装甲少女隊、北へ CODE1940   作:ボストーク

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皆様、こんばんわ。

今回のエピソードはちょっと閑話というか拠点イベント的な話です。
いや、前回はエピソードの九割方がどことなくオッサン臭がする物語だった為に、ちょっと女の子の日常的なシーンを書いてみたくなりまして(^^

基地内での買い物が、少女達の日常の一コマか?と言われると苦しいですが(笑)




第14話 ”フライトジャケットです!”

 

 

 

「正直に言うけどさ……時折、日本陸軍(IJA)ってとんでもなくズルイって思うのよね……」

 

「へっ? なんで?」

 

PX(偕行社)で、なんで普通にレアなフライトジャケットがこんなにおいてるのよぉ~~~っ!!」

 

ここは富士機甲学校、場所は基地内にある大規模販売施設”偕行社”。

もしかしたら現代日本人ならPX(Post Xchange)の方が通りがいいかもしれない。

普通、基地の売店と言えば”酒保”が一般的なのだが、ここは天下の富士機甲学校、日本機甲戦力開発のナショナルセンターだけあって、普通は師団司令部にしか設置されない偕行社の販売施設(おおだな)がどどんとした店構えで立っていた。

というかここに勤務してる人間の数は軍民合わせれば並みの師団を超えるのだから当然と言えば当然か?

無論、兵達が気軽に嗜好品や日用品を買える酒保(ばいてん)も普通に完備されてるあたりが心憎い。

 

どうやら”この世界”の大日本帝国軍、国家のみならず軍も英米の影響が大きく世界的に見ても福利厚生が行き届いた軍隊に数えられるようだ。

全く以て幸いなことに。

 

ちなみに陸軍の偕行社、海軍の水交社は共に史実に実在していた組織で、組織としての性質は色々在るがこと物販に関しては『軍隊版の生活協同組合』と考えてもらって差し支えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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さて、なんでわざわざ偕行社までみほ&ケイが仲良く買い物に来ているのかと言えば……話は数時間前に遡る。

 

 

 

「What!? コリンズ大佐、”サンダース戦車中隊(われわれ)”に満州コモンウェルスの西部地帯に行って来いと言うんですかっ!?」

 

その唐突な命令に、思わずケイは目をむいた。

 

「そうだ。何か不服かね?」

 

「不服も何も……合衆国(ステーツ)から出るときはそんな命令、欠片ほども聞いてませんが?」

 

「だろうな。この発令自体、つい先日に出されたものだ。我々がこの命令を受け取ったのは君達が富士機甲学校に着いた後だったよ」

 

いけしゃあしゃあと言い切る肝の太さは、さすがは情報将校というところだ。

 

「君らが無理というならそれでかまわない。君達には強力な抗命権があるのだからそれを行使し、命令を拒否すればいい。ただし……」

 

コリンズは爽やかに微笑み、

 

「『ハリウッド女優(モンロー)すらできる慰問を断った装甲中隊』という評価と評判がずっと付いて回るだろうけどね。だが、それは仕方の無いことだろう?」

 

「ムッ……!」

 

「そう怖い顔をするものじゃないな。君達は”正規軍人”ではないのだから、陸軍での評判などさして気にする必要もないんじゃないかね?」

 

中々どうしてコリンズは人を追い込むのが上手い。

 

 

 

「いいでしょう。この任務、確かにお受けします」

 

僅かな逡巡の後に、確かな決意と共にケイが告げるが……

 

「いいのかい? 慰問とは言っても君達の任務は自ら戦車に乗り、前線の立ち兵士達を鼓舞し士気を高めることだ。当然ながら遭遇戦などの”偶発的な実戦”の危険も伴うし、全員が必ずステーツに帰れるとは約束できないんだが?」

 

するとケイは見事な米国陸軍式敬礼で、

 

「大佐殿、我々は『軍隊かぶれのミーハー婦女子(ピンナップ・ガールズ)』などではなく、『合衆国を守る一軍人』として自らを鍛えてきたつもりです!」

 

