今年もどうかよろしくお願いします。
さて、今年一発目のエピソードは……前作では出番が無かった「大洗女子戦車学校」の面々が出てくる回です。
彼女達は、果たしてどんな成長をしているのでしょうか?
大日本帝国、陸軍施設、某所
黒いカーテンと目張りにより、ある意味において外界から完全に途絶された世界……本来なら暗黒となるべき空間が、円卓の上に灯ったたった一本の蝋燭という頼りない光源の存在で、辛うじてその部屋には六人の人間がいることを教えてくれる。
ただし、光に浮かび上がったそれらのシルエットは、「いっそ見えないほうが良かった」と思えるほどに異様であり異質であった。
例えば”それら”……中身が人間、それも少女と仮定するならば六人は一様に黒い円錐型の頭巾をすっぽり被っている異様ないでたちだった。
きっと素顔を隠すためなのだろうが……その異常な空気は、どこかKKKや
約一名、頭巾の上から丸眼鏡をかけ、ツインテールをわざわざ頭巾に穴をあけて出している……それがある種の残念感というか台無し感を出してるような気もするが、細かいことはきっと気にしてはいけないのだろう。
「皆に集まってもらったのは他でもないわ。我ら秘密結社【SS-KA】にとって、組織の存亡に関わる由々しき事態が発生してることは……みんな知ってるわね?」
と前出の残念……じゃなかった。頭巾&眼鏡+ツインテールというとてつもなく自己主張の激しい格好をしてる女の子が切り出す。
えっ? なんで女の子だと断定できるのかだって?
声もだけど着てるの女子用の制服だし……体形から見ても女の子っぽいけど、全員が男の娘だったら予想の斜め上過ぎる。だが、それはそれでありと言えばありだ。
あっ、ちなみに【SS-KA】とは、【
別に”某国の鉤十字親衛隊”の関連組織とか日本支部とかではないので安心して欲しい。
「”イタリカでの一連の乱痴気騒ぎ”のことでしょ? 『エージェント・WAN娘』と『エージェント・NYAN娘』によれば、特に最終日までの1週間は酷かったらしいね?」
とはリーダー格の娘。よくは知らないけど、みほが卒業した後”アンコウの後継者”達を引っ張り、その年の「女子戦車学校交流選手権」で名門黒森峰と引き分け同率優勝を飾ったという栄誉の持ち主かもしれない。
参考までにに書いておけば、「女子戦車学校交流選手権」というのは女子戦車学校の技量向上を目的に各学校で中隊編成の1チームを結成、それらを総当りのリーグ戦方式で模擬戦を行うイベントのことだ。
そしてこの毎年の恒例行事が伝統化し、戦後に戦車を使った”とある女子武道”へ発展する……という未来があるかもしれない。
「……まこせんぱい♪」
何やら謎ワードを呟いたちっこくてぼ~っとしてる印象の娘は多分、きんつばと昆布茶が好きに違いない。
いや、確証はないが。
「いやぁ~っ! わたしのガンダ……じゃなかった沙織先輩が、男共の欲望と白濁液のはけ口になるなんてぇ~~~っ!!」
頭巾の下で涙目になりながらイヤイヤしてるのは、なんだか
無論、確証はない。
「
あれ? なんだかこの娘は返事が「あい!」のような気がしてきた。
「ごめーん。つい本音がでちゃった♪」
頭巾の中でテヘペロ☆をしながら、自分の頭を小突く……そんな、あざとい仕草が妙に様になっているような気がする。
「二人とも止めなよ。今は仲間同士で沙織先輩の所有権を主張する場じゃなくて、沙織先輩に『沙織先輩の男好きする
あっ、なんかこの娘って、ちょっとストレスためてそうな気がする。
特に理由があるわけじゃないけど、なんとなく沙織のご乱行に苛立ってるような?
