艦これ戦記 ~明日を開く少女たち~   作:戦艦

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#3~種子島沖迎撃戦5~

 4月23日。太平洋諸島作戦遂行中の第二艦隊から、艦隊総司令部の置かれた横須賀に、サイパン島作戦完了の報が入った。

 サイパン島作戦の完了は、硫黄島、サイパン島の両島を縦に結ぶラインに、哨戒線が構築されたということを意味しており、それはシーレーン解放作戦の発動用件が満たされたということでもある。その報は一度極東管区統合作戦本部へ伝わると、矢継ぎ早に呉の第一艦隊にも伝達された。

 同日午前6時。第一艦隊の司令長官を任されている東山海将は、呉基地の司令部庁舎に召集されて、呉の基地司令と共に東京の防衛省舎に置かれた極東管統合作戦本部と、テレビ電話越しに対面していた。

 「東山君」

 「はっ」

 口火を切ったのは柴山である。彼は自衛隊統合幕僚長にして国連軍副総監でもあるから、自衛隊統合幕僚監部を国連軍にそのまま適用させた統合作戦本部を本部長として取りまとめているのだ。

 「先程第二艦隊からの報告があり、同艦隊はサイパン島の奪回に成功したようだ。第三艦隊はすでに第二艦隊と合流して同島の飛行場を復旧する作業に入っており、哨戒も第二艦隊艦載の機動部隊を動員して、継続的に行っているという」

 「つまり状況は当初の作戦計画通りに推移しているということですね」

 「その通りだ」

 東山がそう尋ね返すと、彼はそう肯定する。接収予定のサイパン国際空港が哨戒拠点としての機能を獲得するのはまだ先の話であるが、第二艦隊が哨戒行動を行う形でそれを補っているのだから、サイパンは哨戒能力をすでに獲得しているという風に言えるのだ。これは太平洋諸島作戦として、当初からそう解釈すると決められていたことである。

 「第三艦隊によって硫黄島に配属された哨戒部隊も近海の哨戒に取り掛かっており、すでに北緯30~20度間の海域に関しては深海棲艦の動向を察知出来るようになりつつあると判断していい。東シナ海からフィリピン北端までの海域が作戦行動可能海域となったというわけだ」

 硫黄島、サイパン間のラインを監視出来るようになったということは、大平洋を東から西へ移動してくる深海棲艦の動向を把握出来るようになったということだ。太平洋からの移動を監視できるようになったからと言って敵情を完全に把握出来るようになったわけではないが、それでも明確な情報に基づく判断がいくらかでも出来るようになったということは、ようやくまともな戦いが出来るようになるということを意味している。

 「以上の現状から、国連軍極東管区統合作戦本部は、シーレーン解放作戦の遂行が可能になったと判断し、同作戦の開始を決定した。第一艦隊は随時出撃し、バシー海峡近海の第一作戦開始点へ向かってほしい」

 「了解しました」

 その柴山の宣言により、シーレーン解放作戦はついに発動して、第一艦隊には出撃命令が下った。そして電話会議が終わり、東山が艦隊に戻ると、呉港内は<すずつき>、<あたご>、<ありあけ>、<とわだ>、<ときわ>ら第一艦隊5隻の出港によって喧騒に包まれる。日本と極東管区の命運をその双肩に背負った第一艦隊はついに抜錨し、その行動を開始したのであった。

 

 

 

 第二方面隊は敵集団を撃破した後、再び第三方面隊と別れて母艦の<くろせ>に帰投していた。多数の損害を被った戦いであったが彼女達は勝利し、今は<くろせ>に乗って母港の呉に帰る途中である。

 「妙高姉さん、姉さん起きて」

 「え・・・どうしたの足柄?」

 午前7時ごろ、第二方面隊の面々は戦いの疲れから揃って眠り込んでいた。妙高も同じく眠り込んでいたのであるが、一人起きていた足柄に起きるよう働き掛けられて、重い瞼を持ち上げる。

 「通信室に来て。はやくはやく」

 そして足柄は、小声でそう急かしながら彼女を起こすと、その手を引っ張って船室から連れ出した。

 妙高が足柄に連れて来られたのは<くろせ>の通信室である。そこに着くと、二人を見た通信士が通信席を空けた。

 彼女はその通信士からインカムを受け取って一言二言話すと、妙高を通信席に座らせつつ、そのインカムを渡す。どうやらどこかと通信が繋がっているらしく、妙高に話せということらしい。

 状況がよく分からない妙高だったが、とりあえず渡されたインカムを装着する。寝ぼけ眼の彼女であったが、インカムのスピーカーから聞こえた声を聞いた時、その目ははたと醒めた。

 「妙高、聞こえてる?」

 「え、高雄!?」

 なんとその通信の先にいる相手は高雄であった。<くろせ>は、第一艦隊の<あたご>と通信しているのである。

妙高が足柄を振り向くと、彼女は得意そうに笑っていた。足柄は<くろせ>と第一艦隊が安芸灘で行き交うことを知って、通話を取り計らったのである。それは彼女が、妙高のためになると確信して仕向けたサプライズであった。

