サウザー!~School Idol Project~   作:乾操

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OPがついたぞ!
挿絵だから見たくない人は非表示にするんだぞ!
あと大人の事情で歌詞は無しだからそこは想像力働かせるんだぞ!


12話 聖帝VS修羅 の巻

 +前回のラブライブ+

 

 PVが完成した。

 

 

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 理事長から出されたラブライブ出場の条件は、『赤点を取らない』という簡単至極なものであった。

 しかし、これはあくまで勉強が出来る人間にとっての話で、世の中には『赤点と共にある』と言った具合の人間も多々存在するのである。

 少なくとも穂乃果と凛はその類の人間だった。

「数学! 数学だけがだめなの!」

「凛は英語! 英語だけが……!」

 他の教科は一応平均点前後は行くようであるが、総合点が赤点を免れたところでなんら意味はない。一つでも取ったらそこで終了なのだ。

「確かに穂乃果は小中とも数字が苦手でしたね」

「そーでしょ?」

7×4(しちし)?」

「……にじゅう……ろく?」

「……重症ですね」

 凛も似たようなもので、英語は基礎からしてところどころ抜け落ちていた。

 中間考査まで日はない。これは修羅場間違いなしである。

「そういえば、サウザーちゃんは大丈夫なの?」

 ことりが尊大に椅子に座るサウザーに訊く。

「フン、帝王たるおれ様が下郎に劣るはずがないであろう? 帝王学だってやってるし」

 そのわりにはグズグズである。しかし、自信はある様子だ。

6×7(ろくしち)?」

「フハハ。要は6を7回足せばいいのだろう?」

 言うとサウザーはノートを取り出してりんごを六個ずつ描き始めた。そして、それが七列描き終わると、一つずつ数えて、

「答えは43だ!」

「計算方法が原始人レベルな上に答えまで違うってこれどうするのよ」

 マキは呆れを通り越して諦めの境地に達そうとしているらしかった。対してサウザーは相も変わらず何が面白いのか笑うばかりだ。

 穂乃果、凛、サウザー。この三人が勉強が出来ないのは分かった……というより、かかわりのある人間なら大体予想はついた。

 だが、この三人にもう一人赤点候補を加える必要がある。

「どどどうするのよこれ!」

 ニコが動揺して言った。動揺するのも当然だろう。何しろ、こんなしょうもないことが原因で志が挫けるかもしれないのだから。

 しかし、彼女の動揺には違う意味も含まれているよう感ぜられた。

「もしかしてニコ先輩も……」

 海未が呟く。

「あ、赤点なんて取るわけないでしょー! なな何言ってんのー!」

「動揺しすぎです……」

 理事長は決してμ'sを陥れようとしているわけではない。理事長の出した条件は一般としてクリアして当然の提案であるのだ。赤点候補が半分を占めるμ'sに問題があるのである。

「……とりあえず私とことりで穂乃果とサウザーの、花陽とマキで凛の勉強を見ることにしましょう……」

 海未が提案する。と、ここでマキが質問する。

「部長の勉強はどうするのよ」

「に、ニコは赤点なんて―—」

「うだうだ言わないの。……私達はもとより、二年生も三年生の勉強は見れないんじゃないの?」

 ニコはアイドル研究部唯一の三年生である。海未もことりも優等生の部類に入るが、いくらなんでも三年生の勉強は教えることは出来ない。マキと花陽も同様である。

「むぅ、参りましたね」

 困り果てる一同。が、ここで頼りになるのが神出鬼没の妖怪スピリチュアルである。

「ニコッチはうちが担当するわ」

「うわびっくりした!」

 希が天井から生えてきた。

「出たなスピリチュアル女!」

「希、アンタいつからそこに……」

「まぁまぁ気にせんと」

 希はシュタッと、天井からニコの前に降り立った。

「とにかく、うちが勉強みてあげるから」

「みてあげるって……アンタ勉強できないでしょーが」

「それは初期設定やで。この世界のうちは勉強が出来るんよ」

 別世界にいる希には学年が二年生な個体も存在するらしい。どうでもいいが、とある世界には息子と娘がいるサウザーなんかも存在する。

 それはさておき、希のおかげでμ'sはなんとか危機を乗り越えられそうだ。ニコは相変わらず抵抗していたが、希に(無い)胸を揉まれてついに降参した。

 

 

 二年生組はサウザーの居城で勉強会をすることになり、各自一旦家に帰って勉強道具を持ちよることになった。ただ、海未だけ弓道部での活動があったため、終わり次第合流する旨を伝えた。

