サウザー!~School Idol Project~ 作:乾操
実はこんなもの書いてる状況じゃない。
+前回のラブライブ!+
拝啓、おばあさま。
日本はすっかり春で、今年も音ノ木坂は桜が満開です。おばあさまも音ノ木坂の桜が好きでしたね。
時に、おばあさまは学校が廃校になるということはもうご存知でしょうか? おばあさまの愛したこの学校がなくなるのは、私としてもとても悲しいことです。でも安心なさってください、絶対に、音ノ木坂学院を廃校になんてさせません。
そういえば、この間初めて宅配ピザを食べました。量の割に値段が高いのは賢くないなぁと思いましたが、亜里沙がハラショーハラショー言っていたし美味しかったので、とってもハラショーだなぁと思いました。
まだまだロシアは寒いでしょうから、お身体には気を付けて。
かしこ。
——絢瀬絵里
※
良いことは続くものらしい。
曲が完成したのと北斗が南斗に降った(後者は思い込み)ことに喜び勇むサウザーであったが、彼の元にまたも嬉しい知らせが飛び込んできたのである。
校内の掲示板の前に穂乃果が設置したグループ名募集の張り紙と箱。その箱の中に、一通だけ名前の投書があったのだ。
「穂乃果、いつの間に設置してたんですか?」
「私の行動力を舐めない方が良いよ海未ちゃん! 私の行動は人間の目ではとらえられない」
「変なこと言ってないで、早く見ようよー」
一通だけの投書……丁寧に折りたたまれたそれは穂乃果の両手で大事にそうに抱えられている。そこに、四人に行く末を左右するであろう文字が綴られているのだ。
「そ、それじゃ、開けるね……」
穂乃果が緊張した面持ちで言う。海未やことりも息を呑む。サウザーも、全身から闘気がにじみ出ている。
何の変哲もない模造紙の切れ端。それを穂乃果の手が金箔を扱うがの如く丁寧に開いていく。そして、開かれたその紙には、ペンで走り書きのような文字が躍っていた。
『μ's』
「……なに?」
「ユー……ズ?」
それを見て、穂乃果とことりが首を傾げる。それに対して海未が、
「『ミューズ』ではないでしょうか。西洋の神様の名前か何かでしたね」
μ's……ミューズ……石鹸的な名前でもあったが、そのイメージの分、清潔感のある素敵な名前である。穂乃果はこれを気にいった。
「
「フフフ……神の名前とは、南斗の将星に相応しい」
サウザーも気にいった様子だ。
「フハハハハ―ッ! 下郎にしては卓越したセンスだ! みゅ……みゅー……」
「『
「そう! 我らミュ……ミュー……フハハハハ―ッ! 我々がスクールアイドルの覇を成すのだ」
全然名前を覚えないサウザーであったが、とにもかくにも四人はチーム『名称未定』から『μ's』へと生まれ変わった。
曲も出来た。衣装も順調。そしてチームの顔とも言うべき名前も決まった。
あとは、本番をどこでやるか、ということだけである。
※
時と所変わって、生徒会室。
放課後の生徒会室は穏やかな夕陽と静寂に包まれていた。
会計や書記といった役員は既に帰宅し、室内にいるのは残った雑務をこなす生徒会長の絵里と補佐の希だけである。
「ふぅ……なんとか今日中には片付きそうね」
散らばった書類を整え、絵里は背をウンと伸ばす。
「はいエリチ、お茶」
「あぁ、ありがとう、希」
希の淹れてくれたお茶を受け取り、香りをかいでからズズッと口へ運ぶ。
「はぁ、美味しい」
「うふふありがとねー」
様々な焦りに駆られている絵里にとってこの時間は貴重なリフレッシュタイムであった。友の淹れてくれた茶の香りがこんがらがった頭を整理してくれる。
廃校……絵里はそれをどうにか阻止したかった。なにしろ音ノ木坂は祖母と母も通った思い出深い学校であるし、なにより希との思い出の詰まった場所でもあった。
だが、理事長は言った。
今の生徒のために精一杯を費やすべきではないか。それが、生徒の自治人権を司る生徒会の本来の使命ではないか、と。
「………」
再び、茶を一口すする。
……いや、今はそんなことはひとまずどうでも良い。彼女にとっての今最大の注意の対象、それは、あのチーム『名称未定』の四人だ。中でも、あのサウザーとかいう二年生。全ての生徒に平等であるべき生徒会長であるが、どうもあの生徒だけは気に入らなかった。なんだか、音ノ木坂に相応しくない気がするのだ。
それに、むやみやたらに「下郎! フハハハハ―ッ!」と高笑いしながらスクールアイドルをされては、音ノ木坂の印象にも変な影響を与えかねない。下手をすれば廃校が加速する。
「フハハハハハハハ!」
そう、ちょうど、こんな風な笑い声で……。
「!?」
「なんやろ、この笑い声」
その高笑いはみるみる近づいてくる。
瞬間、絵里の脳裏に先日の何気ない記憶がよみがえった!
