艦これ戦記 ~明日を開く少女たち~   作:戦艦

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#2~太平洋諸島作戦4~

 硫黄島作戦から二日後の4月21日。第二艦隊は次なる目標、マリアナ諸島サイパンの奪還のため、マリアナ沖に到着していた。

 サイパン島作戦の目的は、同島にあるサイパン国際空港復旧のための人員、物資の輸送と、そのための制海権確保である。つまりやることは硫黄島作戦と同じであった。

 そして午前5時。サイパン島作戦の開始は数分後に迫っている。

 第二艦隊を構成する<たかなみ><きりさめ>の二艦は、それぞれ重巡洋艦娘を主体とした水上打撃部隊である第六主力部隊、軽空母艦娘を主体とする第七機動部隊の、役割に特化した二つの部隊をそれぞれ擁していた。その中の第六主力部隊、第七機動部隊から重巡洋艦娘からなる第六、第七戦隊と、軽空母からなる第四、第五機動戦隊がそれぞれ夜の内から出撃して、サイパン島近海に展開している。

 その内の第六戦隊に所属する重巡洋艦娘の古鷹は、母艦である護衛艦<たかなみ>を出てサイパン島沖合い約40Kmを、第七戦隊と共に同島を目指して航行していた。

 「くあぁぁ」

 「加古、緊張感ないよ」

 「あ、ごめん」

 古鷹の後ろで大きなあくびを漏らした加古を、彼女は諌める。第六戦隊が戦闘を行うのはこれが初めてであり、本当ならもっと緊張していてもいいものなのだ。

 「まぁでも、眠いよねー」

 「もぉ、衣笠まで」

 しかし戦列の最後尾にいる衣笠も、言葉に緊張感を欠いている。この部隊は古鷹を除いて、誰をとってもどこか気が抜けていた。

 「まぁまぁ、出撃したのは二時だったしわけですし、航空隊の攻撃が終わるまではひとまず待機なんですからいいじゃないですか?」

 そしてその急先鋒である青葉が、場を仲介するようにそう言う。

 彼女の言う通り、第六戦隊は味方の航空攻撃が終わるまで待機していなければならない。それは大平洋諸島作戦における基本的な戦術が、航空戦力による敵の掃討だからだ。それはこのサイパン島作戦でも変わることは無く、主力戦隊の仕事は航空隊による攻撃後に、統制が乱れた敵を掃討することなのである。

 「あ、日が」

 そうこうしていると、東の水平線から煌々とした光の塊が現れ、古鷹はそれを目を細めつつも眺めた。日の出である。

 「作戦開始ですね」

 青葉が言った。

 

 

 

 「敵の集団を発見。サイパン島北岸、サバネタ岬沖に巡洋艦型4、駆逐艦型6。南岸オブジャン海岸沖合いに駆逐艦型4」

 作戦開始から30分が経った頃、機動戦隊からさらに20km後方の位置で待機している<たかなみ>の艦内に設置された第二艦隊作戦指令部へ、サイパン島沖に展開していた第四、第五機動戦隊からの索敵報告が入る。

 「流石に二度は無いか・・・」

 <たかなみ>を母艦とする第六主力部隊の総司令であり、第二艦隊の司令長官も担当している小松海将補は、<たかなみ>艦上でその結果を聞いてそう呟いた。

 深海棲艦はサイパン島北岸のサバネタ岬の沖合いと、南岸のオブジャン海岸沖合いで合計2集団が存在している。硫黄島とは大違いだが、そもそもサイパン島は硫黄島の6倍近い面積を持つ広大な島であり、深海棲艦がそこにたどり着いて居着くいていてもおかしなことではなかった。

 「第四、第五機動戦隊および、第六、第七戦隊に指令。第四機動戦隊はサイパン島南岸の敵集団を攻撃。第五機動戦隊は北岸の敵集団を攻撃せよ。第六、第七戦隊は第五機動戦隊による空撃の後に北岸にて残敵の掃討に当たれ」

 小松は指示を下す。南の脆弱な敵集団は搭載機数の多い飛鷹型と龍驤によって構成された第四機動戦隊により確実に殲滅し、より強力な北の集団に主力戦隊を集中させて、第五機動戦隊の航空戦力との連携によりこれを撃滅する。それが彼の判断だった。

 

 

 