ぴしゃりと言い放つ。

コリンズは見事に”釣れた”喜びを表情には出さず、笑みという表情がこの世に無いようなただ厳しい顔のままで、

 

「良かろう。君の……いや、君達の覚悟に胸が熱くなる思いだよ。だが、我々とて鬼ではない」

 

コリンズは初めて薄い笑みを見せ、

 

合衆国陸軍(U.S.ARMY)は、君達に最高の援軍を用意したのだよ」

 

 

 

***

 

 

 

「ケイ達が最前線に士気鼓舞のために慰問……? 確実に戦闘に巻き込まれますね」

 

みほは細見の机に広げられたハルハ河近辺の地図に目を落としながら、そう呟いた。

 

「米国は当然、その覚悟で行かせるのだろうな」

 

と重々しく呟く細見であったが、どうにもみほを膝に乗っけたままではしまらない……というか色々台無しだった。

どうみても帝国陸軍の上司と部下というより『ファザコンをこじらせた娘と、そんな娘を溺愛する父親』にしか見えないのが難点だ。

着衣が乱れてないのが救いと言えば救いかもしれないが……

 

「ケイの事だから……引き受けるだろうな~」

 

相変わらず「たはは……」と困り顔で苦笑するみほだったが表情を正し、

 

「そして試製一式中戦車試験中隊の中隊長であるわたしが呼び出されたということは、ケイ達に現地に同行して護衛ということですか?」

 

今度は細見が苦笑し、

 

「察しは良いのは助かるが、そこまではみほ君達に要求しないよ。私も、陸軍もね。ただ君達は『試製一式戦車の実戦テスト』を最優先で果たせばいい」

 

みほは細見の言葉を思考的に咀嚼し、

 

「実戦を越えた試製一式を日本に持ち帰り、量産型に戦訓をフィードバックさせること……そのためにケイ達を見捨てることになってもですか?」

 

細見は頷き、

 

「その通りだ。例え彼女らを見捨てることになっても、一式と君達は日本に戻ってくるんだ」

 

みほはむしろ柔らかい笑顔で敬礼し、

 

「了解しました」

 

と答える。

そこには悲壮感は無かった。

無論、みほとてケイ達を戦場で置き去りにする気などない。

しかし、実戦を潜り抜けた彼女達は戦場で何が起きるかわからないことを百も承知していた。

だから細見に問うた。自分達の力ではどうにも抗えない極限状態に立たされたとき、「何を最優先すべきか?」と。

それはきっと免罪符に似た何かかもしれないが、それでみほ達が安心して任務に望めるなら安いものだと細見は考えていた。

 

 

 

「ああ、言い忘れていたがみほ君」

 

「はい?」

 

「”援軍”を要請しておいた。今頃は君の後輩達が取りにいってると思うが」

 

「ああ、だから梓ちゃん達が昨日の夜から見当たらなかったのかぁ。ついでに沙織さんも」

 

どうやら、みほ的には沙織が元一年生六人衆、首狩りウサギ(アルミラージ)一党に拉致られるのは規定路線だったらしい。

合流シーンは書いてはいなかったものの、どうやら自動車部(レオポン)同様に無事合流していたようだ。

 

本日は点検日につき、特に用が無いものは休日配置(オフ)としてあるので沙織がいなくとも特に問題はない。

何か別の意味で問題が起きてるような気もするが、任務に支障が無ければ割と大雑把(特に百合関係)な一面があるみほにしてみれば、このあたりはスルー案件なのだろう。

 

誤解の無いように書いておくが、別にみほはあの心配性な可愛い友人の私生活に無関心というわけではない。

むしろ、友人と認めてるからこそ私生活には、例えばイタリカ防衛戦後のビッチプレイなども込みで不干渉なのだ。

 

みほにとって正規任官してる以上は職業軍人(プロフェッショナル)、それ以前に社会人である以上は大人だ。

大人である以上は自分の行動には責任は持てるし、持つべきであると彼女は考える。

プライベートまで口を出すのは過干渉、要するにまだまだ要指導と同義であり一人前扱いしてないことに他ならない……

 

容姿からそう思われないことが多いが、存外にみほは生粋の軍人らしくストロング・スタイルなのだ。

 

