パルスィは、部屋に残された紙袋が気になってしょうがなかった。

1 / 1
紙袋のプレゼント

 

 ここは私の部屋。旧街道沿いだからちょっとうるさいけど、その分橋にも近いので割と気に入っている。ちょっと狭いが、それもまあ、落ち着く理由の一つかもしれないわね。

 今日は祭日、クリスマスイブである。

 一人で迎えるクリスマスにはもう慣れっこだったけど、やっぱり少し寂しいものね。

 気を紛らわすために体操したり、本を読んだり、マラカスをシャカシャカ振って踊ったり。結局どれも飽きてしまい、暇を持て余していた。

 そこへ、一本の電話が入った。友人の、星熊勇儀だ。彼女の持ち前のだらしなさで、しばしば『ズボラさん』と呼ばれる事がある。

「借りてた本を返すから、今からお前んちに行くぞ」

そう言って、彼女は電話を切った。

 勇儀にしては、珍しいことだ。まあ、本当は意中の男性とでも一緒に過ごしたかったところだが、誰にも会わないよりはマシだ。

 待てよ。まさかあいつ、今日がクリスマスだと知ってて…?今から来てくれるのか?いや、そんな筈は無い。あのご飯を釜から直接食べるズボラさんが、そんな気の利いた事をする訳がない。たまたま勇儀も、今日暇だっただけだろう。

 

 ほどなくして、勇儀はやってきた。 貸していたのは、料理の本だった。今人気の料理タレントの本で、簡単で美味しい料理が沢山載っていた。お互い一人暮らしなので、台所にはよく立つのだ。

 実は今日のクリスマスは一人なのでただ過ごすのも侘しいものだった、と打ち明けようとした矢先、彼女は突然、

「ちょっとごめん」

と言って一旦部屋を出た。きっとトイレにでもしに行ったのだろう。

 

 私は待った。しかし彼女はなかなか帰ってこない。

 

 私は待った。しかし彼女はまだまだ帰ってこない。

 

 私は待った。しかし彼女はぜんぜん帰ってこない。私は待ちくたびれた。

 ふと、彼女がソファーに置き去りにしていった、彼女の紙袋が気になった。

 もしかして……プレゼントかなぁ!?

 いやいや、そんな訳がない。あのカップ焼きそばのお湯を捨てずに食べるズボラさんだ。なんだよソースラーメンって、別の食べ物になってるじゃないか。そんなズボラさんに、プレゼントなんて小洒落た真似ができるはずがない。

 …いや、今までのは全て私を驚かすための演出?靴下の裏表を二日に分けて履き回すほど大雑把なのはフェイク?本当は、クリスマス覚えてる?

 そうなのだ。きっと彼女は律儀で計算高いやつなのだ。ここは、彼女に敬意をはらって見るのは我慢だ。

 それにしても遅いな。見ちゃっても…いや我慢だ。ここは、我慢だ。10分間隔で息を止められる私だ、これくらいの我慢どうってことない。

 しかし遅すぎるな。年に一度の記念すべき日なのに彼女は一体何をしているのだ。私は少し腹が立ってきたぞ。

 待てよ、もし私が中身を見ても、あいつが帰ってくるまでに元通りにすれば…完全犯罪成立じゃないか!なんでこんな簡単な事に気がつかなかったんだ。よし、見ちゃえ。待ったぁ!

 やはりそれだけは彼女に失礼だ。

 にしても、随分あいつ待たせるな。見ちゃっても、罪のバランスはとれてるから大丈夫だろう。あ、でもプレゼントの価値にもよるな。

 全然大した物じゃなかったらお釣りが来るな。そう言った場合、釣り合いをとるために追加プレゼントを要求してもいいだろう。

 逆にものすごく高価な物だったら例えば───

 ん、一体なんだろう。ああ、そういやあいつはスポーツが好きだったな。よく草野球に誘われて断ったものだ。

 野球用品で、高価なもの…?貴金属バット?ミンクの、ミット?高級な…軟球?

