艦これ戦記 ~明日を開く少女たち~   作:戦艦

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#4~バシー海峡掃討戦1~

 2022年4月。国連軍極東管区統合作戦本部は、その拠点である日本の資源的困窮状態を解決するため、深海棲艦に制圧されたシーレーンの制海権を奪還するシーレーン解放作戦を計画。23日にこれを発令し、呉基地から第一艦隊を出撃させていた。

 第一艦隊を率いるのは、伊豆諸島沖海戦を指揮していた東山海将である。

 彼は海将という階級にしては若い48歳の若年将官であったが、しかし能力、人格ともに秀でているため資質としては十分及第点に達しており、なにより対深海棲艦作戦で最初期から常に最前線に立ち生き残ってきた貴重な人材であった。彼が海将に任じられ、第一艦隊の司令長官を任されているのはそういう理由からである。

 そんな東山の指揮する第一艦隊は、旗艦のあきづき型護衛艦<すずつき>を筆頭に、むらさめ型護衛艦<ありあけ>、あたご型イージス護衛艦<あたご>、とわだ型補給艦<とわだ><ときわ>の五隻の艦艇によって構成されていた。そしてそれらの艦にはそれぞれ、艦娘によって構成された部隊を艦載している。

 艦娘とは、深海棲艦に敗北し続ける人類にとって最後の希望となる存在であった。彼女達は人間に極めて近い存在でありながら、人間としては説明のつかない存在であり、その出自や正体には謎が多い。だがともかく人類に対して友好的で、そして深海棲艦に対抗することが出来る唯一の存在なのである。

 第一艦隊の任務はこの艦娘達の移動基地として機能し、シーレーン上の深海棲艦を掃討してその制海権を奪還することにあった。そしてそのはじめの一歩として、第一艦隊は台湾、フィリピン間のバシー海峡の制海権確保を目指している。

 深海棲艦が人類を襲う理由は定かではない。しかしともかく敵と見れば見境なく襲ってくるのが深海棲艦であり、その無差別な攻撃の様から、一説には人類を海上から一掃するのがその目的ではないかとも言われている。実際深海棲艦は、あえて敵を探すように大洋へと拡散していき、人類から制海権を奪うということを行ったのだ。その説はほとんど正しいと言って間違いない。

 深海棲艦がシーレーンを制圧したのも、そこが人類にとって重要な海上交通路であることを知って、そこに潜伏すれば艦船を効率良く攻撃出来ると知った結果であると考えられていた。特にバシー海峡などは、マラッカ海峡に並んでシーレーン上の狭まった門と言うべき海域であるから、多数の深海棲艦が潜伏していると予想されているのである。

 ここの掃討が済まないことには、シーレーン奪還は始まらない。だからそのためにも、第一艦隊の第一目標はバシー海峡にならざるを得ないのである。

 そして25日午前3時現在。第一艦隊はバシー海峡を目指し、宮古島の東北東43kmの海域を南西方向に向かって航行しているところであった。

 

 

 

 「総員回頭左舷90度。主砲一斉射!」

 第一艦隊、第一主力部隊の大和、武蔵、長門、陸奥からなる第一戦隊は、母艦<すずつき>を出て洋上を航行していた。四人は単縦陣の隊形を取り、戦隊統一の最高速度である25ktで航行している。そして彼女達は、そのままの速度と進行方向を維持したまま左に90度回頭し、主砲の一斉射体勢を取ろうとした。しかしいざ90度回頭をしようとすると、途端に航路がずれて単縦陣が乱れたり、速度が落ちてしまったりと、その動きはうまくいかない。

 「やはり難しいな」

 長門型戦艦娘の一番艦長門は、その結果に対してそう呟いた。

 彼女達は今、洋上に出て訓練を行っている。移動母艦の護衛を行う駆逐艦娘は、いざ敵襲となれば真っ先に出撃して他の艦娘達が出撃するまでの時間を稼がなければならないため、非番の時にも実質的には準待機状態であり、本当の意味での暇な時間というものは僅かである。

 それに対して、護衛シフトに組み込まれていない駆逐艦娘以外の艦娘は、艦内に仕事を持っているわけではないので、平時においては暇を持て余すことになる。故にその暇な時間を無駄にしないために、彼女達は任務でなくても洋上に出て自主訓練を行うのだ。

 その姿は、月月火水木金金と言われたほど訓練に明け暮れていた往年の帝国海軍の姿を彷彿とさせるものである。伊達に帝国海軍艦艇の名と記憶を持っているわけではないということであるが、機密保持のために呉でまともな訓練が出来なかったことも、彼女達を自主訓練に勤しませる理由の一つと言えた。

