今夜は外は雪、今にも凍えそうな作者です(^^
さて今回のエピソードは……前半は空の話題(+海の話題がちょびっと)が出てきますが、後半は……カチューシャ様が生き生きしてます(えっ?
「アリサ、行くよ」
「だね。わたしもケイの中隊と少し詰めておいたほうがいいと思うから」
ケイとみほに左右の肩を叩かれるアリサ。
コリンズに退出を促され、三人の少女は部屋を去る。
名目上、【ホイットニー装甲偵察中隊】はスティルウェル少将以下軍団司令部の命令だが、そのサポートまでは禁じられていない。
実際、みほの出したプラン……彼女の言う「打てる手」をコリンズは止めなかった。
「コリンズ大佐、サンダース大尉の教育をするのはかまいませんが、あまり西住中尉に頼りすぎるのはどうかと思いますよ?」
「人聞きが悪いな。チョーノ少佐、ニシズミ中尉は自発的に協力してくれてるんだ。彼女の好意を無碍にする必要はあるまい?」
”むー”と擬音が付きそうな顔をする亜美だったが、
「ところでコリンズ大佐……米国は今回の件に限らず、このハルハ河東岸の軍事衝突で本気で勝ちにいく気はあると思いますか?」
「……君の言いたいことがよくわからないのだが?」
本気で首を捻るコリンズに、
「今、日本に決して好感は持てませんが……興味深い人物が来ています。日本に対する”特殊な航空機”の売り込みもかねて」
「ほう……チョーノ少佐が興味を持つとはどんな人物かね?」
「合衆国陸軍
「ああ、あの『ボーイングのプロモーションチーム』の飛行隊長か」
亜美は頷き、
「日本には現在、各種C/D/E型B-17”フライング・フォートレス”が合計24機駐留してるのは御存知ですか?」
「ああ、もちろん知っている。確かナカジマ(中島飛行機)がライセンス生産する方向で話が進んでたんじゃないかな? ボーイングは合衆国政府からのバックオーダーで手一杯だから、せめてライセンス生産料で儲けようとか何とか」
「ええ。不本意ながら中島は、間違いなくその話を受けるでしょう。中島は四発以上の大型爆撃機を作りたがってますし、空軍はドゥーエや貴国の故ミッチェル准将の
ドゥーエもミッチェルも史実では戦略爆撃の概念提唱者であり、戦略爆撃機の有用性を解いた先駆者として今日では評価されている。
しかし、ドゥーエもミッチェルは当時登場したばかりの航空機を集中運用するための専門軍事組織”空軍”の設立を声高に叫ぶ「空軍独立論者」で、また旧来の陸軍や海軍を軽視する発言を繰り返したために軍上層部から嫌われ、左遷の憂き目を見ている。
特に鬼籍に入ってまだ日が浅いミッチェルは、空軍独立論であると同時に戦艦不要論まで声高に主張し、ひいて海軍不要論まで言い出す始末だった。
ミッチェルの常軌を逸した海軍嫌いと、ある事故から友人を失い陸海軍統帥部を激しく批判したことが引き金となり、史実でも”この世界”でも軍法会議にかけられ有罪判決を受け、ミッチェルは最終的に除隊させられていた。
ちなみにミッチェルの”預言”を裏切るように米国海軍は大艦巨砲主義まっしぐらで、米国自身が主役だった1938年の”張鼓峰事件”や、1939年の独ソのポーランド侵攻と東西分割などを材料に「領土的野心を持った好戦的国家群により、世界は再び戦乱期に入った」と宣言、ルーズベルト大統領は実質的な戦争準備である「国防力強化=軍備増強」の方針を打ち出したのだ。
中立法は当面維持する方針だったが、フランスの陥落と英独戦開戦をきっかけに英国が【第二次ロンドン海軍軍縮条約】に盛り込んでいた「開戦特例による条約の凍結」宣言をし、日米仏(亡命フランス政府)の合意により、海軍軍縮条項は全凍結された。
棚ボタ式に艦隊拡張のフリーハンドを得た米国海軍は、「戦力として中途半端、”サウスダコタ級戦艦”を高速化した強化拡大版に過ぎない。16in砲搭載の巡洋戦艦」と評された”アイオワ級”の建造を取りやめ、「アメリカ海軍らしい強力で重厚な戦艦」を求めて”モンタナ級”の建造を前倒しして着手した。
また、このモンタナ級の建造を後押ししたのは、
これに【
逆に言えばモンタナ級は、この【新パナマックス】を見越して計画/設計がなされたのかもしれない。
ちなみに”この世界”では日の目を見なかったアイオワ級は、どういう理屈か「金剛型の後継となる巡洋戦艦」を探していた日本に「ハワイを経由」して流れ着き、とある巡洋戦艦の建造に繋がるのだが……まあそれはまだ未来の話だ。
***
ともかく、そんなミッチェルの先鋭的……あるいは反社会的なロックスター並みの過激さゆえだろうか?
