一応注意しておくと、マルさんが別キャラに見えても仕方無い……かも。これも難産だった所為なんだ。俺は悪くねえ!
それとお気に入り登録者数1500突破ありがとうございます。
八極拳回の三話と戦闘回だった五話で急激に伸びましたね……やっぱりみんな八極拳好きじゃないか!
――――懐かしい夢を見ている。今からほど五年前の出来事だ。
その日は過ごしやすい秋日和だった。
夏が終わった御陰でそこまで暑くなく、冬の準備期間なのでそこまで寒くない。学校に行ってみれば皆服装はバラバラで、半袖もいれば長袖もいる。秋の衣替えが終わっても、夏の残り香が原因か半袖の人間も確かにいるようだ。つまりそれ程までに過ごしやすい日だった。
最も、川神院において服装は夏だろうと冬だろうと変わりない。一年中道着で過ごしていると季節感が狂いそうだが、流石にそこまで非人間的ではない。確かに踏み込み程度でコンクリートを破壊したり銃弾(エアガン)を視認出来るようになったが、それでも人間である。…………人間だよ?
ちゃんと食事は美味しく感じるし温度も感じる。百代さんが抱き合ってきたら緊張するし釈迦堂さんに殴られれば痛い。――――うん、まだまだ人間だった。
ドン、と轟音と同時――――勁を完全に拳に移動させ、目の前に向けて放つ。
基本にして絶対の一撃、
「――――――――ハッ!」
「精が出るのぅ」
「…………鉄心さん」
打ち込みの練習をしていたら、背後から声を掛けられた。厳格な態度を思わせるが、しかし同時に優しさも感じさせる声――川神鉄心さんが、そこに立っている。
鉄心さんの服装もいつもと変わりない。和服に袴、そして長い白髭。足袋で歩いていた所為か全く音がせず気配を悟れなかった…………いや。
顔を流れる汗を拭って振り向く。髭を弄りながら此方に近付いてくる鉄心さんは感心しているように見える。…………鉄心さん、表情が読み取りづらいからなあ。可愛い女の子に出会うと結構判りやすいんだけど、こうしている限り憶測でしか感情を判断出来ない。マスタークラスになるとこんな事も出来るのか。
「いや済まん済まん。本来なら声を掛けるべきでは無いのじゃが…………つい、な」
「いえ。此方も休憩を挟みたかったので」
「休憩の後も鍛錬は続けるのかの?」
「勿論。後三百回はする予定です」
「……………………はぁ。百代もお主程修行してくれれば良いのに…………」
「ご愁傷様です」
鉄心さんは鉄心さんで苦労しているらしかった。主に百代さんと釈迦堂さんで。
百代さんは鉄心さんの孫にして次期総代候補――――なのに己の実力に甘えて鍛錬をサボり気味。本来ならツケが回って自身の身に降りかかってくるものだが、天はそれを許さなかったらしい。彼女、川神百代は天賦の才に恵まれた。その武術の才能は凄まじく、それこそ年上の修行僧さん方を軽く捻れる実力を持っている。……正直言って羨ましかった。
釈迦堂さんは百代さんには劣るものの、それでも極上の才能を持った人だ。しかし彼はそれを完全に活かそうとはしなかった。根っからの戦闘狂である釈迦堂さんは川神流を極めるよりも、川神流でどう壊すかを考え出してしまったのだ。折角師範代まで登り詰めたと言うのに、今となっては『精神面に問題有り』とされ精神修行に出されている。…………こんなのが第二の師というのだから情けない話だ。
「休憩にするというのなら一つ、老人の話に付き合ってくれんかのう」
「別に良いですけど……長くなります、それ?」
「安心せい、五分程度の話じゃから」
ゆっくりとした話し方で、鉄心さんは話し始めた。
「ある所に一人の女の子が居た。それはそれは活発で、毎日外に出ては友達と遊ぶ普通の女の子じゃ」
「…………」
「女の子の家庭は決して貧しくはないが裕福でも無い、一般的な家庭だった。しかし少女はそれで良かった。愛情を向けてくれる家族がおったからのう」