 

 

加えて沙織があの後輩六人組に拉致られるのは、それこそ今に始まったことじゃない。

それに本日がオフだとわかってやっているのだから、一応分別は付いてるとみほは判断していた。

 

(まあ、確信犯的行動とも言うけどね~)

 

それについては首狩りウサギの性質と考えれば、特に腹も立たない。

もっとも、任務に支障をきたす……明日までに沙織が任務に復帰できない状態にあるならば、久しぶりに灸を据えないといけないとは思うが。

 

(歩兵用フル装備で10kmの泥濘地走破(マッディラン)くらいが打倒かな? 戦車の督戦付きで)

 

ちなみにこの程度の”修正”なら、「大洗女子戦車学校」では日常茶飯事だ。

なんせネボスケ相手には、空砲とはいえ戦車砲を目覚まし代わりにする校風をなめてはいけない。

早朝バズーカならぬ早朝戦車砲は「大洗女子」の名物の一つだったりする。

 

ちなみに最初から犬っ娘属性全開だった優花里はともかく、麻子は極端の朝の弱さ、ねこにゃーは虚弱体質をみほに矯正される過程において飼いネコになったという経緯があるらしい。

 

もっとも本人達によれば、

 

「朝起きられなかったら、気が付くと処女じゃなくなっていたが微塵も後悔はしてないぞ」

 

と黒い仔猫は無い胸をフンスと張り、大きいほうの白い猫は……

 

「できればあのちょうきょ……特訓をまたして欲しいですにゃあ」

 

何があったかはお察しくださいだが……色々と二匹は不可逆な所にいるようだ。(犬は元々だが)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*************************************

 

 

 

 

 

合衆国軍人とタンクガールの誇りと名誉にかけて任務を受けたケイと任務の優先順序さえはっきりしてくれるなら別にかまわないと受けるみほ。

 

ある意味、対極的な雰囲気での受諾だが……ケイはその後、隊員達には「実戦が嫌なら別にこのまま母国(ステーツ)に帰ってもかまわない。それを責めはしないし、恥と思う必要は無い」と意思確認をするあたり、けっこうきっちり隊長さんらしいことをやっていたりする。

 

みほはもっと気楽なもので、とりあえず機甲学校にいる関係者全員をブリーフィングルームに集めて……

 

「みんな、次の作戦が決まったよ」

 

さらりと、されど判り易く任務概要を説明しただけだ。

良くも悪くも「大洗女子」は軍学校で軍事教練を学習する場であり、またその卒業生は任官した瞬間から職業軍人なのだ。つまり命令一下に是非もない。

「行軍しろ」と命じられれば、「何故、行軍するのです?」ではなく「どこまでです?」と聞くのが良き軍人であり、正しき軍人の姿と言える。

 

 

 

***

 

 

 

「ミホ、今回はハルハ河までの遠征につき合わせちゃって So sorry(本当にゴメン)

 

Never mind(気にしないで), ケイ。 こっちはこっちでちゃんと『試製一式の実戦テスト』って目的があるから」

 

「ミホ……」

 

「ケイ……」

 

”ひしっ”

 

固くハグハグする日米の装甲少女だった。

仔犬と仔猫はまたしても威嚇してるが、フフン♪と挑発的な笑みを浮かべるケイ。

このやり取りは最早お約束というか、様式美になりつつあるのは気のせいか?

 

しかし、ここで困った問題が発生していた。

 

「ところでミホ、ハルハ河の気候って知ってる? ワタシ、ろくすっぽデータないんだけど?」

 

「う~ん……ハルハ河ってピンポイントではわたしも知らないけど、あの辺りの気候全般で言うなら11月からもう冬で4月まで冬だと思った方がいいんじゃないかな? 冬場の気温は摂氏-10度~-30度くらいだったかな? 華氏換算だと14度~-22度くらい?」

 

相変わらず抜群の記憶力と計算の速さを見せ付けるみほだったが、

 

「What !?!」

 

ケイが驚いたのは地味に凄いみほの能力ではないようだ。

 