 そして全ての部活動が終わった放課後、海未は荷物をまとめ、下校しようといていた。

「ラブアローシュートの完成は間近ですね……む?」

 自らの奥義が完成しつつある充実感と共に校門を出ようとしていた彼女はどこからか微かに聞こえてくる聴き慣れた曲に気付いた。

~ 

「これは……」

 ファーストライブで歌った曲である。サウザーのやたらデカい笑い声も聞こえることから間違いない。

 音の発信源はすぐに分かった。

 門の支柱のすぐ傍、音楽プレイヤーを片手に立つ女の子だ。着ているセーラー服を見るに、近くの中学校……穂乃果の妹、雪穂の通う中学校の生徒と見えた。

「……あっ!?」

 海未がジッと見ていると、女の子が視線に気付き、驚きと感激をこめた目を海未に向けた。そして、

「ブレジネフ?」

「……?」

 女の子が何やら口走る。しかし、日本語でないらしく、海未にはイマイチ分からない。

「ウラジミール?」

「……!」

「スターリングラード!」

「……!?」

 異国の言葉の弾幕に海未はたじたじである。何かやたら興奮していることは分かるが、意味はさっぱりである。花陽ならダレカタスケテと泣き叫ぶところだ。

 と、ここで海未は女の子の顔を見て軽いデジャヴを感じた。

(この顔、誰かに似ているような……)

 明らかに海外の血の混じった、どこか東洋離れした顔立ち、瞳、髪……こんな感じの人が、知り合いにいたような……。

「トロツキー?」

 女の子は不思議そうに海未の顔を覗きこむ。

「あなたは―—」

 海未は名を訊こうとした。と、その時。

「亜里沙ー」

 学校の方から聴き慣れた声が呼びかけてきた。その声に女の子は「エリツィン!」と嬉しそうな声を上げた。

「遅くなってごめんね……あら?」

 声の主が海未に気付く。

 その人物は、生徒会長の絢瀬絵里であった。

 

 

 海未は亜里沙と呼ばれた女の子に半ば連れられるような形で絵里と共に夕暮れの公園へ赴くこととなった。海未と絵里はその公園のベンチに、やや距離を置いて座る。亜里沙はそんな二人に飲み物を買うべく自販機へと駆けて行った。

「亜里沙は私の妹なの」

 絵里が口を開いた。

「妹さんでしたか」

 海未も納得して答える。感じたデジャヴは間違いではなかったようだ。

「この間までロシアにいたから、日本語がまだ苦手なの、あの子」

「あれ、ロシア語だったんですね」 

「祖母がロシア人なのよ」

 絵里が言うと、そこへ亜里沙が飲み物を持って戻って来た。彼女は海未に缶を差し出して、

「ボリシェビキ」

「あぁ、ありがとうございます……ん?」

 受け取った缶には『おでん缶』とでかでかと書かれていた。それを見た絵里が苦笑しながら、

「亜里沙、それは飲み物じゃないのよ」

「チョイバルサン!?」

「それホントにロシア語なんですか……?」

 亜里沙は驚くやテコテコと再び自販機へと駆けて行った。

「亜里沙ったら、あなたのファンみたいなのよ」

「私の、ですか?」

 部室で花陽たちが言っていたことを思い出す。人気が出てきたということは、ファンも存在するようになると言う事だ。今回は違ったようだが、所謂出待ちされることもあるだろう。

「嬉しい?」

「嬉しい、と同時不安でもありますね。人気が出るとレジスタンスに襲われることもあると言いますから」

「ごめんちょっと意味わからない」

 ここで、海未は以前から気になっていたことを絵里に訊いてみることにした。

 なぜ、生徒会長はアイドル研究部を、μ'sを目の敵にするのか……。助言してくれた事もあったが、基本的にいつも冷たい態度である。その理由を知りたかった。

 海未の問いかけに、絵里はしばし沈黙し、口を開いた。

「……例えば……あくまで例えばだけど……」

「はい」

「あなたは弓道場で精神を静めているとする。その周囲を馬鹿が高笑いしながら駆け回っていたら、どう思う?」

「それは……煩わしく思います。静かにしてほしいと」

「でしょうね。しかも、その上その馬鹿が高笑いしながら弓道場の扉を蹴破って乱入して来たら、どう思う?」

「それってもしかして……」

 海未が口を開こうとするのを絵里は手で制した。

「その蹴破ってきた馬鹿が、偉そうに居座って、何かに付けて好き勝手した挙句返って行ったら……どう思う?」

「ま、まぁ、腹が立ちますね」

「……そういうことよ」

 海未は内心焦った。生徒会長の態度は理不尽なものと思っていたが、ふたを開けてみればどうだろう、思い当たる節がある。特に某聖帝ならやらかさないとは限らない。自分たちはアレに慣れてしまっているからそうでもないが、免疫のない人からすれば傍若無人が辞書から飛びだしてきたような印象を受けるだろう。

「で、でも―—」

 それだけが理由ではないはずだ。

 海未は生徒会長が個人を見てその集団全体を評価するほど狭量な人物でないと感じていた。どこぞの聖帝に思うところがあってもμ's全体を邪険に扱う理由にはならないはずだ。

 それを感じとったのか、絵里は、

「でも、これはあくまで理由の半分に過ぎないわ」

(半分は占めてるんですね)

「残りの半分は……純粋に、μ'sに学校を背負うだけの実力が感ぜられないからよ」

 その言葉は海未の胸に深く突き刺さった。

 実は海未自身、練習の度感じないでもなかった。今のままではμ'sは『上等な素人』でしかないのだ。

 絵里は続ける。

「μ'sだけじゃないわ。今、世間でもてはやされてるスクールアイドルだけど、そのすべてが……ナンバーワンの実力と言われるA-RISEだって……素人にしか見えないもの」