 「妙高」

 「えっ?あ、はい」

 足柄の企みを知って呆れるやら嬉しいやら、様々な感情を感じていた妙高は、インカム越しに高雄から呼ばれると慌て気味に声を返す。

 「足柄ちゃんから、いろいろ聞きましたよ。私があなた達を心配してるんじゃないかって言って、あなたが私を心配していることを」

 「あ・・・」

 高雄は彼女に対して、そう話を切り出した。それは妙高がこのほどよく心配していた、高雄の言動についてである。

 「確かに妙高の心配している通りよ。私はあなたや、そして日本に残る他の子達が厳しい戦いを強いられるんじゃないかって、心配だったわ」

 「高雄・・・」

 妙高の心配は的中していたのだ。高雄の不可思議な言動は、やはり彼女達を心配するが故のものだったのである。

 「ごめんなさい。これから戦いに行く私は、本当は頼もしいくらいの姿を見せていないといけないのに、あなたを心配させるようなことをしちゃって」

 高雄はまず謝る。それは妙高に心配を掛けさせていたということを知って、引け目を感じたからだ。

 「私こそ。あの時桟橋で大丈夫って言ってあげられていたら、高雄は余計な心配をせずに済んだわ。高雄が心配性ってことは私も知ってたはずなのに、気づけなかった。ごめんなさい」

 そんな高雄に、妙高も自分の中にある引け目から謝り返す。

 「妙高が謝ることは無いわ。それどころかあなたは勝って、そして戦っていけるってことを私に見せてくれたわ。私達の故郷を守る力が妙高達には十分あるって。ありがとう、おかげで私もう、心配じゃないわ」

 その妙高から尋ねられたことに対して高雄はそう答えながら、彼女の戦いに感謝の言葉を送る。その言葉を聞いた時、妙高はその胸中に込み上がってくるものを感じた。

 「もう、大丈夫なのよね?」

 「うん、大丈夫よ。だから妙高ももう心配しないで」

 「うん」

 彼女の目には涙で濡れ始めている。そんな妙高の手を、足柄は取った。

 「付いて来て」

 彼女に手を引かれて、妙高は通信室を出る。二人が<くろせ>の左舷側に出ると、左前方に第一艦隊の艦群が航行していた。<くろせ>と第一艦隊は、ちょうど今から行き違うところだったのである。妙高は<あたご>の舷側に、艤装を装備した高雄が出て来ているのを見付けた。

 「はい、姉さん」

 妙高も足柄に手伝われて、艤装を装備する。艤装の通信能力を使って、会話をしようというのだ。

 「妙高」

 そして高雄から、妙高へと語り掛けてくる。

 「元気で・・・いてね」

 「あなたこそ・・・」

 二人の声は、どちらも震えていた。泣いているのである。

 「いってらっしゃい、高雄。必ず、また会いましょうね」

 「はい・・・いってきます」

 そして<くろせ>と第一艦隊は行き違いとなった。妙高は高雄の姿が、少しずつ離れていくのを見つめる。

 「必ず、必ず帰ってきてくださいね!」

 「はい!」

 二人は直接呼び合うように、互いに声を上げあった。

「がんばってね・・・」

 そして彼女は最後にそう呟く。高雄の姿が見えなくなっても、妙高はその去り行く姿を、名残惜し気に見つめ続けるのだった。

 その日高雄は、第一艦隊と共に出撃していった。人々の明日を、そして大切な親友が守る場所を救うために、過酷な戦いへと挑むためである。 

 だがまだまだこれからなのだ。明日への戦いは、まだやっと始まったばかりなのである。




ご読了ありがとうございました。
今回はうって変わって本土防衛部隊のお話です。
こぼれ話として、主力というイメージの陽炎型が最前線たる第一、第二艦隊でなく本土防衛部隊に配備されているのは、本土防衛部隊の数的不利を質で補うためです。彼女達駆逐艦の持っている"艦の記憶"は、ともすれば他のあらゆる艦種より豊富で、特に陽炎型は最前線に立ってきたという意味で有数の経験を持っているはずです。彼女達こそ質と力を備える駆逐艦型なのです。
松型駆逐艦ですが、この艦型が艦隊にも防衛部隊にも配備されていないのは、なにより速力の問題です。第二話で描かれたように、駆逐艦はその任務の一つとして護衛艦に随伴しその直援を行う必要があることから、最大30ktの護衛艦に追随出来ない松型は艦隊に配備されていないのです。また防衛部隊においては、迅速な迎撃においてその足回がハンデになるため、部隊から外されているのです。
では松型が無用の長物かと言われれば、そうではありません。まだ見ぬ彼女達に与えられる役割は、船団護衛となるでしょう。これは史実における松型駆逐艦の設計思想そのものです。
あらゆる艦種には必ず役割があります。その艦が何を目的として作られたのかを考えるのというのは、なかなかに面白いものがあります。
ではまた4話で。
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