活動報告に書きましたが、ちょっと不注意から事故りまして投降に間が空いてしまいました。
しばらくは少し投降ペースが遅くなるかもしれませんが、気長にお待ちいただければ幸いです。
それはさておき、今回のエピソードは……主役は日米のオッサンです(えっ?
戦場を書くといっそ清々しい破壊と殺戮描写(ヲイ)が書けるんですが、戦争を描くとどうにも腹黒い描写が増えますね~(^^
模擬戦後、外で打ち上げできない日米の装甲少女達のために酒保の扉が少々緩み、互いの健闘を称えるささやかな宴が開かれてる頃……
「ほう。満州コモンウェルス……それもハルハ河東岸戦域への慰問かね? サンダース戦車中隊の最終目的は?」
「有体に言えばそうなりますね」
細見の質問に答えるのは”在日米軍”の参謀長補佐、細見の見立ててでは
「コリンズ大佐……麗若き乙女達を騙すのは、あまり紳士的とは言えんぞ?」
細見が言っているのは、
「嘘はついてませんよ? ハルハ・イーストバンクへの慰問は、彼女達が日本に着いた後の発令ですから」
心外と言いたげなコリンズに、細見は嫌そうな溜息を突いた。
「それはわかった。それで君は……いや、”ジェフリー・シェブロン・マーシャル”中将、いや今は大統領に気に入られて大将だったな? 君達の親玉、米国陸軍参謀総長殿は我々に一体何をお望みだね?」
「大したことではありませんよ。ただ”
「つまりは試製一式中戦車の試験中隊をその”慰問”とやらに同行させろと?」
しかしコリンズは首を横に振り、
「正確には『ミホ・ニシズミ中尉が率いるテスト・タンクトルーパーズ』の同行を要請してると解釈いただけるとありがたいです」
細見は渋面を作る。
単に「試製一式中戦車を同行させたい」と言い出すなら、他の試験部隊に話を回す腹積もりだったのだ。
確かにまとめて中隊規模の試製一式の試験運用をやってるのは富士機甲学校くらいだが、実戦前提のテスト自体をやってるのはここだけじゃない。
日本全国からかき集めれば、現在の試製一式の生産数から考えれば1個戦車大隊位にはなるはずだった。
「随分とみほ君にご執心だな? 何か裏でもありそうだが?」
「裏? 例えばどんなです?」
不思議そうな顔をするコリンズに、
「例えば謀殺。戦場では敵から撃たれようと”
「Ha-Ha-Ha! それは傑作だ! 細見閣下は思ったよりユーモア・センスがおありか、あるいは
「みほ君は間違いなく”これからの日本戦車の発展におけるキーパーソン”になるよ。日本戦車の発達を快く思わない勢力が米国内にいるのなら、別に今のうちに”始末”したいと考えてもおかしくないと私は思ってるよ」
するとコリンズは興味深そうに目を細め、
「”日本戦車にその人あり”と謳われた細見”技術”少将閣下にそこまでいわせるとは、西住中尉の評価を上方修正せねばなりませんな? 貴重な情報をありがとうございます。これは情報将校としては嬉しい誤算だったな」
愉快そうなコリンズに対し、ますます渋面を深くする細見。
だが、彼は良くも悪くも空気を読まないアメリカンで、
「生憎とそれは完全に勘違いですよ。少なくとも
「何をだね?」
「西住中尉は男とか女とかいった枠組みが関係ない、『希代の装甲戦術家』になると。ドイツ人やロシア人に陸戦で打ち勝つには、彼女の力が不可欠……そう思わせるほどにね」
コリンズは心の中で「それこそ日本だけに独占させるには惜しいほどの才能ですよ?」と付け加えた。
「一米陸軍高級将校として言わせてもらえるなら、彼女は可能な限り早急にその才覚に相応しい地位に駆け上がるべきですな。彼女の本当の器がどの程度なのかは計り知れませんが……少なくとも前線装甲指揮官としての才覚は、”
「ならば今ここで、好き好んで彼女を世界有数の火薬庫へ放り込む必要がどこにある?」
「細見少将……彼女は正規軍人なのですよ? それも戦場を経験し、五体満足で生きて帰ってきた」
コリンズの認識には些か誤認が含まれてるのだが……しかし、
というより、あの出来事は今のところ『門』の向こう側にいるごく少数の人間しか真実を理解していない。
「ならば彼女が出世し、相応しい地位を得るのは戦場が最も効率的で都合がいい。しかも新型戦車のテストまでできるなら、願ったり叶ったりじゃないですか?」
***
細見はコリンズの言葉を否定したいが否定し切れなかった。
普段からみほを見守ってきた細見だからこそ、嫌でもわかってしまうのだ。
(みほ君がもっとも輝ける場所は、やはり戦場か……)
「コリンズ大佐、なぜ私に話を持ってきた? ”上”で話がつけられる内容だろうに」
するとコリンズは今までと違う種類の笑みで、
「まがいなりにも西住中尉は閣下の部下だ。それに”教え子”でもある。ならば、上官であると同時に恩師でもある閣下に話を通すのが筋というものでしょう」
(これはやられたな……)
どうやらコリンズは日本文化、あるいは日本の”シキタリ”にも精通しているようだ。
ならばここで断るというのは大日本帝国軍人としてはありえない。
「細見少将、せっかくですので閣下のお心が少し軽くなる話をしてよろしいですか?」
「なんだね?」
「既に永田陸軍長官や酒井機甲総監には話が通っている筈なんですが……この話をご承諾いただけるなら、米国陸軍は大規模な”レンドリース”を大日本帝国陸軍に予定してます。無論、来年英国支援を明確に合法化するために制定予定の”レンドリース法”発布と同時に」
それは”普通”なら、一介の陸軍大佐が知るべき内容でも話していい内容でもなかった。
今、話題に上がったレンドリースもしくはレンドリース法とは?
