装甲少女隊、北へ CODE1940   作:ボストーク

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皆様、こんばんわ~。
いよいよCODE1940も30話の王台に乗ってしまいました(^^
あれ? これって最長不倒距離……?

さて今回のエピソードは……前半はみほがサブタイどおりにお仕事に励みます。
そこにも小さな出会いが……?

後半はカチューシャ様がなんだか不機嫌です。
その理由とは……




第30話 ”お仕事お仕事です♪”

 

 

 

みほが、西住みほ大日本帝国陸軍中尉であると同時に”ミホ・ニシズミ合衆国陸軍少佐”となってしまった翌日から、彼女の仕事は始まった。

 

まず真っ先にはじめたのは自分が率いる戦力の最把握だった。

 

「となるとわたしが直接率いる実働戦力は、正面戦力なら中戦車32両、軽戦車10両、突撃砲が8両の合計50両か……」

 

具体的には、

 

試製一式中戦車試験中隊(プロトワン・テストトルーパーズ) → 試製一式中戦車×16

 

サンダース戦車中隊(サンダース・タンクトルーパーズ) → M4中戦車×16(実働)

 

赤星突撃砲車隊 → 試製一式突撃砲車×8両(2個小隊)

 

百足装甲偵察中隊 → 九八式巡航軽戦車×10両(変則1個中隊)

 

M4中戦車は1両カチューシャに潰され、回収はされたが軍事的に意味がある時間内に修理不可能として「資料として保持。戦闘車両としては廃棄処分」という扱いになった。

アリサ以外の乗員(クルー)は一人を除いて未だ戦線復帰は出来てないが、幸いにして重度の戦争神経症(シェルショック)に陥った者はいなかった。

それに元々サンダース戦車中隊が持ち込んだ20両は予備車両を含めての数で、予備人員もいるので中隊通常編成の実働16両は維持できているのが幸いだ。

 

自走榴弾砲と対空自走砲は、【日米混成”慰問”部隊】改め【日米臨時混成独立機甲旅団】本部直轄扱いとなった。

 

名称の変更……みほの少佐就任に合わせ”慰問”の二文字が外されたということは、実戦部隊に格上げされたという意味であり、アメリカ人は戦争というものに少し正直になったのかもれない。

少なくとも戦車単体としては満州最強の車両を保有部隊を遊ばせている理由はないし、合理的な判断といえた。

 

「あと、増援で”一〇〇式観測挺進車(テレ)”と”試製一式回収工作車(セリ)”が来たのはありがたかったな。他の支援車もだけど……戦闘継続能力が格段に上がるよ」

 

満州コモンウェルスでの戦闘が不可避となった現状、日本陸空軍からの増援は続いていた。

戦闘車両は予備以上(補充人員無しで2両の試製一式中戦車が届いていた)の持ち込みは無理だったが、戦闘をサポートできる体制が確立できるのはありがたかった。

バックアップ無しに戦う愚を、みほは教育と実戦から重々承知していた。

 

(補給や補充、整備が出来なくなった部隊はあっという間に稼働率が急降下して、戦力すり減らすからなぁ……)

 

”この世界”の大日本帝国は日露戦争と第一次世界大戦、『特地』勢力との度重なる戦闘から得られた戦訓と、英米の影響の相乗効果でロジック面を非常に重視していた。

 

前作でも少し触れたが、今の日本は戦車などの機甲兵力が登場する第一次世界大戦前から、”怪異”という知能は低くても文字通りの人外のタフネスさを誇るモンスターと戦ってきたのだ。

そのせいで極端な火力偏重主義になり、「敵にいかに大量の有効火力を叩き込めるか?」が軍種を問わない課題だ。

だが逆に言えば火力偏重主義は「根本は弾の投射量で決まる」のであり、それだけの弾を前線に用意できなければ途端に破綻する。

おまけに機甲化によって燃料の消費まで跳ね上がっている。

高火力化させるのは一部の例外を除き火砲は大型化の一途を辿り、であるならば旧来の人馬で前線まで運ぼうとするなら自然と限界は来る。

「望む時間に望む場所への火力の集中投入」を金科玉条とする”この世界”の日本陸軍にとって機甲化、自動車化は必然なのであった。

 

