真剣で八極拳士に恋しなさい!   作:阿部高知

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今年最後の投稿となります。
それとお気に入り登録者数1000突破ありがとうございます!
完全に息抜きと本命が逆転してますけど、そこらへんは気にせずにですね……。


風間ファミリー 夢と不安と心配と

 ――――懐かしい夢を見ている。今からほど八年前の出来事だ。

 

 

 

 

 その日は粉雪が振る寒い日だった。気温が十度以下になろうと、基本的に川神院での服装は道着である。薄着の道着一枚では風邪を引いてしまう為中にインナーを着るのだが、それでも寒いものは寒い。身体をしっかり鍛えよく食べよく寝ているので風邪を引いた事は一度も無いものの、この日に限っては凍えるような思いをしたのを憶えている。

 川神流に限らず、道場で仕合いをする武術は素足になる。その為寒い日は床が冷たく全身が凍えるような思いをしなくてはならないのだ。薄着に加えて足元からの寒さだ、軟弱な身体では一日で風邪を引くレベルだろう。爺さんのヤツ、自分は足袋を履いている癖に私には履かせないのだから意地悪だ。他の人たちには履かせるのに。

 あれか、日頃の当て付けってヤツか。本人に問いただしても「老人だから寒いもん」なんて抜かしやがる。そもそも何歳か判らないようなジジイが何を言っているんだか。

 

「新しい門下生が入るから面倒を見ろ? 本気で言ってるのかジジイ」

「勿論じゃとも。それと百代、次ジジイなどと抜かせば肋骨をへし折るぞ」

 

 肋骨をへし折るって……可憐な美少女に言う台詞じゃないだろ。まあ爺さんを煽るような事を言った私も悪いんだけどさ。

 お昼頃。指定された修行を終え昼食を摂っていた自分の所にやってきたジジイはそう言い、外出用の上着を渡してきた。道着の上からジャンバーを着るとは……しわくちゃになって大変だと思う。

 

 川神院では門下生が入ってくること自体は珍しくない。私は身内の人間なので外部の評価はイマイチ判らないものの、此処が武道の総本山と言われていることぐらいは知っている。なんせ『世界最強のクソジジイ』である川上鉄心が教える場所だ、有名にならないほうが可笑しい。実際私もジジイ目当てにやって来る外国人も何人も見てきた。

 特に憶えているのは夏頃にやって来た中国人だ。名前は判らないが中国拳法の使い手で、ジジイと組手をしなかったものの師範代クラスのルーさんを撃破した強者だった。アレがジジイの言う『壁を越えた者』なのだろう。何時か自分もあれ程までの高みに登りたいものだ――。

 話を戻そう。川神院に門下生が入ってくることは珍しくないが、珍しいのは幼い子供の門下生が入ることだ。武道の総本山ということもあり敷居が高いと思われているのか、川神院に入る人のほとんどは成人した大人である。故に川神院に子供は少なく、ジジイの孫である私と高校生の二人しか存在しない。

 ジジイの言う門下生――面倒を見ろと言ってくる辺り年下だと思われる。つまりは現在川神院の中で最年少の私よりも下、つまりは弟分が出来る訳だ。今まで最年少という事でジジイやジジイやジジイや釈迦堂さんなどに雑用を任されていたが、これでようやく雑用係から卒業できる。いやあ長かった。……………………って、ほとんどの雑用はジジイが発端じゃないか。

 

「それで爺さん! 新しい門下生は年下だよな!? な!?」

「え、えらくそこだけ食いつくのぅ…………。確かに彼女の紹介じゃと九歳だから、一つ年下ということになるの」

「いっよっしゃあッ!」

「喜んでいるところ悪いが百代、しばらくは雑用係はお主じゃからな」

「なん…………だと……!?」

 

 あんっのクソジジイィ……! 無双正拳突きで吹っ飛ばしてやろうか……!?

