艦これ戦記 ~明日を開く少女たち~   作:戦艦

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#5~チューク諸島遭遇戦8~

 「うわ、あの子ら戦艦型撃破しちゃっとるよ」

 白露達よりはるか後方の海上で、艦載機越しに三人の居る海域を見下ろした龍驤は、最大の目標であった戦艦型が既に居なくなっているのを見てそう驚く。

 「でも白露は大破してるみたいだし、時雨と夕立は駆逐艦型に取り付かれてる。あの駆逐艦型は掃討をしないと安心は出来ないよ」

 だが隼鷹は、戦艦型が沈んだ今も夕立と時雨が不利な戦いをしているのを見て、敵駆逐艦型の群れを撃破する必要を訴えた。

 「三人を助けるわ、攻撃はじめ」

 そして飛鷹の指示で、攻撃隊は駆逐艦型の群れに突入する。間に合う機を寄せ集めて向かわせたためその数は50機ほどしかいないが、駆逐艦型を五体を焼き払うならそれで十分だった。

 「うわぁ、すっごぉい・・・」

 大破したために駆逐艦型との戦闘の外にいた白露は、攻撃隊の爆撃を見てそう呟く。攻撃隊の爆撃と雷撃は怒涛の勢いであり、次々に投弾される爆弾や魚雷によって駆逐艦型周辺の海上は文字通りの火の海と化していた。

 「白露、大丈夫!?」

 そんな彼女の元へ、爆撃に巻き込まれないよう退避してきた時雨と夕立が駆けつけて来て声を掛ける。

 「大丈夫だけど・・・」

 白露は二人ににそう返しながら、夕立の方をまじまじと見つめる。

 「ねぇ夕立。さっきのあれ、夕立がやったの?」

 「あれって?」

 「えっと、魚雷」

 「・・・うん」

 彼女の白露の見た魚雷。それは二人のやってきた方向から飛んできていたものであり、その直前に夕立が上げていた声もあって彼女はそれが夕立のしたことなのだと思ったのだが、彼女はそれを肯定した。

 「よく投げようって思ったね。ていうか魚雷って安全装置なかったけ?」

 「あったと思うけど、これしかないって思って投げたらなんか起爆したっぽい」

 「そ、そっかぁ・・・」

 彼女は白露が撃たれそうになっていたその時、主砲では火力が足りないと考えて、滅茶苦茶な手段だが魚雷を投げつけたのである。それは白露の窮状を見て咄嗟にしたことでるが、本来魚雷は安全装置のために着水しないことには起爆するはずはないのだ。

 だが彼女の投げつけた魚雷は何故か起爆したのである。それは不可思議なことだったが、そもそも艦娘の艤装自体よくわからない代物なのだから、こういうこともあるのかもしれないと白露は思った。

 「まぁこれで、やっとひと安心出来るっぽい」

 そして大破した彼女に肩を貸しながら、夕立は業火の中で駆逐艦型が焼き払われていくのを見てそう安堵する。彼女達が戦艦型を撃退したことでウェノ島の資材が焼き払われる危険は無くなり、残る駆逐艦型も撃破されて、もう周辺に彼女達が倒すべき敵も危害を加える敵ももういなかった。戦いは終わったのである。

 「それにしても助かったよ白露。白露が来てくれなかったら、僕達はたぶん沈められてたと思う」

 夕立と共に肩を貸しながら、時雨は白露にそうお礼を言った。もしあの時あのまま戦艦型の攻撃を受けていたなら、二人は間違いなく轟沈させられていただろう。それだけに、白露が来てくれたことが時雨には本当に嬉しかったのだ。

 「えへへっ、いいタイミングだったでしょ?」

 そんな彼女に対して、白露は調子良く笑って見せる。それがなんとも彼女らしくて、時雨もまた笑みを零し、それは夕立にも伝播してその場は和やかな雰囲気に包まれた。

 その安堵感の中で、ふと時雨は夕立に一つあることを尋ねようかと考える。だが彼女は、笑う夕立を一瞥した後にそれをやめた。

 (まぁ、気のせいだよね・・・)