彼のファンは多く、その日本における最右翼として知られてるのが空軍司令官”
とっくに日米同盟が締結された1925年……ミッチェルは、
『日本が太平洋で戦争を引き起こすとすれば、はじめにある晴れた日曜日の朝にハワイを叩くことでアメリカに攻撃する』
と語ったという。
これは軍法会議で明らかになった事実で、「日米双方の不穏を煽り、最終的に日米同盟を破棄させることを目的とした離間工作」の嫌疑をかけられたのだ。
これを聞いた山本は呵呵大笑し、
『確かに大国アメリカに小国日本が喧嘩吹っかけるには、それぐらいのインパクトは必要だよなぁ、おい。そう思わんか?』
とコメントを残し、周囲の日米士官達を苦笑いさせたという逸話が残っている。
山本は大日本帝国軍の中でも親英米派の最右翼といわれる存在で、今回のルメーとB-17部隊の来日も中島とボーイングを引き合わせたのも、裏で糸を引いてるのは山本だともっぱらの噂だった。
「ところで、その爆撃機隊がどうしたというんだね?」
「うちが試製一式中戦車をはじめとする試製車両群の実戦テストがしたかったように、あるいは
「なるほど……仮にそうだとして、チョーノ少佐はどこにどういう風に使いたい?」
亜美は地図の一点、モンゴルに築城された赤軍の巨大陣地を指差し、
「狙うはタムサク・ボラグとそのサポート補給拠点。列車砲で眼前の敵を撃つ馬鹿はいません。高射砲でハエを撃つ馬鹿がいないのと同様に」
「しかし、護衛はどうする? ちょっと前ならともかく今は
九七式司偵を原型とした米陸軍の偵察機”R-1ベイブ”は最近の偵察任務は苦労してると報告があった。
敵はMIG-1やそれと似た形状の正体不明の高速戦闘機を軍事拠点の隣接飛行場に多数配備し、こちらを待ち構えているようなのだ。
航続距離が短いのかあまり長距離を追尾できないようなので今のところは振り切れているが、これもいつまで続くか判らない。
事態を重く見た米軍が、さっそくR-1ベイブの後継となる双発の新型長距離高速偵察機を早速、日本に大量発注したというのも頷ける話だった。
「確かにそれは問題ですね……米軍の主力戦闘機”P-40”は航続距離は1500kmくらいですから。正直、護衛は厳しいです」
日本空軍が陸軍同じく在日米軍(あるいはペンタゴン)の依頼で実戦テスト用に持ち込んでいるのは、今のところ”一〇〇式重爆撃機”だけだった。
40年の東京オリンピックで開会式が行われた国立競技場上空をフライパスし派手なお披露目を決めた一〇〇式重爆は『護衛戦闘機いらずの高速/重装甲/重武装の新世代爆撃機』を謳っていたが、その前評判が本当なのか確かめるために満州に持ち込まれたらしいのだが……
(この場合は意味ないわよね?)
