二話の回想シーン→あれ、主人公ってこんなに口悪かったけ?
だんだんやさぐれて来てるって事にしておいて下さい。或いは本性が出て来たと。
――――懐かしい夢を見ている。今から八年ほど前の出来事だ。
「待ちたまえ」
川神院の正門前まで
その『聞き取らせる声』は、強い拘束力となって自分の足を止めた。最初に声を掛けられた時とは性質が全く違う、聞き取らせるというよりも聞かせる声。まるで叫んでいる人間の声は嫌でも聞こえてしまうように、彼女の声は強引に脳まで響いてきたのだ。ただ声を掛けられただけだというのに――両足は縫い付けられたと錯覚してしまう程、ぴくりとも動かなかった。
…………今になって考えると、気を声に上乗せし、相手に聞かせる事で効力を発揮していたのだろうか? 弟子入りして泰山の逸話は耳に入ってきたが、何よりも優れているのは彼女の気の柔軟性というか、気の使い方だと思う。彼女ほど気の使い方が巧い人間は見たことが無い。それこそ鉄心先生を上回る程の技量だと思っている。
「え…………なんでしょうか?」
「いや、なに。君にはわざわざ案内してもらったからな。何かお礼をしなければ、と思って」
振り返って一番に見えたのは、彼女の妖しい笑顔だった。まるで魅了してくるような顔を向けられれば、嫌でも視線は彼女に集まってしまう。…………気の使い方が巧いと言ったが、どちらかと言えば人心掌握術に長けているのかも知れない。
自分が話を聞く気になったと判断したのか、足の重圧は消え失せた。しかし泰山の言葉は言霊となって自分の中で反響している。今回は聞き取らせる、というよりかは理解を深めるのが目的だろうか、あまり意味の判らない単語でもスラスラと理解できるようになっていた。気ってスゲー。
「別にいいですよ。その、母が言ってたんで。見知らぬ人が困っていたら助けてあげなさい、て」
「ほう…………日本人の美学、というヤツだな。確かに殊勝な考え方だが、それなら此方にもあってな――
――『恩は借りたままにするな』と、昔口酸っぱく言われたよ」
「はあ。でも、僕も出会ったばっかりの人に恩を着せるようなひどい事はしません。これぐらいの事は別になんともない、普通の事ですよ」
「ケンキョ、とは君のような人間を指すのだな。だが、世の中は等価交換で成り立っていると聞いたことは無いかね? 君は私に時間と徒労を割いてくれたのだから、私も君に何かを割かなくてはならない」
「そんな…………人助けは、恩返しを求めないからこそ人助けなんです。それに、そもそも貴方は川神院に用事があるんだから、そっちを優先して下さい」
「別に構わないさ。道は覚えたし、中にいる人間の気も覚えた。今度来る時は一人で来れるから、今時間は空いている」
どちらも譲る気は無いらしく、一進一退の攻防が繰り広げられた。
泰山が『聞かせる声』でも発せば一瞬で決着がつく筈なのだが、そんなくだらない事に気を使う程彼女は馬鹿では無い。鬼だが馬鹿ではないのだ。脳味噌が筋肉になりかけている気がしないでもないが、彼女の知能は高い。
それに――そうやって気を使わないのは、本心から彼女が恩義を果たそうと思っているからだろう。強引に恩義を果たすのではなく、自分も満足して彼女も満足できるような恩返しをしようとしているからこそ、彼女は気を使わず言葉だけで語りかけているのだ。自分よりも遥かに年下の、年端もいかないガキにここまで献身的になれるのだから、師匠は凄いと認めざるを得ない。
…………一方、思春期手前の自分は恥ずかしいことに、泰山に見蕩れてあらぬ欲求を考えていたりする。だからこそ断ったのだが、それを察することは泰山でも出来なかったようだ。まあ、知られても困るんだけどさ。
十分ほど経っても、議論に終わりは訪れなかった。相変わらず自分は日本人らしく謙虚にお礼を断り、誠実な泰山は恩を返そうとして歩み寄ってくる。
