さて今回のエピソードは……サブタイのまんまです(^^
西住試験中隊とサンダース戦車中隊の激突! その果てには……?
あっ、あと原作とちょっとソウルネームが変わってしまった娘とかいます(えっ?
みほと一刻も早く再会したいケイが、一足早く富士機甲学校に着いたのは前話で語ったとおり。
あの後、みほの案内で校長室で滞りなく着任の挨拶を終わらせたわけだが……
その時、こんなやり取りが細見との間にあったという。
「Captain Saunders, Why did you come in Asia? (サンダース大尉、君は何故アジアまで来たのかね?)」
するとケイはにやりと笑い、
「
細見は目を細めながら満足げに頷いたという。
翌日の朝、
副官二人が代表して着任の挨拶を行い、その日は荷降しと顔合わせ、車両の搬入/整備に当てられた。
夜は当然、歓迎会だ。
副官という立場上、みほの傍(隣ではない)に座らされたアリサの顔が終始引きつってたことは記載しておく。
翌日は互いの戦車の試乗。
みほ達はM4中戦車の機械的完成度の高さに、ケイ達はカタログ・スペック的には大差ないのに明らかに優れた試製一式中戦車の性能に大いに驚くことになる。
そして三日目は……
***
「ファイヤ!」
「Fire !!」
ケイ来日から三日後、準備が終わった
富士機甲学校の敷地内にある総合演習場を所狭しと走り回る2個中隊に日米新世代中戦車は、その開発者達が見守る中、
純粋な戦車同士の戦いは長距離砲戦から始まるが、命中精度の問題で特に
「
と、あえて
無論、出鱈目にバラバラに突撃するわけじゃない。
一見乱雑に見えても、その戦車一両一両の動きは、きちんと整合性が取れていたのだ。
むしろ敵に「ヤケクソじみたバラバラの突撃」と認識させることが、この”陣形”を成功させる肝なのだ。
単純な技量差だけでなく砲や照準機の性能など複合要因で決まる”有効射程の長さ”で勝敗が大きく左右される遠距離と違い、敵味方双方とも命中率が跳ね上がる
一応、日本娘より大柄な娘が多いサンダースの方がパワーがあるはずなので、特に筋力が大きく物を言う装填手が差が出るはずだ。、
(速射性ならワタシ達が有利!)
ケイは命中精度の差を発射速度で補う判断をしたようだった。
そしてその情況を作り出すのにうってつけの陣形があった。
ケイ曰くアメリカン・フットボールの試合を観ていた時にインスピレーションが湧いたらしい「一見すると陣形に見えない戦術陣形」、その名も……
「”
敵が統率の取れてない各個突撃と思い込む幻惑効果があるこの陣形は、陣を「線の繋がり」でなく「空間全体」として考えることを基本としていて、散弾粒のようにバラバラに飛び込んでくるように見えるサンダースの戦車は、実はどの戦車が敵のどの戦車を相手する……撃破するだけでなく押さえ込んだり、連携を妨害したりすることも含めて割り振られ、そして互いが互いをフォローできるように動くのだった。
これこそが教科書どおりに綺麗な隊列を整えて横一列や縦一列、ちょっと変わっていても斜め一列に戦車並べて迫ってくる
普通に考えれば長距離射撃に分があるみほ達は、後進しながらの中隊統制射撃でこちらの勢いを止めにかかるだろうが、ケイにとってはそれはそれでかまわなかった。
スピードは一式が僅かに勝る(なので回りこむのは難しい)とはいえ
なら”統制のとれた分散突撃”で的を絞らせずに撹乱、命中精度より手数で決まる乱戦に持ち込むのは悪い判断じゃなかった。
しかし……
「全車、集結! ”
みほにそんな
散弾のように飛び込んでくる相手に対し、連携がズタズタにされるどころか味方を集結させ、敵のフォーメーションの密度の薄さをついて一点集中突破するさらに荒っぽい
まだドイツが画期的な
「まってました隊長殿!!」
そう叫んだのは、今や旧カバさんチームの仲間共々車長に昇格していた、「三途の川の渡し賃」を意味する金糸で縫われた「真田六文銭」の刺繍が眩しい赤褌を下着として愛用する”
ちなみに現在のコールサインは”カバ03”である。
戦国史マニア、特に真田こねつけ餅と武田信玄に仕えた名将”真田幸村”が大好物な彼女が喜んでしまうのも無理はない。
この機甲鋒矢陣は全てがみほオリジナルというわけではなく、戦国時代に定められたとされる『武田八陣形』の一つ、強力な突破力を持つ”鋒矢陣”を元に、みほが現代機甲突破戦にアレンジした物が装甲鋒矢陣だったのだ。
古の武田の戦術陣形を試せるのならば、時代は違えど武田一門に仕えみたい左衛門佐の血が騒ぐのも無理はないだろう。
***
ショットガン・フォーメーションは根本的に奇襲効果を狙った完全に攻勢陣形だ。
つまり防御にはむかない。
つまり、
「Jesus!!」
サンダースの散弾たちは、みほが用いた一点集中突破の太い鋼矢の前にいとも簡単に弾幕を貫かれた。
しかし、そこで終わりではない。
そこで攻撃の手を緩めるほど西住の血脈は甘くないのだ!