 そんな彼女達が今やっているのは、同航戦や反航戦を想定した、高速移動と単縦陣を維持しながら全力砲撃も成り立たせるための回頭訓練である。大和型の二人はともかく、長門とその妹である陸奥は艤装の兵装配置の都合上一斉射を行おうとすれば、敵を正面に捉える必要があるのだ。

 しかし単純に方向転換を行えば、進行方向が変わって単横陣になってしまう。そうなれば同航戦や反航戦には対応出来ないため、進行方向を維持したまま回頭し、横移動状態に持ち込こむ必要があるのだ。

 だが25ktで陣形を維持しながらそれを行うのは容易ならざることである。横移動など、彼女の持つ"艦の記憶"には経験の無いことだからだ。

 「もう一度行きます。第一戦隊全速」

 崩れた陣形が再び整うと、先頭を行く大和の呼び掛けに応じて、長門は第一戦隊の僚員と共に再度全速での航行を始める。

 「総員回頭左舷90度。主砲一斉射!」

 そして一度目と同じく90度回頭を行うが、陣形はやはり維持出来なかった。

 「また崩れたわ。難しいわね、やっぱり」

 再び陣形が崩れたことに対して、背後で陸奥が声を漏らす。艦娘と海面の間に回転軸があるわけでもないので、25ktの慣性が付くと回頭時に斜め前方へと弾き出されてしまうのだ。

 「武蔵はわりと小さく回頭出来ていたな。何か意識したことでもあるのか?」

 そんな状況の中、単縦陣の3番目から2番目の武蔵を見ていた長門は、彼女が小さい範囲で回頭していたのを見て、その方法を尋ねる。

 「私か?意識というほどでもないが、外側に回り込むようなつもりでやった。右のつまさきの右前を常に進行方向側に向けるようなつもりで、そのまま航跡を捻り込むような感じだ」

 尋ねられた武蔵は、説明を添えながらそう答える。彼女はあえて慣性を殺そうとせず、上手くそれを逃がすことで、航跡のブレを最小限に止めているのだ。

 「なるほど、捻り込むのかぁ。長門さん、すぐに試してみます?」

 「当たり前だ。すぐやるぞ」

 その説明を聞いた大和は、長門にそう尋ねる。彼女はすかさずそう答え、第一戦隊は再再度回頭訓練に取り掛かった。

 大和からの号令が掛かると、第一戦隊は再び左舷側へ90度回頭する。武蔵から聞いた方法を取り入れると、第一戦隊は乱れなく横移動状態に移行出来た。

 「おおっ!」

 回頭を終え、その様子を見た長門は、その結果に思わず唸り声を上げる。

 「うまくいったわね」

 「ああ、やったな」

 陸奥に声を掛けられて、二人は喜び合った。武蔵の語ったコツを取り入れた結果、第一戦隊はさっきまでとは比べ物にならない程に航跡の乱れを抑え、陣形を維持したまま回頭を完了させたのである。

 そしてその後、もう一度一連の回頭動作を行ってその動きを確認してから、今度は反転180度の訓練に取り掛かった。この反転180度は回頭90度の発展動作であり、全艦が全く同じタイミングで真後ろに向き直り、そのまま最後尾と先頭を入れ替えて反対方向へと変針するという動作である。

 「総員反転180度!」

 そして第一戦速の20ktで航行を開始すると、大和は反転の号令を上げた。彼女の声に応じて、第一戦隊の艦娘達は急制動、転回、急加速の3つの手順を行おうとする。

 しかしこの反転180度は、全艦が制動のタイミングや速度を合わせ、かつ可能な限り小さく転回し、前を進む仲間との距離を確保しながら、可及的速やかに再度第一戦速まで加速するという、極めてシビアな動きを次々に処理しなくてはならない動作だ。それはとても一度で成功させられるようなものではなく、実際第一戦隊はまず制動でごたつき、おたおたと転回してから、まごまごと十数秒かけてようやく第一戦速に加速するという、極めてグダグタな動きを披露するはめになる。大和に至っては、武蔵に後ろから追突しかけたほどであった。

 「これは、ダメだな」

 その自分達の有り様を見て、武蔵は諦め混じりにそう呟く。

 「突然海の上で出来る動作じゃありませんね。もっといろいろ話して、打ち合わせしてからじゃないと」

 その妹の諦観を補足するように、大和は言った。いくら実践にばかり励んでも、基礎が無ければ上達は難しいのである。むしろ無駄に時間が掛かってしまうため、効率は良くないのだ。