「ちょ、ちょっと待って! ワタシ達、”HEAVY ZONE”用の戦闘服(ユニフォーム)なんて用意してないわよっ!?」

 

 

 

さて、ここで少し説明が必要だろう。

米軍の戦闘服(野戦服)は、主に気温によりその区分が分かれている。

具体的に摂氏で示すと……

 

VERY LIGHT ZONE(ベリーライトゾーン) :30度~50度

LIGHT ZONE(ライトゾーン)    :10度~30度

INTERMEDIATE ZONE(インターミディエイトゾーン):10度~-10度

HEAVY ZONE(ヘヴィゾーン)    :-10度~-30度

VERY HEAVY ZONE(ベリーヘヴィゾーン) :-30度~-50度

 

とこんな具合だ。史実ではフライトジャケットの区分だったが、”この世界”では米軍全隊で凡その目安として使われているようだ。

 

ちなみにケイがみほと再会を果たした時に着ていたA-2レザー・フライトジャケットはライトゾーン指定だ。

 

「あれ? ケイ達ってたしか冬季戦用のタンカース・ジャケット(戦車兵服)供給されてなかったっけ? ”ウィンター・コンバット・ジャケット(冬季戦闘服)”って名前の」

 

ケイ達がまだ試作(プロト)モデルのタンカース・ジャケット……翌1941年に”M-41WINTER COMBAT JACKET”として制式採用される野戦服を先行官給されてる理由は、端的に言えば日本でM4中戦車のお披露目に行くサンダース戦車中隊に『米国陸軍戦車隊の新しい冬のユニフォーム』のコマーシャルだ。

というより金のかかる新ユニフォームの導入に懐疑的な反対者(しぶちん)達を黙らせる方便と言ったほうが正しいか?

 

たしかに日本で冬を過ごすなら悪い案ではなかったのだが……

 

「あれ、インターミディエイト仕様だから! さすがに-22度とか無理無理!」

 

同じ冬でもモンゴルでは相手が悪すぎた。

というか間違いなくサンダース戦車中隊の被服担当者(ドレッサー)はハルハ河東岸への遠征など聞いてなかっただろう。

 

「モンゴルの冬は日本の冬より気温は低いけど乾燥してるから、素肌さえ晒さなければ割と平気だよ? 雪も多くないし」

 

似たような環境で冬を過ごしたこともあるみほは経験則からそれを知っていたが、

 

「とは言ってもさぁ……ワタシ、テキサス育ちだし」

 

みほは「しょうがないな~」と苦笑し、

 

「上司はコリンズ大佐だったっけ?」

 

「へっ? そうだけど……」

 

「細見少将を通じて話してみるよ」

 

 

 

***

 

 

 

 

「お初にお目にかかる。私がコリンズだ。あえて光栄だよミホ・ニシズミ中尉」

 

「わたしも会えて光栄です。コリンズ大佐殿。面会をお受けくださりありがとうございました」

 

互いに本心の見えないにこやかに微笑みで敬礼を交換した後、

 

「なに。私も君に会ってみたかったのだから願ったり叶ったりさ。ニシズミ中尉、君の噂はかねがね聞いてるよ」

 

「噂は尾ひれが付き物です。大佐を落胆させていなければよいのですが」

 

するとコリンズは大きく腕を広げる大げさなアメリカンらしいゼスチャーで、

 

「とんでもない! サンダースとの模擬戦は私も観させてもらったよ。噂以上の技量に逆に感銘したさ」

 

「ふふ。ここは下手に謙遜するより素直に喜んだほうがよろしいのでしょうね?」

 

歳には似合わない、しかし彼女の内面から見ればむしろよく似合う典雅と妖艶の狭間の笑みをみほは浮かべた。

 

「そうだね。謙遜と謙譲は日本人の美徳だとは思うが、それは”世界標準の考え(ワールド・スタンダード)”ではない。我が合衆国(ステーツ)では誇れるものは誇るのが当然であり、美徳だ」

 

「勉強になります」

 

みほはクスリと笑う。

 

 

 

