装甲少女隊、北へ CODE1940   作:ボストーク

27 / 37
皆様、こんばんわ~。

今回のエピソードは……カチューシャvsアリサ・イベントのラスト・エピソードになります。
果たして、アリサは戦車乗りとして復帰できるのか……?




第27話 ”礼砲です!”

 

 

 

ハルハ河東岸、ノモンハン・ブルド・オボー近辺……

 

雪原の中に散らばる多くの乗員ごと焼け爛れた米国製戦車の残骸の中、カチューシャの声が響き渡る。

 

「全員、撤収準備! 急ぎなさいっ!!」

 

カチューシャの激が飛ぶ中、米兵からの戦利品回収もそこそこに大慌てで自分の戦車へ駆け戻る新兵達。

もたもたしてたらいつカチューシャの短機関銃かノンナの対戦車ライフルが火を噴くかわからない。

当然、新兵達は一度ならずも足元を掠める銃弾の洗礼を浴び、”無様なダンス”を踊った経験があるのだ。

 

「ノンナ、残念だけどご褒美タイムもしくはオシオキタイムは終了よ! あと10分もすれば交戦距離に入るわ」

 

Да(ダー)。手榴弾とカメラはこちらに」

 

さすが副官以前からのカチューシャのメイド。彼女の行動が読めてるようだった。

 

「気が利くわね♪」

 

カチューシャはノンナから受け取ったF1手榴弾×2と私物の(伯父と一緒にドイツへ視察に行ったときに買って貰った)”コンタックスⅢ”を片手に軽い動きでM4中戦車に飛び乗り、ととんと駆け上がる。

引っかかる場所のないフラットでちんまい肢体の特性をフルに生かし、素早く車内に身を滑り込ませると……

 

「中々に宝の山じゃない」

 

とにんまりと笑う。

先ず手に取ったのは、原作で言う「馬鹿でも判るマニュアル」とその他の書類一式、目に付いたものはとりあえずゲット。

無線機も取り外して奪取したいところだけど、どうやら防振マウントにがっちりボルト止めされてあるらしく、時間がないので諦める。

ついでにパシャパシャとスマートなライカなどに比べるとカチューシャ好みのゴツイ外観が自慢のコンタックスで内部を撮影。

ベルリンのメインストリートでライカを薦める伯父に、この通称”ユニバーサル・コンタックス”をねだったのは、特徴である当時としては先進的なセレン光電池式電気露出計が物珍しかった……からではなく、無骨な外観が気に入ったからだった。

車内の撮影の後は引き抜けそうな砲弾を抜いて、

 

「ノンナ、砲弾を投げるからそれを積み込んで」

 

「かしこまりました」

 

75mm砲弾を片手でポイポイ放り投げるカチューシャもカチューシャだが、それをキャッチして数本纏めて運ぶノンナも大概だ。

二人揃って見た目以上にパワフルなようである。

 

そして”探索”を一通り終わらせたカチューシャは、

 

「よっと」

 

M4のキューポラから飛び降りる拍子にピンを抜いた手榴弾を車内に放り込み、

 

Финиш!(フィニッシュ!)

 

”ちゅどぉ~~~ん!!”

 

哀れまだ生産されて間もないM4は、中から手榴弾で吹き飛ばされるという戦車としては惨めな最後を遂げた。

 

そして、車内から引き摺り出されて雪原に縛られ転がされていたからこそ、砲弾の誘爆に巻き込まれなかったアリサたち五人の”元・乗員”に、

 

「貴女達、運がいいわ。カチューシャ様と対峙して五体満足でいられるんですもの。その武運に精々感謝しなさい」

 

そう言い残し、

 

до свидания(ダスビダーニャ)~♪」

 

と軽やかなステップでT-34bis(自分の戦車)に乗り込み、悠々と走り行くのだった……

 

 

 

このハルハ河東岸の小さな戦いは、「倍以上の敵を鎧袖一触、圧倒的な強さで文字通り全滅させる」という形でソ連側の圧勝という結果に終わった。

 

これが米ソ両軍に大きく影響を与えることになるのだが……それはやがて語られよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*************************************

