艦これ戦記 ~明日を開く少女たち~   作:戦艦

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#5~チューク諸島遭遇戦3~

 <たかなみ><きりさめ>の二艦は、対空戦闘用意が発令されてからもウェノ島から4kmの位置に停泊し続けていた。

 他の二隻に比べて速力の遅い<くにさき>は、艦載するECACの内一隻がちょうど補給中であり、もう一隻もすぐに引き返して来ていたために即時離脱が可能であったため、第七機動部隊から臨時に分派された第四機動戦隊によるエアカバーの下、直属の護衛隊と共に先行して離脱を開始していたが、<たかなみ>と<きりさめ>は帰艦する艦娘と内火艇の回収に時間を要するために、環礁内に留まっていたのである。

 この海域も敵の航空攻撃圏内であり、その脅威は未だ去っていないが、機動戦隊が上げた直援機が集中的に守りを固めているため、ウェノ島周辺の前線に比べれば脅威度は比較的低かった。

 この航空支援の母艦への集中を指示したのは、第七機動部隊総司令渡辺一等海佐である。敵に制空権を握られてしまった以上、一度撤退して体勢を立て直すべきというのが第二艦隊司令部の判断であったが、そのために足の遅い作業挺に4kmの距離を帰って来いと命令するのは無茶であったため、帰って来られる作業挺以外はウェノ島へ退避させなければならなかった。

 ならば今は後退しても、その後で必ず有効な反撃に打って出て彼らを救出しなければならないのであるが、そのためには艦娘の戦闘力を最大限に生かさなければならない。

 そうなれば彼女達と、その衣食住の拠点として運用に欠かせない護衛艦はなんとしても死守しなければならなかったのだが、第四機動戦隊を分派させざるを得なかったために航空戦力が十分でないため、艦娘自体の自衛能力も考慮に入れた上で戦略的に重要度の高い母艦の護衛を優先したのであった。

彼が<きりさめ>の艦橋で撤退の指揮を取っていると、そこに第七護衛総隊司令官横手がやってくる。第七護衛総隊の帰艦状況について報告を上げに来たのだ。

 「帰艦不能が2名か」

 「はっ!」

 渡辺に対して、彼は明らかに緊張している。帰艦不能の2名とはもちろん白露と村雨のことだが、被弾して行動不能の村雨はともかく、白露が帰らない理由は命令違反なのだ。それを咎められると思えば、体に自然と力が入るのも、おかしなことではない。

 だがそんな横手の緊張とは裏腹に、渡辺は彼の監督不行き届きを指摘しようとはしなかった。それは意図的にではなく自然とそうしたのであるが、ともかく彼は横手を咎めなかったのである。

 もし渡辺が8日前に夕立と夕食を共にしていなければ、彼は横手を咎めたであろう。しかし夕立と接して、彼女達が普通の少女と同じ感性を持っていると知っていた渡辺は、白露の心境に理解を示すことを良しとしたのだ。第十六護衛隊の士気に対しては、むしろその方が良く働くのではないかという直感的な打算もあったが。

 艦娘の帰艦が完了し、内火艇の収容が終わると、第二艦隊は北西方向へと向けて環礁からの脱出を開始する。そして10分ほど航行し、二艦が環礁の外に出たところで、敵の第二次攻撃が空から襲い掛かった。

 護衛対象を分散させないために空母艦娘は<きりさめ>の艦上に配置されているが、その他の第二艦隊所属艦娘は、主力戦隊の重巡洋艦娘も含めて全員洋上に展開して、艦隊を取り囲むようにこれを護衛している。

 それは直援機の数が第四機動戦隊の分派により十分でないため、艦娘では対処が困難な直上からの爆撃に直援機を集中させねばなず、その分低空から来る雷撃個体の対処を、艦娘たちに引き受けさせる必要があるからであった。

 「敵機、後方から来た。撃ち方始め」

 第六主力部隊第六戦隊の衣笠は、敵を最初に見つけて叫ぶ。彼女は姉の青葉と共に、同部隊の古鷹、加古と別れて<きりさめ>の護衛に参加していた。高度を落とし、低空で接近する敵の一群に対して、彼女達は衣笠の声に呼応し射撃を開始する。

 第一次攻撃の時とは違い、戦力を集中させているため敵は多勢だ。<たかなみ><きりさめ>を後方から追うように迫る敵飛行体を、衣笠は護衛の艦娘たちと共に迎え撃つ。敵を脅して、雷撃の軌道に乗せないためであった。