はっきり言って、この状況はかなり恥ずかしかったりする。なんせ此処はあの川神院である。地域との関わりも深く、修行している人の中には近所のお兄ちゃんだって居る。その人にこんな場面を見られて、偶然出会った時に話されては爆死する未来しか見えない。当時の自分は女子と会話するだけできりきり舞いだったのだ、こんな美人と話していたなどと言われれば舞い上がりすぎて昇天するかもしれなかった。
「はあ……。まさか君がこんなにも頑固だったとはな。
なら質問を変えよう。恩義を果たすのではなく、願いを叶える――これならどうだ? 金銭なら余裕があるから、それなりの願いは叶えられると思うが」
「ね、ねがっ……!? ん、んんっ。願い、ですか」
一瞬裸体が頭を過ぎった俺は悪くないと思う。
泰山はBBAだが相当な美人であり、スタイルも最高に良い。それこそ胸はE以上、もしかしたらGはあるかもしれない。カンフー服も密着しているのでお尻がはっきりと判り、顔を近付けて口論していたので吐息がかかってもうたまらねえぜ。
妄想で滾るのはいいが相手は老人だというのを認識すると萎えた。閑話休題だ閑話休題。
しかし唐突に願いを叶えると言われても、案外思い浮かばないものだ。こういうものは地道な努力によって身を結ぶものだと思っているから、尚の事浮かばないのかもしれない。
それなら彼女の言う通り金銭面で解決できるものにした方がいいのだろうか。
文房具は…………低賃金で、別に今必要はない。
新しいランドセル……他人に買わす代物じゃない。
教科書…………税金だから問題無し。
学校関係で考えてみたら出てくると思っていたが、案外出てこないものだ。学校、学校、学校ねえ――――あ。
「その、一つ……だけなら」
「おっ、考え事は済んだか? なら教えてくれ。一万円なら余裕で出せるが――」
「――――僕を、強くしてくれませんか」
「……………………ほう」
瞬間――――陽気だった彼女の瞳が、無機質な水面を思わせる瞳に変化する。
纏う空気は陽から陰へ。しがない観光客に過ぎない鵬泰山から、川神院に訪れた武人鵬泰山へと人格が変わったのだ。雰囲気すら変えた彼女はまるで気の触れた狼のようで――それでも尚、理性を保ったまま見定めるように自分を見ていた。
「その言葉が何を意味しているのか、君は判っているのか?」
「え、まあ。勿論修行はしますし、根はあげないつもりです」
「それは結構だが……理由を聞かせもらっても?」
「理由、ですか。実は自分の学校に、いじめられている子がいるんです」
名前は確か、
彼女を助ける――と自分は思っているのか。或いはいじめられている彼女のことを聞いて、自分もそうならないよう力を付けたいのか。理由は判らないが、兎に角自分は強くなりなかったのだ。
――――まあ、本当は。
自分に好きな人が出来た時、その人を守りたいだけなのだが。
「成程な。詳しい理由は聞かん。込み入った事情を聞くのは面倒だからな」
「ありがとうございます」
「私に師事するのはいいが、覚悟はしておけ。それこそ地獄のような苦しみと、驚く程強くしてやる」
「――――っ! はいっ!」
その言葉に強く頷く。彼女のたくましさと言うか、その熱意を感じ取ったから安心したのだ。この人なら自分を高みへと連れて行ってくれる、そんな予感がした。
「なら――景気付けに一発くらっとけ!」
――――最初の修行と称して、
マジで痛かったんだよなあ…………。
土曜日。部活に入っていない自分は2-Fの熊飼満こと熊ちゃんと食べ歩きをしていた。
休日だというのに男二人で街を巡るのは些か花が無いものの、熊ちゃんは花より団子派だし自分は三度の飯と研鑽好きの変人だ。こんな二人に色恋沙汰がある筈も無く、街へ繰り出しイタリア商店街をふらついている訳だ。風間を連れていた時はナンパされたりもしたが、デブとフツメンじゃギャル系女子の心は動かないらしい。明らかに暇そうにしている女子高生の視線が一瞬向いたと思ったら、興味無さげに逸らされる。……なんだよう、興味が無いなら見るんじゃないよ! この厚化粧共が!