 

 

 

 

 

みほが”現場”に着いたときは、ただただ酷い有様だった。

そうとしか言いようがなかった。

潰されているのは、全て米軍の車両ばかりで……まさに想像する限り、最悪の結果の一つだった。

 

「アリサ!」

 

ケイはキューポラから飛び降り、アリサに駆け寄るが……

 

「いやぁぁぁーーーっ! いやぁぁぁぁぁっ!!」

 

彼女は完全に錯乱していた。

今までの生活ではありえなかった命の危機とその恐怖、そして唐突な解放……

女性というには語弊のある処女が心に傷を負い、精神の均衡を崩すには十分すぎる衝撃であり、惨事だった。

 

戦争神経症(シェルショック)……

ケイの脳裏に兵士としては再起不能を意味する、その不吉な単語が浮かんだが……

 

”ぐいっ”

 

みほは何も言わずにアリサの着こんだ日本製のレプリカ・フライトジャケットの頑丈な襟首を左手で掴んで無理やり立たせた……いや、この場合は膂力に任せて吊り上げたというべきか?

 

そして腰のホルスターから愛用の拳銃……”ガヴァメント・みほスペシャル”を引き抜き、

 

「ミホっ!?」

 

”PAM!”

 

銃声が鳴り響いた……

 

 

 

***

 

 

 

「ひゅ……」

 

恐慌状態にあったアリサの体がぴたりと硬直する……

何のことはない。

みほはアリサの耳元で銃口を背後に向けて、なおかつ排出された空薬莢が誰にも当たらぬよう気を使いながら発砲したのだ。

無論、気付けが理由だ。

みほは硬直したアリサを更に更に引き寄せ、そして……

 

”CHU”

 

「!?」

 

強引に唇を重ねると同時に、

 

”がりっ”

 

「Ouch !?」

 

みほが唇を離すと噛んだアリサの唇から血が流れていた。

みほはそれをそっと指先で拭い、アリサの唇にルージュのように塗る……

 

「痛みを感じるってことは、生きてるってことだよ」

 

そして、アリサの瞳をじっと見つめる。

そこには感情を表す色合いはなく、ただただ仄昏(ほのぐら)い……底の見えない深さが揺蕩(たゆた)っていた……

 

「思い出しなさいアリサ・ホイットニー……自分が何者なのかを」

 

「えっ……?」

 

「あなたは栄光曇ることなき”サンダース戦車中隊(サンダース・タンクトルーパーズ)”の一員、それも部下を率いる立場の副隊長(サブチーフ)。そのあなたが部下を残して『壊れる』なんて贅沢が許されると思う?」

 

「そ、それは……」

 

「アリサ・ホイットニー、思い出しなさい。あなたは一方的に狩られる存在でもなければ、嬲られる存在でもない……武器を持ち、戦場に立つことを許された兵士だよ。あなたの仕事は国家に許された破壊と殺戮を行うこと……OK?」

 

「Y, Yea Mam !!」

 

「いい娘ね」

 

みほは握っていた襟首をぱっと放す。ぺちゃっと腰から崩れ落ちるアリサ……

 

 

 

「ケイ、残りの娘達を面倒を頼んでいい?」

 

「う、うん。それはもちろんだけど……」

 

みほの行動に戸惑うケイだが、みほは西を真っ直ぐ見つめる。

その視線の遥か彼方……3km以上遠方。

遮蔽物のない平原だからこそ、雪の中でもおぼろげながら見える周囲の景色に溶け込むように佇む鋼鉄の獣の群れがいた……

 

「距離の取り方からと姿勢から見て、一戦やらかす気はないみたいだけど……」

 

その戦車群は車体をハルハ河のある西側に向けていた。だが……

 

「このまま大人しく帰る気もないみたいだね?」

 

砲塔を旋回させ砲身がエンジンルームにかぶるように真後ろを向いている。

東側を向く……自分達に砲口を向ける”赤い戦車”にみほは不敵に笑う。

 

「ケイ、サンダース戦車中隊は救助活動を優先して」

 

「了解よ!」

 

そしてみほは周囲を見回し、

 

