艦これ戦記 ~明日を開く少女たち~   作:戦艦

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#5~チューク諸島遭遇戦1~

 2022年4月25日。太平洋諸島作戦遂行のためにマリアナ諸島海域に進出していた国連海軍極東管区第二艦隊は、この数日に渡り同海域において作戦行動中であった。

 第二艦隊は昨22日にサイパン作戦を終え、同島の飛行場を利用しここを哨戒拠点として整備している。このためにサイパンには駐留部隊が降り立っているのだが、サイパン近辺にはテニアン島をはじめとして複数の島々が存在しており、そこには深海棲艦が潜伏している可能性があった。

 太平洋諸島作戦にはまだチューク諸島の哨戒拠点化が残っており、第二艦隊はこれからサイパンを離れなければならない。だが、もしこの間に深海棲艦からの襲撃を受ければ、サイパン島の駐留部隊は大損害を被ることになるだろう。

 これを防ぎ、サイパン島駐留部隊の安全を確保するため、第二艦隊はマリアナ諸島の各島を航空戦力で哨戒索敵し、深海棲艦を発見した場合はただちに撃滅しなければならなかった。

 第二艦隊の旗艦は、第六主力部隊の母艦でもあるたかなみ型護衛艦<たかなみ>であり、作戦司令部もその艦上にある。そしてその<たかなみ>と行動を共にし、おおすみ型輸送艦<くにさき>と共に第二艦隊を艦隊たらしめる僚艦は、第七機動部隊の母艦を務めるむらさめ型護衛艦の<きりさめ>であった。

 第七護衛総隊司令官である横手一等海尉は、第四、五機動戦隊司令官である増田三等海佐と、そして第六機動部隊総司令官の渡辺一等海佐と共に、<きりさめ>の艦橋で作戦の推移を見守っていた。

 横手は、繰り上がり人事により30歳足らずの年齢ながら護衛総隊司令官という役職に就任した、極めて仕事熱心な若年士官である。しかし護衛総隊司令官や他の艦娘部隊の司令官というものは実際的な戦闘指揮権を持っておらず、その仕事は艦娘の体調や装備の管理が主であった。

 司令官というのは名前だけであり、その仕事は雑用ばかりの管理職に相応しく、作戦となれば何をするでもなく見ていることしかできない。これは横手が認識する部隊司令官という役職についての総評であり、それは疑いようの無いまでに正鵠を射た認識であった。

 彼らが作戦中に艦橋にいる理由も、部隊司令官だからというだけである。それは彼らの主業務が作戦中には無いということを強く示していることであったが、横手はそれに良い感情は持っていなかった。

 深海棲艦が未だその姿を海面下に隠していた2年前。海運会社に勤務していた横手の父親は海難事故に遭って亡くなっていた。

 原因不明のその事故は、当時少しづつ、しかし確実にその頻度を増やしていた同種の海難事故と同じく、深海棲艦による攻撃を事件の真相としたものである。つまり横手は父親を深海棲艦によって殺されたのであり、彼はその仇撃ちを戦う理由の大きな一つにしていたのだ。

 それ故に横手は、作戦に直接参加出来ない司令官という役職に不満を抱くのである。艦娘のように深海棲艦を直接屠ることが出来たならと、そう思って止まないのだ。

 その意味で艦娘は、彼にとって尊敬の対象である。だがそれは、横手が艦娘を戦力としてしか評価していないことの現れでもあった。

 (艦娘か・・・)

 しかしこの五日ほどの間、彼は自身が率いる艦娘という存在に対して、改めて思案を巡らせている。それは硫黄島作戦が終了したその日の夜に、上官である艦隊総司令官の渡辺から受けた一つの指摘に端を発するものであった。

 (色、ね・・・)

 その日横手が受けた指摘は、艦娘に対する視点が事務的に過ぎるということであり、生きた存在を管理しているなら、そこにはもっと不確定的な要素が出てくるはずだと言うものである。その指摘に対し、彼は素直にそれを受け入れ、艦娘を見直してみようと試みるのであったが、いざ見直そうとした時、彼は艦娘がどのような存在なのか、解釈に窮したのであった。