 睨みつけること数分。無言の圧力を込めて睨んでいたが、ジジイはいい加減鬱陶しく感じたのか鋭い手刀を頭に放ってきた。気を纏わせていないのでそこまで痛くないが、あくまで『そこまで』だ。何発も喰らえば充分痛い。

 大人しく喰らい、ジジイが渡してきた上着を黙って着る。これ以上やっても自分が痛い思いをするだけだ。全く、あんなヨレヨレの癖して私じゃ手が出ないほど強いとは。人間とは判らないものである。

 ジジイが言うには門下生はもうすぐ来るらしい。私を連れて行くのは訪れた門下生への挨拶と紹介を兼ねてとか。確かに姉弟子となる存在は一番最初に知っておいた方がいいだろう、うん。雑用係もしばらくだし、事情を覚えたらボロ雑巾になるまでコキ使ってやる……!

 

「なにを物騒なことを考えておるか」

「あいてっ!?」

 

 ジジイに連れられてやって来たのは正門だった。川神院の敷地中に雪が積もっており、修行僧の先輩方が雪掻きと言う名の修行をさせられている。スコップで雪を掬い、隅へ寄せてては掬いの繰り返しだ。私は既に終わっており、雪はぶん殴って始末した。ジジイが聞いたら怒りそうな話だが、バレていないので問題無いだろう。

 道着の上にジャンバーを羽織るのは良いが、それでもまだ薄着だ。外に出た瞬間、身体が一気に冷めたのを感じる。流石に素足では無く下駄は履かせてもらったが、それでもこの寒さは耐え難いものだ。思わず身震いしてしまうのを抑えて、正門の風の当たらない所へ避難した。ここなら風も無く雪も落ちてこないので安全だろう。

 

 凍えるような寒さの中待つこと十分――門下生とその保護者はやって来た。

 

「待たせて済まない鉄心殿。この生意気な弟子を沈ませるのに時間を割いてしまった」

「構わんよ。それよりも泰山殿――本当に、この子をうちで修行させてよいのじゃな?」

「…………ええ。この子は強さだけなら同世代でも覇権を争えますが、実戦経験というものがまるで足りない。私も七浜に住んでおりますが、組手が出来るのは週に一度のみ。それなら鉄心殿の所に預けて経験を積ませる方が良いでしょう。他の流派の技を学ぶのも、経験という事で」

「お主がそう言うのなら、儂はもう何も言わん。――――これ百代、そこで震えていないで早く出てきなさい」

「………………………………」

 

 震えてなんかない――――とは、流石見知らぬ人物が居る前では言えなかった。

 渋々といった形で陰から出た。ジジイの横に立ち、眼前に居る二人の様子を観察する。…………何と言うか、あったかそうだなあ。門下生の方はゴツい防寒着に黒の手袋、保護者の方はコートに狐のファーを付けている。

 門下生と私の視線が交差する。顔に貼り付けられたガーゼが印象的で、身体をさすっている辺り痣でも出来ているのだろうか。つまりそれ程まで保護者にしごかれているという訳だ。先程の同世代では一位を狙えるという発言を含めて、コイツには相当期待できそうだ。

 逆に門下生の視線だが…………コイツ、私のこと可哀想なものを見るような目で見てきやがる。確かにこんな薄手だけど、そんな目をしなくても良いと思う。この時の恥は後日絶対に倍にして返す……!

 

「これこれ百代。そう警戒せんでもいいじゃろうが」

「別の流派からの刺客ですからね、総代の孫となれば警戒するのも当然でしょう」

「流派も何も、そもそも流れが違うのじゃから警戒するだけ無駄じゃろうに」

 

 なんかあらぬ勘違いが広がっている気がする。

 …………これも全部門下生が悪いのだ。

 

「――――李、挨拶をしなさい」

「…………えーと、今日から川神院で修行させていただく李颯斗(はやと)です。李でも颯斗でも、呼びやすいように呼んでください」

「李君か。儂は川神鉄心、川神院の総代をしておる。そして此処に居るのが――――」

「川神百代。お前、明日から私の舎弟な」

「……………………えっ」

 