「”鏃”左右に展開します! ”カバ01”、”アヒル01”、両端を引っ張ってください!」
「
ドイツ語で『了解!』と返してきたカバ01が陣取っていたいたのは鋒矢の由来である”↑”の先端、鏃の右端で、
「任せてっ! 速攻いくよっ!」
と元気に返すアヒル01が陣取っていたのは鏃の左端だった。
みほがいるのは鏃の中央、最先端だ。
「What!?」
それはケイから見れば実戦でできるとは思えない複雑な戦術運動だった。
自分達と交錯し、大してダメージも与えられず(むしろ突破の際に行われた咄嗟砲撃で数両が撃破判定を喰らっていた)に一瞬で突き抜けた戦車の矢……その鏃を象っていた左右の一式が突然、まるでシンクロするような高速信地旋回で反転!
それにならって鏃の内側にいた他の戦車もまるで一本の神経で繋がっているように次々と反転し、矢の
「Oh my Goddes……!」
みほの中隊は自分達を半包囲する陣形、V字型の大きく開き鳥が翼を広げた姿を髣髴される”|機甲鶴翼陣”を背面展開し、サンダースに砲門を向けていたのだった……
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「見事にしてやられたわ……」
模擬線終了後、アメリカ人らしい「お手上げ」を意味する肩を窄めて両手を挙げる大きなゼスチャーのケイである。
彼女の後ろで演習弾に詰め込まれた水性ペンキをブラシで擦って落とすサンダースの面々の姿が夕日とあいまって、哀愁のあまり涙を誘いそうになる。
「それにしても”ノリコ”、”モルトケ”、しばらく会わない間にますます腕を上げたんじゃない?」
そう苦笑しながらケイが見るのは、
「へっへ~ん♪」
自慢げな顔の元バレー部で最も小柄ながらセッターとキャプテンを務めあげた元気娘、”アヒル01”こと実はひんぬー&ちみっ娘好きな彼氏持ちの”
「フフン。貴様も中々の指揮っぷりだったぞ? サンダース大尉」
そう貫禄ある口調で答えるのは外跳ねの金色の髪を短くそろえ、制帽をあわせた”カバ01”、”
”モルトケ”というのは彼女の渾名、
元ネタは『近代ドイツ陸軍の父』と呼ばれ、参謀総長としての重責に付き対デンマーク戦争・普墺戦争・普仏戦争の三つの戦争でプロイセンを勝利に導いた立役者、鉄血宰相ビスマルクとならぶプロイセンの英雄にして偉大な戦略家”ヘルムート・カール・ベルンハルト・フォン・モルトケ伯爵元帥”、通称”大モルトケ”だ。
彼女の特に中世以降の近世/近代/現代の陸戦に深い造詣を持ち、「大洗女子」の頃から例えばクラウセヴィッツの”戦争論”に対する論文や、戦争論を元に第一次世界大戦の事例を比較として検証した論文などを軍上層部に提出したりしている。
そのためについた渾名が近代屈指の戦略家”大モルトケ”にあやかったそれで、間違ってもシュリーフェン・プランを勝手に修正して主観や先入観で第一次大戦をはじめたあげく、ドイツ第二帝国を崩壊させた”小モルトケ”ではない。
蛇足ながら原作で彼女のソウルネームだったロンメルだが「砂漠の狐」と勇名を馳せたのは史実では北アフリカ戦線であり、”この世界”でも今のところは『
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「天下の名将”候補”のモルトケに評価されるなんて、光栄というべきかしら?」
「安心しろ。私は自分をそこまで過大評価していない。かといって”戦史研究室”詰めで腕を鈍らせた気もないがな?」
あまりに登場シーンが少なかったせいで覚えてらっしゃらない皆様が大半だろうが……、
特にこの実戦を潜り抜けての2チームの成長は著しく、例えばアヒルさんチームは全員が車長を務めるだけでなく、キャプテンの典子は小隊長を務めた器が認められてイタリカ師団第6戦車中隊が解散後は、貴重な実戦経験者として他の三人を率いての母校の「大洗女子」の特別
またカバさん一派の四月よりの新たな配属先は、”三軍統合参謀本部”直轄の【三軍統合歴史研究室】というディヴィジョンの陸軍班だった。
名前だけ聞くとごく平和な……民間大学の史学科の戦史特化版のような印象を受けるが、その実は「過去の戦場における事例や推移/結果、あるいは戦術論や戦略論を現代戦場に当てはめ、その結果と解釈からより有効な戦術/作戦/戦略を模索するための資料を作成する」というかなり戦闘的な活動内容なのだ。
史実の「過去の失敗例や反省を鑑みないもしくは軽んじ、自分達の失点は見なかったことや無かったことにする」という悪癖をもった旧軍とは対極に位置するような事例だった。
