装甲少女隊、北へ CODE1940   作:ボストーク

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みなさまこんばんわ~。
これで三日連続投降と相成りました作者です(^^
年末年始のデスマーチで失った勢いを、少しは取り戻せたかな?

さて今回のエピソードは……なんか感覚的には久しぶりのおにゃのこパートです。
いや、女の子の書き方忘れる前に路線が戻れてよかった~(笑)

そして、ついにお持ちかね(いや誰も待ってはいないかもしれませんが)の、あのキャラたちのご登場です!




第09話 ”雷鳴と猫+1です♪”

 

 

 

米国、カンザス州、【サンダース戦車中隊(サンダース・タンクトルーパーズ)】拠点

 

 

 

「へへ~。今度は陸軍上層部(タヌキオヤジ)共は、何を考えついたのやら……」

 

タチの悪い笑みを浮かべながら、中隊長……サンダース・タンクトルーパーズのリーダー、”ケイ・ユリシーズ・サンダース”は、自分の執務机に書類を放り投げる。

 

ついでに椅子に座りながら両足も机の上に放り出してみる。

かなりお行儀が悪い上に、ミニスカでそんな格好をするもんだから青と白のアメリカン・ストライプのぱんつが丸見えなのだが……

当の本人は「どうせ女所帯。気にしたって仕方ないわね」程度なものだ。

それにしても……ふわふわ金髪の勝気な美少女は、こんなはしたない格好でもサマになってしまうのだから世の中実に不公平である。

 

「隊長、どうしたんですか?」

 

そう聞いてきたのは、コーヒーポット片手に従兵の真似事をしてるそばかすがチャームポイントの副官、”アリサ・ホイットニー”だった。

 

「”米国陸軍地上兵力管理本部(Army Ground Force)”からの贈答品目録よ。新型戦車のテストを私達でやれってさ」

 

「逆に剛毅でいいじゃないですか? 何が不満なんです?」

 

そう答えるのは愛用のオールドファッションなリボルバー、早撃ち(クイックドロウ)の相棒ことシルバーボディ&アイボリーグリップの【コルト・シングル(S)アクション(A)アーミー(A)】を磨いていた”ナオミ・マッキンリー”だ。

 

「ん~……うまく言えないけど、妙に引っかかるのよ。最新鋭の、それも正規大量生産型(マスプロダクション)じゃなくてその前段階、先行量産型(テストプロダクション)よ?」

 

「単に私達を使って新型戦車を派手に国民向けにアピールって感じじゃないんですか? 一応、私達は軍の広報部隊扱いですから。予算獲得のためにも国民の支持はあるに越したことはありませんしね」

 

「だとしたら国内のテスト・プレイだけで十分でしょ?」

 

ケイはアリサとナオミに書類を見るように促した。

 

 

 

***

 

 

 

「えっ? 『日本でプロトタイプTYPE-1(試製一式中戦車)と比較評価試験』……?」

 

「美味しいといえば美味しいですね?」

 

怪訝な顔をするアリサに対し、ナオミはいつものガムを噛みながらのポーカーフェイスだ。

 

「問題は、”美味し過ぎる”ってことよ。普通ならこの辺りは正規部隊、それも精鋭戦車隊の任務よね?」

 

「腕はそこいらの正規部隊に負ける気はしませんが……”AGF”がそこまで私達を信頼してるとは思えませんしね」

 

「我々の認識など、頭の固い連中(ディックヘッド)共に言わせれば、精々”軍服着た人寄せ女(ショウガール)”程度のものだろう」

 

ナオミは大して表情も変えずに言い切る。

 

「悔しいけどナオミの言う通りなのよね。日本みたいに女が主戦力はれれば、いつでも評価を覆せる自信はあるんだけどねー」

 

「いっそワシントンに『門』……は無理でも、火星あたりから本当に宇宙人でも落ちてきませんかね?」

 

アリサの言葉にケイは腹を抱えて笑い出し、

 

「HA-HA-HA !! Nice Jokeよ、アリサ! きっとその火星人の戦車は隕石の中から現れて三本の長い足(トリポッド)を生やしてるに違いないわね~♪」

 

ケタケタ笑うケイにナオミはコホンと咳払いし、

 

「”今”はまだジョークになりませんよ、それは。どちらかと言えばジョークじゃなくてブラック・ユーモアの類です」

 