つまり、前線火力を支える大量生産を前提にした輸送や補給、保守/整備などの史実とは比べ物にならないくらいランクアップしたロジックは、物資の大量消耗/消費が大前提の火力偏重主義の裏返しというわけである。

 

少なくとも”この世界”の日本において「前線に鉄砲と兵と食料さえあれば戦える」なんて補給線軽視の中世脳指揮官が排除されるような教育/考査システムが、敵味方問わない大量の出血と引き換えに完成していた。

 

 

 

***

 

 

 

「戦争において重要なのは、戦術レベルでさえも”前線に必要な兵力を揃える”だけじゃなくて、それを前提とした上で消耗を考慮して”揃えた兵力を維持し、いつでも有機的に動かせる”ことの方が重要だからなぁー」

 

そう呟きながら自作のチェックシートに何やら書き込んでいく。

 

(十分とはいえないけど、贅沢を言い出したらキリが無いし……)

 

 

 

”BuWwwwooooooooM !!”

 

ふと響いたB-17に比べると軽めの爆音に上を見上げると……

 

近接(C)航空(A)支援(S)用の機体の「三種盛り」かぁ……『特地』でも御馴染みの”九九式襲撃機(キューシュー)”に、空軍の”九七式軽爆撃機(キュウナナケーバク)”に”九八式軽爆撃機(キュッパチケーバク)”かな? あれ? でも、なんとなく違うような……?」

 

「ああ、それは? どちらもエンジン換装と機体改修を終えた”二二型”だからですよ♪ 九七式はエンジンを九九式襲撃機と同じ金星44型にしたモデルで、技術フォーマットの多くを海軍の九九式艦上爆撃機(キューキューカンバク)と共用化してます。実はエンジンも九九式艦上爆撃機の近代化改修で同じ金星でも54型に換装した際、余剰になった物が回ってきたみたいですよ? 九八式はエンジンを米国から輸入した”アリソンV-1710”に換装した物らしいです」

 

「えっ?」

 

みほが振り向いた先にいたのは、

 

「どちらもまだロールアウトしたばかりのテストモデルに毛が生えたようなものですけど……既に”九七式軽爆改”、”九八式軽爆改”って現場では呼ばれてます」

 

そうたおやかな微笑を浮かべるのは、美しく長い黒髪とグラマラスな肢体を大日本帝国空軍の地上要員制服に身を包んだ女性……

”少佐”を示す階級章に、みほは先に敬礼する。

確かに自分も”米陸軍少佐”だが、それは臨時任官であり本来は”日本陸軍中尉”であるのだから当然。

それでなくとも少佐になりたての自分より先任なのは間違いない。

 

「大日本帝国空軍戦術航空爆撃管制官、”赤城由美(あかぎ・ゆみ)”少佐よ。はじめまして♪ あなたが亜美が言っていたみほちゃんね?」

 

 

 

***

 

 

 

「赤城少佐は亜美さん……じゃなかった蝶野少佐と同級生だったんですかぁ~」

 

「ええ。中学生の頃のね。『亜美由美コンビ』って呼ばれてて、学校帰りに一緒によく買い食いした仲よ♪」

 

声をかけてきた由美が穏やかで気さくな性格をしていたせいもあり、みほはすぐに打ち解けたようだ。

 

「あははっ♪ 目に浮かぶようです」

 

同じ黒髪キャラでもショートカットでマニッシュな魅力の亜美と、大和撫子然という雰囲気の由美は確かに好対照で絵になりそうだ。

 

「でも、びっくりしたわ。私は空に、亜美は陸にそれぞれの道へ行ったけど……まさか満州で再会するとは思わなかったもの」

 

「百万人近くいる帝国軍で、ですからね~。凄い偶然ですよ」

 

クスクス笑うみほに、

 

「でも、偶然と言えばここでみほちゃんに会えたのは運が良かったわ。あっ、私のことは、作戦中以外ならどう呼んでもいいわよ? その分、私もみほちゃんて呼ばせてもらうから」

 

「あっ、はい。では赤城さんで。ところで運がいいっていうのは?」

 

「えっとね、私が管制する九七式軽爆改の飛行中隊12機が、陸軍の九九式同様に【日米臨時混成独立機甲旅団】の直轄の近接航空支援を担当することになったの。だから顔合わせをしておこうと思ってね」

 

 

 