「…………」
「しかし哀しみと別れは突然やって来る。女の子の家族がな、亡くなったのじゃ」
「…………成程」
「女の子は当然悲しんだ。なんせ残ったのは自分一人だけ。一晩中涙が溢れることもあったそうな」
「はあ」
「だが、そんな彼女に救いの手を差し伸べたのは彼女の友人たちだった。その中の一人――――川神百代とかいう小生意気でまともに鍛錬もしないような少女は、自身の偉大なるお爺様に相談を持ちかけた」
「ツッコミませんよ?」
「彼女が提案したのは一つ。女の子を養子にしないか、と。幸いにも女の子も百代を信用していたし、お爺様もその事には賛成じゃった。同じ家に住む者たちも歓迎しておったしのう」
「…………それで、どうなったんですか」
「まあ話は最後まで聞くものじゃ。それで女の子は川神と姓を変えることになったんじゃが、ここで問題が生じた」
「問題」
「川神の家は武術の家だったのだ。例え養子であろうと川神の子である以上、武術は習わねばならん。女の子も望んでおったしのう。そこで年代の近い子供を師匠として付かせる事にしたじゃが…………」
「その川神百代とかいう女の子がすれば良いんじゃないですか?」
「百代はそう思ったらしいんじゃが……彼女は簡単に言えば馬鹿じゃった。只でさえ中学生になり勉強が難しくなるというのに、妹弟子など付けたら更に阿呆になる。そう危惧したお爺様は百代を説き伏せ、もう一人の男の子へと相談を持ちかけようとしていた――――ここまでがお話じゃ。どれ、五分も経ってないじゃろう」
ごめんなさい鉄心さん。長すぎてまともに話を聞いていなかったです。まあ何となく概要は掴めている。
家族を失った少女を家に引き取るのは良いが、どうしても武術を習わなくてはならない。その上では師が必要になるのだが、大人が教えては警戒してしまう。そこで同世代の子供に教えさせるつもりだが、ある少女は馬鹿で阿呆だから師事できない。ならばもう一人居る男の子に白羽の矢が立った――――多少曲解があってもこれで良いと思う。
…………思わずため息を吐いていた。鉄心さんも回りくどいというか何と言うか、情に訴えかけてくるとは卑怯な事をしてくれる。普通に「一人門下生が増えるのじゃが、どれお主。面倒を見る気はないか?」と言ってくれれば良いものを。
今更知ったが、鉄心さん養子取ったのか。確かに最近稽古場に出る機会が減っているのは気付いていたが、養子に関する手続きを行っていたから出れなかったとは。
「判りました。自分がその子の面倒を見ます」
「――――ほう、察しておったか」
「そりゃあ勿論。ていうか、アレで察せなかったら可笑しいですって」
ほほほと笑う鉄心さん。間違いなく百代さんの意地悪というかずる賢い性格は親譲りだと確信した。まあ総代なんだからこれぐらいの老猾さが無いとやっていけないのかも知れないけどさ。
しかし鉄心さんも、よりにもよって自分に師事を任せるとは……。まともに川神流を修めてないけど大丈夫なのか? 師匠の計らいか鉄心さんの優しさか知らないが、自分は川神院にて唯一別の流派を使うことを許されている。川神流の稽古をする中、一人で震脚の練習をする姿はさぞ異質に見えたことだろう。
まあ最悪釈迦堂さんを呼び戻して教えてもらおう。あの人、容赦は無いが子供には優しいし。
「それで、自分が師事する女の子はどこに居るんですか」
「百代と一緒に帰って来る筈じゃから……もうそろそろじゃのう」
なんて話していると、道場の扉が開けられる音が聞こえてきた。
「ただいまー!! ジジイ帰ったぞー!」
「え、えと……その、ただいま!」
「噂をすれば、というヤツじゃな」
「そのようですね」
取り敢えず自己紹介を考えておくことにしよう。第一印象が大事だし、兄弟子としてきっちりとした姿を見せないとな――――
――――なんて考えていたら、妹弟子が同級生だと言う事に気がつき驚いたのは良い思い出である。