これはおそらく一部とはいえ帝都が、それも自分達より遥かに装備が劣るはずの敵に苦戦、四半世紀以上占拠されたという事実から、政府や軍のみならず国民レベルまで「戦争に対する意識」が様々な意味で変わってしまったことが影響してるだろう。
極端から極端に走り易い日本人らしい性質ゆえだろうが、”この世界”の「今を生きる日本人」にとって戦争は日常の延長線上にある避けられない事象の一つであり、娑婆と同じくどこまでも冷酷な現実が支配する世界だ。
故に「国家/民族の生存権」というものに史実以上にシビアに考え、戦争というものを身近にとらえる分、正直になっているといえた。
曰く「残酷な現実は、いつもこうありたいと願う理想を塗りつぶす」である。
いくら平和を望んでも決して戦争がなくならない現実を、日本人はそう受け入れていた。
***
また”
「それにしても、アンタ達の
「ごく普通だよ? 照準機はドイツ式のシュトリヒゲージ型を国内で改良した物だし、主砲は長砲身化してジャイロ効果を増すためにライフリングパターンを変えて
代表して両手にケイを小さく呻って威嚇してる
「いや確かに
するとみほ、チーム一の主砲の使い手である華に向き、
「華さん、そんなに面倒で使いにくかったっけ?」
「いいえ。慣れれば呼吸するように扱えますし、簡単に壊れるようなこともありませんよ?」
「きっとそれって、機械的な違いって言うより認識の違いよね~」
そう苦笑するケイだった。
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さて視点を勇ましい鋼鉄少女達ではなく、その戦いっぷりを特設観覧席から見学していた者たちに移そう。
「驚くべき錬度ですな。相手が乱戦目当てと見れば”ストライク・アロー”の一点突破/咄嗟砲撃でサンダースの分散合撃を食い破り、そのまま背面で流れるように”ウイング・フォーメーション”を展開、そのまま包囲殲滅……いやはや、
「お褒めに預かり光栄至極だな」
米国陸軍大佐の階級章と情報将校徽章を付けた隣に座る男に、細見は皮肉げな口調のわりには満更でもない表情で返した。
「あんな戦術機動は
「それは困るな。というかわざわざそんな
「これも
細見は隣に座る男をジロリと見やり、
「”在日米軍”参謀長補佐というのは、そんなに閑職なのかね? ”ジョージ・ローソン・コリンズ”米国陸軍大佐殿」
するとコリンズ大佐はフフッと笑い。
「別に全てがジョークというわけでもないんですがね。それは今は置いておきましょう。本日は、”本職”絡みで細見少将にとっても悪くない話を持ってきたんですよ」
「……大体、そのような切り出し方をされる話題は碌な物がないんだがな」
「そうおっしゃらずに。なに、閣下にはまだ本格的な量産は始まってないもののワンダフルな戦車とその性能を十全に引き出せる素晴らしい技量の部下がいる」
「大佐、君は何が言いたいのかね……?」
「ただのお誘いですよ。日本自慢の
「後ほど部屋で話を聞こう」
時代が動く。
少しずつ、そして確実に……
皆様、ご愛読ありがとうございました。
模擬戦&キャプテン+ロンメル改め”モルトケ”登場の回はいかがだったでしょうか?
この時代だとロンメルはまだフランス攻略で活躍した新進気鋭の将軍という感じなので、恐れ多くも大モルトケをソウルネームにしました(^^
そして、みほも大胆な戦術を使ったもんですが、ただ「戦力の集中/一点突破/背面展開/包囲殲滅」は機甲戦としては正道だったりします。
それにしても、大佐の階級章を付けた情報将校が怪しいこと怪しいこと(笑)
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!
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設定資料集
ジョージ・ローソン・コリンズ
階級:米国陸軍大佐
役職:在日米軍参謀長補佐
特記事項:”情報将校徽章”持ち
備考
モデルになった人物は第二次大戦で活躍した米国陸軍の”ジョーゼフ・ロートン・コリンズ”大将。
史実のコリンズ氏は1941年当時、臨時大佐でハワイ局の参謀長を務めていた。
また日本軍相手のガダルカナル戦を指揮し、その後に第二次大戦後半に欧州戦線に移動。第VII軍団からノルマンディー上陸作戦からドイツの降伏まで経験する。
前半は太平洋、後半は大西洋と東西またにかけて活躍した名将である。
”この世界”では、日米同盟の兼ね合いで存在する、満州コモンウェルスの後方最重要拠点である”在日米軍”の参謀長補佐を務めているらしい。
実質的には在日米軍首席参謀という評価もあるようだ。
詳細は現状では不明ながら、『サンダース戦車中隊の”引率者”』を任されている事から、切れ者なのは間違いないだろう。