「それよっ! 沙織先輩の処女を力技で無理やり奪ったのは、男なんかじゃなくてわたし達だもん♪ だから沙織先輩はずぅ~っとわたしの物よね?」
「
いやそんな正々堂々とレイ……その種の発言されても、対応に困るんだが。
「ふっふっふ……優、じゃなかった。エージェント・UK&エージェント・KR、いいこと言うじゃないのさ? 実は、沙織先輩に会えなく、ただ近況報告を待つしかできなかった我ら【SS-KA】だったが……神は、我らを見捨ててはいなかったのだ!」
「あや、それどういう意味?」
「
「「「西住
「にしずみせんぱい……♪」
「ご名答☆」
と、あや……もとい。エージェント・AYと名乗る少女は、懐から
「西住隊長からの【招待状】だよ♪ どんな魔法を使ったか知らないけど、人事部から正式に辞令が出てて、私達『元・
かつて彼女達六人は「大洗女子戦車学校」の1年生だった頃、まだまだ未熟ながらもウサギのパーソナルマークを掲げて交流戦で活躍し、杏が卒業する頃にはその
「召集って? どういうことよ?」
エージェント・AZを名乗る少女が問いかければ、エージェント・AYが覆面の中で弾けるような笑みを浮かべ、
「新設される【新型戦車実験中隊】にだよっ☆ またみんなで沙織先輩に会えるんだっ!!」
***
今更だが……この六人、今年は大規模な秋季戦闘が起こらないことが早期に判明していたイタリカには配属されず、どうやら国内にいたようである。
故にみほ達との合流もスムーズに行われるだろう。
少し沙織の身が心配ではあるが……きっと、それはそれだ。
少女達の欲望は止まらない。
「う・ふ・ふ~♪ 沙織先輩にどんなオモチャためしちゃおっかなぁ? 今から楽しみだなぁ」
いや、さすがに少しは自重した方が……
「だって、沙織先輩に本来の”ご主人様”を思い出してもらうんだもん。中途半端は駄目だよね?」
沙織の明日はどっちだ!?
*************************************
さて、場所は変わってここは神奈川県相模原市、【陸軍機甲整備学校】。
史実では1940年当時は東京都世田谷区にあったのだが、戦車開発が激しい”この世界”では最初の開校予定地だった世田谷区ではすぐに手狭になることが判明したために、早期に計画が変更されて最初から相模原市に設立されることになったらしい。
【みほから招待状】を受け取った面々はここにもいて……
「みんなー、西住隊長から【招待状】が届いたよー」
と、少し間延びした声で告げるのは、
名を
かつて”「大洗女子」の第一次黄金期”と呼ばれることになる時代、整備面から支え続けた……文字通りの縁の下の力持ち的なポジションの女の子であり、二年生の頃から整備班長として辣腕を振るっていたという。
彼女率いる「大洗女子戦車学校」整備科、通称”ナカジマ・ワークス”がいなければ、第一次黄金期の角谷杏、西住みほ、澤梓と続く交流戦三連覇はなかったとされる。
「あっ、なんだって?」
さっそく興味を示したのは、健康的な小麦色の肌が自慢の
「なんでも新型の”試製一式中戦車のテストやってるから、整備側の意見も聞きたいみたいだよー。特にアウトドアでのさ」
「野戦整備は、私らの真骨頂だからな。さもありなんだ」
うんうんと頷くのは、かつて「大洗女子最速の女」と呼ばれたタンクトップ姿が眩しい……というか慎ましやかな膨らみが微妙にエロい少女、
とりあえず、ノーブラは止めたほうが……ごめん。お願いですからこのまま続けてください。
男前な口調なのが、またギャップがあってよいと思う。
「ドリフトドリフト♪」
実に楽しそうな声を上げるのは、リーダーと同じ類の程よい緩さを持つムードメーカーの
「雪道とかの低μ路面で慣性モーメント使えばねー」
「超信地旋回とかは?」
「わたしの知ってる限りじゃ、一式の
「あれ? 新型って”メリット・ブラウン式”の使うって言ってなかったっけ? 変速機と操向装置が一体になったやつ?」
そう質問したのは鈴木、いやこの場合はスズキと書いたほうが的確か?だった。
「ああ、きっとそれは”三式重戦車”の方じゃないかな? 従来型のクラッチ・ブレーキと比較してるって、風の噂で聞いたことあるよー」
「そういえば、
こう返したのはホシノだ。
「なんせ日本初の40t超級の戦車になるって噂だからねー。中央技本(陸軍中央技術本部のこと)としては色々試してみたいんじゃないの?」
「メリット・ブラウンタイプの