言い忘れていたが二人が顔合わせをした場所は細見の執務室、つまりは校長室。

ついでに言えば細見も同席してる。

よほどのことが無い限り細見は口出しする気はないが、だがかと言って二人きりで合わせる気もなかった。

そこで折衷案として成立したのがこの会合だ。

やはりその姿は「部下を心配する上司」ではなく「娘を心配する父親」に見えてしまうのがなんともはや……

 

「このたびコリンズ大佐にわざわざお越しいただいたのは、少々お聞き届けいただきたい案件がございまして」

 

「何をかな? 大抵のことは都合をつけようじゃないか」

 

鷹揚な態度を崩さないコリンズに、

 

「実はサンダース・タンクトルーパーズの冬季戦ユニフォームに関してです?」

 

「ん? 彼女達には試作したばかりの”WINTER COMBAT JACKET”を既に回してる筈だが?」

 

するとみほは歳相応と言おうか……いつもと同じ困ったような苦笑で、

 

「いえ、それは存じ上げてるのですが……現地の気温が、インターミディエイトゾーンではなくヘヴィゾーンに該当する区分な物ですから」

 

これで大体内容を察したコリンズは、

 

「なるほどな……」

 

と小さく頷いた。

 

「軟弱とは言わないであげてくださいね? 戦車の中は暖房なんて気の利いた物はありませんので」

 

「わかってるさ。しかし困ったな……すぐにまとまった数の防寒着、それも女性用のそれ(ウーマンサイズ)を用意するなど、」

 

みほはわが意を得たりと微笑み、

 

「それに関しては妙案があるのですが……」

 

「言ってみたまえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***********************************

 

 

 

 

 

 

「というわけで米陸軍の”識別票/認識票(ワッペン)”を付けるなら、富士機甲学校で防寒服を調達していいって。予算はもちろん米陸軍持ちで」

 

「ミホ、愛してる♪ さすがワタシのSweetheartネ!!」

 

感極まって飛びつくケイに今度こそ仔犬と仔猫が飛び掛ってみほを巡るちょっとしたバトルが展開されたのはご愛嬌。

 

 

 

一悶着が落ち着いた頃、みほはサンダース戦車中隊代表のケイを連れ立って偕行社に向かったのだが……

それが冒頭のシーンというわけだ。

 

「え~っと……ケイ、わたしには何を驚いてるのかよく判らないけど、そんなに珍しい代物なの?」

 

偕行社の一角には季節柄、冬物の軍用アウターが所狭しと陳列してあった。

その多くが表面加工をした革製の代物、特に米国のフライトジャケットを模した物が数多く居並んでいた。

 

「当然よ! いいミホ? フライトジャケットは『陸軍飛行隊の誇りとアイデンティティ』とか言って、基本的に配給のみでPXとかでも売ってないのよ。ワタシもA-2を手に入れるのに苦労したもの!」

 

「そ、そういうもんなんだ……」

 

基本的に航空機全般にさほど詳しくないみほは、ケイの迫力に思わずたじろいてしまう。

というかみほは特に気にすることも無く毎年のように購入し、軍務だけでなく私服としても使っていたりする。

 

「でもこれ全部、複製品(レプリカ)だよ? ほら、」

 

みほが一着、おそらくはB-3レザージャケットを模したと思われるレザーボマージャケットを手に取り、タグをみせる。

本来、米国のミリタリースペックであることが証明されるタグが縫いつけられてるそこには、【Kaikosha】というローマ字と五芒星が組み合わされたタグが仕込まれ、つまりそれはMade in Japan……偕行社被服部謹製のそれであることを示していた。

 

「ミホ……昔、ある偉い人が言ったらしいの」

 

ケイはやおら真剣な瞳で、

 

「『贋作が本物より劣ると誰が決めた?』って……」

 

いや、それは昔の人ではなくどこか別の世界の名言なのでは……?

 

 

 

***

 

 

 

とにもかくにもモンゴルでの戦闘に備えた準備は進む。

それは彼女達にどんな未来を見せるのだろうか?