B-17と編隊を組ませて日米連合爆撃機隊の結成というシチュエーションは心惹かれるが、それ以上の話ではない。
(あと投入できそうな部隊は……)
亜美は考える。
(”一〇〇式重局地戦闘機”は駄目。航続距離がP-40と大差ないし、何より英国支援分で生産は手一杯のはず。出来たそばから英国に送られてるみたいだし……米軍の”P-38”はまだ本格生産に至ってないし、生産された少数機も米国本土にしか配備されてない。”P-39”は論外。性能不足で航続距離も足りない……)
消去法で一つ一つ候補の戦闘機を消していくが……
「あっ!」
やがてある一つの結論に辿り着く。
「大佐、在日米軍に働きかけて、我が国の空軍に遠征の要請はできますか?」
「出来なくはないだろうが……一体、何を思いついたんだ?」
「あったんですよ! 日本でたった一つだけ、あったんです! B-17を護衛できる長い航続距離を有する戦闘機を運用してる部隊が♪」
「なにっ?」
「【飛行第64戦隊】……”
「興味深いな……」
コリンズは本当に興味深そうに呟くが、ふと思い立ったように……
「そう言えばチョーノ少佐は、ルメー少佐に合った事があるのかね? 君にしては珍しく毛嫌いしてるようだが」
「えっ? 面識はまったくありませんよ?」
亜美はきょとんとした顔をした後、
「私は機甲師団を現代の騎兵だと思っています。槍を戦車砲に持ち替え、馬の代わりに強力な馬力を誇るエンジンを備え、甲冑の代わりに分厚い装甲を纏った……言うなれば、”装甲騎兵”です」
「なるほど……中々に貴重な見解だな」
そして口は笑っているが目は笑ってない表情で、
「そんな私が、どうして街を住人ごとまとめて吹き飛ばして更地に変える”空飛ぶ土建屋”に好意を向けられると思うんです?」
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数日後……
米国がイーストバンクと呼ぶハルハ河東岸、【ノモンハン・ブルド・オボー】近辺ではちょっとした騒音が鳴り響いていた。
「弾種榴弾、距離そのまま左右に1度ずつ散らしながら3発続けて!
その時、カチューシャ……エカテリーナ・トハチェフスカヤ大尉はまだ遠くにある「何の変哲も無い草むら」に、いきなり榴弾による砲撃命令を出した!
隊長車の砲撃に驚く部下達であったが、ノンナだけは冷静で間髪いれずに、
「弾種榴弾、照準は大尉殿の着弾位置。
そして着弾……よく見れば爆風で舞い上がるのは草や土煙だけではなく、もっと肉っぽい何かが赤い液体を振りまきながら宙を舞った。
「ノンナ、BT-7Mの残骸の陰に戦車を隠蔽するよう指示出しておきなさい」
「はい。カチューシャ様もお気をつけください」
カチューシャは”冬戦争”の戦利品、71連発ドラム・マガジンを装着したフィンランド製の”スオミKP/-31”短機関銃を片手に嗤う。
「ノンナ、誰に向かって言ってるのかしら? こと陸上戦でカチューシャ様に勝てる人間は、この世に一体何人いるの?」
「愚問でしたね。でも、くれぐれも油断なさらぬよう」
「判ってるわよ。久しぶりの白兵戦になるかもしれないもん♪ 楽しまなくっちゃね?」
***
「はぁ~い♪
「ぐふっ……」
その男は既に死に掛けていた。
いや、正確には彼の率いてた歩兵偵察分隊の中で辛うじて生きているのはこの男だけだった。
思いもしない距離から戦車の砲塔がこちらを向いた。
実戦を潜り抜けたこともあるこの男は、これまでの戦訓から考えて偶然だと思った。
第一次世界大戦の頃、自分がまだ新兵だった時代に偶然に自分達に向いた戦車砲に反応し、逃げようと身を隠していた遮蔽物から慌てて飛び出して車載機関銃で蜂の巣にされた戦友がいた。
それを貴重な経験として、自分はその愚は犯すまいと心に誓った。
何しろ彼我の距離は1000ヤードもあるのだ。ここに迷彩を施した歩兵がいるなんてわかるわけなかった。