 

 

 どこまでも冷静な李と、怒りを抑えて笑みを浮かべる私。

 私がはじめて彼と会ったのは、息すら凍る寒い日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上にて話し合いを終えた直江大和とクリスティアーネ・フリードリヒはとある廃ビルへ向かっていた。

 

「クリス、廃ビル行くぞ」

「廃ビル……? ああ、今日はそういう日だったな」

 

 今日は金曜日。彼ら二人にとってこの曜日は特別な意味を持っている。彼らが所属するグループ、風間ファミリーでは毎週金曜日に目的地である廃ビルに集まり、議題を決めて話し合うのだ。『話し合う』と言っても、議題が無い場合は遊びにシフトチェンジされるが。

 川神学園から廃ビルまではそう遠くない。昔は埃だらけでまともに秘密基地として機能しなかった廃ビルだが、中学生になってから一気に整備が進んだ。埃などの汚れはファミリーの女子川神一子と椎名京が掃除し、崩れ落ちたコンクリートや置かれていた廃棄物は力持ちの島津岳人が撤去。頭脳担当の師岡卓也と大和で設置物の置き場所を考えて、リーダーの風間翔一が類まれなる幸運で手に入れた品物を持ってくる。

 その結果、廃ビルの一室はメンバーの嗜好品が集まるおもちゃ箱のような有様になっている。漫画本やテレビゲーム、冷蔵庫にプラモなどなど――最早誰が持ち込んだか判らないような代物もあったりなかったり。時々賞味期限切れのお菓子や食べ残してカビが生えたパンなど、結構危ない代物も見つかったりする。

 これは一度掃除した方が良いかな、と大和が悩んでいるところに、隣を歩いていたクリスが話しかけてくる。

 

「大和。あの李と言った男、一体どれ程の実力なんだ?」

「俺にはさっぱり。何年も前から河川敷で修行しているのは見てたけど、俺には武術の心得が無いから只々すごいなーとしか」

 

 李颯斗(りはやと)

 2-Sと2-Fの諍いにて突如表れたSクラスの刺客。彼自身は2-A所属だが、助っ人という形で決闘に挑むことになっている。形を変えれば巻き込まれた、と言っても過言ではないだろう。最も、大和ですら理解出来ない()()榊原小雪と仲が良い辺り、SクラスFクラス共々因縁深くどの道戦う運命だったのかもしれないが。

 李颯斗の実力ははっきり言って未知数。なんせ今まで戦闘関係で『決闘』に参加した記録が無い。食堂とおかわり自由権を求めて決闘したり2-Fの熊飼満と大食い対決をしたりと、食事関係の決闘なら幾つもこなしているのだが……大和が調べられる限り、彼が武器を取って生徒と戦ったという記録は無かった。

 しかし、彼が多馬川の河川敷で鍛錬しているのは有名な話だ。大和も度々見かけるし、日課のメール交換で話題に上がる事もある。彼が使うのは槍と拳。総じて槍の方が回数は多い気がする。今回の決闘でも彼が使用するのは槍であり、彼の腕前は素人である大和ですら感嘆の声を上げる程だ。それこそ一子やクリスに匹敵するレベルの腕前だろう。

 

「河川敷での動きを見る限り、結構な実力だっていうのは判る。でも、対人の結果が無いから強いかどうか判らないんだ」

「ふむ……そうか……。廃ビルに戻ったら一度聞いてみよう。犬やモモ先輩なら何か知っているかもしれない」

「あ、確か李って川神院に通ってたような。昔ワン子が話すのを聞き流してたから詳しく覚えてないけど、二人に聞いたら判るかもな」

 

 二人が並んで歩く姿はカップルにも見えなくは無いが、その間に空いている溝を見せられたら誰もカップルとは思うまい。

 今はこうして会話している大和とクリスだが、実は結構仲が悪い。大和は相手の隙を付く軍師タイプで、クリスは真正面から相手を破る騎士タイプ。簡単に言えば馬が合わないのだ。その相性の悪さはいきなり表立って見えた。転入初日からいきなり衝突し、その後も度々揉めている。

