艦これ戦記 ~明日を開く少女たち~   作:戦艦

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#3~種子島沖迎撃戦4~

 「こちらP-3C。第二方面隊、敵が海上に浮上した。速力も40ktに加速」

 風が強さを増し、それに伴って荒くなる波を越えながら海原を駆けて10分ほど経った頃、敵を上空から監視しているP-3Cから彼女達に通信が入る。第二方面隊を感知したのか、敵は水中から浮上して、進攻速度を早めたのだ。

 「敵との接触が早まります。全員警戒を厳に」

 敵がほぼ倍の速度に増速したことにより、会敵予想時刻がさらに早まるのを知って、妙高はそう注意を呼び掛ける。そして第二方面隊はさらに直進し、敵集団との距離は15kmを割ろうとしていた。

 その時である。突如として敵の砲撃が彼女達の至近に着弾した。

 「なに!?」

 その突然の出来事に驚いた那智は、思わずそう声を出す。

 「きゃっ!また至近弾よ」

 そして至近への着弾は一発だけではなかった。それはその後、何発も連続して彼女達のすぐ間際に着弾し続けるのである。

 夜間だと言うのに、まるで日中に戦闘をしている時のような砲撃精度なのだ。しかも射程一杯からの砲撃で、至近弾を連発させるのである。先程の敵と比べて、明らかに戦闘力が段違いであった。

 「応射しては駄目です!こちらの位置を明かすことになります。波に隠れて有効射程まで接近します!」

 その砲撃に対し、妙高は咄嗟にそう指示を飛ばす。今こちらから撃っても当たるものではないし、それはむしろ敵の砲撃精度を高めさせてしまうことになる。直撃の危険が無いとは言わないが、ここはやり過ごすのがベストであった。

 彼女達は敵からの射線を減らすため、波の稜線に登るのを避けてその谷間を縫う。こうすれば曲射が出来る巡洋艦型以外は脅威でなくなるのだ。

 「敵が見えたわ!」

 そして第二方面隊が敵と2kmの距離にまで接近したところで、足柄は波間に敵を見る。

 「なん・・・だ?赤い?」

 彼女と共に敵を目視した那智は、敵の姿に対してそう声を漏らした。その巡洋艦型ホ級3体とト級2体、駆逐艦型5体からなる敵集団は赤く、それでいてドス黒い光を纏っているのである。そんな深海棲艦は、これまで例が無かった。

 「砲撃戦用意!」

 しかし敵がなんであれ、やることは変わらない。妙高が砲撃戦用意を指示すると、第二方面隊の各員は敵に狙いを定め、砲を構えた。

 「撃ち方始め!」

 そして彼女達は砲撃戦を開始する。その縦列で正面から向かい合う状態は、反航戦の形だった。

 「あ゛ぁっ!」

 しかし第二方面隊が砲撃を開始した途端、阿武隈がト級から直撃弾を受けてよろける。砲光から位置を測られるのか、敵の砲撃はより正確に、そして苛烈になった。

 「ぅあっ!」

 被弾は彼女だけに留まらず、大多数が次々に直撃を受ける。彼女達は必死に撃ち返すが、敵の激烈な砲撃は彼女達を押しつつあった。

 (なんて砲撃・・・いえ、こちらの砲撃だって当たっているんです)

 そのあまりの熾烈さに、妙高は一瞬気押されかける。だが味方の砲撃が敵に直撃を与えているのを見て、彼女は自らをそう叱咤した。

 そして激しい砲撃を受けつつも、第二方面隊は敵集団の至近にまで接近する。ここまでにかなりの直撃弾が彼女達を襲い、中には砲撃による破壊エネルギーによって艤装が一部欠損していたり、真っ黒に焦げ付いている者もいたが、しかしいずれもまだ致命的な損害ではなく、戦い続けることは可能だった。

 「雷撃戦用意!」

 そして妙高は雷撃を指示する。砲撃戦では終始押され、撃沈は推定で1体という芳しくない結果であったから、戦いを少しでも有利にするためにはこの雷撃で必ず複数以上は撃破しなければならなかった。

 しかし彼女は敵から少し距離の空いている内に、その指示を出す。距離が離れればそれだけ外れる可能性が高くなってしまうが、敵に攻勢を許している現状を打破するためにも先手を打つ必要があり、また接近し過ぎることによって先程のような乱戦に再び持ち込まれるのではないかという危惧感もあったため、距離を取ることにしたのだ。