 「指令部から入電。第四機動戦隊の攻撃目標は南岸の敵集団、第五機動戦隊の目標は北岸の敵集団です。全攻撃隊発艦始め」

 午前5時40分。作戦指令部からの指令を受けて、硫黄島作戦と同じく前線指揮を任されていた飛鷹は、第四、第五機動戦隊に攻撃準備を命じた。

 艦載機の発艦準備に取りかかった彼女達は、まず初めに護衛の戦闘機から発艦させるために、打ち出す矢や形代を索敵機から戦闘機のものに変える。そして打ち上げられた矢や形代は、索敵機の時と同じく航空機に姿を変え、攻撃機の発艦を待って彼女達の頭上を旋回していた。その戦闘機は零式艦上戦闘機、零戦が縮小された姿をしている。そして戦闘機に続いて攻撃機の打ち上げが終わり、上空に小さな零戦と九七艦攻による編隊が完成すると、それらはサイパン島に向けて飛び立った。

 かくして5時45分。両機動戦隊は攻撃隊を発艦させ、指定された敵集団に対してそれぞれ攻撃を開始する。

 第四機動戦隊航空隊が南岸オブジャン海岸沖合いの上空へと到達すると、飛鷹達は艦載機を通して駆逐艦型4体からなる深海棲艦集団を改めて捕捉した。そして彼女達が攻撃の指示を下すと、総勢129機からなる攻撃隊の波状攻撃が始まる。その物量により、4体の駆逐艦型は瞬く間に海の藻屑と化した。

 これと同時に、第五機動戦隊航空隊も北岸サバネタ岬沖の深海棲艦集団に対して攻撃を開始する。軽空母鳳翔の指揮する第五機動戦隊は航空隊に攻撃を指示し、駆逐艦型6体の内4体を撃破、1体に損害を与え、深海棲艦集団の半数を撃破したのであった。

 そして第六戦隊と第七戦隊が、航空攻撃によって漸減された北岸の敵集団に接近する。航空攻撃が終わり、戦闘は砲撃戦の段階に移行しようとしていた。

 

 

 

 「敵艦隊捕捉。砲撃戦用意」

 作戦指令部からの指令を受けて北岸サバネタ岬沖に進路をとっていた第六、第七戦隊は、索敵機を飛ばして航路修正しつつ、予定通り敵集団と会敵していた。

 第六戦隊旗艦古鷹が敵を捉えると、敵もそれに呼応するように進路を変針し、両集団はすれ違おうとする位置取りとなる。反航戦だ。

 「撃ち方、始めてください」

 単縦陣の先頭に立つ古鷹は、第六、第七の両戦隊の指揮をとる。彼女の指示により、各艦娘は砲撃を開始した。

 第六、第七戦隊は重巡洋艦型が合計8人であり、巡洋艦型と駆逐艦型が合計6体である敵集団に対して、数的にも戦力的にも有利である。だが後にチューク諸島での作戦も控えている以上余計な損害は許され無いため、例え弱小と言えど手抜きは出来なかった。

 「2番目のホ級に着弾。被害甚大みたいです」

 青葉の砲撃が、敵集団の前から2番目の位置を航行する巡洋艦型のホ級に直撃し、大打撃を与える。ホ級は背負うように備えた砲のような構造物を破壊され、そこから緑がかった色の霧のような気体を吹き出した。

 「雷撃戦用意!」

 その後も砲撃が続き、第七戦隊の三熊が先の航空攻撃で破損していた駆逐イ級を仕留めていたが、その他はまだ健在であり、被弾したホ級以外は雷撃が行える状態にある。敵が高速で突っ込んでくるのを見て、古鷹は雷撃戦用意を指示した。

 深海棲艦の雷撃は、圧縮された衝撃波が飛んでくる。護衛艦なら瞬く間に船体が断裂する威力を持つそれは、極めて脅威的な攻撃だ。

 「撃て!」

 機制を制するため、古鷹は敵に先制して雷撃を指示する。だが、小さく、俊敏に動くことのできる深海棲艦は、放たれた魚雷を容易に回避してしまった。

 「ええーっ!命中無し!?」

 その結果に衣笠が声を上げる。撃てば当たるとまでは思っていなかったが、ここまで当たらなかったのは予想外のことであった。

 そうこう言っている内に今度は敵からの雷撃が飛んでくる。ザッ、という音と共に空気を切り裂きながら、敵の雷撃は彼女たちのすぐそばを掠めていった。

 その音は、直撃時の威力を生々しく想像させるものであり、背筋を寒くさせるには十分である。発射体勢から弾道を読みやすく、十分に回避の余地があるという点では救いがあったが、それを考慮に入れても敵の雷撃は艦娘にとって十分恐るべきものであった。