 それは具体的な疑問が噴出したのではなく、どちらかと言えば再解釈の取っ掛かりを見出だせないことを原因としている。

 戦闘単位という意味での艦娘ならば、それはこれまで通りであるし、今更解釈し直す必要は無かった。しかし渡辺はそこからさらに一歩踏み込んで、戦力として以外の艦娘も、よく理解するべしと言ったのである。だがその戦力以外というのは具体的になんなのか?総司令官が横手に期待したものはなんなのか?それを彼は掴みかねていたのだ。

そのためにこの五日間、横手は思案に暮れ続けているのである。そしてその出口を、彼はまだ見付けられていないのであった。

 

 

 

 午後4時。第四機動部隊とその護衛を勤める第七護衛総隊第十六護衛隊は、ロタ島周辺海域での作戦行動を終えて<きりさめ>への帰艦途上にあった。

 「え、食事会?」

 「そう、司令官誘って食事会だよ」

 第十六護衛隊は4人集まって移動しており、白露型の一番艦である白露は、その先頭を航行しながら村雨にそう答える。

 「関わりが無いならこっちから関わりに行けばいい、か。白露らしいね」

 そんな彼女の食事会計画を、時雨はそう評した。彼女達が話しているのは直属の司令官である横手三等海尉についてである。

 横手は無意識の内に艦娘に対して異物感を感じ、距離を置いて関わり合いを持たないようにしていた。白露の計画は、そんな彼と打ち解けるために、食事を共にしようというものである。

 「でもまた忙しいって断られそうな気がするっぽい」

 そんな白露の計画に対して、夕立は指摘した。硫黄島作戦の前日に、彼女は一度横手を食事に誘って、多忙を理由にそれを断られているのある。今度もその二の舞になる可能性は十分高かった。

 「そこは奇襲戦法で行こうと思うの。食べてるところに押し掛けようって考えてる」

 しかし白露はそれも既に考慮済みであり、自信満々に対策案を披露する。断られることが明白な以上、いちいち誘ってもそれは無駄というものなのだ。

 「おうおう、任務中に何のお話ー?」

 そうして4人が言葉を交わしていると、後ろから声を掛けくる艦娘がいる。

 「じ、隼鷹さん・・・」

 声を掛けてきたのは、第四機動戦隊に所属する飛鷹型航空母艦の隼鷹であった。

 「え、えっと・・・これはですねー」

 「私達怒られるっぽい?」

 任務中の私語は、艦娘であろうが許されるものではない。村雨は弁解しようとするが言葉が出ず、夕立はもう諦めて流れに身を任せようとしていた。

 「いやー、飛鷹に見つからなくてよかったねー」

 しかし隼鷹は、あまりそういうことを気にする艦娘ではなかった。

 「でさー、何を相談してたのよ」

むしろ積極的に参加して来さえした。

 「実はですね」

 白露はまず、彼女にこれまでの成り行きを語る。司令官に避けられていること、このままでは良くないという白露の考え、そして食事会の計画。隼鷹も頻繁に相づちをうちながら、それをよくそれに耳を傾ける。

 「へぇー、司令官があんまり関わって来ないとねぇ」

 「そうなんです」

 そして全てを話終わると、隼鷹は話の趣旨を理解したようにそう言った。

 「それウチもだよ」

 「え?」

 「ウチもねぇ・・・」

 その上で彼女は、白露達にそう教える。艦娘とそれを管理する司令官という構図はどの部隊でも同じなのであるが、隼鷹ら第四機動戦隊でも状況は同じだったのだ。

 そして彼女は語りだす。内容は第十六護衛隊の状態と似たようなもので、司令官が無意識に艦娘を避け、関わりをほとんど持とうとしないらしい。

 「もしかして他の部隊でもこういうことあるんじゃないかしら?」

 「かもね・・・」

 村雨の言葉に、時雨はそう肯定する。彼女達の知るところではないが、事実部隊司令官と艦娘の間の繋がりの薄さは、第二艦隊の各部隊においても状況を同じくする普遍的な問題であった。