 

「フフッ」

 

「コリンズ大佐、どうしたのかね?」

 

「なに……西住みほという希代の装甲指揮官の評価を、更に上方修正する必要があると思いましてね」

 

(まさかタフな交渉をこなせる頭の回転の速さと弁の切れ味まで備えてるとはね……嬉しい誤算ですよ。ええ、まったくね)

 

「本当に合衆国(ステーツ)に欲しいですねぇ」

 

「……やらんぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 





皆様、ご愛読ありがとうございました。
実は意外とお洒落(?)な”この世界”の大日本帝国陸軍が描かれたエピソードは如何だったでしょうか?

みほとコリンズ大佐の初邂逅……上方修正された評価はみほにとって吉と出るか、はたまた凶と出るか?

ちなみにケイの「あの台詞」は、中の人つながりです(笑)

いよいよ次回は”援軍”が到着し、ノモンハンに出発かなぁ~と。出発できるといいなぁ(^^

それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!



***



設定資料



偕行社謹製フライトジャケット

現在確認されてるレプリカタイプ
LIGHT ZONE(ライトゾーン)用:A-1型、A-2型
INTERMEDIATE ZONE(インターミディエイトゾーン)用:M-422&M-422A型、B-6型(40年冬からの新作!)
HEAVY ZONE(ヘヴィゾーン)用:B-2型、B-3型、D-1型(40年冬からの新作!)

”この世界”における大日本帝国陸軍の偕行社の被服部とその提携企業で製作されてる米国のフライトジャケットのレプリカモデル。
アメリカ国防総省から正式にライセンスを得ているが、米国の軍隊規格基準(ミリタリースペック)の審査を受けてないので、ミリタリースペックのタグではなく偕行社謹製を意味する”桜”や”五芒星”などのシンボルマークと”Kaikosha”のローマ字を組み合わせた(かつては漢字仕様もあった)ロゴとスペックが表記された偕行社タグがついてるのが、オリジナルとの大きな識別点。

実は大日本帝国陸軍が米国製フライトジャケットの導入は古く、一説によれば1932年のロサンゼルス・オリンピックの乗馬競技のゴールドメダリスト、洒落者で知られる西竹臣氏が米国で知己を得た友人より当時採用されたばかりのB-2レザー・フライトジャケットを譲り受けてそれ冬場に愛用。その防寒服としての高い機能性に目を付けた陸軍が米国に頼みこみ、ライセンスを得てレプリカを生産したのが最初とされている。

ちなみに史実ではこの時代の日本にそこまでの皮革供給量はないはずなのだが、米英との良好な関係に加え皮革流通量の多い『特地』を得たことにより安定供給が可能となっている。
実際、1937年まではレプリカ・フライトジャケットは受注生産(テーラーメイド)が基本で、ほぼ需要は比較的に金銭的余裕のある高級将校に限られていたが、38年以降は既製服(プレタポルテ)として全国の偕行社の店先に並ぶようになり、士官や下士官への敷居が低くなった。

無論、陸軍に限らず標準防寒服は官給品として別にあり、これらのフライトジャケットはあくまで「日本陸軍規格合格品を私費購入する」という扱いである。
故に簡易認識票などになるワッペンやペイントなどの装飾の類は”吊るし”の段階では一切無い。

実は在日米軍の間で密かに人気になっており、在日米軍では航空隊員以外では入手しにくいフライトジャケットを購入するため、偕行社のある基地への出張希望者が後を絶たないらしい。

余談ながらフライトジャケットというのは厳密には米陸軍航空隊(後の空軍)の飛行服のことで、米海軍航空隊の場合は同種の服を”アヴィエイター(あるいはアヴィエイタージャケット)”と呼んでいた。
そしてD-1にいたっては飛行服ですらなく、基地の地上整備員用防寒着(グランドクルージャケット)だった。
しかし、この時代の日本にはまだそのような細かい区分は伝わりきれてなかったようで、全て一緒くたにフライトジャケットと呼ばれてるようだ。

D-1型は整備つながりでレオポンの四人娘がノモンハン出兵前にまとめて購入したらしい(四人分まとめて出したのはナカジマで、資金元(パトロン)はしほという噂が……)






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