「試製一式試験中隊は前方に200m進出! ケイたちの壁になるよっ!!」

 

 

 

***

 

 

 

「やるじゃない♪」

 

カチューシャは素直に感心していた。

撤収したカチューシャ達は先ほどの現場から、3.5km西進した場所で一度隊を停車させ、砲塔を回転させて敵の増援が来るのを待っていた。

 

能力(いのう)”を使って見るのも悪くはないが、さっき使った”俯瞰図の視点(バーズアイ)”は非常に高い集中力を必要とし精神的消耗が激しいので、カチューシャ的には今日はもう異能に頼りたい気分じゃない。

 

無理をしなくちゃいけない時としなくていいときの見極めが上手いのも、またカチューシャの強みだ。

これは天性のものというよりどちらかと言えば後天的なもので、人並みとは言わないがカチューシャとてある程度の失敗はしてるし失敗を糧として学習している。

ただ、文字通り致命的な失敗をしないから、こうして生き残っているのだ。

 

というわけで彼女が腰のポーチから取り出して覗いているのは独ツァイス社の”8×30CF Deltrintem(デルトリンテム)”という双眼鏡だった。

マニアなことを言えばCFとはセンター・フォーカスのことで、左右のレンズのピントを同時に合わせられるタイプの双眼鏡だ。

ついでに言えばこのモデルは非球面型の「リヒター・レンズ」を採用した改良型のほうだ。

出所は今度は最愛の伯父ではなく、両親から”冬戦争”の活躍で英雄勲章を授与されたお祝いに貰った物だった。

 

微妙にカチューシャの持つ小物がブルジョワジーな気もするが……まあ、彼女の身分や立場からすれば別段おかしなものではないだろう。

ともかく、そのシャープな視界が自慢のレンズ越しに見える風景は、仲間を保護するアメリカ女達を庇う様に横列隊形で並ぶ、ついさっき手榴弾で中から吹き飛ばしたM4中戦車(エムチャ)と良く似た印象の印象の戦車だった。

 

「ふ~ん。あれが報告にあったЯпонский(日本人)の新型戦車ってわけね?」

 

「情報部の見解ではアメリカ人との共同開発で作り上げた戦車で、M4中戦車の兄弟車両とのことですが」

 

「う~ん。カチューシャには全く別の戦車に見えるんだけどなぁ? むしろ丸っこい鋳造砲塔以外には共通点無いんじゃない? そりゃ砲弾は相変わらず共通かもしれないけどさ」

 

と首を捻るカチューシャ。

日本が試作車両で米国が先行量産型、同じく75mmの主砲と鋳造構造の砲塔を持っている上に開発時期がほぼ同じとなれば、いくらスパイを潜る込ませる/スパイに仕立てることにかけては世界史上稀に見る能力を持つソ連でも見誤ることはあるということだろう。

もっとも”戦車の格”という意味では、将来的な発展も考えて試製一式とM4は同格と言えるので結果的には大きく的外れな見解ではないが。

 

「まあ、いいわ。ちょっとは挨拶くらいはしておきましょう。全車、Сальво(全門斉射)!!」

 

その号令と共にみほ達に向いていた砲が一斉に火を噴く!

 

 

 

***

 

 

 

見える発砲炎に、空気を切り裂き迫り来る砲弾……

しかし、みほは落ち着いたものだった。

 

案の定、敵砲弾……榴弾は、みほたちのかなり”手前”に着弾し土煙ならぬ雪煙をあげる。

 

(まあ、こんなところだよね?)