 「じゃあさ、隼鷹さんたちも一緒に食事会やろうよ」

 「私たちも?」

 隼鷹の話を聞いた白露は、彼女にそう持ちかける。食事会と言うなら、より多数でやった方が絶対に楽しいと、彼女は思ったからだ。

 「うーん、よっし!とりあえず飛鷹に相談してみなくちゃわかんないけど、私たちも出来る限り参加出来るようにしてみるわ」

 その誘いに驚いた隼鷹だったが、食事会には極めてノリ気であり、白露の誘いをその場で受ける。彼女はその返答に、目を丸くして喜んだ。

 「ホントですか!?」

 「へへん、私が参加するからにはめちゃくちゃ愉快な食事会にするからさ、まぁ楽しみにしててよ!」

 そして隼鷹は、自信たっぷりにそう豪語した。

 「めちゃくちゃ愉快な食事会、ね」

 「あ・・・」

 その彼女の背後に、いつのまにか姉妹艦である飛鷹型の飛鷹がいる。四人と隼鷹は、急な寒気に襲われた。

 「あのさ、今帰還中だし陣形解除してるけどさ、作戦中だからね…」

 彼女は、その怒気を言葉の端から滲ませている。今にも爆発する一歩手前、そんな状態だ。

そしてこの後、第十六護衛隊と隼鷹は<きりさめ>に帰艦するまでの間、彼女にこってりと叱られたのであった。

 

 

 

 艦娘についてより理解を深めろと言われた横手は、結局自身の考えうる限りでは十分な答えを見出だせなかった。

 そこで彼は、同じ第七機動部隊に所属して第四、第五機動戦隊を管理する上官の増田一等海佐に教唆を求める。そもそも知識が浅いのかもしれないと思い、艦娘についてもっとよく知るべきだと考えたからだ。

 「増田一佐もそうなんですか?」

 しかし増田に参考を求めようとして横手が知ったのは、彼も部下の艦娘についてよく知っていないと言ことである。そして増田が艦娘から距離を置く理由も、また横手と同じく意図的ではない無意識の警戒感からだ。

 「言われてみれば、だな。確かに積極的に関わりを持とうとしていたかと聞かれれば、していなかったよ」

 聞かれたことについて、彼はそう答える。

 第七護衛総隊の抱える司令官と艦娘の関係に関するこの問題は、第四、第五機動戦隊においても同じであったのだ。そしてそれは彼らの部隊に留まらず、<たかなみ>所属の部隊や<くにさき>所属の護衛隊、さらには第二艦隊を越えて国連海軍全体の艦娘を率いる全ての部隊にまで、大なり小なり似たような状況にある普遍的な問題なのである。

 「まぁ今の指揮系統は長官から艦娘に命令が直接下りるものだから、意思疏通を図る必要性が無くてそうなるんだよ。だから気にしないでいいんじゃないか?」

 「いえ、総司令直々に改めろと言われたのでそういうわけには・・・」

 増田の言うことはもっともだったが、あくまで横手は真面目である。増田は彼を面倒臭い男だと思った。

 「そうだな、じゃあ一度一緒に食事でもしてみればどうだ?」

 「食事ですか?」

 そんな横手に、彼が提案したのは食事だった。それは図らずも白露達の食事会と同じ考えだが、無論偶然である。しかしそれは半ば必然とも言えた。

 「艦内で出来ることなら食事くらいだろう?」

 増田の言う通り、護衛艦内における交流の機会と言えば食事か仕事くらいのものである。だが仕事上での交流が方法として十分でないのは、現在の状況から見るに明らかであった。そうなればもう、あとに取れる手は食事くらいしか無い。

 「じゃあ俺は仕事が残ってるから」

 そしてそれだけ言うと、彼はその場を立ち去った。

 「食事か・・・」

 そして横手は、彼の言い残していった食事案について真面目に考えてみる。彼はそれを、悪くない意見だと思うのだった。

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