色々忙しかったですが、なんとか週末で一本アップできそうな作者です(^^
今回のエピソードは……珍しくシリアス風味です。どちらかと言えばシリアヌかもしれませんが。
今回は、少し『プラウダ親衛戦車旅団』を掘り下げてます。
”この世界”のカチューシャ様と愉快な仲間達の実像、興味を持っていただければ幸いです。
そして、またしても新キャラが……
ここはハルハ河西岸からモンゴル奥地に入ること数十キロ、日本なら県を一つまたぐくらい距離を直線で走って辿り着く在蒙ソ連軍最大級の軍事拠点”タムサク・ボラグ”。
地獄の一丁目と呼ぶには最前線から距離が離れているが、されどキリスト教的な解釈なら”魔軍の出撃門”と解釈してそう間違いはないだろう。
何しろここに集結してるのは、神を信じぬあるいは神を殺した強度武装した
背信者や異教徒よりよっぽど質が悪いと理解されてもおかしくない。
そして基地内の高級将校用宿舎の中で最も大きく豪華な部屋この一室、【
”コンコン”
程なく響くノックの音の後に、
「Леди Катюша, Я Клара (カチューシャ様、クラーラです). Мы принесли Сержант Алданова и Сержант Базарова (アルダーノヴァ軍曹とバザロヴァ軍曹を連れてまいりました). Вы уверены, что вы хотите ввести? (入室してよろしいでしょうか?)」
「Разрешить(許可するわ). Ставить(入りなさい)」
カチューシャに促され入室してきたのは、流れるような長く美しい金色の髪に優しげな紺碧の瞳の少女だった。
ノンナが美人……美人過ぎてどこか体温を感じない
彼女の名前は”
副官のノンナ・テレジコーワ中尉に続く旅団No3で、階級は少尉だった。
そして、彼女に連れてこられたのは……
「
と入ってきたのは短い黒髪ツインテールの女の子で、
「
もう片方は短い茶色の髪の女の子だ。
二人揃って言えるのは、かなりの訛の強いロシア語と純朴で素朴な雰囲気。
きっと田舎育ちなのだろう。
ついでに言えばカチューシャほどではないがかなり背が低い。
史実の日本で言うなら、東北農村部出身の一兵卒という感じだろうか?
幼い容姿ながら軍隊で相応に
「よく来たわね? 今日呼び出したのは他でもないわ。ニーナ、アリーナ、二人に頼みたいことがあるのよ」
「「なしてもおっしゃってけろ!」」
元気に答える二人。
ニーナもアリーナも、人類が中々出来ない病……貧困と飢餓から救ってくれた赤軍に心から感謝を捧げていた。
温かい食事と寝床、寒さを凌げる服だけでも十分に嬉しかった。
軍に入隊できなければ、きっと自分達は口減らしを兼ねて二束三文で人買いに売られ、今頃はどこぞの女郎屋にでもいただろう。
実際、偶然に見かけた同郷の顔見知りの娘は、兵士達に小さな肢体を差し出し
カチューシャの旅団には、士官は普通から中々体格のいいものが多いが、下士官や兵はニーナやアリーナのように小柄なものが少なくない。
これには笑えない理由があった。
このような地方の寒村出身の娘達は、例え帝政ロシアがソ連になっても栄養状態が悪く、成長期の頃に十分な栄養が摂取できなかったゆえの成長不良のため、小柄の者が多いといわれていたのだ。(ニーナとアリーナの場合は遺伝もあるが)
蛇足ながらカチューシャの場合は、生活環境ではなく完全に遺伝だ。
彼女の母である”
識別点はツリ目気味のカチューシャに対しややタレ目気味で、どちらかと言えば良家の子女然としたおっとりした性格らしい(つまりカチューシャの瞳と性格は父親似と思われる)。
二人が並ぶと
よく妊娠できたものである。まったく人の身体は神秘に満ちている。
聞いた話によればその昔、母を巡って凄まじい争奪戦がおき、それに勝ち抜いたのが伯父と同じく当時はバリバリの前線将校だった父のアレクセイ・トハチェフスキーらしい。