◇ ◇ ◇
ガキンと刃と刃がすれ違う音が響く。それは一度では終わらず、二度三度と校庭に響き渡った。
刃こそ潰されているが立派な武器として成立しているそれの音色は、自分にとって聞き慣れた音だった。ナイフとトンファーを重ねた時にあのような金属音はしたし、銃弾を弾いた時は更に軽い音で鳴った。――――いずれにしろ、この音は戦場で聞き慣れたモノだったのだ。
本来なら戦場で鳴る筈の音が、現在校庭で響いている。その異常性を咎めるような無粋な者はこの場に存在しない。校庭に集まった百人以上の生徒が、剣戟によって発せられる音楽に耳を傾けていた。それ程までに素晴らしい剣戟を見て――――自分はどう思ったのだろうか。
――――目の前で繰り広げられる剣戟に、心奪われる。
戦況は一方的と言って良い。片方の槍使いがリーチと心理的隙を突き圧倒し、片方のレイピア使いは槍を逸らすのが精一杯。刀身の細いレイピアは槍を受けた所為で欠け、玉のような汗はレイピア使いの苦悶を知らせていた。その苦悩すら許さないのが槍使いの猛襲だ。逸した筈の槍を振り回し、反動で動けないレイピア使いへと刺突を降り注ぐ。
この美しい剣戟は長く続かない。両者の実力に圧倒的に違いがある以上、どちらかが武器を弾かれその一撃を喰らう。今回は槍使いが強く、レイピア使いはその一撃を喰らうのは時間の問題だ。突きを受ける度に体力と神経を消耗していくのが見て取れた。槍使いの槍を十回ほど受けただけなのに、この展開だ。恐ろしく巧い手合いでしかこの状況は作れないだろう。
――――クリスお嬢様を応援している筈なのに、槍使いの一挙一動に見惚れる。
槍使いの連撃は止まる事を知らない。突き、払い、切り上げ、足払い――卓越した技術を持ってして、レイピア使いの体力を奪っていく。その姿は
これがいけないと言う事は理解している。自分が勝って欲しいと願っているのはレイピア使い、クリスティアーネ・フリードリヒの方だ。自身が彼女の姉貴文分であり監督役である以上、願うのはクリスの勝利のみの筈。それなのに…………自分は、槍使いが勝つ事に期待している節がある。
理由は判らない。勝って欲しいのに負ける事を願っている、負けて欲しいのに勝つ事を祈っている――その二律背反が自分を苦しめた。
きゅん、と身体が疼く。自分の理性が――クリスの姉貴分であるという自覚が溶けていく。残ったのは戦士としての本能のみ。この目の前の敵と戦いたい、戦って打ち勝ちたいという願望だけだった。
――――止めの一撃となる刺突を放つ姿に、恍惚の声を漏らす。
クリスがやられているのに、やられそうになっているのに。
自分の脳内を占めているのは彼と向かい合っている姿のみ。彼が槍を放ち、それを自分がトンファーで受け止めている光景が浮かんでいた。槍を受け止めたらトンファーで反撃し、それすらも彼はいなして――そこまで想像した所で、周囲から沸く歓声で現実に引き戻された。
校庭の中央――――そこには槍を振り回し肩に担ぐ彼の姿と、一撃を受けて吹き飛ばされているクリスの姿があった。
吹き飛ばされたクリスを見てようやく理性を取り戻す。自分の未熟さを感じた所為か、それとも彼との死闘を思った所為か――握った拳から血が溢れる。あまりに強く握り過ぎ、指が掌を傷付けてしまったらしい。
鉄心が声を張る。それは勝者を告げる大号令。勝ったのは槍使いで負けたのはレイピア使いのクリス。その事実に震えが止まらなかった。
妹分のクリスが負けたという事実による怒りからの震えか。
クリスに勝利した槍使いの実力を認めた歓喜からの震えか。
自分――マルギッテ・エーベルバッハにそれは判らない。判るのはクリスの仇を取らねばならないという事と、自分が彼と戦いたいと思っていることだけだ。
故に。自分はその願望を果たす為、彼に挑戦しなくてはならない……!