 時雨は自分の見たものに対して、そう結論付ける。それはほんの一瞬彼女の目に映っただけのものであり、故に時雨はそれをあえて尋ねるほどのことでも無く、ただの自分の見間違えだと考えたのだ。

 しかしその結論に反して、彼女の見たものは見間違えなどではない。その一瞬時雨が見たもの、それは戦艦型に向けて魚雷を投げつけたその瞬間に、その瞳が普段の緑から燃えるような赤へと変色した彼女の姿であった。

 

 

 

 「窮地は脱したか」

 その頃<きりさめ>の渡辺長官は、戦艦型撃破の報を聞いてひとまず安堵していた。

 それまでが順調だっただけに、戦艦型のために全てが無に帰しかねない状況になった時は絶望しかけたものである。それが駆逐艦のみでよくも阻止出来たと思えば、彼は歓心せずにはいられなかった。

 「よし、ここまま畳み掛ける。第七機動部隊は攻撃隊が編成出来次第最後の空母型に攻撃を掛けろ」

 この作戦の終わりも近い。後残る敵は空母型を含む一個集団を除けば後は居ないも同じであり、彼は敵空母型への攻撃を指示した。

 「長官、第七機動部隊より入電」

 「読め」

 だが渡辺が空母集団への攻撃命令を下した直後、空母艦娘たちから作戦司令部に報が入る。

 「”敵空母型、東ノ方角二向ケ転進、撤退セリ”とのことです」

 「撤退?」

 だがその報を聞いた彼は自分の耳を疑った。

 「追撃しますか?」

 金田艦長は渡辺に伺いをたてる。だが追撃の指示は出せず、彼らは撤退する空母型を見逃すしかなかった。どのみち攻撃隊を収容して再出撃準備が完了する頃には、空母型は海の彼方に消えているのだろうから。

 そして午前10時。環礁内に展開していた第六主力部隊と第七機動部隊の航空攻撃による敵の掃討が完了すると、戦闘はそこで終息する。

 「・・・とりあえず、これでなんとかなりましたね」

 「うむ…」

 敵航空戦力の思わぬ出現、<たかなみ>の轟沈、戦艦型の出現。どれを取っても想定を超えた事態であるが、その全てをなんとか乗り切った今、第二艦隊は作戦を成功させて勝利したのである。しかし安堵の表情を見せる金田に対し、渡辺の表情は優れなかった。

 「表情が優れませんね、大丈夫ですか?」

 「いや、敵の動きが気になってな。不審だとは思わないかね?」

 「空母型撤退の件ですか・・・」

 彼の表情が優れないのは、敵の見せた不可解な行動に激しい違和感を覚えていたからである。敵の空母型が撤退したことは、作戦に対しては良く働いたことであるが、それがこれまでの深海棲艦からは考えられないような行動であることを思うと、悪い予兆のように思えてならなかったのだ。

 「深海棲艦が撤退するなどと、不審に思えてならない。あれらは危害を加えることには積極的でも、自分を守ったり、退くということなどは全く考慮に入れていないはずだ。それが撤退だと・・・」

 敵の行動の変化。それはまったく予想だにしない新たな脅威の前触れなのではないかと、渡辺にはそう思えてならないのだ。

 「あの空母型が逃げていった東の海の先には、例えばまだ見ぬ新しい深海棲艦のような、何か未知の 脅威があるのかも知れん」

 「未知の脅威・・・ですか」

 だから彼は素直に喜びはしないのである。目の前の戦いに勝っても、また次の戦いは巡ってくるのだ。

 「もっともそれをどうこうするには、今の我々は傷付き過ぎている。ひとまずは太平洋諸島作戦を完遂しよう」

 なんにせよチューク諸島は、今や人類の勢力圏下に戻ったのである。そして今彼らに出来ることは、ここに基地を設営するという本来の任務に立ち返ることであった。

 

 

 

 「村雨ーっ!」

 改めてウェノ島に上陸した時雨たちは、物資の陸揚げされた海岸へと戦闘終了と共にやって来ていた揚陸隊の中に毛布を被った村雨を見つけて、そこに駆け寄る。特に夕立は名前を呼びながら彼女を抱き締めて、その無事を喜んだ。