 「各員魚雷三発!撃て!」

 そして妙高の号令と同時に、次々と魚雷が発射されていく。命中率を少しでも高くするために一人あたりに三発の魚雷発射を命令したため、放たれた魚雷は合計で51本にも及び、密度の高い魚雷射線を形成した。

 海中に消えた魚雷は、敵集団に向かってぐんぐんと水中を進む。しばらくするとその多数が轟音を響かせ、同時に何本もの水柱を作り上げた。多数の魚雷が命中したのである。

 「やったか!」

 その林立した水柱を見て、那智はそう声を上げた。しかしシャッシャッシャッ、と空気を裂くような音が連続して通り過ぎたと思ったその時、第二方面隊の単縦陣の中央で、大きな水柱が上がる。

 「鬼怒!」

 真後ろで爆音を聞いた由良が咄嗟に背後を振り向くと、傷ついた鬼怒が阿武隈に支えられながら、陣形を落伍していた。

 「て、敵が・・・」

 羽黒が震えた声を出す。ゆっくりと高さを落としていく水柱の中から、いくつもの赤い光りが再び夜闇に浮かび上がって来たのだ。多数の雷撃を受けたはずの敵集団は、しかしその数をほとんど減らさずに生き残っていたのである。敵の強靭さは驚異的であった。

 第二方面隊と敵集団が交差して最接近した時、敵も本格的に雷撃を開始する。シャッシャッシャッ、という怒濤の三連射が何度も彼女達に襲い掛かり、幾重もの爆音と水柱が水上に林立した。

 「足柄!」

 妙高のすぐ後ろでも轟音が響く。敵の雷撃が足柄に被雷したのだ。

 最接近点を通過すると、行き違いとなった彼女達と敵集団の間には距離が開く。そのことによって敵の雷撃が一旦止んだ合間に、妙高は第二方面隊の現状を顧みた。

 「・・・」

 その状態を見た彼女は言葉を失う。雷撃戦に入る前の時点で既に多数の被弾を受けていた彼女達は、多数の被雷によって甚大な被害を被っていたのだ。

 鬼怒、阿武隈、清霜、秋雲の四人が戦列から落伍し、戦列に留まっている足柄、浦風、浜風も艤装が大きく損壊して、衣服もボロボロというひどい有り様にされている。浦風に至っては、これ以上戦い続ければ沈む可能性のある損害を負っていた。

 これでは勝てない。現状を見た時、妙高はそんな悲観を抱いた。

 あの強力な敵を相手に、勝つ見込みも無いままこれ以上の戦闘を続ける行うことは、ただ無為に被害を拡大させるだけの愚行である。浦風が沈みかねない現状を見ればそれは避けるべきことであった。

 しかしだからと言って、撤退し敗北を認めるという選択も、彼女には甘受しがたい。何故ならばここで第二方面隊が敗北すれば、その後に即応出来る戦力は第一艦隊しか残っていないからだ。

 第一艦隊の豊富な戦力ならば、あの強力な敵とて撃滅するのは容易いだろう。だがそれでは駄目なのだ。

 (第一艦隊に甘えて、独力で本土を守れない近海防衛部隊に意味はない。それに、私達が負けたら高雄は・・・)

 第一艦隊は、明日出ていけば2ヶ月は戻って来ないのである。そうなれば妙高達近海防衛部隊は、その2ヶ月の間、本土を守り抜かなくてはならないのだ。

 第一艦隊の後顧を取り除き、また妙高個人としても高雄を安心させるためには、第二方面隊は敵集団を撃破し、日本を守ることが出来るということを示さなければならないのである。それがこの戦いにおいて、ただ敵を撃滅する以上に彼女達が課せられた重要な使命であった。

 (勝ちたい、勝たなければならないけど、それはただの強がりで、私のわがままなの・・・?)