 

この距離では向こうだってまともに狙う気はないだろうが……

それに1両だけ大型砲塔を乗せたT-34(みほはあれが改良型のbisだとあたりをつけた)はともかく、日米英にT-34として知られる小型砲塔(ピロシキ)モデルは砲身が短い上に砲塔が小さすぎて十分な主砲の仰俯角が取れないと推察されていたのだ。

相手も本気で狙ってないだろうから、本当の有効射程距離はこれではわからないだろうが……

 

(でも散布界から見て、そう遠距離における榴弾の曲射には向いてないってことか……)

 

左右はあえて散らして撃った可能性はあるが、前後の着弾のばらつきがかなり大きい。

偶然ではなく必然だが、みほもまたカチューシャ同様に双眼鏡を覗きながらそう結論付ける。

ただしこちらは日本製、それも陸軍御用達の東京光学製の6×24の官給品ではなく、一回りは大きい私物の海軍が大好きな日本光学製”Novar(ノバー)7x50”というモデルだ。

カチューシャ愛用のそれと比べるなら無骨で愛想の無い形をしているが、甲板要員の見張り用に官給されてるだけあって中々見やすく、IF(インディヴィジュアル・フォーカス:左右のレンズ別々にピントを合わせる)であることを差し引いても使い勝手が良かった。

 

(せっかくの礼砲。こっちも返礼しなくちゃね♪)

 

「沙織さん、中隊全車に通達! 弾種、榴弾。敵の”鼻先”に落すように照準!」

 

「了解!」

 

「”鼻先”でいいんですか? こちらの射程の長さを知られてしまうことになりますが?」

 

華の疑問にみほはクスリと笑い、

 

「別に有効射程まで教えるわけじゃないからかまわないよ。”弾がそこまで届く”ことを教えるだけだから。むしろ、それでこちらの戦力を過大評価してくれるなら御の字だよ。それに……」

 

そしてみほは笑いの質を悪戯っぽい物に変え、

 

「アリサ”ちゃん”を可愛がってくれた意趣返し……少しぐらい慌ててもらってもいいんじゃないかな?」

 

一瞬、優花里と麻子が「むむむっ……」という顔をしたことだけは追記しておく。

 

 

 

***

 

 

 

「ファイヤ!!」

 

みほの号令の元に参加してる”試製一式中戦車試験中隊”全車の主砲が火を噴く!

 

「あはははっ♪ 礼砲返しとは戦の礼儀がわかってるじゃない☆」

 

自分達の頭上を通り越し、進行方向……”車体の前方”に落ちる砲弾を見て、カチューシャは上機嫌な声で笑う。

 

「敵の主砲の射程距離はかなり長いようですね?」

 

冷静に分析するノンナに、

 

「確かに”最大射程”は長そうね? 有効射程はそれほどでもないと思うけど」

 

クスクスとカチューシャは笑い、

 

「挑発……ううん。意趣返しのつもりなんじゃない? こっちがアメリカ女をいたぶったね」

 

 

 

そして砲撃は一射で終わる。

敵はどうやらしつこく撃ってくる気はないようだ。

ピッチャーマウンドから投手がストライクを取れるのは普通だが、外野……それもバックスタンドからストライクを取れる投手などまずいないことをよく知るカチューシャは、

 

「ざぁ~んねん。もっと無駄弾撃ってくれれば、更に詳しくデータも取れたんだけどね」

 

(でも、おかげでなんとなく”あの悪寒”の正体がわかったわ……)

 

「これはこれで得がたい経験って奴かもね?」

 

「カチューシャ様?」

 

「なんでもないわ。全車、今度こそ基地に帰投するわよっ!!」

 

 

 

***

 

 

 

「カチューシャ様」

 

それは基地への帰り道、ふと自分と同じようにキューポラから身を乗り出した隣を走るノンナが話しかけてきた。

 

「なに?」

 

「どうして敵の接近に気が付かれたのですか? カチューシャ様の感知範囲(エリア)でも、そこまでは広くないでしょう」

 

ノンナがわざわざこのタイミングで話しかけてきた理由がわかった。

カチューシャの異能、”バーバヤーガの瞳”に関わる話題彼女の身の安全のためにも大っぴらに話すようなものじゃない。

しかし、今は行軍中で走行中の戦車は騒音の塊、オマケにカチューシャとノンナ以外の全員は車内にこもってる現状では、内緒話するのに最適な環境だった。

 

本来、走ってる戦車同士のキューポラ間の会話は、戦車から漏れです騒音で難しいものだが、不思議とこの二人の間では通じてしまう。

これも長年の主従関係の成果だろうか?

