サウザー!~School Idol Project~   作:乾操

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ザワさんの誕生日に第二部開始です。
ちなみに特に意味はなく、全くの偶然です。


第二部 世紀末清純派アイドル編
第1話 もう一度ラブライブ!時は流れ また時代が動いた……!


 かつて、九人の少女と一人の聖帝はスクールアイドルとして歌い踊り喚き、一つの学院を廃校の危機から救った。

 やがて、『μ's´』の戦いの歴史は砂に埋もれ、伝説が残った。

 伝説のライブから悠久の時(一か月くらい)が流れ、新たなる戦乱の世を迎えようとしていた。

 

 

 

 +南斗聖拳スクールアイドル伝説+

 

 

 

 

 夏の暑さはどこへやら、季節は既に秋を迎え、並木は赤々と色づき始めていた。

 二学期が始まり秋が深まるころ、音ノ木坂学院ではとあるイベントが挙行される。

「――音ノ木坂学院は、全校生徒の尽力の甲斐あり、来年度も生徒募集を続けることとなりました」

 講堂のステージで生徒会長の絢瀬絵里は全校生徒へ向けてスピーチしていた。

「私が生徒会長を務めた一年……特に先学期はまったく波乱万丈で、生徒会室の扉を二度に渡り破壊する不届き者もいましたが、今、このように清々しい気持ちでスピーチ出来ることを嬉しく思います」

絵里は一学期から夏休み明けまでの出来事に思いを馳せた。碌でもないことも多々あったが、過ぎてしまえば良き思い出、青春の一ページである。涙が出ちゃう。

 彼女はその後適当に言葉を並べると、さっさとスピーチを切り上げた。今日の主役は絵里ではないのだ。

「……これで、退任の挨拶とさせていただきます。生徒会長、絢瀬絵里」

 客席から拍手が送られる。絵里は一礼すると、演説台から少し横にずれてマイク前のスペースを譲った。

『続きまして、新生徒会長就任あいさつです。新生徒会長、高坂穂乃果さん、お願いします』

「はいっ!」

 司会に呼ばれ、席を立った穂乃果が演説台へと向かう。

 生徒会長を穂乃果に推薦したのは絵里だった。初めは穂乃果含むμ'sメンバーから気でも狂ったのかと言われたが、彼女には彼女なりの思惑があった。

 穂乃果の発想力と強いリーダーシップがあれば、学校はもっと良くなる。そんな予感がするのだ。

 そんな絵里から期待を背負わされた穂乃果は堂々たる足取りで演説台の前に立った。

「どうも、新生徒会長の、高坂穂乃果です!」

 元気よく挨拶する穂乃果。生徒たちは新会長のつづく言葉を今か今かと待つ。

 ……だが、この先に続く言葉は無かった。

 

 

「折角昨日考えてきたのにさぁー」

 その日の放課後、生徒会室。穂乃果はついこの間まで絵里が鎮座していた席に座り、机に頬を張りつけて呻いていた。

「穂乃果ちゃん、記憶を失う秘孔でも突かれたの?」

「そうかもしれない。マキちゃんあたりに」

「後輩にありもしない罪をかぶせるのはやめなさい!」

 穂乃果と共に生徒会室にはことりと海未もいる。ことりは会計、海未は副会長として共に生徒会役員となった。

「第一作ったのが昨日というのは遅すぎます! 告示はずっと前から出ていたのですから……」

「あーん! 就任早々説教やめてよぉー」

 穂乃果はホワイトバードの横に飾ってある時価一千万円のクリスタルガラスをあしらった等身大ケンシロウフィギュアに泣きついた。

「まったく……それより、就任早々ですがたくさん仕事がありますよ」

 そう言いながら彼女は穂乃果の前に大型ファイル三冊分ぎっしりの書類をドン、と置いた。重みに机が軋む。

「おや、これは何かな?」

「生徒会長の仕事です。全て目を通してください」

「えええっ!? これ全部!?」

「当然です。それに、生徒からの意見陳述にも目を通さなければなりませんよ」

 海未は陳述書を穂乃果にバッと突きだす。

 学食のカレーがマズイ、アルパカがなつかない、登校中に野良のモヒカンに襲われる、等々。どれも生徒会ではどうしようもない事柄ばかりだ。それでも、生徒会長として出来うる限り善処しなければならない。