 それ故に勝ちたいと強く思っていた彼女だったが、目の前の悲惨な現状を前にした時、そもそも自分達にそんなことが出来る力など無いのではないかと考えてしまう。またさらに、妙高は自身が勝利を追求する理由の半ばが、高雄のためというごく個人的な動機から来るものであることを思った時、このまま敵に食い下がることが自分の身勝手なわがままなのではないかとも思えてならなかった。勝機を見失った現状の中では、そう悲観的に思ってしまわずにはいられなかったのである。

 そんな時だ。彼女が絶望感に苛まれていると、その後列を追走していた足柄が、戦列を抜け出て妙高の肩口に手を添えて来る。その唐突な足柄の動きに小さな驚きを覚えた彼女だったが、足柄のさらなる発言によってさらに驚かされることとなった。

 「姉さん、突撃しましょう」

 「!!」

 足柄はこの状況で敵への突撃を進言してきたのである。それがまともな発想ではないと思った妙高は、彼女がやけを起こしたのだと思った。

 「本気か!?」

 妙高のすぐ後ろを航行していた那智も、その無謀に思える進言に足柄の正気を疑う。だが彼女の表情は真剣そのもので、思考もまともであった。

 「敵は接近すれば、またさっきみたいに個別に突撃を掛けてくるかもしれない。もしそうなれば、そこにつけ込んで各個撃破の機会を作るのことが出来ると思わないかしら?」

 「!?」

 その発想に、彼女はハッとさせられる。これまで第二方面隊は、乱戦に引き込まれる可能性を恐れて距離を取りながら戦っていたのだが、それは結果として敵から組織的な砲撃と雷撃を受ける状態を作ることとなっていたのだ。

 そこで彼女は、接近すれば敵はまた先程のように非組織的な乱戦を仕掛けてくるのではないかと考えて、分散した所を各個撃破しようと言うのである。それは発想の転換であった。

 足柄はやけを起こしたわけではないのである。それどころかその進言には勝算もあり、勝つ気で発言をしたのだった。

 「無茶な!その戦術は敵が乱戦を仕掛けて来なければそもそも成立しない。不確実だ」

 「不確実なのはわかっているわ。でもこのまま最善を貫いても勝てないし、だったら僅かでも勝てるチャンスに掛けてみるべきだと思うのよ!」

 そんな足柄の進言に、那智は問題があると指摘をするが、しかしこのままでは負けるだけだと考える足柄は、問題があるとわかっていても一縷の希望に掛けるべきだと考えて、その主張を曲げなかった。そんな二人のやり取りを聞いて、妙高は悩む。

 現状維持に終始すれば彼女達はどのみち敗北するしかないため、勝利を諦めないならば採るべきは間違いなく足柄の案だ。しかし那智の言ったように戦術が成立しない可能性も高く、また敵の渦中に飛び込むとなれば、現状で損害を受けている味方を轟沈させてしまう危険も自ずと高まるため、彼女は足柄の進言を受け入れてしまっていいのか迷うのである。出来るならば勝ちたい、そのために足柄の進言を実行したいのだが、彼女は踏み出せなくなっていたのだ。

 「妙高姉さん!」

 だがそんな彼女を、足柄は睨むように見つめる。その目に見つめられた時、妙高はその奥にあるものにドキリとさせられた。

 「私達はまだ勝てるわ。見て!」

 さらに彼女は、足柄に戦列の僚員たちを見るように促される。彼女の言葉に従ってそれを省みたとき、妙高はまたさらにドキリとさせられた。

 「みんなまだ勝ちを諦めてはいないわ!」

 足柄は彼女にそう強く訴える。彼女達の眼差しには、勝利への希望がまだ消えずに宿っていた。

 自身が大きく危険なダメージを負っており、退避するしかないとわかっている浦風の目にさえ、なお勝ちたいと願う光が宿っているのである。妙高は心を強く揺り動かされた。

 「だから戦わせて姉さん!姉さんだって勝ちたいんでしょう!」

 そしてその最後の訴えが、妙高の心に強く響く。それは短く端的な訴えであったが、それだけに彼女が負けないために全力を尽したいという強い想いと、そして妙高が高雄のためにも勝ちたいと思う気持ちの後押しをして、彼女を叱咤した。

 (・・・そうね)

 足柄達の勝利を求める強い意思を見た妙高は、自分が後ろ向きな考えに囚われてしまっていたことに気付く。それを情けなく思った彼女は、心から後ろ向きな考えを追い出すと、自分が為すべきことを見据えて意を決した。

 「わかりました足柄、敵集団に突撃を掛けましょう」

 妙高は足柄の進言を取り入れて、そう決断する。そんな妙高の決心を耳にした那智は、驚いて妙高にそう反問した。

 「本気か姉さん?かなり危険な戦術だぞ」

 彼女は妙高の決心が予想に反するものであったため、その意志が本気かを問い質す。だが妙高の決意は固かった。

 「危険はわかっているわ。けど、このまま現状の戦術を維持しても負けていくだけなら、僅かでも可能性に賭けて撃って出るという足柄の進言には、やってみる価値があると思うの」