 特にこの反転180度の場合は、急制動、急加速のタイミングを入念に話し合って決めてからでないと、実際に成功させるのは困難である。今の彼女達にはほぼ不可能と言えた。

 「一旦切り上げて、打ち合わせがてらに休憩しないかしら?」

 「そうですね。90度回頭は出来るようになったことですし、そうしましょうか」

 そんな状態を考えてか、陸奥はそう提案する。大和が彼女の提案に賛成すると、第一戦隊は休憩を取るために<すずづき>へと帰艦することになった。

 「ん、あれは」

 「どうかしたか?」

 <ふゆづき>に帰艦する途中、武蔵は第一艦隊の西側で別の集団が訓練をしているのを見つける。それは第二主力部隊所属の、金剛型からなる第三戦隊であり、彼女達は陣形を単縦陣から輪形陣へと組み換えているところであった。

 「金剛型ですね」

 武蔵と長門のやり取りを聞いて、大和も金剛達を眺める。その時、背後から低く鳴り響くような音が聞こえ始めたと思うと、それは勢い良く上空を通りすぎていった。

 通りすぎて行ったのは零式艦上戦闘機と九七式艦上攻撃機をそのまま小さくした飛翔体からなる編隊である。第三機動部隊に所属する空母艦娘の艦載航空部隊だ。

 第一艦隊には、赤城、加賀、蒼龍、飛龍からなる第一機動戦隊と、翔鶴、瑞鶴、大鳳、信濃からなる第二機動戦隊を主幹とする第三機動部隊が配備されている。正規空母6、装甲空母2からなるこの部隊は極めて強力な戦力集団であり、第一艦隊における攻撃力の中核を為していた。

 そんな第三機動部隊の航空隊は第一艦隊の上空を東から西へ抜けると、旋回して再び東方向へと向き直る。そして九七艦攻が高度を下げて編隊を抜け、金剛達第三戦隊へと迫った。

 もちろん九七艦攻が魚雷を投弾することはない。第三戦隊と第三機動部隊は合同で、それぞれ対艦攻撃と対空戦闘の訓練をやっていたのだ。

 「航空母艦か・・・」

 その光景を見て、武蔵は呟く。その短い呟きを聞いた長門は、その僅かな一言の中に憂うような色があることに気付いた。

 「何か気になることでもあるのか?」

 彼女の声音が気になった長門は、直接武蔵にそう聞いてみる。しかし彼女は「いや」と短く否定するだけで、それ以上は何も言おうとしなかった。

 長門は不思議に思う。今の現状で、武蔵は何に憂いを抱くというのかと。

 第一艦隊の任務は過酷ではあるが、これまで彼女がそのことに苦言を呈したことは無いため、そのことで憂いを抱いているのではないはずであると彼女は思う。それどころか、武蔵にはやってやるという気概すらあると感じていた。

 では彼女は他に何に対して憂いを抱いたというのであろう。話の成り行きと、その呟きから考えて、それは第三機動部隊に向けた想いであるともとれるが、もしそうだとして、第三機動部隊の何に憂いを抱くというのか。

第三機動部隊は強力な戦力であるのだから、なにも心配することは無いのだし、むしろ味方に居て頼もしいくらいである。もし武蔵がそんな空母艦娘たちに思うところがあったとしてら、それはなんだと言うのか。何に対して憂いを抱くのか。長門にはそれが全くわからないのであった。

 

 

 

 第一艦隊の司令長官を務める東山は、対深海棲艦作戦で最も長い間前線に居続け、そして敗北を見続けてきた男である。

 東山が参加した初めて対深海棲艦作戦は、北ライン諸島沖海戦だ。北ライン諸島とは、ハワイ諸島の約2400Km南に存在する中部太平洋の環礁群である。深海棲艦は当初中部太平洋上の島々に分布しており、北ライン諸島はその大きな一角であった。

 米軍は人類が深海棲艦を初めて確認したハワイ諸島事件を受けて、深海棲艦との平和的接触を目指すハロー作戦を立案し、これを実行した。しかし深海棲艦からの一方的攻撃によって、この作戦は失敗に終わる。

 この作戦の結果、深海棲艦は明確な人類の敵であるとされ、人類の方針は対話から殲滅へと切り替わった。その結果発生したのが、北ライン諸島沖海戦なのである。つまり北ライン諸島沖海戦は、人類が深海棲艦と対峙した初めての戦闘なのであった。

 そしてこの北ライン諸島沖海戦には、日本も米国の同盟国として護衛艦数隻を派遣している。東山はその一隻である護衛艦<ゆうだち>の副長として、この海戦に参加したのだ。

 しかしこの北ライン諸島沖海戦は、失敗に終わる。掃討部隊は深海棲艦集団と接触して攻撃を試みたものの、その攻撃は一切通じず、深海棲艦には攻撃が行えないということを示すだけの戦いとなったのだ。