 雷撃が過ぎると、敵は詰まった距離を離さないようにそれぞれ単独で、まとわり付くかの如く艦娘に迫る。それは統率も規則性も無いがむしゃらな乱打であり、第六、第七戦隊は単縦陣を維持出来なかった。

 「うわっ!こっちくんな!」

 第七戦隊の鈴谷は、至近距離への直接射撃で巡洋艦型ヘ級の半身を吹き飛す。ヘ級はバラバラになり、そのまま海の中へと没していった。

 「みんな落ち着いて、火力を集中して!」

 古鷹は声を張り上げる。深海棲艦の肉薄に一時は体勢を崩された第六、第七戦隊であったが、敵はそもそも彼女達の半数しかなく、またそこからさらに撃ち減らしたこともあって、体勢を立て直す余裕を今は得ていた。

 「一度距離を取って!仕切り直します!」

 雷撃距離から出るために、古鷹は離脱を指示する。そして指示に終わらず、彼女は僚友に食い付こうとする敵に牽制射撃を加えて、その距離を引き剥がした。

 「再突入します、続いて!」

 そして再度単縦陣を組み直すと、第六、第七戦隊は二度目の突撃を行う。残敵は3体、それは最早脅威ではなかった。

 「ふぅ、終わったね」

 数的有利の半包囲で火力を集中し、各個撃破で敵を完全に撃滅すると、衣笠は安堵したようにそう言う。

 「意外と手間取りましたねー」

 その衣笠の言葉に合わせるようにそう言う青葉であったが、彼女自身は汗一つかかずにけろりとしており、とても気苦労を感じたようには見えなかった。

 「みなさんご苦労様、帰艦しましょう」

 そして敵集団撃破を<たかなみ>に打電していた古鷹は、司令部からの帰投命令を第六、第七戦隊の全員に伝える。

 「ん、緊張途切れたらまた眠くなってきた。早く帰ろう」

 そして戦禍をくぐり抜けても、加古は相変わらず気が抜けたままであった。

 

 

 

 サイパン島近海の掃討を終えて制海権を確保した第二艦隊は、硫黄島の時と同じく第三艦隊の到着を一日待って、22日から揚陸作業に取り掛かった。

 輸送部隊が上陸すると、彼らはそこで悲惨な光景を目の当たりにする。サイパン島は完全に焦土と化していたのだ。

 市街地に原型を留める建物は一つとして無く、瓦礫と瓦礫の間には焼けて赤黒く変色した人骨が無数に散乱している。深海棲艦の沿岸からの砲撃により、全て破壊しつくされたのだ。

 後に発見された生存者によれば、太平洋の制海権が深海棲艦に奪われて以降サイパン島は、極めて悲惨な状況にあったという。

 元々観光業を主要産業としていた同島は、その収入源が閉ざされたことにより経済が崩壊したことで、貧困と暴動が蔓延する危機的な混乱状態に陥っていた。

 そして住民が疲弊の度合いを強める中ついに深海棲艦が沿岸に来襲し、市街地や空港などをはじめとした人工物をに対して数週間にわたり砲撃を続けたという。

 市街地を脱し、砲撃をなんとか凌いだ者もいたが、食料という食料はその大半が砲撃による火災で焼失し、潜伏する深海棲艦のために漁もままならないたため、生存者は飢えることとなった。そういった状況で人々は、僅かな食料を巡って自然と争い、殺しあったという。

 そうして当初4万人弱いたサイパン島の住民は、最終的には200人に満たないまでに減少したというのだ。

 これが深海棲艦により同島が被った被害の全てであったが、この惨状がサイパン島だけのものではなく、同じように太平洋に浮かぶ他の島々でも起こっていることであるというのは、想像に難くない。故に人類は一刻も早く、深海棲艦から制海権を奪還する必要があるのである。この理不尽な暴力を、一刻も早く止めさせなければならないのだ。




ご読了ありがとうございます、第二話でありました。
この第二話は白露型の4人を主軸に第二艦隊の戦いを描いておりますが、あくまで彼女達はこの第二艦隊編とでも言うべき話の主役であって物語全体での主人公ではありません。
そして次の三話において、お話は一旦第二艦隊から離れて、主人公もまた別の艦娘となります。
このようにオムニバス形式で多方面の戦いを時系列に沿って書いていくのが本作のコンセプトであります。
もちろん第二艦隊の物語も、時系列の進行に従ってまた続いて行きます。
ではお暇がございましたなら、またよろしくお願いいたします。
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