 大和からしたら非力な自分が狡猾な手段を取るのは戦略だと考えているが、クリスは日本男児というものを何処か勘違いしている。創作で出てくるような勇ましい姿を理想としている所為か、それを大和にも求めているのだ。大和にとっては迷惑極まりない。更に大和の態度を直そうとしてくるのだから堪ったものじゃない。クリスが可愛くなかったら怒鳴り散らしている所だろう。

 

「しかし、川神院で修行していた生徒が無名とは」

「李とはメールで会話するぐらいだけど、アイツって食べ物の話題ばっかり出すからな。武術を習っていても自慢するタイプじゃないし」

 

 大和と李颯斗はあまり仲良くない。少なくとも初見のクリスよりかは仲が良いものの、それでも「友達の友達」というレベルだろう。

 彼が夜行っているメール交換でも、李はあまり話題を振ってこない。携帯に慣れていないのでタイピングが遅く、その為文章を打つのが面倒くさい――本人はそう言っているが、単純に親しくない間柄の相手への距離感に迷っているのだと思われる。つまり情報収集の為に大和が歩み寄っても違和感を与えるだけで、まともに情報が出てこない可能性があるのだ。

 こうなってしまっては大和に出来る事は無い。後は百代と一子の情報に頼るだけだ。

 

 川神学園から歩いて二十分ちょっと。変態橋こと多馬大橋を渡り土手を通って、住宅地に向かう。此処から川神学園へ向かっている生徒は多く、放課後ということですれ違う生徒の数も多い。眉を潜めて歩くクリスと無表情の大和のペアは、さぞ可笑しく見えることだろう。

 

 数分もしない内に、風間ファミリーの集まる(廃ビル)は見えてきた。

 

 住宅地の中でも一際大きな建物――外見からすれば建設途中で放棄したビルに過ぎない。入口も封鎖されて扉からは内側の廃れた様子がよく判る。しかし、廃ビルの一室から電灯の光が漏れていた。最も、酔狂な輩ではない限り廃ビルなど注意深く見ないので、彼らがそこにたむろしている事を指摘されたことは一度も無かった。

 正面からでは無く裏口から入ると、ファミリーの騒がしい声が聞こえてくる。翔一の賑やかな声に、岳人と卓也の漫談。一子が百代に甘え、百代は一子を甘やかす。京の声は聞こえないので読書でもしているのだろう。最近ファミリーに加入した黛由紀江は…………九十九神という設定の松風と話しているのだろうか。

 

「ただいま、皆」

「ただいま帰ったぞ」

「お帰り大和。私にする? 或いは私? それとも――」

「ご飯でお願いします」

 

 ――今日は金曜日。

 週に一度の金曜集会が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の議題は……次の決闘の対戦相手についてだ!」

「えーい」

「よっ、キャップ」

「お前らもっと乗り気になれよなー」

 

 ビシッと指を差し宣言したと思ったら、卓也と岳人の元気が無い声援を受けて不満そうな顔をする翔一。自分がノリノリだっただけに、周囲のテンションが低いと調子が狂うらしい。一応全員が話に耳を傾けているが、直接関係の無い百代はあまり真剣には聞いておらず、逆に関係ないのに由紀江は緊張しまくって話を聞いている。寧ろ百代のほうは顔を顰めて、

 

「またお前たちSクラスと決闘しているのか……」

 

 と呆れている始末だ。

 しかし翔一はそこで諦める器ではない。顔を上げて良い笑顔で言い放つ。

 

「まあ俺もまだ対戦相手聞いてないんだけどさ」

「まだ聞いてないのにノリノリだったのっ!?」

「ってことで大和、説明頼んだ!」

 