 「もぉ、そんなにくっつかないでってばぁ。って白露、大破したの?」

 自分にしがみつく夕立にそう言いながら、村雨は時雨の後に付いて歩く大破した白露を見て、そう心配する。彼女は衣服がボロボロになって、全身煤でうっすらと黒くなっていた。

 「あ、大丈夫へーきへーき。お姉ちゃんはなんともないよ!」

 そんな彼女の心配に対し、白露はそう返して見せ、自分が元気であることを煤まみれのまま胸を張って見せつける。そんな白露の素振りには、時雨も笑わずにはいられなかった。

 彼女達がそうやって無事を確認する傍らで、揚陸隊は本来の任務に戻りつつある。太平洋諸島作戦の目的である哨戒基地の設営。そのために彼らは、これから陸揚げされた多数の物資や重機を使って、ウェノ島の飛行場を利用可能に再建するのである。それが終われば、このチューク諸島での作戦も完全に完遂されるのだ。

 「ところでさ、食事会どうしよっか・・・」

 ウェノ島を離れ、環礁内で投錨した<きりさめ>へと帰艦する内火挺に揺られながら、白露はそうみんなに向けて尋ねる。

 「食事会・・・ね」

 時雨はそんな彼女に対して、言い澱むようにそう返す。チューク諸島作戦は、確かに最終的な勝利を得て、人類の勝利に終わったものの、そのために払った犠牲は多かった。

 「<たかなみ>が沈んじゃってるし、ちょっとやりづらいっぽい・・・」

 護衛艦<たかなみ>の轟沈によって、その乗組員約175名は全員が犠牲となり、海に沈んだのである。それは第二艦隊の半分が失われたということであり、そんな中で浮かれて食事会など、真っ当な神経があれば出来るものではなかった。

 「だよね・・・」

 時雨たちからその状況を聞いていた白露は、それが難しいことだと確認して、残念そうに気を落とす。しかし内火挺が<きりさめ>の近くまで来ると、四人はその甲板上にあるものを見つけた。

 「司令官だ・・・」

 それは甲板に出て、彼女達を迎えに出てきていた横手の姿である。手刷りを両手で握って、こちらを安堵の表情で眺めていた。

 「なんか、やんなくても大丈夫っぽい?」

 「うん、みたいだね」

 その姿を見て、夕立は食事会がもう必要でないことを悟る。チューク諸島作戦における第十七護衛隊に振りかかった思わぬトラブル、そらが彼にも認識の変化をもたらしたのだろう。

 「おーい、司令ー!」

 そんな横手に白露は手を振る。なんにせよもう四人は横手との間に、不自然な距離感が開くことは無さそうであった。




ご読了ありがとうございました。
今回のお話は#2に続く第二艦隊編のお話で、当面の区切りのお話です。次回以降は当分第一艦隊が主役となっていくはずで、もしかしたら本土の子たちにもまた視点が移るかもしれないです。
さて#5のテーマは航空戦力でした。ただ航空戦でないのは、その撃破を搦め手で行ったからです。より真っ当な航空戦は描きませんでしたが、そういった戦闘は第一艦隊がやってくれるでしょう。
さて航空戦力についてですが、艦隊これくしょんのプレイヤーにとってヌ級から始まる深海棲艦の空母型や、あるいはその艦載機は馴染み深い存在ですが、よく考えれば海から来た害獣が何かを飛ばして遠隔攻撃してくるということは、その世界観に生きる人々にはあまり現実的な可能性として考えづらいことでしょう(ただし艦娘は空母型の存在にあまり驚いていないようですが)
つまり今回のお話は、そういう想定を下敷きにした、きっと深海棲艦が突然艦載機を飛ばしてきたら人類はあわあわして、その対応に一喜一憂するのだろうな、というシミュレーション要素の入ったお話だったのです。
この未知の敵との戦いという要素を考えながら艦娘の生きる世界の戦記を妄想するというのは、なかなか面白いものがあるのです。
ではまた6話で。
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