「うう……生徒会長って大変なんだねぇ……」

「分かってくれたかしら」

 半泣きの穂乃果に答えながら生徒会室に入ってきたのは前会長と前副会長の二人であった。

「絵里ちゃん希ちゃん! どうかしたの?」

「引き継ぎの仕事が少しあるから、それでちょっとね」

 絵里にとっては生徒会最後の仕事である。

「それにしても、スピーチかなり危なかったようだけど、大丈夫?」

「いやぁ、面目ない」

「うふふ、カードによれば穂乃果ちゃん、生徒会長として相当苦労するみたいよ?」

 希が少し意地悪な顔でカードを見せる。カードには吊られた男が描かれていた。

「酷いよ希ちゃん!」

「ま、明日からはまた練習が始まるし、無理せんとね?」

 

 

 その頃、アイドル研究部部室。

 今日は練習が休みであったが、ニコと一年生三人は暇なこともあって何となく部室に屯していた。

「にっこにっこにー☆」

「あら、新しい振りつけ?」

「そうよ! どう?」

「うふふ、素晴らしくキモチワルイわ」

 それぞれ何か目的があるわけでもなく、そんなことをしている。花陽も今月号のスクールアイドル雑誌を読み、凛も雑誌のラーメン屋特集を読んでいた。

「それにしても、穂乃果ちゃんホントに生徒会長になっちゃったね」

 凛が雑誌に目を落としながら呟く。

「μ's閥もいいところよね。反対意見出なかったの?」

「生徒会長なんて誰も好んでやりたがらないから、誰も気にしないニコよ☆」

 ニコはポーズを取ながら答える。実際、前会長の絵里も誰もやりたがらなかったから何となくやることになっていた、というのが真相である。

「サウザーちゃんだったら頼みもしないのに会長やりたがりそうだよね」

「その時は全力で反対候補擁立してたわね」

 凛とマキはしみじみと言った。

 サウザーが音ノ木坂学院を追い出されて一か月、校内は至って平和だった。響くのは乙女たちの声のみで、聖帝の高笑いが響くことは無い。部室にも、まったりした空気が流れている。

 だが、花陽の悲鳴が部室の平穏を切り裂いた。

「ぴやぁああああああ!?」

「ど、どうしたのかよちん!?」

「みみみみんな、これ! 雑誌の、ここ!」

 花陽の狂乱ぶりに驚く一同だったが、ニコは、

「ああ、もしかしてラブライブがまた開催されるって話?」

「えっ、マジなの?」

 凛が驚きの声を上げる。

「マジよ。前回のはプレ大会みたいなものなんだって」

 ラブライブ第二回大会が早くも開催されるというニュースは全国のスクールアイドルに驚きと喜びを持って受け入れられた。今回は前大会と違って予選形式で行うらしく、ランキング下位のグループでもパフォーマンス如何では優勝も夢ではないという仕様になっていた。

「かなり話題になってたのに、花陽が知らないなんて意外」

「違うよニコちゃん! そうじゃなくて!」

 どうやら花陽の驚いている理由はラブライブ第二回大会についてのことではないらしい。

 慌てふためく花陽は取り落としそうになりながら雑誌を三人に見せつけた。

 そのページは、新進気鋭のグループを取材するというものであった。μ'sも一度取材の申し込みが来たことがあったが、ごたごたしていたため断った。ニコなぞそれを非常に惜しがったものだ。

「どれどれ」

 一同はそんな紹介ページに注目する。そして、花陽と同様に叫び声をあげた。

 雑誌を手に慌てて部室を飛び出す。向かうのは生徒会室。そこにはμ'sのリーダーである穂乃果がいるはずだ。四人は一陣の風と化して生徒会室へ押しかけた。

「穂乃果!」

「穂乃果ちゃん!」

 入り口の暖簾を巻き上げながら生徒会室に飛び込んだ。

「うん? みんなどうかしたの?」

 生徒会室ではちょうど穂乃果を始め海未、ことり、絵里、希らが書類の整理をしていた。思いもよらずメンバーが全員集合してくれて、ありがたい。

「これ! この雑誌見て!」

 花陽が穂乃果たちに件のアイドル雑誌を見せる。

「あぁ、ラブライブ第二回大会大会でしょ? 知ってるよー」

「違います! ここ! ここの記事!」

 花陽は雑誌をビシビシ指でド突きながら示した。新旧生徒会メンバーは顔を寄せてページを覗きこんだ。

 そこに書かれていたことは、一同を驚愕させるには十分な内容であった。

「『世紀末清純派アイドルユニット』……」

「『南斗DE5MEN』……!?」

 

 

 

 

 時は二週間ほど遡る。

 サウザーの居城に、彼を除いて四人の男が集結していた。

 『仁星』のシュウ

 『妖星』のユダ

 『殉星』のシン

 『義星』のレイ

 それぞれが南斗六聖拳の一角を担う伝承者であり、南斗108派のトップでもある。

 そんな彼らにサウザーから呼び出しがかかったのがこの日の三日前のことである。四人ともぶっちゃけ行きたくなかったが、応じなければ碌なことにならないだろうことは目に見えていたため、しぶしぶ参上した。