——音楽室の戸と窓が壊れてたですって?
——そうなんよ。なんでも、蹴り破られてたらしくて
——この学校にもそんなことをする生徒がいるのね。哀しいことだわ
「フハハハハ―ッ!」
「まって! ちょっと!」
絵里は迫りくる高笑いに向けて懇願した。だが、その思いは届くことなく、高笑いは大きくなり、そして——。
「生徒会バァーン!」
「ひゃぁああああ!?」
聖帝サウザーが生徒会室の扉を蹴破って入室してきた……いや、この場合は『乱入』とか『突入』とかと表現した方が適切だろう。
サウザーの乱入に腰を抜かす絵里と希。それでも流石は生徒会長の絵里はすぐに気を取り直し、
「何事ですか! 扉を破壊して!」
「帝王には制圧前進あるのみ。立ち塞がる物は例え扉であっても容赦はせん」
サウザーの言い分はまるで「そこに扉があるのが悪い」というようなものだ。扉の開け方も知らないのだろうかと絵里は思う。
「……それで、何か用かしら?」
「グループ名も決まったことだし、新入生歓迎会の後にライブをしようと思ってな? 講堂の使用許可を取りに来た」
講堂はこの学校の生徒なら誰でも自由に使用することが出来る。部活動として登録していないサウザーたちも思う存分ライブが出来るというものだ。
しかし、絵里は思った。
(認めたくないわぁ……)
絵里は目の前で無駄に自信ありげな顔をするサウザーに、「許可は出来ませーん! 残念でチカ~(笑)」とでも言ってやりたいところであった。
だが、いくら生徒会長といえど、特別理由なく生徒の要望を蹴ることは出来ない。『生徒会の許可』といっても所詮は形式的なものでしかないのだ。
「んん? どうした、さっさと許可するがいい。フハハ」
「ぬくく……」
苦渋に顔をゆがめる絵里。と、そこへ。
「はいはいエリチ落ち着こうな?」
希がフォローに入った。
「講堂の使用は全生徒に認められた権利。だから許可はあげる。せやけど、くれぐれも破壊してくれんように。な?」
「の、希!」
希の言葉に絵里が抗議の声を上げる。サウザーはその声を掻き消すように、
「フハハハ! この聖帝に不可能は無い。見ているがいい! 大講堂に南斗の将星が輝くさまを!」
「その自信はどこから出てくんのよ!」
破壊された扉を指しながら絵里が言う。だがそれが言い終わるか終わらないかの内にサウザーは既に生徒会室になく、廊下を全力で駆け抜けていた。
「…………」
打って変わって静寂に包まれた生徒会室。そんな中で、絵里は口を開き、希に抗議の視線を送った。
「なんか甘くない?」
「ふふ、そうやろか?」
「そうよ。あんな連中にスクールアイドルとか、出来ると思えて?」
絵里が問いかける。それに対して、希は可笑しそうに笑った。
「……なに?」
「いや。エリチ、心配なんやなって」
「はぁ!? そんなわけないでしょう! あんな賢さの欠片もない連中……なんで希は肩を持つのよ」
「せやなぁ……」
希は微笑みながら、ポケットから一束のタロットカードを取り出し、一枚めくって見せた。
そこに描かれていたのは、『太陽』……。
「カードがな、告げるんよ。そうしろって……」
「希そのカードインチキじゃないの捨てなさい」
「おい」
生徒会室を荒らしまくったサウザーは認可書を手に穂乃果たちの待つ屋上へと凱旋した。数日前より、学校の屋上が四人の練習場所となっていたのだ。激しい練習が行われたこともあって、ところどころに床タイルが十字に切り裂かれている。
「この間のマキちゃんと言い、サウザーちゃんって結構ネゴシエーターの才能あるのかな?」
ことりが感心したように言う。それに答えるように穂乃果も頷いて、
「うんうん。サウザーちゃんが交渉するなんて言い出した日には、生徒会に強襲でもかけるつもりなんじゃないかと思ったもん」
あながち間違いではない。むしろ正解である。
しかし事実サウザーは生徒会から許可をもぎ取ってきていた。これは穂乃果たちにとって純粋に喜ばしいことである。
「曲も出来た、衣装ももうすぐ完成! それにステージも! あとは本番までに練習を重ねるだけだね!」
「その通りです。そう言うわけですから、練習はもっとビシバシやっていきましょう!」
海未の目が輝き始める。海未は意外にも練習が厳しければ厳しいほど燃えるタイプなのだ。
「よし! どんと来い海未ちゃん!」
「その意気です穂乃果! ことりもサウザーも、頑張っていきましょう!」
「うん!」
「よかろう! フハハハハ―ッ!」
海未の主導する激しい練習は、この日も日が沈む寸前まで行われた。
※
この日、練習の後再び四人はサウザーの城に集うこととなった。なんでも、ことりが見せたいものがあるのだという。
「えへへ、実はね」
