我に返り押し寄せるネズミ達も、その圧力に僅かの間動きを止めた。

 

そしてその一瞬を、飛鳥は見逃さなかった。

 

()()()()()()()()()()()()()!」

 

「「「「「わかりました!!!」」」」」

 

飛鳥が声に力を乗せて一喝すると、先程まで我先にと押し合いながら逃げ惑っていた参加者達は一糸乱れぬ動きで爆走し始めた。

余裕のある状態で眺めていたのなら、それはシュールな光景だっただろうが今の2人にはそんな余裕は無かった。

飛鳥の一喝と同時に再び動き出したネズミ達を、十六夜が銀の十字剣で薙ぎ払いながら少しずつ飛鳥を出口の方へと下がらせて行く。

 

しかし、数が数だけに流石の十六夜でも全てのネズミを捌ききる事が出来ず数匹ずつではあるが、討ち漏らしてしまっていた。

その度に飛鳥へは触らせまいと後ろまで手を伸ばすが、そのせいで更に多くのネズミを討ち漏らしてしまうという悪循環・・・・・・・。

十六夜は舌打ちをしながらも、何としても飛鳥の下へは行かせまいと剣を振るい続けた。

 

(くそッ・・・・・!少しでも剣術をかじってればもっと速く振れたかもしれないが・・・・・・・!!)

 

初めて・・・・・・・なんの武術も学んでこなかった事を悔いる十六夜。切っても切っても湧いてくるネズミの群れに、いつしか悪態を吐く暇すらなくなって来た。

そしてそれは、飛鳥も同様でーーー。

 

(また・・・・・また、守ってもらってばかり・・・・・・・。私はあの時・・・・・誓った筈なのに!もっと強くなるって・・・・・・・十六夜君の隣で戦えるくらいになってみせるって!!なのに、どうして私にはその力が無いの!?私の中に眠ってる力があるなら・・・・・少しくらい力を貸しなさいよ!!!)

 

自分の支配する力を呪い・・・・・箱庭へ来てからは新しい力の使い方を模索し続けていた飛鳥だったが、十六夜の必死な表情に悔しくて、泣きそうな程に・・・・・自分の無力さが悲しくて・・・・・・・無い物ねだりだとは分かっていても、自身のギフトカードを握り締めながら必死に叫んだ。

 

「お願い・・・・・だから、お願いだから・・・・・・・力を貸して!!!」

 

その時だった・・・・・・・握り締めたギフトカードから、眩い程の光が溢れ出る。

飛鳥は勿論、十六夜も突然の事に目を見開いた。

徐々に光が収まって行く中、ギフトカードの"威光"下にあったノイズの走っていたギフトが、その名を露わにしていた。

 

ーーー"影の支配者"

 

それが、飛鳥に秘められていた力の名だった。

 

「私の・・・・・新しいギフト・・・・・・・」

 

飛鳥は一瞬惚けたようにその名を見ていたが、すぐに我に帰ると力の使い方を考える。

いくら発現したとは言え、使えなければ意味がない。名前から察するに、影が関係する事は容易に想像できた。都合のいい事に周りはほぼ全てに影がある。

 

飛鳥は悩みながらも、両手を使って影が操れないか試して見た。

すると・・・・・・・壁の一部の影が、飛鳥の手の動きに合わせて蠢きだす。それを何度か繰り返す内に、段々とコツが掴めて来た飛鳥は、次第に影の形を変えられるようになり現在は何本もの剣作り出していた。

 

(これなら・・・・・やれる!)

 

飛鳥はそう確信すると、更に影を剣の形へと変えて行く。気づけば・・・・・数十本にも及ぶ剣が出来上がっており、飛鳥は薄く微笑むと一斉にネズミの群れへ向けて右手を振り抜いた。

 

その瞬間・・・・・・・十六夜も、そして攻撃した本人である飛鳥も驚愕に顔を染めた。

 

飛鳥が放った無数の剣は、襲いくるネズミ達を一瞬にして()()させたのだ。

飛鳥は驚きながらも、更に二度三度と腕を振るう・・・・・・・。

その度に、あれだけいたネズミ達が影に呑まれて消え去っていた。

 

その後も、出口へ向かって走りながらネズミが迫っては影で消し去ってを繰り返す内に、ようやく外へと出る事が出来た2人は荒れていた呼吸を整えながらお互いの顔を見た。

 

「「・・・・・・・・・・・・・・」」

 

そして訪れる静寂・・・・・・・。

その沈黙が可笑しかったのか、2人は同時に笑い出した。

 

「クク・・・・・・・ヤハハ!」

 

「ふふ・・・・・・・あはは♪」

 

周囲の衆人達が訝しげに見ている中、2人はひとしきり笑い合うと大きく息を吐いた。

 

「はぁ〜・・・・・・・まさか、ネズミ相手にあそこまで苦戦するとは思わなかったな」

 

「そうね・・・・・・・でもおかげで、新しい力が手に入ったわ」

 

そう言いながら、飛鳥はもう一度ギフトカードを見た。そこにはしっかりと、"影の支配者"が刻まれている。飛鳥は愛おしそうに文字の部分を撫でると、十六夜へと向き直った。

 

「まだまだ使い方は考える必要があるけど、少しは目標に近づけたかしらね」

 

「あぁ・・・・・さっきの戦いを見てた感じだと、雅の"操血"に近いギフトかもしれねぇな。戻ったら色々聞いてみると良いんじゃないか?」

 

「そうね・・・・・・・一応白夜叉にも聞いてみようかしら?」

 

2人は頷きあうと、すっかり暗くなってしまった空を見上げた。きっとみんな帰りが遅いのを心配しているだろう。その時、飛鳥の胸元に隠れていたとんがり帽子の精霊がひょっこり顔を出した。

小さく頭を振るのを見て微笑み合うと、2人は逸れないようにと手を繋ぎながら歩きだすのだった。




今回はここまでとなります。

なんか雅さんの出番が減って来ている・・・・・・・。

もうすぐ出番が来ますのでお待ちくださいw

今回は前回同様、ジンの話と十六夜、飛鳥の話がメインだったかなと思います。特に、飛鳥の新たなギフトについては過去に作った資料などと睨めっこしながら考えた結果、このギフトにする事にしました。
他2人のギフトも気になるところではあると思いますが、気長にお待ち頂ければと思います。

次回予告!をやってみようかな?と思ったのですが、あまり意味がない気がしたのでやめましたw

と、言うわけで・・・・・・・またお会いしましょう♪
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