「…………熊ちゃんてさあ、女子にモテたいと思う?」
「そりゃあ僕だって男だからね、欲しいと言われたら欲しいけど…………急にどうしたの?」
「いや、気まぐれだよ。それよりも、最近オープンしたばっかりのフレンチって何処よ」
「それならあそこの角を左に曲がって、しばらくした所の路地に入って――」
なんだ、熊ちゃんも彼女欲しかったのか。てっきり「食事が僕の彼女だよ」とか抜かすとか思ってたのに。
今回の目的は食べ歩きだが、それはメインディッシュでは無い。寧ろ今回に限っては食べ歩きなどメインを頂く前のスープやサラダなどの前菜に近い。熊ちゃんもそれを理解しているようで、イタリア商店街で買ったジェラートは普段よりも何個か少なかった。いつもなら五個は買うのに抑えている辺り、相当メインは美味しいようだ。これは期待が持てる。
熊ちゃんの先導の元、雑誌などでも取り上げられているフレンチの店へ向かう。イタリアな雰囲気漂うこの商店街にフレンチの店を建てる心構えには感服するが、感服したのは心構えだけではない。商店街の空気に飲まれることなく、尚且つ雑誌で取り上げられる程の業績を叩き出したのは正直驚いた。同じような店が立ち並ぶ中一つだけ系統の違う店があるというのは敬遠されがちだが、それでも結果を出しているのは味が認められたからだろう。
「その店のオススメみたいなのはあるか?」
「僕たちじゃコースは食べれないからねえ。ええと、ちょっと待ってね…………雑誌を見る限り、キッシュが有名みたいだよ」
「キッシュか、聞いたことはあるけど食べたことは無いな」
「僕は何度か。あのパイ生地と中に入っている具材の食感がたまらなく美味しいんだ。オーブンで焼いているからパリパリで食べ応えも充分だし、看板メニューだからどれぐらい美味しいのかなあ……」
「熊ちゃん、涎垂れてるから」
キッシュ。日本で頂けるフランス料理では珍しい郷土料理の一種。
器となるパイ生地の中に卵や生クリーム、アスパラやベーコンなどを入れる。自分が知っているキッシュはほうれん草やひき肉が入っていて、野菜多めの印象があった。具材を入れたら上にチーズを大量に乗せてオーブンで焦がす。チーズに焼き目が付いて生地が焼けたら完成だ。
イメージではパイ生地にグラタンを入れていると言ったところか。地方によってはナッツ類を入れることもあり、割と自由だと聞く。今回行く店がどのスタイルなのかが今から楽しみになってきた。
熊ちゃんと行く店の名前は「
古いお城をイメージした内装に、客をリラックスさせる事に重きを置いた選曲。一見厳格そうに見える城のイメージを緩和する為に店員の接客にも力を入れていると聞いた。こういう雰囲気作りも一流の店には必要だったりする。
フレンチの店だということでコースは高いものの、それ以外は学生でも注文出来るような良心的な値段とか。イタリア商店街は川神学園帰りの学生も多く通うスポットなので、学生もターゲットに入っているようだ。実際クラスでこの店に行った人から話を聞いたが、単品なら千円で食べれるらしい。フレンチでこれは充分安いと思う。
「――っと、此処か。着いたは良いけど、結構混んでるな」
「お昼前だし人気店だからね。僕らも並んでおこうよ」
通りから少し離れた所に店はあった。只々商店街を歩いただけでは発見出来ないような入り組んだ道を抜けた先に、堂々と建っている。
建っているのだが…………その、予想以上に人数多くないか? 穴場スポットと言われて来てみれば、昼前だというのに十人以上の行列が出来ている。雑誌効果というヤツだろうか。そういうので取り上げられるのは良いのだけれど、自分のお気に入りだった店が荒らされたような気分になるのは自分が未熟だからだろう。フレンチという特性上調理には時間がかかるので、間違いなく数十分は待たなくてはならないだろう。
まあ、その待つのが良いんだけどさ。今か今かと待ちわびて、現物が出た時の喜びは並んだ人間にしか判らない感情だと思う。
「客は……女性が多い感じか?」
「お洒落なお店、ていうのがコンセプトだからじゃないかな」
列に並んで適当に時間を潰すこと一時間。お店の人から案内されてようやく店内に入った。
まず耳に入ってきたのはモダンな音楽である。古臭い――というよりは今と違って落ち着きのある音楽は、確かに食事には最適なミュージックだった。この頃はジャズが世界的に流行ったと聞くが、仄暗い明かりの店内では派手さの無い音楽の方が合っているだろう。
内装はお城というコンセプト通り、古い絵画が壁に描かれ店の中央にはシャンデリアが吊るされている。置物もアンティークな物が多く、白を基準とした清潔なデザインとなっている。薄暗い印象から白は合わないと思っていたが、これぐらいの明かりの方が王政の時代を思わせて良い。ナイスチョイスだ。