 いや、あれだけ断ったんだ、私の運動嫌いはとっくに承知だろう。スポーツ関係は消えたな。

 そういやあいつは、性格に似合わず詩も詠むんだったな。

 ………手作りの詩集!?これはかなり最悪だ。

 

『ほら、君の顔にも

好きだって 書いてあるんだから、

早く 伝えてごらん。

あいつの顔にも 

好きだって 書いてあることに

気がつくから』

 

 とかだったら、おえっ。おぉゔぇっ。

 

『落ちこんで 落ちこんで。

気持ちが どん底まで 下がったら、

根を下まで生やしたぶん

上に伸びた 大きな木も 君なんだよ』

 

 おぉっ。寒気が。

 いや、あの紙袋の立体感、詩集ってことは無さそうだ。紙関係は消えたな。

 よしじゃあ、逆にあいつらしいものではなくて、私が欲しがっていた物を、あいつが知っていたなら。そう考えてみよう。

 計算高いことは既に証明済みだ、私の欲しがっていた物をそれとなく探っていた可能性はありえるぞ。

 あぁあ!まさか、以前から私が欲しがっていた…子犬!?

 どうしよう、子犬だったらどうしよう、豆柴だったらどうしよう!

 あー。名前はオスだったら、タロウ

か、ケン。メスだったら───

 

──カツヨかなあ!

 

 ちょっと外から触ってみよう。…うわあ、死んでる!息が出来なかったのか?

 おい、ケンタロウ!カツヨ!…あれ、硬い。

 ……カタイヌ?ノルウェー北部にしか生息しないザリガニみたいな犬、カタイヌゥ?

 いや、そんなものは居ない。少々気が動転しているようだ、落ち着け私。想像だけで思い悩むなら、こっそり見てしまえば解決じゃないか。

 

 ん、彼女は一体どんな状況なんだろう。ちょっと様子を伺うために、窓を開けてみよう。

 なんだ、家の向かいの道で立ち話しているじゃないか。…と、いうことは?

 行ける!万が一、彼女がたった今話を終えたとしても、道を横切ってこの家のこの部屋まで来るのに45秒はかかる。よし、作戦決行だ!

 待ったぁ!

 袋の中のプレゼントが、がっちりラッピングしてあったらどうする?一旦開けた包装紙を完全に元に戻すのは、45秒では至難の技だ。

 彼女が出て行ってからすでに5分は経過している。こんなことならさっさと見ちゃえば良かった。

 どうする、やるか、やめるか?

 これは賭けだぞ。人生最大の選択だ、妖怪だけど。

 ああ、私の心に潜む悪魔が、

──やっちまえよ!

と囁いている。私の心に住む天使、も

──やっちまえよ!

と囁いている。OK!見ちゃえ!

 あ、待ったぁー!

 もし開けて、プレゼントじゃなかったらどうする?ただの私物だったらどうする?二日履いた靴下だったらどうする?

 全てが私の思い過ごしだったら…これはヘコむぞ。

 

 考えてもみろ。あの缶コーヒーを缶切りを使って飲むほど不器用なあいつが、わざわざプレゼントを用意しているほうが不自然だ。リングプル開けられない究極の不器用が、そんな込み入った事をしてくれるなんてかえって気持ち悪い。

 危ない危ない。危うくトラップに嵌められるところだった。

 ……ん?何の音だ?庭に猫でも来たかな。

 

 

 

 

 いやあ、ついつい長話をしてしまったようだ。パルスィには悪いことをしたな。あれ、パルスィはどこだ?まぁいいか。

 喉が乾いたから、持参の缶コーヒーでも飲もう。

 

 ……缶切りどこかな。

 

 

 

 

 自然に物干し竿が折れるなんて、不吉だな。

 んー、勇儀は?まだ部屋に帰ってきてないのか?まさか、何か事故にでもまきこまれたのか!?

 

「あ、勇儀、台所に居た。もう戻ってたのね」「おう、パルスィ」「あ、あんた人の家の炊飯器勝手に開けて食べないでよぉ」「すまん、全部コーヒーかけて食っちまった」「もおー」「これも、借りてた本に書いてあったんだぞ?」「知ってるわ、私もよくやる」「メシまだだったら何か奢ってやろうか?」「いいよ、炊くから」「何を?ハザード?」「馬鹿じゃないの。この状況でどうやってハザード焚くのよ。そういえば、勇儀が何か奢ってくれるなんて珍しいわね」「だって今日クリスマスイ───」

 

「知ってたの!?」

 

 開けなくてよかったぁ。

 

 その後、彼女からはプレゼントを渡されたのだが、見ないで中身を当ててみろとの事だった。紙袋を振ってみた。

 

──シャカシャカと、音が鳴った。

 





その後は、等価交換。

ラーメンズのコント「バースデー」のパクもとい、オマージュです。是非一度見てみることをお勧めします。

詳しくは活動報告で。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。