自分達は敵戦車隊に気取られぬようにやり過ごし、敵の定期巡回ではないイレギュラーの集団が滲出してきた事を本部に連絡することが最優先な任務だった。
しかし……発砲炎が煌いたときには既に遅かった。
初弾は分隊のほぼ真ん中に降り注ぎ炸裂……運の悪い部下はこの時点で死んでいた。
更に左右に2発、同じところにさらに1発が落ち、分隊の半分が死か死を待つだけの身体となり、残りも無傷な者はいなくなっていた。
急報しなければならなかったが、肝心の無線機はその担当者と一緒に破片となり肉片と混じり、どこからどこまでが無線手でどこからが無線機なのかわからなくなっていた。
そして硝煙の臭いと土の臭いと鉄錆の臭いが混じった煙が晴れる頃、気が付くと一人の小さな女の子が立っていた。
最初はあまりにも非現実的な光景に、幻覚でも見てるのかと思った……しかし、手に持った短機関銃で死にかけた部下を嗤いながらまとめて薙ぎ払った時、その女の子が敵だと理解していた。
見ればソ連の戦車兵服を着てるではないか。
何故、その時まで気が付かなかった……どうも頭の回転が鈍いのが気にかかったが、反撃するのが先決だった。
でも、何故か腰に下げてるはずの拳銃が上手く持てなかった。
その男……分隊長はまだ気付いてなかった。
自分の右腕がすでに無くなり、止めようも無く血を流し続けてる事に……
「どうして、俺たちが潜んでいるのがわかった……?」
短機関銃の銃口が目の前にあり、分隊長は既に自分の命が長くないことを悟った。
その予感が外れないことも判っていた。
だから人生最後の時間を疑問の解消に費やすことにした。
「だって”見えて”いたもの」
「???」
「カチューシャ自慢の【
「魔女の……瞳……」
それが分隊長の最後の言葉だった。
***
「おかえりなさい。カチューシャ様」
「駄目だったわ。
と迎えたノンナに不満げな声を漏らすカチューシャ。
ちなみにスペツナズとは英語で言う”スペシャルズ”という意味で、本来ならば”特殊部隊”全般を示す言葉だ。
「それは残念でしたね? ですが、カチューシャ様にお楽しみいただけそうな報告が入ってきました」
「どんな?」
大して興味なさそうな顔をする彼女に、
「我が方の装甲偵察中隊が、敵の装甲偵察中隊を遠距離で目視発見しました。我が方は攻撃せずに離脱したのですが……ただし、敵装甲偵察隊がこちらに向かっているのを確認しました」
「ふ~ん……でも、軽戦車や軽装甲車両はもう食傷気味なんだけど?」
するとノンナはほんのかすかに口の端を動かすように微笑み、
「敵の中隊には5両の中戦車が入っていたそうです。そのうち4両はM3でしたが、うち一両は『識別不明。ただし中戦車サイズ。新型戦車と思われる』だそうです」
その言葉を聞くなり、カチューシャは口を三日月を思わせる形に曲げる。
「フフフ……あっはっはっ! ようやく楽しそうなのが出てきたわねっ! きっとそれって報告にあった噂の【
「おそらくは。遭遇したのは明らかにアメリカの部隊だそうですから」
ノンナがそう答えたとき、カチューシャの鼻先に冷たい感触が走った。
「雪……? ねえノンナ、カチューシャにはよくわからないけど、」
「はい」
「こういうの”天佑”って言うのかしら?」
そのカチューシャの笑みは、子供のような無邪気で同時に残酷なものだった……
皆様、ご愛読ありがとうございました。
カチューシャ様の”
この能力、実は……
カチューシャ「カチューシャにもよくわかんないけど、なんとなく見えるのよ」
というかなり曖昧なもので、脳が「視覚情報として処理」してるだけで本当に視覚強化系能力なのかは謎です。
それにしても亜美は戦争を小規模に納める気、まるで無し(笑)
これ以上コリンズを喜ばせてどうする(^^
とにもかくにもアリサとのエンカウントはもう目の前……
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!