 妙高の決心は間違いなく本物である。彼女は危険性も考慮に入れた上で、なおもその選択に意味があると判断し、突撃を決めたのだ。

 「そうか・・・わかった。姉さんがそう言うなら、私も異議はない。姉さんについていくよ」

 そんな妙高の確かな決意を見た時、那智はそれ以上言葉を挟むことせず、追従を決める。妙高が考えて決心し、この戦いを勝とうと言うのならば、それに付いていくのが自分の為すべきことべきだと考えたからだ。彼女もまた勝ちたいのである。

 そして第二方面隊は反転すると、再び敵を目指して進んだ。敵集団も反転していたため、ほどなく距離が詰まると、両集団の間で再び激しい砲火が飛び交う。

 「きゃっ!」

 苛烈な砲撃が羽黒を襲い、直撃を受けた彼女は声を上げた。艤装が限界を超えたのか、右腕に装備した20.3cm砲は吹き飛んで使い物にならなくなる。だがそれでもなお、彼女は両肩の砲で砲撃を続行した。

 「第二方面隊、突撃!」

 砲撃戦の中、妙高は突撃命令を下す。そして第二方面隊は、敵の頭を取るように45度変針した。

 「敵が分散したら、私の狙う敵に集中攻撃を掛けてください!敵を各個撃破します!」

 「雷撃来るぞ!耐えろ!」

 妙高は単縦陣の先頭に立って、そう指示を飛ばす。これまで二度の雷撃戦により敵の雷撃距離を目測で記憶していた那智は、それを予測して注意を促した。

 ザッ、ザッ、という空間を掠め取って行くような音が正面から襲い掛かる。しかし真正面を向いて対向しているために被弾面積が少ないためか、幸運にも一発の直撃も無く、敵集団との距離を詰めることが出来た。

 そして第二方面隊は真正面から敵中へと突入する。彼女達が突撃すると、敵は予想通りに分散した。

 「食い付いてきたぁ!」

 足柄は敵が思った通りの動きに出たのを見て、快哉を叫ぶ。妙高が目に付いた駆逐ロ級に砲撃を仕掛けると、旗下の僚員も次々に砲撃をした。ロ級は多数の直撃弾を浴びて、瞬く間に海の藻屑となる。いかに夜戦と言えど、交戦距離が100mをきってしまえば、もう外れはしなかった。

 「見ろ!こいつらボロボロだぞ!」

 那智は敵を見て言う。至近距離にまで接近してわかったことだが、敵はその多数が酷いダメージを受けていた。

 それはおそらく、さきほどの雷撃戦で受けたダメージである。彼女達の雷撃は一撃で敵を仕留めはしなかったが、多大なダメージを与えていたのだ。

 「当たって!」

 「沈みなさいっ!」

 先頭の妙高達に負けず劣らず、軽巡や駆逐艦達も一心不乱に攻撃を加える。第二方面隊は既に陣形もなにも無い状態だったが、その攻勢によって敵は次々に轟沈し、形勢は一気に彼女達の有利へと傾いて行った。

 (勝てる!これなら)

 その状況を見て、妙高はそう確信する。意を決して突撃を選んだ結果、彼女達は絶望的な状況の中から形勢の逆転という結果を、自らの手に納めることに成功したのだ。

 「あの巡洋艦型が最後よ!」

 そして海戦は最終局面を迎えつつある。最後の駆逐ロ級を葬り去ると、妙高のすぐ傍らに付いていた足柄は、最後の一体である巡洋艦型ト級を目で追いながらそう叫んだ。

 ト級の方も二人を捉えると、鳴き声とも軋み音とも取れる奇声を発しながら突撃を掛けてくる。妙高と足柄はト級に砲撃を加えるが、ここまで無傷であったト級は回避した。

 敵とてただで撃破されはしない。次の砲撃で半身を吹き飛ばされ、大きくダメージを負いながらも、彼女達に牙を剥こうと突っ込んで来た。

 「姉さん!勝つのよ!」

 そんなト級に対面し、砲撃を続けながら、妙高は魚雷管を可動させて狙いを合わせる。

 「私達で勝ちを掴むのよ!」

 そして彼女は、足柄の激を受けながら、残りの61cm魚雷全4本を最後の敵に叩き込んだのであった。

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