今から2年前の1938年10月30日、某アメリカのラジオ局が放送していた古典SFの名作”宇宙戦争”をモチーフにしたラジオドラマの中で、「火星人が攻めてきた!」と実際の報道と勘違いされるほどの迫真の放送をしたものだから全米でパニックがおき、絶望のあまり自殺者まで出たのはまだ記憶に新しい話だ。

 

「でもどうせ戦うのなら、ロシア人(イワン)ドイツ人(クラウト)がいいわね~。いい感じに歯ごたえがありそうだし」

 

「今ならフランス人(フロッギー)もおまけについてきそうですけど?」

 

今思ったのだが、アリサが平行世界(げんさく)以上に辛辣というか……毒舌になってるような気がするのは気のせいか?

 

「やーよ。カエル相手なんて好みじゃないもの。出てきたら相手は英国人(ライミー)にでもしてもらうわ」

 

「カエルはわかりませんが、イタリア人(マカロニ)なら中東ではしゃいでるようですが」

 

「やれやれよねぇ~。わざわざ砂漠にまで茹で上がりに行く必要ないと思わない? 水の確保だって大変でしょうにさ」

 

「ところで隊長、”抗命権”を行使するんですか?」

 

 

 

***

 

 

 

実は彼女達サンダース・タンクトルーパーズには強い抗命権を行使できる特例が適応されている。

どういうことかと言えば、いまだアメリカ合衆国は広義な意味での軍属を含めた軍人の入隊は認めていても、戦闘員としての女性の入隊は公式には認めていない。

 

あくまでサンダース達の立ち位置は、日本のような『女性志願兵を募る』ためでなく、「可憐な少女が戦車に乗って頑張っているというのに、赤い血が流れる米国人(ヤンキー)として君達はこのままでいいのかね?」的な意味での『男性志願兵を募るためのリクルート部隊』なのだった。

ゆえに前話で出てきた”ピンナップガール”やナオミの発言にあった”ショウガール”という表現は、あながち間違いではないのだ。

 

つまりここに「正規の戦闘員ではなく軍属扱いなのだから、嫌な命令には従わなくて良い」のは当たり前という米国流の”民間人的解釈”が成立するのだ。

もっともこの抗命権は当然のように「一軍人として扱われることを希望する」ケイ達から言い出したことではなく、米陸軍が彼女達を「戦車という戦場に投入される現用兵器に乗せる」ための”免罪符”として扱われている。

 

つまり陸軍は、「彼女たちが嫌なら戦場に行くことに抗命できる」という建前、あるいは言い訳を言えるのだ。

故に彼女達の付けてる階級章は、例えばケイは”大尉”のそれをつけているが正確には”大尉待遇”であり、書類上は正規陸軍階級ではないのだ。

 

しかしケイは心底不思議そうな顔をすると、

 

「へっ? なんで? ワタシ、当然のように受けるつもりだけど?」

 

アリサが肩をコケさせ、ナオミが小さく溜息を突く。

 

「た、隊長~! 気乗りしないようだからてっきり断るかと思ったじゃないですかぁ~っ!?」

 

アリサの言葉にウンウンと頷くナオミ。

どうやらリアクションを見る限り、この二人の副隊長は恒常的にケイに振り回されているようだ。

少しだけ同情してもよいような気がするが……

 

「だって新型戦車に日本行きだよ? これだけでも美味しいのに、プロトタイプTYPE-1のテストラン、誰がやってるのかちゃんと見なさいよね」

 

アリサがじっくり見ると、メイン・テスターの氏名欄にはくっきりと……

 

”Miho Nisizumi”

 

その字列を見た途端、アリサの顔色が変わる。具体的には顔を青褪めさせた。

 

「いやぁ~、これ間違いなくワタシをピンポイントで釣るためのエサよね~♪ 何か裏があるのは判っていても、離れ離れのMy Sweetheartに会いたい私の恋心を理解した命令は大したものよ。これじゃあ何が待ち構えていても、”乗る”選択肢しかないじゃない☆」

 

呑気な口調でのたまうケイとは対照的に、アリサはついに顔色だけでなく身体まで小刻みにガタガタ小刻みに震えさせ、

 

「モシかシテ無自覚どS女ノミホサント合流デすカ?」

 

 

 

アリサがここまで劇症反応を示すなんて……一体、みほは何をやったんだっ!?