***
設定資料
一〇〇式重爆撃機 / 一式陸上攻撃機
エンジン:火星二五型×2(空冷星型14気筒、燃料噴射装置/メタノール噴射装置/強制冷却ファンを搭載、1850馬力)
最高速(爆装時):492km/h(一〇〇式重爆)、479km/h(一式陸攻)
航続距離(爆装時):2,200km(一〇〇式重爆)、2,176km(一式陸攻)
固定武装:武2式航空機関銃×2(12.7mm。尾部、連装搭載、旋回銃)、武1919式機関銃×5(7.62mm。旋回銃)
搭載量:爆弾1t(一〇〇式重爆)、1t航空酸素魚雷×1(一式陸攻)
配備年:1940年(一〇〇式重爆)、1941年(一式陸攻)
備考
”この世界”において大日本帝国空軍が1930年より採用している「双発万能プラットフォーム・コンセプト」の第二世代機。
「双発万能プラットフォーム・コンセプト」とは、大柄で発展性や拡張性のある双発機をプラットフォームを先ず完成させ、それを叩き台に近似仕様で使える機体を分化/開発しようというコンセプトで、開発期間の短縮と合理的な生産/整備体系を狙ったものである。
その第一世代は、九七式重爆撃機と九六式陸上攻撃機だった。
第一世代の九七式重爆と九六式陸攻は第一世代ということもあり、試行錯誤の連続で最終的な両機の形状は最大の相違である尾翼や背部構造に代表されるように似ても似つかないものとなり、思ったよりは量産効果は高くなかったが、コンポーネントはかなり共通性があり、保守部品の供給や整備面においては極めて効果が高く、また稼働率も高かった。
一〇〇式重爆撃機と一式陸上攻撃機は、その第二世代ということもあり更に設計の融合や統合を進めたもので、非常に形状も似通っていて一般人では見分けが付かないほどだった。
基本コンセプトは下記の通りだ。
・大馬力の火星エンジンを搭載し、機体の余力を持たせると同時に高速化を図る。
・インテグラルタンクの採用による燃料搭載量の拡大と長距離飛行の達成
・インタグラルタンクのセルフシーリング化、機体構造自体の高剛性化、重要部分の装甲化/防弾化、自動消火装置の導入などによる直接的/間接的防御力の強化
・将来的な機体発展性、拡張性の確保
・自衛武装の強化
などであり、史実の一〇〇式重爆と一式陸攻のいいとこ取りのような機体であった。
特にエンジンの開発が早いが、これは何も火星に限ったことではなくモータリゼーションの影響や英米のエンジンメーカーや周辺企業の有償無償を問わない技術供与のために前倒しになったのだろう。
例えば、ゼロ戦として有名な零式艦上戦闘機は十二試艦戦の時点で三菱製の”金星51型”、空軍の一式戦闘機”隼”は中島製の”栄21型”の搭載を前提とされていた。
ちなみに”この世界”ではエンジンは基本的に識別し易くするためにペットネームで呼ばれることが普通で、史実のように「同じエンジンなのに陸軍と海軍と呼び方が違う」などということはない。
基本的に特殊機材がほとんど無く、爆撃用機材のかなりの部分が九七式の発展型で補える上に需要の大きな一〇〇式重爆が先に開発され、史実と違い英米と敵対しておらず当面は敵艦隊と戦う可能性が低かった(低いと思われていた)ために一式陸攻が後発となった。
もっともこれは、一式陸攻の開発が後回しにされていたとか優先度が低かったというより、新世代主力対艦装備である航空酸素魚雷の開発に手間取ったから、それに歩調を合わせたといわれている。
蛇足ながら、英米の艦隊と衝突する危険性が少ないのに史実よりも強力な、高精度ジャイロと触発信管だけでなく艦底爆発を狙える磁気信管を装備した航空機用の酸素魚雷が開発されたのは、ちょっとした逸話がある。
”この世界”の帝国海軍では当然のように条約派が勝ち、悉く「国家を破産に導く元凶」として艦隊派が軍よりパージされたわけだが……
一説によると、大艦巨砲主義者の巣窟だった艦隊派の懲罰と粛清の象徴、国民へのアピールとして赤城型と加賀型の4隻の戦艦を空母に設計変更し、更に酸素魚雷の資料を根こそぎ空軍に渡し海軍と共同の強力な航空機用の対艦兵装開発を要請したらしい。
ペットネームとして”呑龍”という名が与えられた理由は、東京オリンピックでの上空をフライパスしてお披露目した空軍機は一〇〇式重爆撃機以外にも一〇〇式重局地戦闘機、一〇〇式司令部偵察機の三種あり、”一〇〇式トリオ”と呼ばれているが、それを混同しないようにする配慮だと言われている。