案内されたのは窓際の席だった。向かい合うように座り、手を拭き流れメニューを眺める。野郎二人が対面するなんて花が無いが、腐った思考回路を持った生物学上女みたいな人種じゃない限りは友人と判断されるだろう。腐女子の思考回路は気を持ってしても読めないんだよなあ……。
看板メニューということもあり、キッシュは一番最初のページに飾られていた。写真と共にキッシュの概要が説明されており、これなら初見の客にも判りやすい。気遣いが出来ているのはいい店の証拠だ。時々全て外国語という店を見かけるが、判らない人間にとっては迷惑極まりない。こうして丁寧な接客こそお客様確保に繋がるのだ、多分。
「南瓜、ほうれん草、クリームか。俺は南瓜にするけど、熊ちゃんは?」
「僕はほうれん草にしようかなあ。クリームも食べてみたいけど、ちょっと手持ちが……ね」
「それなら二人で割り勘するか」
「うん」
学生の身分故致し方なし。
…………なんか虚しくなってきた。こんな気持ちはさっさと切り替えて、今から出てくる美味しい料理を堪能するとしよう。
あ、キッシュは凄く良かった。
パリパリの生地に南瓜の甘みが合っていて、ベーコンの塩気やアスパラの食感も良いアクセントになっていたと思う。
クリームはベーコンなどを抜いている代わりに果物を入れることで甘めにしてあり、上のチーズもクリームチーズになっていた。しつこくなかったので案外軽く食べれた。
今度は小雪とでも行こうかなあ。デートと称すのは恥ずかしいから、自然な流れで。
――――嘗て、武術の本場中国にはある男が居た。
男の名は李書文。貧しい農村出身の彼は劇団員を目指していたというが、舞台での事故で足を負傷。泣く泣く実家へ帰る羽目になってしまったという。
傷を癒した書文は、怪我を乗り越える為にとある武術を習うことを決心する。
その武術の名前は八極拳。敵の防御の上から打ち破ることを信条とする拳法。
日夜練習に没頭した書文はその実力と才能を開花させる。小柄であり拳法には向かないと思われていた体格の不利も、血を吐くような鍛錬によって得た怪力が打ち消した。槍を好み、仕事を忘れ一日中振り回していた時もあったと言う。
その結果、彼がどんな異名で呼ばれるようになったか。
真剣勝負に於いて悉く牽制だろうと全力だろうと一撃で敵を葬り去る姿から、彼は『
……………………格好いい。何と言うか、格好いいのだ。
李書文の生き方――八極拳の一撃を極め、只ひたすらに自分を鍛えるその姿。これこそが自分の目指す武人そのものだと思う。
っべー。マジべー。書文先生マジリスペクトっす。もう一生見習っていくっす、本当。人生の師匠つーか先輩つーか、もうかっこよすぎて拳に力が込もるっす!
「――――ふっ」
震脚には二種類存在する。一つは前進する為のもので、この場合は地面を踏みしめるように足を出すのが重要になる。言わば相手に初動を判らせないようにするのだ。最初は音を出し豪快に踏みつけていたが、鍛錬を重ねるにつれ音が少なく動きも僅かになってきた。普通に歩くように踏みしめるからこそ、相手に初動を悟られないのだ。これが中国拳法の強みの一つだろう。
二つ目は先程言った踏みつける震脚で、こちらは主に相手へ拳を当てる瞬間に使用する。この状態になれば音など関係が無いので思いっきり踏みつけることが出来る。その為威力は踏みしめるものよりも強いだろう。それこそコンクリートを粉砕する程度には。
一歩で三メートルほど移動したら、右足でブレーキを掛け半身になって
――――――――遠い。そして弱い。
師匠の牽制にも満たない一撃だった。気を使っていないので威力は保証されないが、それでも弱すぎる。二の打ち要らずを体現したような師匠や李書文には遠く及ばない、未熟な拳。気を使わずして内臓を破壊し得る威力を持つ師匠の一撃を知っていれば、自分の拳がどれ程まで弱々しいか痛感させられる。
悔しくて、思わず歯軋りをしていた。拳にも力が入り、使う予定の無い気が溢れる。この辺りも自分の未熟な所だろう、少し至らぬ所があれば感情が爆発する。学校生活においては必要なそれも、武道においては不必要なものとなる。明鏡止水の心理こそが武人に必要とされる心なのだ。
感情の爆発は善を助け悪を挫く上では重要だろう。重要だろうが――善悪程度で騒ぐようでは彼女らには届かない。彼女たちの強さはそういうややこしい物を抜きにした、一種の価値観の中で生まれたモノだ。李書文だって源義経だって、祀りたてられているが現実は人殺しである。それでも彼らに魅了されるのは、善悪抜きで彼らが凄まじいから。今の自分に必要とされるのは、善悪が入り込む余地の無い純粋な強さだ……!