って、実は「みほという装甲少女から考えれば、極めて常識的かつ理性的な行動」しかない。

きっと彼女がこの場にいたら他意のない笑顔でこう言うだろう。

 

みほ

『えっ? 大したことはしてないよ~。ただちょっと日米親善を兼ねた実戦形式の合同演習で地形を利用してアリサさんの車両を孤立させて、散々追い掛け回しながら誘導、逃げ切ったと思わせた瞬間に待ち伏せさせていた対戦車砲群の一斉射でトドメさしただけだよ?』

 

合掌……

ちなみにこれも今から2年前、ちょうど張鼓峰事件が終わり日米で九八式重戦車の取引が決まった頃、みほが「大洗女子戦車学校」三年生の時の話である。

対ソ関係で日米のより親密な連携が重視され、一層の日米同盟の軍事連携強化が声高に叫ばれた頃であり、そこで大洗女子選抜チームとサンダース・タンクプラトーンとの敵味方に分かれての合同演習(模擬戦)となったわけだ。

 

当時、M2軽戦車しか装備していなかったサンダースとの不公平を是正するために、みほ達もまた戦車は九五式軽戦車のみで挑んだ。

ただ、より実戦に近いシチュエーションとするために門数制限はあった各種牽引砲の使用ありのフルコン殲滅戦(アルティメット)・ルールで行うことになったようだが。

 

無論、結果は「大洗女子」の勝利で、特にアリサの乗車は演習弾に炸薬代わりに詰められた塗料(ペンキ)で極彩色に塗り上げられていたという。

 

軽くトラウマになるのは当たり前で、むしろ戦争神経症(シェルショック)にならなかっただけアリサを誉めてもいいくらいかもしれない。

 

 

 

***

 

 

 

未だ動作不良を起こしているアリサの肩にナオミはポンと手を置き、小さく首を左右に振った。

こうなったケイは、例え大統領でも止められないことは二人は経験則から学んでいた。

 

「というわけで、M4中戦車とやらをさっさと受領して、ミホに会いに行くわよ~っ!!」

 

どうやらアリサとナオミの苦労はまだまだ続くようである。

しかし、彼女達は知らない。

この先に待ち構えているのが、サンダース・タンクトルーパーズ結成以来の最大の苦難と窮地であることを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**************************************

 

 

 

 

 

さて舞台は再び大日本帝国は御殿場、富士の裾野に広がる【富士機甲学校】に戻る。

 

 

 

「にし……ずみ……たいちょお……」

 

そのモデルのような長身痩躯で、長い金色の髪が美しい……されど丸眼鏡と猫背のせいど色々台無しになってる女性は、みほの顔を見るなりボトリと荷物を落とし……

 

「わあぁぁぁぁーーーん!!」

 

みほに駆け寄り、抱きつき、両膝を折り、彼女の腹に顔を埋めながら大声で泣きじゃくった。

誰に憚ることもなく、子供のような大声で……

 

「”にゃあ”……久しぶりだね? そっかもう離れ離れになってから二年になるんだよね……」

 

「うん……ボク……ずっと、たいちょおに…グス……会いたかった……だよ」

 

「寂しい思いさせてごめんね。でも、いつまでも泣いてたら駄目だよ?」

 

みほはすっと丸眼鏡を外す。

そこには明らかに白人の血が混じってること示す白い肌と、銀河鉄道の喪服の美女を連想させる整った顔立ちがあり、

 

「だってせっかくの美人さんが台無しだもん♪」

 

「たいちょお……」

 

”CHU”

 

みほはただ唇を合わせる。舌で口をこじ開け、歯茎を舐めながらねぶり、舌を絡め取る……

金髪の美人は、ただされるがままにみほに口の中を蹂躙され、同時に二年ぶりにみほの唾液の味を耽溺していた。

それは二年の空白を埋め、自分の主人が誰であるかを思い出すのに必要な通過儀礼(イニシエーション)……

 

「むむぅ~」

 

「むっ……」

 

優花里と麻子はヤキモチを隠す気はないようだが、だが邪魔をする気もないようだ。

何しろいたりかでずっと一緒にいた自分達と違い、”彼女達”は「大洗女子戦車学校」を卒業後、すぐに技術畑からお呼びがかかり開発方面に進んでいたのだ。

 

優花里にしても麻子にしても、もし「自分達がみほと二年間も離れ離れになったら」と考えるぐらいの分別と、そうなったら自分達がどうなるかがわかるくらいの想像力はある。

おまけに”彼女達”は仕事が忙しく、西住虎治郎・柚子の結婚式にも出れなかったのだから、正真正銘卒業後初めての再会である。

であれば、”にゃあ”と呼ばれる少女が取る行動に、強く出られるわけはなかった。

 