ちょっと由美の言葉を捕捉しておくと、日本空軍において戦闘機や軽爆撃機、攻撃機(襲撃機)などの戦術単発小型機は”2機編隊(ロッテ)戦術”ができる2機1組の『飛行分隊』を最小の航空機戦闘単位としていて、飛行分隊分隊が二つで『飛行小隊』、飛行小隊が三つ集まり合計12機で『飛行中隊』になる。

双発以上の中型機以上は、飛行分隊がなく3機編隊(ケッテ)を組める飛行小隊となり、3個小隊9機で1個飛行中隊になる編成だ。

 

また1中隊ごとにかならず地上要員である1整備班が付随する。整備班という呼び方は機種ごとに整備に必要な人員が異なり、一般的な歩兵に換算すると増強分隊~小隊規模になるので、このような呼び方に成ったらしい。

 

そして3個中隊以上で『飛行戦隊』となり、これが通常1飛行場の定数と成る。

1個戦隊には必ず飛行場大隊が存在し、その大隊には例外なく整備班の統括も役割に含む整備中隊と補給中隊、警備中隊を内包する。

もっとも現在、空軍は組織のより柔軟な運用を進めるべく組織改変プランが提唱されている。

 

ハイラル・ベースには、B-17と行動を共にする予定の一〇〇式重爆”呑龍”に制空任務の一式戦闘機”隼”、隼と実戦での比較調査目的に持ち込まれたらしい戦場防空担当の”一〇〇式重局地戦闘機”、前出の九七式軽爆改に九八式軽爆改に各種偵察機や観測機、連絡機など合計3個飛行戦隊を越える規模、つまり2個飛行戦隊以上の機数が集合した『飛行旅団』が最終的には展開することになる。

ついでの言えば、団とつくと司令部が置かれるのは陸軍と同じだ。そして司令部がある以上は空軍自慢の「一〇〇式トリオ」の最後の一つであり、史実では「第二次世界大戦の中で登場した航空機の中で最も美しい機体の一つ」と評された”一〇〇式司令部偵察機”もしっかり各種偵察機の中に含まれている。

 

これに陸軍が持ち込んだ地上直協の九九式襲撃機が9機編成中隊×2の18機と戦術偵察と着弾/爆撃観測を兼ねた戦術偵察機が1個飛行小隊が加わり、それだけの規模を受け入れ運用するために在満米軍は、ハイラル・ベースの敷地内には日本人の感覚すれば信じられないほど速いスピードで野戦飛行場やそれに付随する施設が増設されていた。

 

消極的参戦から頭を切り替えたのか飛行旅団規模を派遣し、新型機の実戦テストを纏めてやってしまいたいという意図を隠す気も無い日本空軍の本気っぷりも大概だが、あっさりそれを受け入れるだけの野戦基地を即席で作ってしまう米国の底力はまさに驚嘆に値する。

例えば、「100台のブルドーザーを投入しても工事が間に合わないのなら、三交代24時間シフトにしてブラックと呼ばれようと間に合わせる」のが日本式なら、「100台で足りないなら200台を、200台で足りないのなら1000台を投入して間に合わせる」のが米国式だ。

根本的な民族性の違いと言ってしまえばそれまでだが……それはみほからすれば魔法と同じく常識や理解を超えたところにある力を見せ付けられてるようで、

 

『どうりで地球では魔法が科学に……機械文明に駆逐されたわけだよ』

 

と呟いたという。

ともかく、こうして飛行場が完成したからこそ、こうして増援が日本から飛んできたわけなのだが。

 

「心強いです。空軍のエアカバーが期待できるなら、戦術オプションや作戦の選択肢が増えますから♪」

 

「うふふ。腕は保障するから、アテにしていいわよ?」

 

 

 

***

 

 

 

(まあ、これで目鼻立ちが付いてきたかな?)

