艦これ戦記 ~明日を開く少女たち~   作:戦艦

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#1~伊豆諸島沖海戦~

 2022年3月6日。伊豆諸島沖は快晴だった。

 雲一つ無い晴れ渡った空の下、鳥島の南180kmの海上を、数隻の艦艇が航行している。東山海将が率いる海上自衛隊のイージス艦<ちょうかい>を中心に、12隻の艦で構成された国連海軍極東管区第一艦隊だ。

 一時間前、国連海軍極東管区統合作戦本部は同海域より南の小笠原諸島上空を飛行していた哨戒機から、深海棲艦集団北上の報を受ける。これを受けて横須賀の艦隊司令本部から第一艦隊に出撃命令が下されたが、この艦隊は残存する極東管区軍所属艦のうち即時に編成に参加出来る艦艇をかき集めた寄せ集めの艦隊であった。

 3ヶ月前のハワイ諸島事件以来、米国海軍はその戦力の大半を喪失し、大平洋は深海棲艦によって東西に分断されている。極東管区と西部管区への分裂を余儀なくされた国連大平洋艦隊はその後も粘り強く抗戦を続けたが、勝機も無く敗退を重ね、現在では多くの戦力を失ないながら防衛線を後退させていた。

 今回の出撃とて勝機など無い。第一艦隊の任務は捨て石覚悟で沿岸首都圏の住民が退避する時間を稼ぐことであり、深海棲艦とコミュニケーションが不可能な以上、これが深海棲艦からの暴力に対して人類に出来る唯一の抵抗であった。

 「CICより、"敵影捕捉。総数6、正面10時の方向ヨリ近ヅク"」

 旗艦<ちょうかい>の広域レーダーが、海上を全6隻で移動中の深海棲艦集団を捕捉する。深海棲艦はその名前に艦とあるように、外見上の形状と攻撃方法から軍艦に見立てて識別しているのだが、眼前に進攻する深海棲艦はいずれもが駆逐艦型の駆逐イ級である。

 イ級は全長80cm程で、<ちょうかい>と比べると比較にならないほどに小さな敵だが、現在の人類はこの小さな駆逐イ級にさえ勝つ術を持たない。深海棲艦が全身から放つ霧のようなものが、弾もミサイルも爆風も全て消し去って無効化させてしまうのだ。

 「総員戦闘配置、対深海悽艦戦闘用意」

  それでも戦わないわけにはいかない。東山は全艦にミサイルの発射用意を指示する。

 「CICより、トマホーク発射準備完了」

 「各艦ともに攻撃準備完了とのことです」

 自艦、そして僚艦共々攻撃準備を完了する。それを確認した東山は、海戦の火蓋を切った。

 「攻撃開始」

 <ちょうかい>の前部甲板のミサイルサイロから、ミサイルが爆炎を吹きながら垂直に発射される。そして一定高度に達するとミサイルは水平に変針して、噴射煙を残しながら空の彼方へと向かっていった。<ちょうかい>からのデータリンクで敵深海棲艦集団を捕捉済みの各艦からのミサイルも、一直線に空を飛翔していく。

  <ちょうかい>のレーダーは発射した自らのミサイル群を捉えている。ミサイルの反応は次第次第に目標へと近付いていき、第一艦橋、そしてCICに居合わせる乗組員たちはその趨勢を息を飲んで睨んだ。

 「ミサイル消失!」

 しかし着弾する間際、ミサイルの反応は忽然と消失する。既に幾度もの戦闘でわかっていたとは言え、やはり攻撃が無効だということを示された乗員は、無言のまま肩を落とした。

 「構うな。ミサイル第二波撃て」

 そんな空気を引き締めるように、東山は強い口調で指示を飛ばす。そして第一艦隊は再びミサイルを発射するが、やはり敵に着弾する前にミサイルは消失してしまった。彼は歯ぎしりする。