とはツチヤの弁。
「となると……日本式はトーションバー・サスと従来型のステアとミッションの組み合わせか?」
しかしホシノの言葉にスズキは首を横に振り、
「そうとも言い切れないかな? トーションバーは【L-60軽戦車】を輸入した時から研究始めてるし、ホルストマン・サスはコイル・スプリング使ってるって意味なら米国のVVSSの発展型とも言えるし。ほら、九七式って
【L-60軽戦車】というのは史実では1934年にスウェーデンのランツヴェルク社が開発した軽戦車で、世界最初のトーションバー式サスペンションを導入した戦車として知られている。
”この世界”の日本では実車を十数両輸入し、テストの結果、そのサスペンションの優秀さに着目。
すぐに技術パテントを戦車関連各社が連名で買い取り、現在進行形で研究されていた。
「だねー。ついでに言えばメリット・ブラウンのステア・ミッションは、英国から技術供与される前から【動力再生式操向変速機】って名称で前から研究されてるよー」
「えっ? それ初耳なんだが」
「だろうねー。実際にメリット・ブラウン型を開発/完成させたのは英国だけど、似たようなシステムは【ルノーB1bis重戦車】にも使われてるんだよ」
【ルノーB1bis重戦車】は別名”シャールB1bis重戦車”とも呼ばれ、今は事実上ドイツの傀儡であるヴィシー政権になってしまったフランスの重戦車で、開戦してからも兵器輸出に熱心だった彼の国らしく、日本にもかつて熱心に売込みがされた。
そのため、日本は無印のB1や改良型のB1bisを合計20両近く購入している。
ちなみに原作の
”この世界”の日本は、大陸や半島から撤退し、かつては『門』外勢力と呼ばれた”帝国”軍が操る怪異との戦闘が、昔は帝都で今は『特地』で恒常化してるため戦車開発が非常に盛んで、世界中の戦車を予算と政治的状況が許す限り買い漁り研究していた。
「もっともメリット・ブラウン型の方が完成度高いみたいだから、そっちを採用すると思うけどね。同盟国価格でライセンス料も安いみたいだし。だけど基礎技術は既にあったりするんだなー、これが」
これと類似するような話は他にもあり、例えば第3話に出てきた【ビッカース・タンク・ペリスコープMk.IV】がまさにそれだ。
この車長に車内にいながら全周視界を与える装置、”
ちなみに両方とも日本には輸入されていて、特に7TP軽戦車は原作の秋山優花里嬢がお気に入り戦車に挙げている”双砲塔型”を含めた計10両が輸入されていた。
そんな経緯からパノラマミック・ペリスコープは小規模ながら日本でも研究されていて、英ビッカース社からライセンス生産権を含めて同盟割引価格で売込みがあった際に迅速に量産体制に移れたのは以上のような理由がある。
「というかナカジマ、妙に詳しいな?」
「これでも相応に色々コネはあるからねー。最新技術の収集は趣味みたいなもんだけどさ。ところでみんな、”参戦”する?」
「「「もっちろん!!」」」
三人の息のあった返答に、ナカジマは嬉しそうに微笑んだ。
***
(西住隊長に会うのは、小山先輩の祝言以来だなぁ~)
そう、前話にちらっと出てきた西住家所有の八九式”自家用”中戦車を、「西住兄妹ガチバトル」の後にボランティアで修理してたのは彼女達らしい。
(しほ様、美人だったなー)
蛇足ながら、その時にナカジマ達が
特にリーダーのナカジマはベッドに引っ張り込まれた……もとい。懇ろな仲になり、今でもその良好な関係は続いている。
先ほどナカジマが言っていたコネの一つは、間違いなくしほのことだろう。
妙な言い方をすれば、ナカジマは現代日本円の換算で資産500億円を軽く超える西住家をパトロンにつけてると言えるかもしれない。
どうでもいい話だが……みほは”あるプライベートな一面”においては、とてもしほ似らしい。
父や兄が将来を内心で心配するのも頷ける。
誤解のないように言っておくが、しほの夫との関係は仮面夫婦などではなく極めて円満であり、彼女いわく「可愛いものを愛でたくなるのは人間のサガよ」とのことだ。
かくて懐かしき顔は揃う。
それは試製一式中戦車の開発が佳境に入ったことを示すことでもあり、同時に”新たなステージ”が目前に迫ってることを意味していた。
皆様、ご愛読ありがとうございました。
首狩りウサギが
改めまして、皆様あけましておめでとうございます!
今年も「CODE1940」共々よろしくお願いします!