 …………この辺りのいい加減さがキャップらしいと言ったらキャップらしい。

 翔一にツッこむ卓也を尻目に、わざとらしく咳をして大和は立ち上がった。翔一に行っていたメンバーの視線が一気に集まり、大和の動向を見つめる。若干一名熱の篭った視線を送ってくるが敢えて無視。「焦らしプレイなんて……ぽっ」なんて言っているが無視だ無視。それに便乗してくる姉貴分も無視する。

 皆の関心が集まったのを確認して、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「今回の決闘の対戦相手はSクラスじゃない」

「Sクラスじゃない? 一体それってどういう事だよ」

「まあ話は最後まで聞けって岳人。今回の対戦相手は――――2-Aの、李颯斗だ」

 

 李颯斗。

 2-Sでも2-Fでも無い、良い言い方をすれば善良な生徒であり悪い言い方をすれば地味な生徒。その名前を聞いてメンバーはどんな反応をするのか――――実は結構楽しみだったりする。

 満を持してその名前を出した時、メンバーの反応は皆それぞれ違うものだった。

 

「アイツか!」と翔一はニコニコ笑い。

「何?」と怪訝そうな顔をするのは百代。

「うへぇ……李さん?」と珍しく一子が元気の無さげな表情をする。

「李くんが決闘するとは珍しいね」といつも調子なのは卓也で、岳人は無言だが嫌そうな顔をしていた。

「…………そう」京はどうでも良さげである。

「え、えっと、どちら様でしょうか」と唯一知らない由紀江だけが焦っている。

 

 …………由紀江が李を知らないことをすっかり失念していた。てっきり河川敷での動きを熱心に見ていたから知っていると思っていたのだが――由紀江の交友関係を考えればそれも当然であった。

 なんせ由紀江、同学年の一年ですら友人がいない。そんな生徒に学年が違う、おまけに先輩での知り合いなど風間ファミリー以外存在しないだろう。

 

「まゆっちも見たことあると思うけど、河川敷で槍振ってた人」

「ああ、あの方ですか」

『ありゃあ結構な腕前だぜぇ。なんせまゆっちですら惚れ惚れするぐらい綺麗な振り方だったもんな』

「ま、松風! 何を言うですか貴方は!」

 

 持ち前の人形松風と戯れる由紀江も見ていて面白いが――大和が気に掛かったのは他のメンバーの反応だ。

 翔一や卓也、京の反応は長い付き合いだから予想できたが、百代や一子や岳人の反応ははっきり言って予想外だった。特に百代や一子が不安そうな顔をしているのが印象的だ。百代ならもっと興味を抱いていても可笑しくないのに、顎に手を添えて考え事をしている。一子に至っては眉を潜めて黙っている始末だ。岳人は……女関係で因縁でもあるのでは?

 一体何かあったのか。それをはっきりするべく、大和が尋ねようとした矢先――先程まで無言だった岳人に対して卓也が話しかけた。

 

「岳人はあれだもんね、李君に前の決闘でコンテンパンにされてるからあまり強く出れないんでしょ」

「なっ、ば、馬鹿! バラすなって言っただろ!?」

「でももう二カ月前の話でしょ? それなら別にバラしてもいいじゃん」

「岳人、李と戦ってたのか。それで、アイツはどんな感じだったんだ」

 

 灯台元暗しだった。まさか風間ファミリーの中に、過去李と戦った者がいるとは。

 身内に対戦者が居るとは思っていなかったが、コレは好都合だ。情報を聞いておけば何か対策が練れるかも知れない――。

 

「……その、決闘って言っても殴り合いじゃないんだ。李のヤツが、えーと……写真を持っててな」

「うん」

「その写真を巡って決闘したんだ。食堂で、どちらがご飯を多く食べれるかっていう決闘」

「なんだ、そっち系か……」

 