 「敵接近!」

 そうこうしている内に、駆逐イ級が目視戦闘可能範囲の中に入るまでに接近してきた。深海棲艦は速い。この距離まで接近された艦隊は深海棲艦から逃げることが出来ず、すべて撃滅されてしまっている。

 「砲で対応しろ。面舵20」

砲での応射を指示しつつ、東山は少しでも距離を保つ為に変針を指示する。

 進行方向から見て右へと曲がりながら、<ちょうかい>以下砲を備える各艦は接近する深海棲艦へ向けて砲を旋回させた。

 「目標、駆逐イ級。主砲、照準よし」

 「撃ちぃ方はじめ」

 そして始まる砲撃。

 第二次大戦時の重巡洋艦ほどの艦影を誇るこんごう型イージス艦だが、搭載している砲は小口径の速射砲だ。速射砲からの砲撃は連射速度が早く、第一艦隊は左舷から接近する深海悽艦に対して砲で弾幕を張るようなカタチになった。

海面に水柱が何本も立っては消える。飛び盛る砲弾の中でも、深海悽艦の進攻速度が緩むことはない。そして直撃コースにあった砲弾は、深海棲艦の放つ霧により着弾間際に揺らめくようにして消える。やはり攻撃はまるで効く気配がない。

 ふと、一つの駆逐イ級が光を放つ。すると一瞬キラキラとした光が連なったような火線が現れ、その斜線軸にいた護衛艦を吹き飛ばした。

 「<むらさめ>、轟沈!」

 攻撃を受けた艦は衝撃で船首が浮き上がり、船体を破壊されて傾斜し沈没していく。

 そしてその一撃を皮切りに、一撃また一撃と敵の攻撃が開始される。すると僚艦は次々に船体を破壊されて轟沈してゆき、第一艦隊は瞬く間にその戦闘能力を削り取られてしまった。

 「<いなずま>、戦闘不能」

 そしてまた火線が伸びる。その一撃はついに<ちょうかい>に及んだ。被弾の衝撃が艦を揺さぶる。

 「左舷前部に被弾!」

 「消火急げ」

 「ダメージコントロール!」

 奇跡的にも致命傷は免れたが、<ちょうかい>は速度が低下し、的も同然の状態となった。艦橋内の手摺に掴まって衝撃に耐えていた東山は、第一艦隊の状況を確認する。

 全12隻の内、既に無傷の艦は一隻と無く、さらにその大半が戦闘不能だった。

 (やはりなす術はないか…)

 その状況を見て、東山は内心でそう呟く。こちらの攻撃は全て無効化され、その上敵はこちらを一瞬で戦闘不能にしてしまうほどの攻撃力を有している。

 (しかしここで深海棲艦の進撃を許せば、もう後には日本本土しか残ってはいない)

 ハワイ諸島事件は砲撃による攻撃だった。それは深海悽艦の中に砲撃に特化した能力を持つ個体が存在することを示している。もしここでこの第一艦隊が撃滅されてしまえば、各国沿岸都市への砲撃を許してしまうことになるのだ。

 (敵をこれ以上進めさせるわけにはいかん。だが方法が無い。我々はどうすればいい?)

 「敵イ級一体、接近してきます!」

 半ば自問自答に近いことを考えていた東山に、敵接近の報が入る。その駆逐イ級は、一直線にこちらへと向かって距離を詰めて来ていた。

 「この距離の詰め方は雷撃だ、回避!」

 「ダメです、速度が足りません」

 東山は急ぎ指示を出すが、被弾し速力が低下している<ちょうかい>には回避など不可能だった。このままでは雷撃を行われてしまう。

 万策尽きた東山は終わりを悟った。日本が、そしてアジアの国々が、ひいては世界中の海に面した国々が深海棲艦の脅威に晒されてしまっても、もはや深海棲艦に対抗する術は無い。この海戦はそれを改めて示した。人類は深海棲艦に勝ち得ない。負けるしかないのだと。