――――その前に。
気絶し意識を失っている
「――――――――よっしゃぁ!」
校庭の中央で吠える彼の元へ近付いく。片手を天高く上げ勝利を噛み締めていた。あれ程まで研ぎ澄まされた殺気を放っていたというのに、こうして喜ぶ姿は本来の学生のようで。そのギャップに思わず笑みを浮かべそうになってしまう。
三メートルまで近付くとようやく気付いたのか、視線を此方へ寄越す。一挙一動を逃すまいとしているその目に――下腹部がきゅんと唸った。
彼の目を見据え、マルギッテは正面から言い放った。
「李颯斗。貴方に決闘を申込みます」
「あ、自分私闘NGなので」
思い返してみると、自分の武道人生の中で勝ち星は意外と少ない。
そもそも実戦経験が総じて少ないと言うのもあるが、まとめてみると戦績があまり芳しくないことは一目瞭然だった。師匠相手では全敗、釈迦堂さんとは勝率三割、一子はそもそも勝負になっていないので除外。こうして見ると自分の成績はあまりよろしく無いのだ。……まあ、マスタークラス相手に三割勝てたら上等だと思うけど。
突き飛ばされたフリードリヒさんは強かった。一子と戦っていた時点でそれを理解していたつもりだったが、いざ刃を重ねてみると理解が浅かった事を思い知らされる。動作や始動は聴勁で完全に把握していたものの、彼女の本当の実力は把握できていなかったらしい。
最初の一撃で仕留めるつもりだったが――まさか三十二回も回避されるとは。
彼女の技術が素晴らしかった事もあるが、それでも三十二回も生存の可能性を与えては駄目だ。最低でも五回で決着を付けなければならない。マスタークラス相手に仕掛けるべきは早期決着。長期戦になっては気の総量や経験不足の自分が絶対に敗北する。それ故に短期決戦が望ましいが――――流石にフリードリヒさんにそこまでの技巧は無かった。
未熟も未熟、師匠が知れば破門☆と言われても可笑しくないレベルの成績だろう。師匠にお墨付きをもらって二年経つが、見込み違いだったと言わざるを得ない。一撃で仕留めなくては意味が無い。
震脚の踏み込みが甘かったのだろうか? しかし止めの一撃は気絶させるのに充分な威力を携えていた。つまり震脚に不備は無かった。それなら槍の突きの精度が悪かった? だが三十三回に及ぶ技の中で急所を外れたものは一度も無かった。
なら単純に――――李颯斗の槍の腕前が悪かったというだけの事。神槍にはまだ程遠い。
まあ小難しい事は兎に角――――自分は勝利した。その事実がとても嬉しくて、思わず雄叫びを上げていた。
「――――――――よっしゃぁ!」
右腕を高く上げ喉が潰れる程叫ぶ。なんせ半年、下手すれば一年振りの勝利だ。嬉しくない訳が無い。フリードリヒさんには大変悪いが、今回ばかりは勝鬨を上げさせてもらうとする。
ポツポツと歓声が上げる校庭の中央で絶叫する自分の姿は、さぞ滑稽に見えるかも知れない。それでもいい、今は掴み取った勝利に酔いしれるとしよう。
――――その時。自分の拳士として譲れない間合いに、二人の人間が入る。
一つは弱々しく波も穏やかで、予想するに気絶か何かで意識を刈り取られている状態にある。この場で意識の無い人間は恐らくたった一人、自分が突き飛ばしたフリードリヒさんだろう。完全に気絶させた筈なので誰かがおぶっている可能性が高い。
そしてもう一つは…………猛々しく気の波も荒れに荒れている。この闘気は正しく狩人と呼ぶべき鋭さ。こんな気を持ち尚且つフリードリヒさんを背負う可能性がある人間は只一人。
何故彼女が歩いてきているのか――――その疑問は考えるまでも無くすぐ判ることだった。彼女の本質は百代さんと変わらない、或いはそれ以上の戦闘狂いの獣だ。先の戦いの熱気に当てられてやって来たのだろうが、成程、これは戦場の牝犬と言われても仕方ない。滾る戦闘本能がまるで抑えられていない――いや、押さえ付ける気がそもそも無いのか。
「李颯斗」
自分の名前を呼ぶのはマルギッテ・エーベルバッハ。フリードリヒさんの面倒を良く見ている人であり特例で川神学園に入ったドイツ軍人。一部の人から猟犬と噂されていたが、この闘気と獰猛さは間違いなく「猟犬」だ。