 

自分が直轄できる戦闘車両は50両だが、要請で投入できる兵力は12門の自走砲と陸空軍合計30機の対地攻撃機。

 

「悪くないな……」

 

(陸軍は2個小隊6機、空軍は1個4機の3ローテーションが通常最大動員か……)

 

航空機は一度に投射できる火力は大きいが、持続性が無いのが欠点だ。

基本的に対地攻撃の場合、爆弾を投下したら申し訳程度の機銃掃射をしてさようならが基本になる。

だが、機甲戦という火力と機動力に特化した集中戦術が既に定着しつつあるが、地上戦はそれでも長丁場になりやすい。

一度に30機を飛ばして短時間の火力集中でまとめて吹き飛ばすのは攻勢ではありえるシチュエーションだが、

 

(前半はそれでも後半は装甲兵力の機動防御と臨時陣地の野戦防御が主体になるから……)

 

その場合、航空機に求められるのは阻止攻撃だ。

要するに波状攻撃を重ねて、持続的に敵の頭を押さえて突進力を減少させる戦術になる。

 

作戦発動の初期における積極的攻勢と、その後に来る積極的防衛……だが、みほの考えではそれすらも、

 

「勝負はどこまで敵を誘引できるか……だね」

 

 

 

その後、みほは残る戦力の確認に向かう。

コリンズが師団直轄として在日米軍から呼び寄せた『完全自動車化された1個増強歩兵中隊』と顔合わせをしたが、

 

(ちゃんと戦力として数えられる部隊でよかったよ♪)

 

ただ何故か、十人ばかりと徒手空拳の模擬戦をやったら、帰る時に妙に怯えた目で自分を見る隊員がいたのは気になったが。

 

「おかしいなぁ……怪我とかさせてないのに」

 

どうやらみほは、『屈強に鍛え上げられた米歩兵を、怪我一つさせずに苦もなく次々と昏倒させる子供にしか見えない女の子』がどう見られるか理解してないようだ。

ただ、「あれ? わたしってこんなに動けたっけ? 戦車ばっかりで運動不足だと思ってたけど……」と首を捻っただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*************************************

 

 

 

 

 

みほが戦争準備に余念が無い頃、もう一方の陣営では……

 

 

 

「ねえ、ノンナ……」

 

「はい」

 

彼女は自分の襟章と一緒に付けた真新しいバッヂを指差し、

 

「この”肉弾戦車撃破章”って、カチューシャ的にはすごく不本意なんだけど」

 

ここは在蒙赤軍最大級の拠点、巨大要塞”タムサク・ボラグ”。

カチューシャとノンナは、司令官であるジェーコフの執務室からの帰りだった。

ジェーコフに呼び出された理由は、戦地ゆえの略式だが肉弾戦車撃破章の授与式だ。

だが、どうやらカチューシャの不機嫌の理由もそこだったようで……

 

「でも、手榴弾で敵戦車を撃破したのは事実ですよ?」

 

”肉弾戦車撃破章”とは、文字通り戦車や対戦車砲などの大型兵器を使わず、簡便な個人携行武装のみで戦車を撃破した物に与えられる勲章である。

 

「あんなのノンナが中身を引き摺りだした抜け殻に、ただ手榴弾を放り込んだだけじゃない! ああいうのは撃破じゃなくてただの処分って言うのよ!」

 

そしてカチューシャはぷりぷり怒りながら、

 

「加えて兵達は『さすがです! 素手で戦車を破壊するとは!』なんて言い出すし! どうしてそうなるのかしら!? いくらカチューシャでも素手で装甲板穿てるわけないじゃない! 普通に文明の利器(しゅりゅうだん)くらい使うわよっ!!」

 

しかし、ノンナは無表情ながら慈しみに満ちた瞳でカチューシャを見て、

 

「でも、私はカチューシャ様と一緒に肉弾戦車撃破章を受勲できて嬉しいですが?」

 

カチューシャは「はぁ~っ」と毒気が抜かれたような溜息を突いて、

 

「……ノンナ、その言い回しはズルイわ」

 

「そうでしょうか?」

 

 

 

***

 

 

 

「それにしても、本当にこの情報は信じていいものなのかしらね?」

 

自分の執務室に戻るなり、カチューシャは受勲ついでに渡された資料を開く。

その資料は、先の戦闘でカチューシャ達が持ち帰ったアリサのM4中戦車に搭載されていたマニュアルや砲弾、その他備品の調査報告書だった。

 

「『M4中戦車(エムチャ)に搭載されていた砲弾はいずれも古く、榴弾は信管が経年劣化を起こして激発せず、徹甲弾も砲の火力が活かせない古い代物』……ですか?」

 