その後、母に心配をかけたくなかったのか父は、ロシア革命の終結と母の妊娠を契機に前線将校から身を引き同じ軍でも教育畑に転出している。
カチューシャ的には、戦車に乗り込むのにひどく苦労しそうな体形になってしまった父が前線将校だったと言われてもピンと来ず、日に日に母親に似てくる自分を溺愛する姿と母といちゃつく姿くらいしか上手く思い出せない。
もっとも父の人脈があればこそ、これだけ”まともな”人材を自分の手元に集められたのだから、大いに感謝してるのだが。
カチューシャの貞操観念の緩さは、存外にその環境と幼き日から何度も聞かされた父の言葉、
『欲しいものがあるのなら、ねだるな。実力で勝ち取れ』
が影響を与えているのかもしれない。
***
「いい返事ね」
カチューシャは彼女達を非同性愛的な意味で愛していた。
生きるのに厳しい寒村出身の彼女らは、軍隊以上に苛酷な生活環境に晒されていたために我慢強く粘り強い。
軍隊という不条理な環境に、軍隊以上に不条理な環境出身の彼女達は実に上手くアジャストするのだ。
そして彼女達はバカだ愚図だ田舎者だと心の無い言葉を浴びせられながらも、一兵卒から一歩一歩……まるで踏みしめるように出世の道を歩んできた。
カチューシャは生れや育ちにはどちらかと言えば無頓着で、国家や共産党/共産主義への忠誠など正直二の次、評価の最前列に来るのは常に能力だ。
冷徹なまでの能力主義がカチューシャの心情であり、そしてその意味においてカチューシャは共産主義者らしい”平等さ”を発揮し、純粋に才能を含めた能力を見るのだ。
だから……そんな彼女達の姿を誰よりも見てきたカチューシャは判断する。
「ニーナ、アリーナ、これまで
「知っての通り、今後は強行偵察任務は師団司令部直轄で行うことが決まったから、BT-7Mは取り上げられちゃったわけだけど」
別にカチューシャに不満は無い。
これまでのように旅団単位でちまちま偵察隊を出すのではなく、司令部が装甲偵察隊を大量の偵察中隊を編成して集中運用するということは、大規模作戦の決行が近いということ他ならない。
「つい先日、最新鋭のT-50軽戦車が20両届いたのは知ってるかしら?」
「「はいだべっ!」」
「よろしい」
カチューシャは部下が勤勉に情報を得ていることに満足し、
「ニーナ、アリーナ、10台ずつ預けるわ」
「「えっ?」」
驚く二人に、
「ノンナ」
メイド服から軍服に着替えたノンナは、
「二人とも今日からこれをお付けなさい」
そう手渡されたのは真新しい”
「アルダーノヴァ”上級軍曹”、バザロヴァ”上級軍曹”」
「「はいっ!」」
カチューシャの言葉に弾かれたように二人は反射的に敬礼し、
「隊長……いえ、旅団長命令よ。今日から栄えある”
「「
カチューシャが彼女達を愛してるように、ニーナもアリーナも彼女達が”
確かにカチューシャは傲慢でわがままな、いかにもお嬢様気質な部分がある。
だが、二人にとってそれは人間的な欠点というものにはあたらない。
むしろ、チャームポイントと言っていいぐらいだ。
何よりこの都会育ちでモダンな紅い新貴族様は、自分達を田舎者だと馬鹿にしたりしない。農民だと見下したりしない。
彼女評価するのは才能を含めた能力だけで、生れや身分はささいなことだ。
ニーナやアリーナにとって、彼女こそが平等を金科玉条とする共産主義の体現者であり、共産主義の正しさを証明する者であった。
***
「ニーナ、アリーナ、軽戦車は決して薄くて弱い戦車じゃないわ。ノンナが率いる重戦車が現代の重装歩兵、
カチューシャは自信に満ちた表情で、
「T-50は現代に蘇った軽騎兵よ! かつてチンギス・カンが率いるモンゴル軽騎兵が猛威を振るったこの草原で、今度は二人が存分に暴れ、コサック騎兵が未だ健在であることを世界に知らしめなさいなさいっ!!」
「「Да!!
