戦争。それは有史以来この5000年もの間、人類に付きまとって離れないものである。
それは単純な暴力の応酬ではない。自らの生存と繁栄のために人々がぶつかり合い、戦うのである。
人類の歴史は戦争の歴史だ。多くの場合、より巨大な力を得ようとした者たちの間でそれは起こり、勝った者がより強い力を持った巨大な存在へと拡大していく。そして強い力を持った者は世界に強い影響力を持って世を統べるが、その巨大な存在はすべからく衰退し、その後釜を巡ってまた戦いは始まる。このようなサイクルの中で、人類の歴史は回ってきた。
原初は弱肉強食の中に生き、力の強大さを遺伝子に刻み込まれたヒトという動物にとって、戦争という行為は生まれるべくして生まれた必然的現象なのかもしれない。初めは小さな集落同士の戦いから始まったそれは、人類の歴史上幾度となく起こり、果てには地球を二分するような規模のものにまで行き着いた。そして現代も、地球上の各地でその火種が燻っている。
だがそれらの戦いは、いずれも人と人、人類の中で行われてきたことだった。それは人類の生存を根本から脅かす意思を持った存在が、この地球上には人類自身を除いて存在しないからである。そして人々は、これからもそれが変わらないと考えていたが、しかしそれは誤りであった。
初めは小さな場所から始まる。
2018年。世界各国の領海や公海上で、原因不明の海難事件がいくつも発生する。
当初は小さな問題として扱われたこれらの海難事件は、原因不明のまま幾度となく頻発するようになり、2年後には海洋航行の安全と世界の物流を脅かす全人類レベルの巨大な社会問題へと発展した。
打開策も打てないまま増加していく被害。その中で、人類は長らく何の手掛かりも掴めない状況に立たされていた。
しかし問題が表面化して1年が経った2022年。人類はついにその問題の原因を解明することになる。しかし人類がそれを知り得た時、問題は既に世界的海難事件という範囲を大きく越える問題となっていた。
ハワイ諸島事件。オワフ島が砲撃らしき攻撃を受けたこの事件は、人類にとって初めて明確に自らを攻撃する意思を持った存在との初めての接触となった。
この事件が起こった時、人類はこれまで原因不明とされてきた海難事件が、ハワイ諸島事件を起こしたこの謎の敵性体によって起こされてきた、人類に対する攻撃であるということを知ったのである。人類は戦慄した。
ハワイ諸島事件以降は正にトントン拍子であった。謎の敵性体は次々に人類に対する攻撃を開始し、太平洋、大西洋、インド洋の大部分に侵出した。
人類は謎の敵性体とのコミュニケーションが不可能であることを知ると、その軍事力を最大限に発揮してその侵攻に対抗した。だが、謎の敵性体が纏う謎の霧らしきものに阻まれてあらゆる攻撃は通じず、連敗に次ぐ連敗を重ねて世界の海の大半を制圧されてしまう。
海上という重要な物流の動脈を押さえられ、日々疲弊していく絶望的な状況の中で、人類は自らを拒絶する敵性体の強烈な意志を知覚する。そして人類はそれを、深海に棲まう者、"深海棲艦"と名付けて呼ぶのであった。