実はこれ、史実でも起きたことなのだ。

米国は大量生産/大量消費を美徳とする国ではあるが、反面おそろしく物持ちがいい部分もある。

例えば、上の報告は実際に英国に渡したM3グラント中戦車で起きていた事例で、榴弾も徹甲弾も使い物にならなかった英国は信管の交換と撃破した四号戦車から入手した徹甲弾頭を薬莢に差し込んで凌いだらしい。

 

アリサのM4にこんな年代物の砲弾(アンティーク)が搭載されていたのは、「実弾発砲はデモンストレーションだけで実戦には出ないだろう」という甘い判断からだった。

 

本格的な戦闘が始まる前の装備総点検でこれに気付いたみほとケイは青くなるのだが……それはまた別の話。

 

「日本戦車はともかく、アメリカ戦車が万事この調子だったら楽に戦争にも勝てるんだろうけどね……」

 

「カチューシャ様はそう思ってらっしゃらないのでしょう?」

 

「まあね」

 

カチューシャはフフンと笑い、

 

「希望的観測を信じて厳しい現実に裏切られるのと、厳しい現実を想定して思わぬ幸運に出くわすのとではどっちがよりマシだと思う?」

 

ノンナはそれに答える必要は無いと感じた。主とてわかりきった答えなど所望ではないはずだ。

だとすれば、今のカチューシャが考え込んでる姿はなんなのだろうと気になりだした頃、

 

「でもね、ノンナ……」

 

そう切り出したのはカチューシャで、

 

「世の中には希望的観測に縋り、それを現実と取り違える人間もまた多いのよ……」

 

 

 

そして彼女の懸念は残念ながら的中する。

「米軍の新型戦車、車体は新型なれど砲弾は中古。全て最新の我らには恐れるに足らず」という風潮が出来上がってしまったのだ。

 

確かに諜報員や工作員を使った浸透工作や情報収集はソ連の十八番だろう。

なんだったら共産主義という思想的洗脳によって売国奴の量産を得意技に加えてもいい。

共産主義者の言うインターナショナルは、ゾルゲの最後の言葉から判るように「自分の住む国より国際共産主義を優先し、国や民族のためでなく共産主義の為に生き殉ぜよ」という意味なのだから。

 

だが、だからと言って所詮は人間の生み出す組織。正しい情報を得られたとしてもそれをジグソーパズルのように組み上げて、事実や真実や真相というような言葉に代表される”正しい解答”に辿り着けるとは限らないのだった。

 

そして人間は目の前に「都合のいい事実」というのがあれば、それを現実として認識しがちな生物である。

ソ連の政治と軍部が満州コモンウェルスにおける米軍の戦力評価を僅かとはいえ下方修正したのは、それから三日後のことであった。

故に現状において援軍の必要は無い……現状の在満米軍にハルハ河東岸で大規模な軍事衝突を起こす力は無く、あったとしても現有兵力だけで十分対応できると判断したのだ。

そして日本軍に対する評価は、

 

英国本土直上防空戦(バトル・オブ・ブリテン)におけるナチス・ドイツ空軍(ルフトバッフェ)との戦闘から考察し、海上戦力/航空戦力は相応に強力なれど陸上戦力は米国と同等、英国より劣ると思われる。新型戦車はM4の性能劣化版(デッドコピー)で総戦力としても小さく、ハルハ河東岸で勃発する可能性のある戦闘において、戦況を左右するような決定的な役割を果たすものではない』

 

それが彼らの最終的な結論であり、彼らの共通化された認識だった……

 

それほど間違った評価ではない。「日本が米国より劣る」のは常識だし、日露戦争においてロシアが惨敗したのは海上であり、旅順要塞をはじめ日本人相手に陸戦ではそこまで劣っていない。

それに彼らは日露戦争の停戦交渉の最中に未開地人(バーバリアン)に帝都を蹂躙される体たらく……バーバリアンに帝都を占領されたことに恐れをなし、尻尾を巻いてさっさと大陸から逃げ出してしまったではないか!

 

『確かに対馬沖では負けたが、最後まで大陸に足をとどめていたのはロシア人』

 

それがロシア革命後のロシア人、いやソ連人の一般認識だった。

そして近代兵器を持たないバーバリアン相手に、四半世紀以上も帝都を占拠され続けた日本人を笑っていたのだ。

 

『日本人は同じ野蛮人と戦っているのがお似合い』

 

だと……

結局のところ、この認識と現実との間に転がる()()()()()が、次の戦いに繋がるのだが……そのズレを是正するために、どちらの勢力とは言わないが大量の出血を必要とされることにまだ赤の広場を見下ろす立場のの人々は気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





皆様、御愛読ありがとうございました。
みほが戦争準備しつつ、赤城山ではなく赤城さんとの出会いを果たしたエピソードはいかがだったでしょうか?