 

「ああ、それね……いきなり、背中に氷柱を差し込まれたような冷たい感覚を感じたのよ」

 

「えっ?……もしかして、あの左右を見回してた時ですか?」

 

「ええ。でも、その”悪寒”の正体も見当ついたけどね」

 

「そうなのですか?」

 

カチューシャは頷き、

 

「敵の中で一人だけキューポラから上半身出して双眼鏡で覗いてた奴がいたでしょ? おそらく、あいつよ」

 

カチューシャは腕を組み、

 

「多分、あれが噂の”ミホ・ニシズミ”でしょうね」

 

「”トクチの若き軍神”……ですか」

 

ノンナの言葉にカチューシャはもう一度頷き、

 

「眉唾物の噂だと思ってたけど、少なくとも戦闘力に関しては舐めてかからないほうが賢明みたいね?」

 

しかしカチューシャの頬が緩み、

 

「でも、不思議と嬉しいのよ」

 

「何故です?」

 

「ようやく敵にカチューシャが本気で戦える相手が出てきてくれたんだもの♪」

 

その表情は笑みと呼ぶには獰猛過ぎるものだった。

笑顔とは本来、攻撃的な表情だったというよいサンプルになるかもしれない。

 

 

 

(それにしても……)

 

「あの”異常な違和感”は一体……ねえ、ノンナ」

 

「はい」

 

「ミホ・ニシズミは、本当に人間なのかしら?」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*********************************

 

 

 

 

 

戦いは終わった。

それも米軍の惨敗という形で、だ。

しばらく陣取ってると戦車回収車群がやってきて牽引準備をはじめた。

無論、遺体処理も同時に行っての撤収だろう。

 

みほ達はその作業中は護衛の為に暫く現場に留まるようだ。

雪はまだ降り止みそうもないし、しばらく空襲の心配は無いはずなのでこれで十分だろう。

 

サンダース戦車中隊にはいち早く帰投命令が出ており、アリサたちは車両に分譲させてもらい同じく帰路につくことになった。

命に別状が無いとはいえ、怪我人はいるし、何より精神的後遺症が懸念される者がいる以上は当然の処置といえた。

 

まさか現場に急ぐ回収班にアリサたちの着替えの出前(デリバリー)を頼むわけにもいかず、糞尿に汚れたズボンや下着は現場で廃棄した。

お陰で剥き出しの下半身に車内にあったタオルを巻くという敗者に相応しい惨めな姿となったが……戦車にエアコンなんて気の利いたものの無いこの時代、凍傷に罹り文字通り”使い物にならなく”なるよりはマシだった。

 

アリサが便乗したのは、ナオミの車両だったが……

 

「ねえ、ナオミ……」

 

「ん?」

 

いつものようにガムを噛みながら、言葉少なに答える。

いつもと変わらぬ姿が、今はありがたかった。

 

「私、もう男の人いらないかも……」

 

「……はっ?」

 

アリサは細い指でみほに噛まれた唇の傷をそっと撫でた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





皆様、御愛読ありがとうございました。
小さな戦いの顛末はいかがだったでしょうか?

実はアリサの

「私、もう男の人いらないかも……」

は最も初期のプロットにもあった。カチューシャとの戦闘を含め「最も古くに完成したシーン」の一つだったりします(^^
ちなみに原案ではもっとえげつないシーンだったんですが、それをやるとアリサを含め再起不能になりそうで(えっ?

アリサは確かに兵士として死ぬことはなかったですが、これが彼女にとって幸せな結末なのかは不明です。

さて、次回からは戦いがいよいよ新たな局面に入ります。
さしずめシリーズの最後の戦いに向けた準備回でしょうか?

それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!