 作戦は中止となり、掃討部隊は失意と共にハワイに帰投する。そして東山の乗る<ゆうだち>も正式な編成解除を待つ必要があったためにハワイで待機することになったのだが、そのハワイに深海棲艦が迫った。ハワイ沖海戦である。

 ハワイ沖海戦は、北ライン諸島沖海戦の直後に発生した海戦だ。この海戦にはライン諸島沖海戦から帰還した掃討部隊がそのまま迎撃部隊として投入されたが、しかし直前の北ライン諸島沖海戦で示されたように、人類からの攻撃は深海棲艦には一切通じない。そのため迎撃部隊に勝機は無く、ハワイ諸島に住む民間人を守るという義務があるためとは言え、戦う術を持たずに出撃しなければならなかった迎撃部隊は、全12隻の内10隻を一方的に撃沈させらるという大敗を喫した。

 生き残ることの出来た艦艇はたったの2隻であり、<ゆうだち>はその内の一隻である。海戦終了後に掃討部隊からの編成解除を受けた<ゆうだち>は、東山を乗せて日本へ帰国したが、その直後に米国はハワイ諸島の制海権を喪失。中部大平洋は深海棲艦の手に落ちたのである。

 日本に帰国した彼は、その後も<ゆうだち>副長として大平洋の各諸島からの邦人救出作戦に参加するが、それらの作戦の中でも多数の味方艦が撃沈され、見知った者を何人も失いながら生き残って来た。

 そして東山自身も、一度艦と部下を失っている。深海棲艦との戦いで多数の人員が失われた海上自衛隊は人員の再編を行い、彼は<ゆうだち>副長から<あけぼの>の艦長と昇格した。しかしパラオ諸島沖で奇襲を受けた味方艦の生存者を救助していた時、東山は敵の襲撃を受けて<あけぼの>を撃沈させられてしまったのである。

 コロール島の近海であったこともあり、東山は島に辿り着いてなんとか生き残ることが出来た。しかし<あけぼの>の乗員はその大半が殉職してしまい、彼は多数の部下と、<あけぼの>を失ってしまったのである。

 その後コロール島から救出され、一度帰国した東山は、そこで副長時代の上官であった嶋田艦長の殉職を聞かされた。護衛艦<ゆうだち>が大破し、その時に死亡したというのである。これで対深海棲艦作戦に最も長い時間従事してきた司令官級の自衛官は、彼一人になってしまったのだ。

 その後に国連軍が発足されると、東山も自衛隊からそこに参加する。そしてその戦歴を買われて<てるづき>艦長、そして極東管区第一艦隊司令を任され、多くのものを失いながら深海棲艦と最前線で戦い続けてきたのだ。

それが彼が続けてきた戦いである。そんな東山にとって、この作戦は負けることも出来ない戦いであった。

 艦娘という存在を得たことにより、人類はついに反攻に打って出られるようになったのである。これまでは深海棲艦に対抗することが一切不可能であり、多くの死者を出しながらもただひたすら撤退することしか出来なかったのだ。そのことを考えた時、日本の資源的困窮を救うということも重要ではあるが、なによりこれまで一方的に殺されてきた者たちの弔いのためにも、なんとしてもこの作戦は成功させなければならないのである。彼はそれを、自らに課せられた義務と感じていた。

 「蓮井一尉、入ります」

 「うむ」

 そんな東山の船室に、彼の部下である第一戦隊司令官蓮井一等海尉が訪ねて来る。それは第一戦隊の健康状態や艤装整備状態などをまとめた報告書を提出するためであった。

 東山は艦隊司令長官であると同時に、<すずづき>艦載の第一主力部隊総司令官も兼任している。その第一主力部隊は第一戦隊、第二戦隊、第一護衛総隊の三隊で編成されており、それぞれに司令官が任命されていた。それは東山の部下達であり、蓮井もその一人なのである。

 「蓮井君」

 「はっ」

 報告書を受け取った後、東山は彼に声を掛ける。改めて呼ぶということは報告書とは別件で用があるということであり、蓮井は背筋を張った。

 「これを第一戦隊の各艦娘たちに渡してほしい」

 そしてそう言いながら、彼は机の中からあるものを取り出す。それは一冊の冊子であった。

 

 

 

 訓練を終えて艤装を下ろし、第一戦隊の僚員と<すずづき>艦内を歩いていた大和は、通路の先に見知った顔を見付ける。それは彼女達第一戦隊の管理等を請け負っている、司令官の蓮井一等海尉であった。