『その国の防衛が合衆国の防衛にとって重要であると大統領が考えるような国に対して、あらゆる軍需物資を、売却し、譲渡し、交換し、貸与し、賃貸し、あるいは処分する』
という趣旨の戦争向け物資支援プログラムで、他国から言わせれば無尽蔵の資金と生産力を持つアメリカ合衆国ならではの人類史上稀に見るダイナミックな支援法であった。
「まずは手付けとして『レンドリースとは無関係に米陸軍より無償譲渡される物資』の目録をご覧ください」
彼は持ち歩いていたブリーフケースを開いて、それを手渡す。
瞬間、細見の思考が固まった。
それは日本人の細見から見たら、あまりに剛毅豪胆……いや、むしろ非常識という代物だった。
「ちょっとまってくれ。”P-39戦闘機”というのは困るぞ? 我が国では戦闘機は空軍の管轄だ」
「ああ、それですか?」
コリンズは苦笑しながら、
「その機体、”エアコブラ”というペットネームで【バトル・オブ・ブリテン】の際、物資支援名目で英国に贈った代物なんですがね……着いて早々に『戦闘機としては使い物にならない』と烙印押されて、受け取り拒否された戦闘機なんです」
「ヲイ」
「ですが胴体に仕込まれた”37mm/
「君はこれを”
「何にどう使うかは日本陸軍にお任せしますよ」
コリンズはしれっと言い切った。
***
「そういえば閣下……いえ、日本陸軍は英国より新型戦車砲の共同開発を申し込まれたとか?」
(機密情報も何のそのだな……)
「……米国紳士諸君の手紙を盗み読む能力の高さは驚嘆に値するよ。是非とも”
ほぼ皮肉の言葉を返す細見に、コリンズは何食わぬ顔で、
「閣下、お忘れかもしれませんが我が国と英国は盟友なのですよ? 中立法が無ければ貴国同様にすぐにも艦隊を差し向けたいぐらいです」
「それで? 君達も仮称17ポンド砲の開発にでも参加したいのかね? ならばそれは我が国で無く英国に……」
「いえいえ、そうではありません。いえ、確かに17ポンド砲には我々も期待しているのですがね? だが、それまでの”繋ぎ”として閣下ならきっと興味を示しそうな物を持ってまいりました」
「……なにを、だ?」
コリンズがブリーフ・ケースから取り出し書類に示されていたのは……
「”XM1/76mm戦車砲”? いや、17ポンド砲以前に3インチ口径の戦車砲なら既に間に合っているのだが?」
「日本で開発中の
「新開発の砲というわけか」
コリンズは大きく頷き、
「ええ。そもそもM7の原型になったT-9高射砲は、ああ日本で言う八八式高射砲ですね?の原設計は”M1898沿岸砲”なんですよ。端的に言えば今から40年以上前の設計の砲です」
「それは知っているが……」
「しかし40年の間に
史実である。M10駆逐戦車と76mm砲搭載型M4シャーマンは「同じ砲、もしくは似たような砲」と誤認されることがあるが、実際には薬莢のサイズが全く違い、例えばM7/3インチ砲の薬莢が長さ585mmのボトルネック・タイプと後の90mm砲弾の薬莢に近いサイズなのに対し、M1/76mm砲の薬莢は539mmで5cm近く短く、形状も細いストレート・タイプとなっている。
「砲弾のダウンサイジングのメリットは、閣下には今更語る必要も無いでしょう?」
同じ容積への搭載量の増大に装填手の負担軽減……
それは持続射撃時間の延伸や速射性の向上という戦闘力の向上にダイレクトに繋がる。
特に米兵と比べ体力や筋力に劣る日本兵にとり、砲弾の軽量化はメリットが大きい。
実際、九九式九糎高射砲ベースの次世代戦車砲は砲弾が日本人にとってかなり重いため、装填補助具の開発が真剣に行われてるほどだ。
「既に
「……興味深い話だな」
コリンズはにんまり笑い、
「米国陸軍は、この試作砲を資料や砲製作に必要な様々なサンプルを付け、日本陸軍に”レンドリース法制定以前に、いや即座に
「太っ腹なことで何よりだ」
しかし、コリンズは苦笑しながら
「正直に申し上げれば我々の都合もあるのですよ。XM1が”M1/76mm戦車砲”として採用された暁には、M4の次期主砲として採用する予定なのですから」
更にコリンズは、「”
『日米砲弾/弾薬相互間協定』を考えれば、悩む必要も無い案件だった。
(一式改の砲塔を、一式三吋とM1の
「それにしても……米国が、”ただ一度の戦い”のためによくもここまで譲歩したものだな?」
「我々はそこまで真剣なのですよ。”今回の戦い”に負けはありえません」
***
二人の男の間に沈黙が流れる。
先に口を開いたのは、細見だった。
「是非もなしか……」
「ご納得していただけたようで何よりです」
細見は少し考え、