***



設定資料



一式十二・七粍固定航空機関銃

全長:1557mm
重量:29500g
使用弾薬:12.7×99mm(50口径BMG)
装弾数:金属製ベルト・リンク給弾方式
発射方式:フルオートマチック
発射速度:800発/分
銃口初速:875m/s(”マ103炸裂徹甲弾”使用時)

備考
ブローニングAN/M2航空機関銃を参考に、汎用性を切り捨て航空機用固定機関銃に特化した機関銃として再設計された日本三軍統合採用の新型航空機関銃。
史実の”ホ103/一式十二・七粍固定機関砲”に該当する機関銃だが、三軍統合名称で口径20mm以下は全て機関銃とされていて、また航空機関銃は重/軽機関銃の区分は無く航空機関銃で統一され、区分は主翼や機首に固定装備されるか、あるいは爆撃機や攻撃機のように旋回銃座に搭載されるかの懸架方法で区分される。

史実より30cm近く長く、また6kg以上重いが、この理由はただ一つで1924年(大正13年)に締結された『日米砲弾/弾薬相互間協定』により、武2式重機関銃から継続して史実で用いた12.7x81mmSR弾より強力な米軍共通の12.7×99mm(50口径BMG)弾を使用するため、オリジナルより長銃身となり強度アップの為に主に機関部を肉厚にしたために重量が増した結果だ。
それでも設計を先鋭化させただけありAN/M2に比べるなら主に機関部が短く、また軽量である。
スペックだけ見るなら、史実の一式機関砲よりも”三式十三粍固定機銃”の方が近いかもしれない。

何より、AN/M2とそのライセンス生産モデルである武2式航空機関銃に共通の問題だった「高G機動時の装填不良(ジャム)」は、装填前に給弾ベルトに一定の張力を与え安定した装填を可能とする”展張式給弾補助具(フィード・テンショナー)”の採用で解決している。

また航空機用に発射速度1000発/分まで強化したAN/M2のカスタム・モデルに比べ発射速度は劣るが、負担が大きく強度や耐用性が著しく落ちるそれに比べ、耐久性はかなり高い。

ただし、これだけの高性能でありながら小型軽量という優れた特性は、逆に言えば前出のように不必要なものを全て切り捨てた結果であり、例えばAN/M2で、部品の付け替えにより給弾ベルトの差し込み方向を左右自在に変更できたが、一式ではそれは不可能で阿/吽型(史実では甲/乙型。”この世界”では混同を避けるために使われなかった)という左右給弾専用のモデルが作られた。
また撃発装置は電気式であり、グリップをつけて旋回機銃への転用や航空機への固定銃搭載以外での使用は一切考慮されてないため、ファミリー化するには再設計が必要なほど特化した構造だった。



***



さて一式機関砲と言えば断熱圧縮効果を使う空気信管を持つ”マ103炸裂弾”だが、この世界では大幅に開発が前倒しされている。
そもそも”この世界”における日本軍戦闘機隊の最初のライバルは、敵戦闘機ではなく『特地』名物の翼竜(ワイバーン)である。
軽戦車に匹敵する硬い装甲防御……鱗を全身に持つ”空飛ぶ装甲車”相手に、確かに鱗を抜ける50口径弾は有益だった。

しかし、それに慣れてしまえばそれ以上を求めるのが人間というものである。
というわけで50口径の榴弾ないし徹甲榴弾の要望が出たのだが、生憎米軍の50口径弾にはそのどちらもなく、また開発予定も無かったのだ。
米軍にとってはM2は十分に高威力で通常弾や徹甲弾、焼夷徹甲弾(トレーサー)などで十分と考えていたのだろう。

だが、それで済まないのは日本軍だ。
なにせ相手はタフネスさで知られた史実の米軍機やシュトゥルモヴィックもびっくりな重防御で、スピードはないが生物翼ならではの恐ろしく自由度の高いフラップ設定に加え、尻尾や首を一種のアクティブ・スタビライザーとして使うことにより、重装甲の癖に抜群の運動性を誇る……どころか空中停止(ホバリング)すらこなすのだ。

しかも日本が『特地』に逆侵攻をかける頃にはある程度の翼竜使いの対戦闘機戦術は固まっており、生物的なトリッキーな空中機動やホバリングでこちらの戦闘機をオーバーシュートさせると、無防備な背中に向けて竜騎兵が機銃掃射を行ったり、便乗した魔導師が攻撃魔法を放ってきたりするのだ。

実は”この世界”において日本戦闘機はやはり抜群の運動性を誇るが、そうなった理由は全く違い、史実では圧倒的な運動性で敵を空中機動で翻弄し巴戦で駆逐する攻勢の発想だったが、”この世界”では翼竜の空中機動に追従するためとオーバーシュートした場合に敵の追撃を振り切るためだ。