そう、大事なことなので三度言うが……今、この試製一式中戦車が揃うハンガーに着いたのは”彼女達”だ。

 

「あー、”ねこにゃー”。久しぶりだからそうなるのは理解できるけど、そろそろ着任の挨拶したほうがいいナリよ?」

 

とおかしな語尾で喋るのは桃を象った眼帯を右目につけた少女で、

 

「そうそう。私達は軍務で来たんだっちゃ」

 

と相槌を打つのは金髪美女とは対照的……同じく長身ながら、濃い目の灰銀髪(アッシュブロンド)の髪を後ろで束ね、かなりのきょぬー……今は西住姓に変わった某先輩と胸部重装甲で張り合えそうな立派なものをお持ちな女の子だ。

 

「そうだったボクとしたことが……」

 

金髪美女は名残惜しそうにみほから離れながら立ち上がり、他の二人と並んでしっかりと陸軍式敬礼を決めると、

 

「”猫田(ねこた)ニア”技術曹長」

 

「”桃園雅(ももぞの・みやび)”技術曹長」

 

「”日与田菫(ひよた・すみれ)”技術曹長」

 

「「「旧”アリクイ”チーム以上三名、試製一式中戦車試験中隊に着任いたします!!」」」」

 

 

 

***

 

 

 

そう彼女達は平行世界(げんさく)のアリクイさんチーム、HN”ねこにゃー”、”ももがー”、”ぴよたん”の三人である。

ねこにゃーはどうやらハーフらしく、名字の猫に名前のニアが訛って”ねこにゃー”。ももがーは名字の桃と名前の雅の音読みを組み合わせて”ももがー”。ぴよたんは名字の日与田を可愛く読み直して”ぴよたん”と言ったところか?

しかも三人揃って制服に技術徽章付だった。

 

「そうだ。たいちょお、ボク達トトラックで来たんだけど、たいちょお達にお土産があったんだ。荷台に積んであるんだけど……」

 

「お土産? どんな?」

 

見れば、そのねこにゃー達が乗ってきたどうもサイズから見てアメリカ製らしい軍用カラー(カーキ色)に塗られた大型トラックは早速……

 

「オーライオーライ」

 

一足早く合流していたホシノ達、原作レオポン・チームの手により搬入作業が行われていた。

整備服(ツナギ)姿の彼女達は、さっそくフラットトップの荷台に防水布に包まれ乗せられていた細長く巨大な荷物……”取り扱い注意”の札が貼られたそれに手馴れた動作で鎖を巻きつけ、

 

「ゆっくりねー」

 

慎重な動作で整備台に降ろした。

同じ技術畑とはいえ在学中に機械工学系の資格を取りまくり開発方面に進んだアリクイさんチームと、実践/実地の整備方面に進んだレオポン・チーム……

白衣とツナギの差はあれど、この二つのチームの二年間の成果が今重なっていた。

 

ホシノ達の動きは迷いのないものであり、既に防水布の中身が何か想像が付いているのだろう。

 

ねこにゃーは他の二人と共に頷きあい、結束バンドを解いて中身を披露する。

防水布にくるまれていた細長い物体の正体は……

 

「新型の”戦車砲”?」

 

「はいですにゃあ」

 

ねこにゃーは頷きながら、

 

「ボク達は、去年から戦車砲開発チームにいました。これがその成果の一つ、」

 

猫背を直し少し胸を張りながらこう告げる。

 

「試製一式中戦車改め一式中戦車の将来型強化改修案の要、”試製一式三吋戦車砲”。確かにお届けしましたにゃあ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





皆様、ご愛読ありがとうございました。
サンダースの面々+アリクイさんチーム初登場の回はいかがだったでしょうか?