いつもの無駄にデカいダイニングに集まった四人。そこでことりは大きな紙袋を取り出すと、中から三着の服を取り出して三人に見せた。
「ついに完成したの!」
それは、ことりがデザインしていたステージ衣装だった。ことりが自分で基礎を作り、仕立屋さんに仕上げてもらった逸品である。穂乃果、ことり、海未ごとにピンク、緑、青と色が違う手の込みようだ。
「おぉー!」
穂乃果が食いつく。彼女は自分にあてがわれた衣装を手に持って、身体に合わせてみた。
「わぁ~、かわいい服! 素敵じゃん!」
「でしょ? 自信作だよ」
キャッキャ戯れる二人。しかし、その横で海未とサウザーは震えていた。
「なななななんですかこのスカート丈は!?」
海未は顔を真っ赤にして言う。併せてサウザーも、
「ミニスカートなぞおれも履けぬではないか!?」
「穂乃果は何度でも言うよ。なんでサウザーちゃんはこれを着る前提で話してるのさ」
「ことり! あれほど膝丈にしてくださいと……!」
海未がことりに詰め寄る。ことりは恥じらいで顔を真っ赤にしながら迫る海未を「かわいい」と思いながらも、必死の口調で弁解した。
「いやほら、この方がアイドルらしいし……それに海未ちゃん、似合うって!」
「アイドルでも節度は守るべきです! こんなの恥ずかしすぎます!」
「やはりタンクっトップにすべきではないのか!?」
「あーもうサウザーちゃんうるさい! ちゃんと専用タンクトップ作ってるから黙ってて!」
「なんだと?」
ことりから驚愕の事実を知らされ、嬉しさのあまりサウザーは高笑いをする。しかしそれとは関係なく海未はことりに迫り続けた。
「こ~と~り~!?」
「むぅ……」
海未はことりが屈するまで迫り続ける様子だ。そしてついに、耐えきれなくなったことりは奥義を打ち出した!
「海未ちゃん! お願ぁいっ!」
毎度お馴染み嘆願波である。しかし、三度目の正直と言う言葉があるように、海未もここまで来て黙ってやられる相手ではない。
「ふんっ!」
なんと海未は間一髪のところで身体を横にずらし、嘆願波を回避した。
「やんやん避けられちゃいました!」
ちなみに避けられた嘆願波はちょうどお茶とおしぼりを持ってきたリゾに命中。彼は人知れず部屋の前で悶絶する羽目となった。
そんなこと露知らず、海未の顔は恥ずかしさやら何やらで爆発寸前だ。
と、そんな彼女に、海未の気迫にポカンとしていた穂乃果が気を持ちなおして言う。
「でも海未ちゃん! 穂乃果は海未ちゃんとこの衣装着て一緒にステージに立ちたい!」
「……穂乃果?」
「だってそのために、私達は今日まで練習してきたんだもん。三人一緒にそれを着て、一緒にステージに立とう!」
穂乃果の純粋な言葉に海未の心は揺らいだ。
口には出さないが、彼女にもことりの作った衣装へ強い憧れがあった。でも、それがあまりにも眩しすぎるあまり、直視できなかったのだ。
「でも……こんなに短いスカート……」
憧れの衣装。憧れが強いが故に、彼女は素直になれない。
海未は、俯く。
すると、穂乃果はとんでもない事を言い出した。
「……でも、どうしても着たくないなら、穂乃果は構わないよ」
「ほ、穂乃果ちゃん!?」
ことりが驚きの声を上げる。
「人が嫌がることはしたくないもん。ましてや、海未ちゃんに……」
「穂乃果……」
「ただ、海未ちゃんが着ないって言うなら、代わりに——」
言うや穂乃果は立ち上がり、サウザーにビシリと人差し指を据えた。
「サウザーちゃんに、着てもらうから」
「ぬっ!?」
「穂乃果ちゃん正気!?」
「さ、サウザーが、その衣装を……!?」
海未に動揺が走る。
サウザーが、可愛いリボンのあしらわれた、フリフリのミニスカートを……!? 着ながら歌い踊る……!?
そんな……そんなことがあっていいのか……!?
「下郎のハートを切り裂くゾ☆ ズバーン!(極星十字拳)」
「私が着ます」
そう言う海未の顔にもう迷いはなかった。
今、穂乃果たちは輝こうとしている。その輝きを、何がとは言わないが、それによって失わさせるわけにはいかない……!
海未の言葉を受けた穂乃果は感激の声を上げる。
「それでこそ海未ちゃん!」
二人は互いに歩み寄り、はしと抱き合った。
それを見ながらことりは涙ぐみ、
「感動的……ちゅん……」
「おれはどうも釈然とせんのだが」
「気のせいだよサウザーちゃん。それより、タンクトップ、期待しててね?」
「ほう? フハハハハ―ッ!」
ことりの言葉に、嬉しさを隠せないサウザーであった。
ファーストライブまで残すところあとわずか。果たして、ライブは成功するのか?
そして、『
それは、神にも知りえないことである……。
つづく
『μ's』と書くとラブライブっぽいけど『九柱の女神』と書くと一気に北斗の拳っぽくなる。