「それで、用件はなんだサウザーよ」

 供された茶を一口飲んで、シュウが切りだした。

「貴様らはこのおれがこの間まで『スクールアイドル』なるものをやっていたのは知っているな?」

「ああ、『μ's´』だったか? 確か」

「初めは、というか今でも正気を疑っているぞ」

 レイとシンが答える。最近見ないと思ったら女子高でスクールアイドルをやっているというのだから驚きは尋常ではなかった。

「結局追い出されてしまったがな。時に貴様ら、スクールアイドルに興味はないか?」

「いや」

「別に」

「全然」

「フハハハハ! 照れるではないわ!」

 シュウ、レイ、シンの即答をサウザーは笑って受け流す。質問風に訊いてはいるが、もとより答えは求めていないのだ。

「レイよ、貴様は妹がA-RISEのファンだと言うではないか?」

「うん? まぁ、そうだが?」

「フフフ……スクールアイドルファンの妹か……ならば、貴様自身がスクールアイドルになれば、もっと喜ばれるのではないか?」

「なっ、サウザー、何を!?」

「いかん、これはかつてないほど碌でもないことを考えているぞ!」

 シュウの警告に一同は身構えた。そして、サウザーの口から放たれた言葉はおおよそ予想通りのものであった。

「我々でスクールアイドル結成しませんかっていう!?」

「馬鹿な!」

 シュウが叫ぶ。しかしサウザーはご機嫌に高笑いして、

「南斗聖拳でスクールアイドル界に覇を唱えませんか!? っていう!?」

「唱えませんかと言われて『うむそうしよう』となるか?」

「第一、『スクール』アイドルなわけだから、名乗る資格はないだろう!?」

 シンが指摘する。これは実にもっともだ。学生がやるからスクールアイドルなわけで、大人が興じるものではない。

 しかし、今日のサウザーは(困ったことに)一味違った。

「ならば、貴様らが『学生』であったら?」

「む? どういうことだ」

 シンの問いかけにサウザーは意味あり気な笑いを浮かべる。

「実は、最近十字陵建設のためにさらってきたガキを聖帝軍兵士に教育するため学校を開設したのだがな?」

「む、目的はさておきサウザーにしては珍しく善行ではないか」

「感心している場合ではないぞシュウよ。これは……」

 レイが何かに気付いた。シュウ、シンもすぐさまサウザーの言わんとするところを察し、戦慄する。

「そう、生徒名簿の中に貴様らの名前を入れておいてやったのだ!」

 なんと、サウザーはシンから言われた指摘を事前に予想し、先手を打ってきたのだ。学生として登録されている以上、スクールアイドルとして名乗る分にはなんら問題はない。

「しかしサウザーよ、我々が学生なのは良い事として、それ以前な問題もあるだろう。私なぞ子持ちだぞ?」

 シュウにはシバというよく出来た息子がいる。子持ちでスクールアイドルはいかがなものか、というのがシュウの意見であった。もっとも、子持ちでなくとも参加する気はないのだが。

「子持ちであることなぞ問題ではない。世の中には孫がいるのに学生というジジィとかもいるぞ?」

「そういう話ではなかろう?」

 別にシュウは老いてなお知的好奇心あふるる老人というわけではない。

 とにかく、シュウを初めレイ、シンはスクールアイドルに反対であった。

 だが、一人サウザーの案に賛成するものが現れる。

 先ほどから一言も声を発さないユダだ。

「おれはスクールアイドルに賛成だ」

「なっ、正気かユダ!?」

 レイが声を上げる。ユダは至って本気で、口元をにやりと歪ませた。

「今話題のスクールアイドル。トップと呼ばれるUTXだとかも所詮は素人同然!」

 ユダは『UD』の腕輪をバッとかざす。

「そう! 誰よりも強く美しいおれにかかれば、スクールアイドル界におれの美名を知らしめる好機!」

「むぅ、ユダは変なところでサウザーと同調するな?」 

 シュウが呆れ声を上げる。

 ユダが結成に賛成したため、これで3:2となった。

 サウザーは味方に引き込もうとしてシンに声を掛ける。

「シンよ」

「なんだ。言っておくが、おれはスクールアイドルなぞに参加せんぞ!」

「フフフ……そうは言うがなシンよ? スクールアイドルになれば、歌で思いを伝えるようなこともできるぞ?」

「……? なんの話だ?」

 シンが怪訝な顔をする。サウザーはニヤニヤ笑いながら、

「聴けばシン、お前はその不器用さで思い人に振られまくりらしいではないか」

「!」

 シンの顔に緊張が走る。

 サウザーは風の噂で、シンが思い人……ユリアにアプローチしまくっているがその尽くが失敗に終わっているという話を聞いたのだ。

 反応を見るに、図星のようだ。

「スクールアイドルとして思いを歌に乗せ、有名になれば思い人が振り向いてくれるのではないか? ん?」

「ぬっふ……」

 シンの心は大いに揺れ動いた。

 届かないと思っていたこの想い。スクールアイドルになれば、また振り向いてくれる……?