カチューシャは知っていたのだ。
この二人がなぜ辺境の貧しい寒村地帯に生まれねばならなかったのかを。
史実ほどではない。だから滅亡はしたとはいえないが……だが、やはり”この世界”のコサックも「敵階級」として共産党に弾圧されたのだ。
440万人のうち308万人……全コサック人口の70%が殺害された史実とは違うが、やはりコサックの多くは中央や都市部から追われ、貧しく痩せた土地に押し込められた。
コサック弾圧を積極的に行ったレーニンからトロツキーに政権に移ったとき、コサックは敵階級から外された。
おそらく、軍と昵懇なトロツキーが「戦力供給源として有用」と判断したからであろう。
だが、自然発生的に市民レベルの憎悪の対象として、コサック差別は未だソビエトに根強く残ってるのが現実だった。
だが、ニーナもアリーナも覚えている。
自分達がコサックの末裔だと知られ、カチューシャに呼び出されたときは恐怖した。
軍から放逐される……それでなくとももっと過酷な、例えば噂に聞く懲罰部隊と大差ないコサックを家畜か何かと思われてる部隊に送られるかもしれないと思った。
少なくとも
だが……
『ふ~ん……コサック出身なんだ』
彼女は侮蔑の瞳ではなく興味深そうな顔をしただけで、
『ならかつて世界最強の騎兵と謳われたその実力、存分に発揮してみなさい。期待してるわよ?』
それはきっとカチューシャにとっては何気ない……きっともう覚えていないようなささやかな激励だったのかもしれない。
だが、きっとニーナもアリーナもその言葉を生涯忘れることはないだろう。
カチューシャの旅団……今や【プラウダ親衛戦車旅団】となったこの戦闘集団の精強さの秘密は、何も装備のよさや錬度の高さだけではない。
相思相愛……忠誠や信仰にまで昇華した祖国とカチューシャへの思いこそが、彼女達の強さの秘密だった。
ノンナやクラーラと同じくカチューシャが初陣を飾った『スペイン内戦(1936-39)』以来の最古参の部下、カチューシャの下で一歩一歩出世を重ねたニーナとアリーナの瞳に炎が宿る。
それは、カチューシャの前に立ちはだかるもの全てを焼き払わんとする狂気の色を秘めていた……
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その頃一方、在満米軍ハイラル・ベースでは……
「は~い。目線こっちね~」
「こうですか?」
「いいね~。実にいいわよ~!」
西住みほ中尉(米国陸軍戦車兵コス仕様)が、M4中戦車をバックにピンナップ撮影の真っ最中だった。
「でも、わたしなんかでいいんですか? そんな発育よくないし……ケイみたいな金髪グラマーの方が受けがいいでしょう?」
「そんなことないわ~。確かにケイちゃんは絵になる美人だけど、初々しいミホちゃんみたいなオリエンタルなプリティ・ガールにもしっかり需要があるわよぉ♪」
とノリノリで返すカメラマンである。
ちなみに性別は男だ。
***
さて、撮影も終わった後……
「ん? 鶴姫さん、なんだか不機嫌だね?」
「……そういうわけではありませんが」
みほが声をかけたのは、大きな赤いリボンを鉢巻のように巻いた侍少女、日本陸軍に開放された
「ただ」
「ただ?」
「我らはいつまで、米軍基地で油を売らねばならないのかと思いまして」
「ふ~ん」
みほはふと思い出したように、
「ところで、
「ええ。もちろん”松風”が既に終わらせましたが」
”松風”というのは彼女の愛馬……もとい。鶴姫が駆る九八式巡航軽戦車の運転手を務める”
「重畳だよ♪」
みほはニッコリ微笑む。
「猛り昂ぶる気持ちはわかるけどね……それはもうちょっと取っておいてよ」
そして彼女は天を仰ぎ、
「匂わない? 草原を渡る風が、血と鉄の匂いを運んできたよ……」
「えっ?」
「大丈夫。心配しなくても鶴姫”ちゃん”が望む
みほはただ微笑んだ。心の奥底から湧き上がる歓喜の予感を押さえきれないように……
「だから今は備えよ? 万全に」
そして、西……ハルハ河の方角を見つめる。
「一心不乱の大戦闘に備えてね♪」
皆様、ご愛読ありがとうございました。
”この世界”のプラウダの実像はいかがだったでしょうか?