 (やはり、負けるしかないのか…)

 圧倒的な深海棲艦の優位。その無情な現実を突きつけられた東山は、今正に絶望しかけた。だがその時。

 「!!」

 どこからともなく飛来した砲撃により、<ちょうかい>に接近していた駆逐イ級が爆散した。

 「なんだ!?」

 「深海悽艦が爆発した?」

 「何が起こった?」

 深海棲艦が攻撃を受けて爆散する。そのあり得ない事態を間近に見て、<ちょうかい>の乗員たちは騒然とした。

 東山は窓へと駆け寄り、海上を見渡す。するとまた一撃が降り注ぎ、駆逐イ級が撃破された。

 「砲撃は南西方向からです」

 その砲弾が飛来した方向を知ると、東山は艦橋備え付けの双眼鏡でその方向を確認する。すると彼は、その先に信じられぬ物を見た。

 「海上に…少女?」

 

 

 

 「敵が左右に展開しました。長門さん、右の2隻を頼めますか?」

 「任せろ。あれしきの敵、この長門の敵ではない」

 少女たちは海原を駆けていた。数は多く、広い範囲に合わせて十数人以上が居るだろう。

 彼女らは海上にいても地面の上にいるかのごとく自然に立ち、水面下に沈む気配は無い。そして少女たちは、決まってその身に砲や魚雷を備えた武器を装備していた。

 「一番二番砲搭。撃てぇ!」

 その先頭に立つ一人、長門と呼ばれた長身の少女は、腰にマウントされるカタチで武器、擬装を装備し、その前部に装備された二つの連装砲を発射する。

 爆音と共に撃ち出された砲弾は、放物線を描くように飛翔し、一体の駆逐イ級を仕留めた。その攻撃は深海棲艦が放つ霧に晒されても消えず、有効な攻撃を行えるのである。

 そして次の斉射で、彼女の任された右の深海棲艦は全て撃破された。

 「終わったぞ大和。手伝いはいるか?」

 「いえ、大丈夫です。これで済みます」

 そして彼女の横にいる大和と呼ばれた少女は、長門のものより巨大な擬装をもって敵を攻撃する。

 左右に付いた大きな三連装砲。その六門の砲は敵を捉えると、圧倒的な火力をもってそれを凪ぎ払った。

 その砲撃の一部始終を見ていた東山は、<ちょうかい>の艦橋上で唖然としていた。自分は何を見たのか、これは現実なのか、彼女達は何者なのか、一体どうやって深海棲艦を倒したのか?

 深海棲艦が倒された。それだけでも十分に驚くべき事態だが、さらにそれを行ったのが海面に立つ少女達となれば、なおのこと目前の光景が信じがたかった。

 しかし現実として彼女たちは深海棲艦を撃破した。その事実と違和感を堂々巡りのように考えていく内に、いつしか東山は自分が笑みを浮かべていることに気付いた。彼は分かったのだ。

 「人類にはまだ希望がある」

 そう、東山は気付いたのだ。彼女達こそが深海棲艦に対する人類の、唯一の希望なのだということを。

 「あのー!」

 そうこうしている内に、既に行き足が止まっていた<ちょうかい>のすぐ近くへと先程の大和と呼ばれた少女が来て、艦橋に向かって大声で呼び掛けていた。

 「司令官の方に取り次いでいただきたいのですがー!」

 この出会い。3月6日のこの日に起きたこの出会いが、人類と艦娘との運命的な出会いであった。




ということで第1話でありますが、このシリーズは事前に書き溜めがありますので、4話まではさっさと投稿していきます。4話以降は不定期となります。
かなりリアリティを出すことを意識した書き方をしていますが、あくまでリアルでなくリアリティ、それっぽさ優先でやっております。
でも勉強になるからミリ描写諸々のツッコミはガンガンしていいよ!
よろしくね!
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