いや~、それにしてもケイを出すまでが長かった(^^
タグにいれてあるのに、我ながらどんだけ引っ張るんだよ?って感じでした。
名前だけなら前話ではなく前作の冒頭、みほへの手紙って形で出演してたのに。

そしてねこにゃーは本当にネコだった(意味深)
みほさんは手広くヤッてますなぁ~。



楽屋オチ

ちなみに捏造した名前の由来は……

アリサ、ナオミ→二人の名字は、普通に米国で姓として使われてる北米の有名な山から。マッキンリー山は2015年の8月にデナリ山に変わってしまいましたが、この時代は間違いなくマッキンリーなので(^^

ねこにゃー→猫田という名字は公式なので、ハーフ設定にしてにゃーに近い発音の外人名でニアを選択。実は猫田メーテルという候補があったのは内緒です(笑)

ももがー→HNと桃の眼帯をしてるから桃が名字に入るだろうと想像(名前にすると某生徒会キャラと被る)、音読みでがガと読める雅を選択。ちなみに雅は中の人から一文字貰いました。

ぴよたん→HNはシンプルに名字をかわいくしたものと想像。名前はまんま中の人からいただきました(笑)



さて、次はいよいよサンダースと合流かな?
合流できるといいな~……

それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!



***



設定資料



試製一式三吋戦車砲

口径:76.2mm(3インチ)
砲身長:3810mm(50口径長)
貫通力:500mで垂直122mmの均質圧延鋼装甲(RHA)を貫通(”九九式仮帽/被帽付タングステン弾芯炸裂徹甲弾(APCBC-T/HE)”の使用時)

備考
”九五式(八八式改)三吋高射砲”をベースに設計変更された戦車砲であり、現在、一式中戦車の将来型強化改修案の一つとして提言されている。
元々、陸軍や空軍の現用高射砲である八八式/九五式三吋高射砲が、より近代的で高性能な”九九式九糎高射砲”に切り替わるのを見越して余剰となった砲身などのパーツを生かして戦車砲を製造する計画は割と前からあったようだ。
しかし、開発が本格化したのは38年の”張鼓峰事件”以降で、ソ連の装甲兵力の強化が判明、近い将来従来の野砲ベースの75mm砲では貫通力不足になると予想されたために、急遽開発の促進が決定した。

開発ペースはきわめて早く1940年の秋には試作砲の”試製一式戦車砲”が完成している。
これは日本が魔法を使ったわけではなく、結局不採用にはなったが以前に九五式の原型となった八八式三吋高射砲ベースの”試製九三式三吋戦車砲”が開発され、比較評価のため十門以上製造された経緯があり、その「高射砲転用の戦車砲開発」というノウハウが存分に生かされたために早期開発が可能だったといえる。(このあたりのくだりは第07話のあとがき設定『八八式三吋高射砲 / 九五式(八八式改)三吋高射砲』に詳しいので、参照していただけるとありがたい)

さて、九九式APCBC-T/HEを使った場合の貫通力は、垂直のRHAを標的とした場合500mしか変わらないが、一式三吋戦車砲が真価を発揮するのは、後に”一式高速徹甲弾”と呼ばれることになるタングステン弾芯高速徹甲弾(HVAP-T or APCR-T)を使用した場合の貫通力だ。
大型薬莢/軽量弾頭/長砲身による高初速を生かせるこの条件なら、一式は従来の75mm砲弾を使う一〇〇式を性能的に凌駕する。

参考データ:一式高速徹甲弾使用自、垂直のRHAを標的とした貫通力比較
一〇〇式長七十五粍戦車砲:500m→137mm, 1000m→115mm, 1500m→90mm, 2000m→67mm
試製一式三吋戦車砲:500m→208mm, 1000m→180mm, 1500m→152mm, 2000m→124mm

と500mの距離で7cm以上の貫通力差があり、距離が遠くなるほどその開きは大きくない有効射程上限の2000mでは実に倍近い貫通力の違いがあるのだ。

この一式高速徹甲弾完成直後に行われた上記の実射比較試験の結果を重く見た大日本帝国陸軍は、僅かな手直しを指示した後に即座に量産体制に移行するように命じ、翌皇紀2601年(1941年)に制式化する。

デメリットをあげるとすれば、一〇〇式に比べて長く大きく重いため従来の一式中戦車の砲塔では不十分な大きさであり、新規の専用砲塔が必要とされることだったが、それは既に織り込み済みで、一式中戦車の砲塔が鋳造だった点を生かし、直ちに一式に対応した鋳型の研究が始まった。

また、『日米砲弾/弾薬相互間協定』にも対応しており、当時米国が開発していた”M10駆逐戦車”の搭載するM7/3インチ50口径長砲と砲弾が共用化されている。

試製が外れた一式三吋戦車砲は日本における高射砲転用の量産戦車砲としては先駆者であり、これは後の戦車砲にも引き継がれていくことになる。










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