……………………まあ、ややこしい事言ってるけどよーするに「悪であろうと強くあれ」って事だ。そもそも泰山流八極拳は暗殺拳なので、アレコレ考えても意味が無い。強ければいいのだ、強ければ。勝てば官軍負ければ賊軍。それを体現したような拳法とも言える。
ふぅ、と息を吐き出し中段に構える。震脚と同時、活歩を用いて芝生の上を滑る。実際には滑っているように見えるだけだが、この歩法を使えば一瞬で間合いを詰められるのだ。
放つは絶技。我が流派開祖
「
狙うのは仮想の相手の腕。それを掌で叩き付け、徐々に上へと上げていく。いずれ辿り着くのは顔面であり、極遠をぶち破るその拳は師匠クラスの威力なら顔面を陥没させるには十二分だろう。
…………そこまで自分の拳に威力が無いのが悔やまれる。気を使わなければ顔面陥没程度すら成せないとは。師匠曰く「極意の二つは極めた」らしいが、生身でこれでは拍子抜けも良いところ。せめて拳を切った風圧で腕が折れるようにはしなければ。
「……………………はぁ――!」
まあ生身の事は後だ後。鍛えていったら至る境地だろう。
次は気を使っての鍛錬になる。そもそも泰山流八極拳は気を使える者だけが習える拳法らしい。泰山一代で大成したのにそんな事が言えるのか。確かに兄弟子や同じ流派の武人に出会ったことは無い。なんでも最初の冲捶で素質を判断されるらしく、彼女に認められたのは自分しかいなかった、ということだ。…………随分と嬉しくない選定方法だと思う。だってさ、最初の一撃マジ死んだと思ったもん。あんな一撃を子供に放つ辺り、弟子となった者への容赦の無さを感じる。
「――――――――」
気を全身に巡らせ、拳には濃密な量の気を宿す。気による身体能力強化は感覚まで効果が出るようで、河川敷の向こう側――変態橋の辺りまで見渡すことが出来る。此処から変態橋まで約一キロなので全体像だけなら捉えることは可能だが、今なら変態橋を通る通行人すら視認できる。
震脚――その踏み込みで川に波紋が生まれ、柔らかい土は衝撃に耐え切れず抉れる。活歩と組み合わせて進んだ距離は五メートル以上、時間に直して一秒以内だろう。
勢いのまま、つく足を震脚として踏みつけ冲捶を出した。拳が相手に当たった瞬間、拳に乗せた気を爆発させる。
ゴン、という形容しがたい音と同時。
拳が向いていた多馬川の水が、扇状に散っていった。
コンディションは充分。後は日曜日の鍛錬でどこまで鍛えられるかだ。
気の残量は普段なら五分程度だが、今日は三割残しておく。月曜日に十割にする為にはこれぐらいが丁度いいだろう。フリードリヒさんを侮るわけにはいかない。彼女はそれなりの実力を秘めた武人だ。手加減すれば自分が負けるだろう。
それに、小雪からのお願いなんだ。
今度の仕合いは絶対に負けられない。
友人からのメール『お前の作品日間入ってるゾ』→確認→ファッ!?(今ここ)。
Fateは入ってないのに……入ってないのに……贅沢は言いませんが。
兎に角、皆様この拙作を見ていただき誠にありがとうございます!
八極拳の技はググれば出てくるので、そちらを参考にしていただければ……。
自分が説明するよりも遥かに解りやすく丁寧なので。
感想くれるとありがたいです。主に自分が。