「ならばついでと言っては何だが、出兵まで少し時間を貰おう」
「あまり時間的猶予はございませんが?」
「なに。米国とてみほ君が率いれる戦力が大きければ大きいほど良いのだろう?」
「それはそうですが……」
少々困惑気味のコリンズに、会話のイニシアチブをようやく取り戻した細見は内心で溜飲を下げ、
「なら少し待ちたまえ。他に実戦投入可能な状態の試作車両があるか探してみようじゃないか」
と言いつつ既に心当たりがあるのに、顔に出さない細見も大した狸っぷりだった。
もっともこの程度の腹芸が出来なければ将官などやっていられないだろうが。
「時にコリンズ大佐」
「なんでしょう?」
「まさき君が……いや”君達”が声をかけたのは陸軍だけではあるまい?」
するとコリンズは途端にクセのある笑みで、
「当然、空軍にも声をかけてありますが?」
『それがどうかしましたか?』と言いたげなコリンズに細見は苦笑し、
「どうやら米国は、よほど我ら大日本帝国軍を大陸に引き戻したいようだな? 全く以て我々には不本意ながら」
「何をおっしゃってるやら。我々はただ、『日米同盟が完全に機能してる状態』を常に望んでいるだけですよ? 閣下」
「やれやれ。”物は言いよう”とはこういうことを言うのだろうな」
細見は深々と溜息を突いたという。
***
こうして、みほやケイ達の与り知らぬ所で、彼女達の新たな戦場が決まる。
しかし、そこに待ち受けているのは……
「ねえノンナ……もうちょっと食べ応えがある連中っていないのかしら? これじゃあ、まだ
「もうしばらくお待ちください。同志ジェーコフ中将閣下は大規模な作戦を近いうちに発動されるようですから」
それは現在、ハルハ河東岸一帯では日常的に起きる散発的な小規模武力衝突、その成れの果ての風景だった。
ただし、炎上している全ての戦車が”白い☆のマーク”が描かれてることを除けばだが……
そして白い☆を壊滅させた赤い☆は悠々と西へ、彼女らの拠点に向けて進路を取る。
その何事も……戦闘と呼べるものすら無かったような泰然とした隊列は、まさに覇者の風格を纏っていたという。
皆様、ご愛読ありがとうございました。
二匹の狸共の腹芸合戦は如何だったでしょうか?(ヲイ)
さすがのオッサン臭に作者も心折れそうになって、最後の最後にカチューシャ様とノンナを出したのは内緒です(^^
次回こそ女の子メインで書くぞ~。
とはいえ活動報告や前書きに書いたとおりちょっと現在負傷してるのでいつものようなペースでは書けないのが難点です。
気長にお待ちいただければ幸いです。
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!
***
設定資料
P-39”エアコブラ”
エンジン:アリソンV-1710(液例V型14気筒、1150馬力)
最高速:579km/h
航続距離:1,770 km(増槽装着時)
固定武装: 37mm/T9
搭載量:250kg×1(胴体下。爆弾ないし増槽)
備考
米国が英国支援に生産したが、史実同様に戦闘機として駄目出しされて受け取り拒否された不運な機体。
史実では一度アメリカに戻され、P-400として一部が改修された後にソ連のレンドリースに回されたが、”この世界”では英国支援用のC型相当の機体がD型仕様に改装され、『ある理由(第13話本文参照)』により日本に回されることになった。
”戦闘機として不合格”という烙印を既に英国より出されていたために、本機の陸軍への導入に空軍が目くじら立てることも無く、また同時に主機であるアリソン・エンジンが全て輸入とされたために日本の航空機生産を圧迫しないと考えられたためにすんなり陸軍の近接航空支援用の対地攻撃機(襲撃機)として採用が認められた。
しかし、最初の配備地が地球上ではなく『特地』であったのは皮肉と言えば皮肉、当然いえば当然であり、特に自慢の37mm機関砲は
また一部資料では「日本に導入される際、225kg爆弾架を250kg仕様に変更された」とあるが、これは誤解であり、アメリカはヤード/ポンド法の関係できりのいい500ポンド(約225kg)爆弾を採用していただけで、きりのいい250kgという表記を好んでいた日本のそれと大きな違いは無く、500ポンド爆弾架と250kg爆弾架には完全な互換性があった。
また増槽(ドロップタンク)の給油口や燃料のオクタン価なども日米共通であったし、銃弾も共通だった為に補給面での苦労は無かった。
蛇足ながら37mm機関砲は当時より日本陸軍が地対空機関砲として既に試験導入していたようだ。