 ――そう思っていたが、岳人との対戦は食事関係だと聞いて肩を落とす。成る程、道理で大和の情報網に岳人の決闘が引っかからない筈である。彼が調べていたのは「李楓斗と戦闘系の決闘」であり、食事系の決闘は全く調べていなかった。だからこそ岳人の決闘を大和は知らなかったのである。…………まあ、岳人からしたら知らなかった方が都合が良かったようだが。

 岳人が欲しがる程の写真も気になるが、どうせエロ関係だろう。『宴』とやらにでも出品するつもりだったのかもしれない。

 兎に角、岳人が知らない以上はこのメンバーの中で李の戦闘力を知っているのは百代と一子だけという事になる。李が本当に川神院に通っていたのなら、百代と一子はその実力を知っている筈である。

 

「姉さん。李が川神院に通っていたのって、本当?」

「…………ああそうだ。それより大和、本当に対戦相手の名前は李颯斗なんだな? 2-Aの? 河川敷で鍛錬している?」

「そ、そうだけど……。その、えらく喰いつくね、姉さん」

 

 ここまで百代が喰いつくとは珍しい。普段は男なら一瞬興味を抱くがすぐ消えて、女ならセクハラしようと画策しようと模索する。言い換えれば女好き(百代も女性なのに)である百代が、ここまで興味を抱くのは非常に珍しかった。

 それだけ聞くと再び考え込む百代。いつもなら考え事は嫌いな筈なのだが……明らかに態度が違う百代と一子に、自然とメンバーの視線は集まる。百代はそれに気付かない程思考の底まで意識を落とし、一子はバツが悪そうにしている。

 しばしの静けさが部屋に漂う。重くなる空気の中で、一区切り付いたのか京が本を閉じた音だけが響いた。

 

「えと……姉さん、何か可笑しな所でもあったかな?」

「いやな。昔川神院で修行している時、アイツが何度か言っててな。『師匠の教えで私闘は禁止されている』って。だから私はアイツと戦えなかった」

「えっ……モモ先輩が言い付け守るとか珍しい」

「みぃやぁこぉ?」

 

 ファミリーに話したからなのか、いつもの清々しい表情に戻る百代。はじめて口を開いた京に襲いかかっているので機嫌も直ったのだろう。

 百代のことだからこれの名義にして、李に決闘を申し込むつもりなのかもしれない。…………ご愁傷様としか、大和には言えなかった。

 百代が悩む理由は判った。それなら次は、不安げな顔をしている一子だ。彼女は風間ファミリーの元気の源と言っても過言ではない。そんな彼女が落ち込んでいるとファミリー全体の空気が悪くなってしまう。普段は喧嘩腰のクリスでさえ、一子を心配するような目で見た。

 

「ワン子。何か不安なことでもあるのか?」

「ううん……その……対戦相手が李さんって聞いて……その、考えちゃいけないことを考えて」

「考えちゃいけないことォ? はっきりしねえなワン子。いつもみたいなスッキリさはどうした」

「そうだよ。僕らもワン子が元気じゃないと、なんだか調子出ないよ」

 

 大和に続いて岳人、卓也が続き一子を励ます。

 何を思って落ち込んでいるのかはしらないが、今自分たちに出来るのは一子を立ち上がらせることだけだ。下手な詮索は本人に不快な思いをさせるだけである。

 顔を伏せて表情を悟らせない一子だが、決心したのかようやく顔を上げて、普段通りとまではいかないがさっぱりとした表情で語った。

 

 

 

 

 

「私が考えてたのはね――――

 ――――クリじゃ李さんには勝てないってこと」




短くてすまない……すまない……。
来年も頑張ります! 感想をくれると助かります。




一発ネタ
 川神学園に通う北星朱鷺(きたぼしとき)は、ちょっと暗殺拳が使えるだけの普通の学生。いつもは親不幸通りに出没する不良共相手にナギッしたり░▒▓█▇▅▂∩(・ω・)∩▂▅▇█▓▒░ したりして放課後を過ごしていたが、赤髪の軍人と出会った時から彼の運命は動き出す……!
(続か)ないです。

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