 彼は手に書類の束を持っており、それに目を落としながらとぼとぼと歩いている。大和にはその足取りが、なにやら重そうに見えた。

 蓮井が気重そうなのは、東山から冊子を第一戦隊に渡すようにと命令されたからである。彼はそれを行うために大和達に関わらなければならないことを、厄介事だと感じていた。

 彼は艦娘という存在のことを今一つ理解出来ていない。人のようで人ではない謎の存在である、と簡単に言えばそういう内容の説明はされていたのだが、それでわかるものではないし、それどころか人ではないなどと言われてしまえば、関わりづらく感じてしまうのは当然のことであった。

 その上蓮井は、今年で47歳になる中年男性である。艦娘の年齢がいくつなのかということはわからないが、見た目だけで言えば彼女達はどう見ても十代の少女であり、そんな娘ほどの歳の少女の姿をした存在と関わらなければならないということも、彼の中で面倒臭さを余計に増幅させるのである。

 「あ、こんにちわ」

 だが、そんな蓮井の様子を気にせず、大和は彼に声を掛けた。

 「あ、うむ。訓練は終わったのかな?」

 「はい、後で正式に報告しに上がりますね」

 声を掛けられたことに若干驚きつつも、蓮井はそう声を返す。だが思わずコミュニケーションをとらなければならなくなったからか、その表情は余計に難しいものになった。

 「ん、わかった。あ、これ東山長官から君たちに渡すように言われていてな」

 「長官からですか?」

 そして余程の面倒臭いのか、彼は出来るだけ手間取らないよう手短にそう言って、手に持った冊子を大和に手渡す。

 「これは戦闘詳細か?司令官」

 だが彼女が受け取ったその冊子を後ろから覗いて、長門は蓮井にそう訪ねた。

 「?・・・あ、うむ、そうだ。現時点で判明している深海棲艦の生態と種類がまとめられたレポートと、サイパン島沖と種子島沖の、それぞれ第六主力部隊と第二、第三方面隊所属の艦娘たちが作成した戦闘報告書を合わせたものだな」

 その長門の問いかけに、蓮井は一瞬気の抜けたような表情を見せつつも、それを取り繕うように平静を装いながら返事を返す。その彼のおかしな反応は、長門に顔を覚られていたことが意外であったからだった。

 大和と蓮井は、彼女が戦隊長として健康報告書等の提出を行う役を持っていたため、一応顔見知り程度の間柄ではある。しかし他の3人と蓮井は、最初に呉で編成が決定された時にちらりと顔を合わせた程度であり、普段は顔を合わせる機会など皆無なので、面識がまるで無かったのだ。

 彼が彼女達とやり取りすることを億劫がるのも、そのことが大きな一因として存在していたからである。蓮井は「誰だこいつ?」という目で見られて萎縮するほど人見知りというわけではないが、しかしそれでも艦娘というよくわからない存在と、さらに4分の3とは言え面識が無いという壁を感じながら話すことになると思っていたのだから、話すことを面倒に感じていたのである。だからそんな彼にとって、大和以外に顔を覚えられていたというのは驚くべき事態だったのだ。

 「22日のサイパン島での戦闘と、同じ日の夜に起きた近海防衛部隊の戦闘か。東山長官は実質1日でよくこれを用意させたな」

 「深夜棲艦の識別表もあるみたいね。最大の型は巡洋艦型ト級・・・へぇ、空母型はいないのね」

 そしてその内容を見て、陸奥と陸奥は歓心したようにそう言う。

 「長官が柴山副総監に依頼して、作成してもらったものらしい。流石に短時間で仕上げたものだろうから出来の拙いところもあるだろうが、それでも貴重な情報であることに間違いだろうな」

 「うん、確かに有益な情報が多い。休憩後は陣形移動の打ち合わせも兼ねて、皆でこの冊子を読み込むことにさせていただきます」

 「うむ」

 そして冊子についてそう説明を添えると、長門は蓮井にそう返す。その声音は少し高揚しており、明るいものであった。

 「では確かに受け取りました。ありがとうございます、司令官」

 「う、うむ。そうか」

 そして大和にそう礼を言われると、彼は戸惑ったような声でそう答える。人外と気張っていたことが馬鹿らしく思えるくらいに彼女達は普通であり、また気さくでもあったため、そのギャップに驚きを隠せなかったのだ。

 「ではまた後程」

 「ああ」

 そして最後は短く締めると、蓮井は第一戦隊に見送られながらその場を去る。大和には、その彼の足取りが少し軽くなっているように見えた。

 

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