本当に意外に思われるかもしれないが……軍種を問わず”この世界”の日本の戦闘機乗りは必勝の戦術は『一撃離脱』だと叩き込まれている。
例えば、翼竜と対峙した場合は翼竜に勝る速度と高度性能を生かして上空を取り、可能なら太陽を背に奇襲、空中逆落としによる初撃を加える。
しかし、相手は横滑りや木の葉落し、空中急停止を自在にこなす翼竜であり、完全な奇襲でなければ回避されることも多い。
そして、巴戦……運動性能を生かした空中格闘線技能は、あくまで竜に引き剥がされないように機動し、敵の攻撃を交わしながら次の一撃を入れるチャンスを得るために必要な技能だった。
一時期は単純な上昇と下降、一撃離脱の繰り返しという戦術も行われたがそれもすぐに慣れられてしまった。
特に翼竜は生物である以上は生存本能があり、竜使いよりも翼竜自体に察知されることも珍しくないのだ。

以上のような条件から、日本のファイター・パイロットは史実以上に短い射撃時間を余儀なくされ、開発側は「時間当たりの火力の集中」に心血を注いだ。

故に威力を落さず発射速度を増大させた特化型機関銃を作った。軽量化は重自体の搭載数や銃弾搭載数の増大につながり大きなメリットに繋がる。

そして同時に銃弾の威力強化は発射速度の増大と並んで威力拡大の必須事項であり、かなり50口径弾導入直後から多くの努力と時間と予算が割かれた。
米軍が開発しないというだけあり、その開発は困難を極めた。従来型の信管では小型化が難しく、作ったはいいものの鋭敏すぎて砲身内や薬室で暴発する腔発や、発射直後の早期炸裂といった事故が多発した。

実際、『特地』の翼竜と戦う必然の低い海軍の次世代戦闘機は、”対戦闘機を主目的とする制空戦闘機”をコンセプトとして掲げ、早々と20mm機関砲の搭載を決めていた。

だが、「翼竜を狩る者(ワイバーン・スレイヤー)」としての宿命を背負ってしまった空軍はそうも言ってられなかった。
当時の20mm機関砲は発射速度が遅く装弾数が少なく、短時間の高速弾幕射撃が最も有効な翼竜退治には少々難ありと判断されたのだ。

そして日本は一式航空機関銃と同時に、ある銃弾をデビューさせる。
それこそが断熱圧縮効果を使う空気信管を採用した”マ103炸裂徹甲弾”であった。
史実のマ103炸裂弾(榴弾)との最大の違いは、装甲鱗を持つ翼竜相手なので貫通力の低下を嫌った空軍が、空気信管で増えた内部容積の全てを炸薬に当てたのではなく、炸薬と同時に表面硬化処理した重金属弾芯(コア)を仕込んだことだろう。
つまりはHEでなく日独戦車が大好きなAPHEであり、その為、史実のそれより爆発力は幾分弱いが貫通力は大幅に上回っている。

そして、このマ103の炸裂徹甲弾構造はすぐに20mm弾にも応用され、開発が進められた。
特に20mm弾はドイツの薄殻榴弾頭(ミーネンゲショス)を参考に、薄型弾殻を開発していたので、このマ103の空気信管と硬化弾芯を持つ構造は非常に重宝された。
完成したのは大戦中期以降だが、この時期は航空機の重装甲化が進んだ時期でもあり、なんとか間に合ったというところである。

また弾芯の代わりに焼夷剤を封入したマ104炸裂焼夷弾なども開発され、一式航空機関銃共々日本の主力空対空兵器として活躍した。

蛇足ながら、この一式は空軍に優先的に生産分がまわされ、海軍機が採用するようになったのは生産に余力が出てきた大戦中期以降のことである。
また、あるレポートによれば同数の武2式航空機関銃とマ103を装填した一式航空機関銃を比較した場合、発射速度と銃弾威力の相乗効果で時間当たりの相対火力は倍以上とされている。










  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。