実はクラーラ、ニーナとアリーナも健気で好きなキャラなんですよね~♪
劇場版では本当に魅せてくれました。
基本的にロシア語会話のクラーラの雰囲気を出すため、冒頭にロシア語を入れてみましたが上手く表現できたかどうか(^^
とりあえず……ロシア語、難しい~!
しかもルビ調整が面倒!
それはともっかくチーム・カチューシャはこれで打ち止め。
いよいよ準備は整いました。
みほは何やら呑気なことをやってるようですが……
そして昂ぶる鶴姫に、戦の匂いを嗅ぎつけたみほがアップを始めたようですよ?
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!
***
設定資料
T-50軽戦車
主砲:M1938(20K)/45mm戦車砲×1(口径45mm、46口径長)
機銃::DT機銃×2(7.62mm×54R弾。砲同軸、車体前面
エンジン:V-4ディーゼル・エンジン(液冷直列6気筒、300馬力)
車体重量:14.5t
装甲厚:砲塔前面45mm(傾斜装甲),車体前面37mm(傾斜装甲)
サスペンション:
変速機:前進5段/後進1段
操向装置:二重差動式
最高速:58km/h
乗員:定員3名
特殊装備:Fu2/Fu5車載無線機、
備考
ソ連の誇る最新鋭の軽戦車。軽戦車としては強力な防御力を持つ高性能車両だが、史実では独ソ戦では火力不足大きな戦力にならないと判断されたことと、軽戦車にしては高価なこと、同程度の戦力とみなされたバレンタイン歩兵戦車が大量にレンドリースされたことにより大量生産に至らなかった戦車だが、”この世界”では上記の三つの条件のうち二つが成立しなかったために、多少高価ではあるが大量生産が予定されてる高性能戦車。
史実との最大の違いはその防御力で、オリジナルの砲塔前面装甲が37mm厚だったのに対し、原型のT-126SP軽戦車と同等の45mm厚と強化され、傾斜装甲とあいまって最初期型のT-34に匹敵する防御力があった。
特に優れているのは足回りと駆動系で、KV-1譲りのトーションバーサスペンションに新開発の5速トランスミッション、操向装置は二重差動式
それもその筈で「CODE1940」の中ではソ連戦車としては最も後発であり、そうであるが故に最新技術をフィードバックできたのだろう。
そしてこの最新の足腰があったからこそ、最高速55km/hを実現できたといえよう。
史実では歩兵支援などにも考えられていたようだが、”この世界”ではその目的はぶれずに機動力は十分でも防御力に難がありすぎたBTシリーズに代わる新たな斥候、装甲偵察や機動遊撃に使われることを前提に開発されたようだ。
軽戦車としては初となる全車通信機標準搭載は史実どおりだが高性能なドイツ製で、構造は同じだが曇りや歪みのないドイツ製高品質レンズを用いた照準機とあいまって耳も目も史実以上のものだろう。
軽戦車にしては強力な火力と最初期型T-34と比べて遜色のない防御力、そして最新のT-34を凌ぐ機動力と三拍子揃い、「山椒は小粒でピリリと辛い」という言葉を体現したような戦車がT-50と言えよう。