さっそく、第05話で沙織が「え"っ!?」と微妙な驚き方をしてた伏線回収っと(笑)
そして、ナカジマがこっそり喰われてた(多分)件について。
しほさんが、実は可愛いもの好きだったとは(^^
旦那も参戦したら修羅場……いや、西住パパは斜め上の方向で器でかそうだから、夜目の愛人が女の子だったら普通に流しそうだな~っと。
いや、それとも夫婦兼用か?
なんか、みほが知らぬところでまた家族が増えそうな悪寒が……(汗)
とまあ新年早々百合尽くしのエピソードでしたが、微妙に
次回はいよいよ仲間も揃い、新展開か?
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!
***
設定資料
一〇〇式長七十五粍戦車砲
口径:75mm
砲身長:3375mm(45口径長)
貫通力:500mで垂直112mmの
搭載車両:一式中戦車など
備考
九四式七十五粍戦車砲を再設計した砲で、基本コンセプトは「九四式搭載車両に無改造(あるいは最低限の小改造)で搭載できるギリギリの重さと長さで長砲身化して砲口初速を向上させ、対装甲能力を強化する」である。
そのために単純に九四式の長砲身モデルではなく、合金の配合比率の見直しや冶金技術の向上で長さあたりの重量を軽減すると同時に、
しかし、この一〇〇式が開発された最大の理由は、対装甲貫通能力の向上である。
意外に聞こえるかもしれないが、実は原型となった九四式は徹甲弾の誤術発達で開発当時の世界水準を大きく上回る装甲貫通能力を持っていたが、根本的に『特地』での戦闘……対人/対陣地/対怪異を想定して開発されたために重視されたのは榴弾/榴散弾/キャニスター弾などの各種榴弾の使い勝手であり、また日本が徹甲弾開発にしても純粋徹甲弾ではなく徹甲弾に炸薬を仕込んだ「貫通した後に爆発する」徹甲榴弾に傾注したのはそのためだ。
しかし、時は流れて他国の戦車開発も進み、世界水準は軽/中/重戦車というカテゴリーに別れ、特に中/重戦車がますます重装甲化していくのは誰の目にも明らかだった。
そこで日本は、設計期間短縮のために九四式を再設計し「徹甲弾の使用を最優先とした本格的な対装甲戦車砲の開発」を進めた。
1924年(大正13年)、前年の関東大震災で製造施設の破壊などにより不足気味だった砲銃弾を補うために『日米砲弾/弾薬相互間協定』が締結されていたので、薬莢サイズはそのままだが、幸いにして日米共に後に”APHV(あるいはAPCR)”と呼ばれることになる新型の純粋”高速徹甲弾”……後の”一式高速徹甲弾”が開発されるに至った。
実は長砲身化はこの新型高速徹甲弾の性能を生かしきるために最適化された数値で、またこの弾頭を含め、従来型炸裂徹甲弾の完成形とも言える1939年に配備が始まったばかりの九九式APCBC-T/HE弾も新型装薬(発射薬)を使うので薬室内圧力が高く、薬室や尾栓の破損や薬莢の張り付きが懸念されたために全体的に構造強化がなされている。
その為、M4の75mm砲に比べて砲口初速は一割ほどアップしており、装甲貫通力は高い。
しかし、登場直後には世界最強の戦車砲の一角を九四式同様に担い、高速徹甲弾の量産化で当面の苦境は凌げると思われるが、数年以内に陳腐化する可能性が高いために現在、後継の戦車砲開発が急がれている。
一番実用化が早いのはおそらく、試作砲が完成してる【九五式(あるいは八八式改)三吋高射砲】ベースの物で、【九九式九糎高射砲】ベースの物は早くても42年の半ばといわれている。
しかし、一〇〇式での使用を推奨されている現在、誠意開発中の新型高速弾や従来型炸裂徹甲弾の完成形である前出の九九式APCBC-T/HEという事実上の専用弾(九四式で撃てないわけではないが、性能が発揮しきれない)のみならず、九四式で実用化された通常榴弾/
例えば、榴弾の威力が後の三吋砲よりも大きい……初速が低いために貫通力は低いが弾頭が大きくその分威力が高い(九四式の開発ベースに戦車砲に八八式高射砲ではなく九〇式野砲が選ばれた理由がまさにそれ)ため、米国の75mm砲同様に戦争全期間を通じて使用された。
特に敵対する”帝国”が装甲戦闘車両を開発できなかったために、『特地』では一貫して九四式と一〇〇式が主力だったようだ。