いきなり出てきた謎(笑)の空軍少佐、赤城由美。
亜美の中学時代の同級生で親友、オマケに食いしん坊♪
更に中隊編成の九九式艦爆の類似機体の使い手となれば……モデルは、皆様のお察しの通り某空母娘です(^^

えっ? 同僚の名前はもしかして加賀さん? 声がなんとなく麻子に似てる?
それは秘密です(笑)

それにしてもソ連側に危ない雰囲気の楽観論が蔓延しつつあるような……?
では皆様、また次回にてお会いしましょう!



***



設定資料



試製一式回収工作車

主要装備:クレーン、ウインチ
機銃:武1919式車載機関銃(7.62mm)×2(自衛用)
エンジン:統制型九〇式発動機AC-K型(過給機/中間冷却機付空冷V型12気筒ディーゼル、307馬力)
車体重量:22.5t
装甲厚:最大40mm(傾斜装甲)
サスペンション:独立懸架+シーソー式連動懸架装置
変速機:前進4段/後進1段(コンスタントロード型シンクロメッシュ機構タイプ)
操向装置:二重差動式遊星歯車装置(プラネタリーギア)型クラッチ・ブレーキ
最高速:40km/h
オプション:ドーザーブレードなど

備考
史実の”装甲工作車”に該当する車両で、他国での一般的な呼称では戦車回収車。略称の”セリ”は、開発時のコードである”()車隊用()作車”から取られている。
ベースとなったのは史実のセリ車同様に九七式中戦車で、『TYPE-97(九七式)ファミリー』の一つと言える。
しかし、ベースとなった九七式が史実のそれより余力がある大きさだった為にエンジン位置の変更など手間の改良は必要なく、砲塔を撤去しそこにクレーンやウインチを操作する作業室が設けられている。

ウインチの牽引力は28t、クレーンは支持脚を展開しない状態で5t、支持脚を展開した状態で5.5t、支持脚を展開し地面に設置した状態で14tの重量物を吊架することが可能だった。
車体前部及び後部には牽引用のピントルフックが装備され、最大牽引重量は33tとされている。
また、クレーンで重量物を吊り下げる際に車体バランスを崩さないように懸架装置にロック機構が追加されている。

基本的に史実の米陸軍”M31戦車回収車”に該当するスペックの車両だが、実はその開発が始まったのは九七式ファミリーの中でも古く、最初の試作車が完成したのは九八式重戦車の時代だった。
機械的に無理がかかりやすい戦車は、そのタフな外観に反して中身は壊れ易く第二次大戦では敵戦車に破壊されるより故障で自走できなくなり廃棄された戦車の方が目立つ戦場が珍しくなかった。
故に戦車回収車の登場は必然だったのだが……試作された最初の試製セリ車は九七式オリジナルと同じAC型統制発動機だった為に全体的にアンダーパワー気味で同じ九七式ならともかく、重戦車の牽引や回収は難しかった。
故に初期試作型は4両ほどしか製造されなかったようだ。

しかし、車体開発中に実用化した機械式過給機(スーパーチャージャー)搭載の高出力なAC-K型発動機の安定供給に目処が立ち、また米国製のよりハイパワーなウインチやクレーンなど牽引機材のライセンス生産が成功したために開発は一気に加速し、40年にテストモデルを兼ねた先行量産型の生産が始まり、41年(皇紀2601年)より制式化される運びとなった。

とはいえ、日本戦車の大重量化はとまらず42年にはエンジンを含む全体的な強化を行い、牽引重量を38tまで引き上げ溶接機材やコンプレッサーを追加した改良型(というかほとんど原型が残ってない魔改造型)や、より車体に余裕のある一式中戦車や三式重戦車をベースにした後継モデルが開発されることになる。

武装をほとんど持たない本車だが、陸軍からは「武装なき決戦兵器」と最大限の賞賛を贈られ、第二次大戦初期の日本機甲兵力を支えた「影の立役者」「最も成功した九七式ファミリー」として記憶されることになる。








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