「会長……」

 その発言は後々色々問題になりそうな気もしたが、今はひとまず、海未……というよりμ'sに叩きつけられた厳しい現実であった。

「あなた達が勝手にスクールアイドルをやる分には構わないわ。亜里沙だってあなたのファンだし、私だって応援するわ。でも、廃校を阻止したい、そのために活動していると言う以上……音ノ木坂の名を背負うと宣言する以上、私はあなた達を認めない。絶対に……」

 

 

 

 

 絢瀬姉妹が公園を去った後も、海未はひとりベンチに座って考えていて、サウザーの居城に到着したころにはすっかり夜になっていた。

 いつもの玉座の間へ行くや、そこには凄まじい光景が展開されていた。

 まず、勉強を教えてもらうはずだった穂乃果が何故かサウザーに勉強を教えていた。

「―—つまり三権分立っていうのは、立法、司法、行政の権力を分離させて……」

「この聖帝の前には、そのような法なぞ無意味である! フハハハハー!」

 サウザーは相変わらず何が面白いのか高笑いしている。

「強者こそが法! それこそが世紀末の理よ!」

「そうは言ってもそーいうことになってんの!」

 そして、その傍らで勉強を教えていたはずのことりが頭をメトロノームのように左右に揺らしながら座りこんで、

「ちゅんちゅーん。ちゅんちゅーん」 

とさえずっていた。

「なんですかこの地獄絵図は! ことり、しっかりしてください!」

「うぶげのことりは、からあげになっちゃいました」

「何訳の分からないことを……」

「海未ちゃんたすけてー!」

「フハハハハハハハハハ! 勉強、楽しいね! フワハハハハ!」

 このままでは赤点回避どころの騒ぎではない。

 もし、赤点なぞを取ってラブライブのエントリーが叶わなかったら……。

 初めは海未も、仮にエントリー出来なかったとしても活動は続ければいいとどこか気楽に思っていた。だが、絵里と話し、あのようなことを言われ、それでもなお、スクールアイドルを続けられるだろうか?

 否である。

 赤点を取り、ラブライブへのエントリーが成らなかった以上、これまでの努力を否定するも同然なのである。そしてそれは、絵里の言葉を裏付けるのと同意なのである。

「サウザー……穂乃果……」

 海未はちゅんちゅんさえずることりをそっと寝かせるとゆらりと立ち上がった。

「フハハ……む!?」

「おぉ……海未ちゃんから闘気的なものが……」

 いつの間にやら外は雨模様となり、雷鳴と閃光が四人の部屋を震わせ、照らし出す。

「赤点を回避させるためなら、私は修羅ともなります」

「海未ちゃーん……」

 穂乃果はいつになくマジな海未に震えた。

 

 

 

 修羅海未の指導は苛烈であった。その苛烈さは、サウザーまでもが、

「お師さん……ぬくもりを……」

と弱音を吐くレベルのものであった。

 しかし、穂乃果も、サウザーも、挫けなかった。

 一方は海未の熱い思いを受け止めるため。

 一方は帝王としての矜恃のため。

 修羅と化した海未とのお勉強会を耐え抜いた。

 そして、期末考査を迎え……。

 

 

 

 

 

 サウザーは結局赤点を取った。

 

 

 

 

 

「あれだけやってダメって……」

 考査後の放課後、部室で海未はがっくりとうなだれていた。

 たしかにサウザーの点数は伸びた。だが、それはあくまでマイナスがプラスに転じた程度の問題であり……聖帝軍の面々曰く、それだけでも歴史的快挙らしいのだが……そのようなこと、学校には関係なかった。

 だがしかし、μ'sの面々に悲しみの影はない。と、言うのも……。

「まぁいいじゃない。エントリーの許可は出たんだから」

 マキが言う。

 そう、サウザーが赤点を取ったにもかかわらず、何故かラブライブへのエントリーの許可が下りたのである。

「フハハハハ! この帝王には前進あるのみ。赤点なぞ、なんの障害にもならんのだ」

「何言ってるんですか! 許可が下りるまで私がどれだけ……」

「サウザーちゃんが赤点だと解った瞬間の海未ちゃんは凄かったねぇ……」

 穂乃果が身震いしながら思いかえす。

 あまりのショックに魔界に堕ちかけた海未をマキが秘孔でどうにか押さえ込んだのだ。あれにはさすがのサウザーも肝を冷やしたことだろう。顔には出さないが……。

 何にせよ、ラブライブへのエントリーは成った。これはμ'sにとって大いなる一歩である。

 一同はラブライブ出場に向けて意気込みを新たにした。

 

 

 だが、しかし。

 海未の心の片隅には、絵里の言葉が深く食い込んだまま、しこりとなって残っていた。

 

 

つづく

 

 




PVにサウザーが出て無いのは今後もっとろくでもない登場をさせる予定だからです。
でも、今回のトレス&エミュだけで心折れそうだったんで、なんか色々心配です。
怖いです。

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