 彼女達の射撃と、なにより艦が敵の雷撃射角に対して平行に航行していたことから、第一波は直撃を受けずに済む。しかし敵はすぐにも反転してきた。

先のウェノ島沿岸での第一次攻撃から、彼女達は敵飛行体が一度飛来するごとに2回まで攻撃を行えることを知っている。だから彼女達は、敵飛行体の再攻撃を見越してすぐにも防御を固めた。

 だが敵の第二波は、第一波とは違い<きりさめ>に対して右舷から迫ってくる。それはつまり母艦の被弾面積と、艦娘が受け持つ防御範囲の拡大を意味しており、第一波と比べて防御の難度がかなり高くなることを意味していた。

 そして数条の雷撃が海面を走る。しかしその本数は、敵飛行体の数に対して少なかった。敵の爆撃個体を掃討した直媛戦闘機が、敵飛行体を上空から叩き落としてくれたからである。

 そして敵は、二回目の攻撃も不発のまま終えた。弾が尽きたのだから、敵は一度帰っていく筈である。これでひとまず敵の攻撃は凌いだと思って内心で一息した艦娘達であったが、その直後に空気を裂く破壊音が彼女達を襲った。

 「なに!?なんや?」

 「たかなみが・・・」

 艦上では第四機動戦隊の龍驤が破砕音に驚き、その原因を見て飛鷹が言葉を失う。<きりさめ>を狙って外れた雷撃が、<たかなみ>に直撃したのだ。

 雷撃を横腹に受けた<たかなみ>は、艦全体に伝播した衝撃波によって艦体がズタズタにひしゃげ、無形の塊が貫通していったかのように艦橋基部あたりでくの字に折れ曲がっている。艦体には無数の亀裂が発生しており、そこから浸水した海水によって急速に水面下へ没しようとしていた。沈没は時間の問題である。

 「<たかなみ>より入電"ワレ航行不能"」

 横手は<たかなみ>沈み行く様を見て鋭い緊張が走る<きりさめ>の艦橋で、<たかなみ>から届いた電文を聞く。

 「"ワレニ構ワズ、司令部ヲ<きりさめ>ニ移シ、艦娘ノミ回収シテ早急ニ当海域ヲ脱出サレタシ"」

 それは<たかなみ>を見捨ててでも生き残り、作戦を続行せよという艦隊司令長官小松海将補からの指令である。

 「"作戦成功後、余裕アラバ救助ヲ求ム"」

 そして最後に添えられた一文は<きりさめ>を気負いさせないための気休めであったが、彼は笑えるものではないと思い、また渡辺を筆頭とした<きりさめ>艦橋要員にそれを真に受けられる者は居なかった。

 「司令、<たかなみ>乗員の救助に向かいましょう!」

 「・・・いや、駄目だ」

 そんな電文の内容を聞いて、<きりさめ>艦長金田二等海佐は抑えきれなくなったように<たかなみ>乗員の救助を進言する。しかし渡辺は、金田の進言を静かにはね除けた。

 「何故です!総司令も海の男でしょう!」

 その非情な判断を下す彼に、金田は食らいついく。海の男なら人命救助が最優先。そんな船乗りとしての矜持や道義心もあって、彼はそう訴えるのである。

 「・・・艦長、君も一軍人なら、小松長官が言ったことの意味を理解してほしい。長官は、<たかなみ>救助のために敵の第三次攻撃で<きりさめ>までもが沈んでしまっては、わずかに残った作戦成功の可能性まで潰えてしまうから、我々に逃げろと言っているのだ。逃げて体勢を建て直し、作戦を成功させろとな」

 だがそんな彼の抗議に対し、渡辺はそう言って返した。彼とて見捨てたくて<たかなみ>を見捨てるわけではないのである。

 小松長官は、自分の命が尽きることになろうとも、より大きなもののために作戦を続行せよと言った。それは尋常ではない覚悟と決意が無いかぎり発することの出来ない命令である。その決心を不意にすることなど渡辺に出来るはずがなく、また諭された金田も返す言葉を見つけられなかった。

 「現時点より第二艦隊司令部は<きりさめ>へ移った。第二艦隊は現航路のまま、敵の制空圏内を離脱する」

 誰もが悔しみの中にあったが、今は進むしか無い。横手は命令を下す渡辺の表情に、言葉だけでない心からの断腸の想いというものを初めて見たのであった。

 そうして<たかなみ>を失いつつも、第二艦隊はチューク諸島沖からの脱出のため先へと進む。作戦開始時の必勝ムードは、もはやどこにも存在していなかった。

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