 …………ケン……!

「……わかった……おれも加わろう」

 シンは一筋の涙を流しながらサウザーの誘いに応えた。

「なっ!」

「シン!?」 

「フハハハハ!」

 サウザーは勝利の高笑いをあげる。

「南斗の星は我が将星の下にひれ伏す定めなのだ! さぁ、貴様らも参加するがいい!」

「いや、ならば貴様ら三人で活動すればいい話であろう!?」

「なんにせよ、参加は辞退させてもらう」

 そう言うとレイとシュウは席を立ち、出口へ向かおうとした。そんな二人の背中にサウザーは、

「よし! ならば先にこの部屋から出た者のところに泊まりに行こうではないか!」

 

 

 聖帝校のスクールアイドルとして活動することが決定したサウザーら五名だが、決めなければならないことが山のようにあった。

「グループ名はどうするのだ」

 シンが訊く。

 スクールアイドル活動をするにはまずグループ名が必要だ。チームの顔ともなるわけだから、疎かには出来ない。

「『ユダボーイズ』でどうだ?」

「うむ、却下だな」

 ユダの案を速攻却下しながら、サウザーは二枚のパネルをテーブル下から取り出した。

「フフフ、実は昨晩寝ずに考えたグループ名があるのだ」

 サウザーは自信満々の様子(いつものことだが)でパネルをテーブルに裏返して立てる。

「グループ名というのはチームの顔であるから、メッセージ性があるものが良いとおれは考えた」

「そのやる気をもっと南斗六星の安定へ向けようとは思わないのか?」

「ん? 聞こえんなぁシュウ様」

 ニヤリと笑うサウザー。笑いながら、彼はチーム名の由来の説明を始めた。

「まず一つだが……ユダよ、世紀末の世を制する物は何だと思うか?」

「フン、決まっている。美と知略、そして力! それを制する物が乱世を制するのだ」

「ぶっぶー、はずれ~、フハハハハ」

「ぬっく……!」

 そのウザいリアクションに青筋を立てるユダだが、サウザーはそんなこと気にしない。

「世紀末を制する物、それは『水』!」

「まぁ、それは道理だな」

 レイが頷く。

「そこでおれはチーム名に世紀末の覇者たらん願いを込めて、こう名付けた!」

 パネルをクルリと回してチーム名をお披露目する。

「『Aqours』だ!」

「やめろ!」

 サウザーを除く一同がテーブルを叩きながら立ち上がって叫んだ。

「それはダメだ!」

「む? なぜだシュウ様よ」

「それは……とにかくいかん!」

「むぅ、そうか。まぁ良い。これはあくまで候補の一つにしか過ぎん」

 そう言うと彼は、もう一枚のパネルを一同に披露した。

「『南斗DE5MEN』?」

「……うん、もうそれでいいんじゃない?」

 レイが言う。ぶっちゃけ危ない名前でなければどうでもいいのだ。

「じゃあ、グループ名は『南斗DE5MEN』で決定ー!」

 サウザーは高らかに宣言すると笑いながら一人パチパチと喜びの拍手をした。そして、ひとしきり笑い終わると副官のブルに「例の物を!」と何か持ってくるよう指示を出した。

「晴れて南斗DE5MENのメンバーとなった貴様らに衣装を進呈しようではないか」

「衣装?」

 異口同音に問うメンバーに答えるようにブルと手伝いのリゾの手によってサウザーの言う『衣装』の入った袋が配られていく。

「……うっ!?」

「これは……!?」

 袋の中を改めた一同は絶句した。

 なんと、中身はサウザーとお揃いのタンクトップ(ピンク)であった。

「ちなみにおれは紫だ! 5MENとして活動するときはこれを着てやるのだ」

「ピンク……うん、ピンクか……」

 常識を超越したセンスに絶句するメンバー。だが、サウザーだけは会心のデザインだと言わんばかりに上機嫌で、「着心地にこだわってみました」など宣っている。着心地以前のものにこだわって欲しかったのがメンバーの総意であった。

 

 

つづく

 


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