彼女はフリードリヒさんを背負い、此方へと眼差しを向けてくる。その赤い瞳は紅蓮のようで――自分の事をまじまじと観察していた。あまり良い気分はしないものの、彼女ほどの美人に視姦されていると思うと……。やべえ、テンション上がってきた。
なら此方も、と言わんばかりに視姦する。
金にモノを言わせて着物を着ている不死川同様、マルギッテさんも大量に寄付金を入れる事で軍服の着用が許されている。その軍服が彼女の眼帯と雰囲気にマッチしていて、マルギッテさんイコール軍服という方程式が成り立っていると言っても過言では無い。そうなるとマルギッテさんが私服の時の格好が気になってしょうがない。普通に休日も軍服で過ごすのだろうか、或いはお洒落なワンピースでも着るのだろうか。それを考えれば考える程、マルギッテさんの軍服の魅力も跳ね上がるし私服の価値も高くなる。学校では凛々しいマルギッテさんが私服によって可愛いになる瞬間……良いと思います。
軍服と言うのは実用性に特化したスタイルが多く、マルギッテさんの物も例に漏れず機能美に溢れている。彼女の得物であるトンファーはズボンのホルスターに収まっており、あの分厚さから見ると防弾加工もされているものと予想できた。そしてなによりも注目すべきはフィットするデザイン故、嫌でも出てしまう胸の強調である。自分は胸でも尻でも腋でも股でも好きな女子ならなんでもバッチコイの男だが、マルギッテさんの胸には男性を惹きつける魔性の魅力がある。実際ヨンパチが死に物狂いで収めたマルギッテさんの軍服姿は魍魎の宴でも人気がある(この写真一つの為に一眼レフが犠牲になったとか何とか。南無三)。あの百代さんに引けを取らないサイズで尚且つ成熟した肉体。自分も
しかし自分が気に入っている部分は胸でも尻でもない。その瞳である。気高い誇りと自尊心が篭ったその目は磨き上げられた宝石以上の価値がある。…………どうも自分は気が強い女性が好きならしい。これも全部師匠の仕業なんだ、そうに違いねえ! 初恋の人の好きになった部分がその後の恋愛の決め手になるとは良く聞く話だが、自分もその通りらしい。
あの自信に満ちた瞳に、俺は尊敬と恋慕を覚えたのだ――――。
……………………って、そんな事はどうだっていいんだ。重要なのはマルギッテさんを視姦という名の観察する事である。
一瞬お互いの視線が合う。紅蓮の瞳には間抜け顔と形容されるような自分の顔が映し出されていた。対して自分の瞳にはマルギッテさんの顔が映っているのか。どんなに美麗な絵画でも画用紙が汚くては意味が無い。自分の所為でマルギッテさんの顔が汚く見えていなかったら良いのだけれど。
見つめ合う状態が続いた。しかしそれも長くは続かない。拮抗を破ったのは張本人であるマルギッテさんだった。ゆっくりと口を開いて――――正面から、その言葉を綴る。
「貴方に決闘を申込みます」
この言葉は聞き慣れていた。数年前まで一緒に修行していた
「あ、自分私闘NGなので」
瞬間、空気が凍る……………………って、えー。
マルギッテさんは無表情のまま固まっている。近くで話をこっそりと聞いていた鉄心先生が頭を抱えているのが目に浮かぶ。多分あの人の事だから「また面倒なことになるのぅ……」とでも嘆いているに違いない。いや本当、これから面倒くさいことになりますよコレ。
と言うか、マルギッテさん断られると思っていなかったのか。確かにマルギッテさん程の手合いとは一度で良いから仕合いしてみたいが、それも師匠との制約が無ければの話だ。今回はまあ、アレ、そうアレアレ、アレっつたらアレなんだよ、うん。
数十秒後、ようやく意識が戻ったのかマルギッテさんが慌ただしく詰め寄ってくる。息掛かっているんで止めて欲しい、いやもっと続けて欲しい。
「私闘が駄目とはどういう事ですか! そもそも貴方はお嬢様との決闘に臨んでいる。それは私闘ではないのですか!?」
「いやまあ、確かにそうなんですけど。それは小雪のお願いだったから受けたのであって」
「なら私が小雪に図ってもらえば良いのですね?」
「そういう訳じゃないんですけど」
襟元を掴み凄まじい剣幕で攻め立てるマルギッテさん。凄く顔が近いんですけど、周囲の殺気が…………。特にF組の連中がヤバい。あれは怨念だけで人を殺せるような顔をしている。最近魍魎の宴のメンバーにえらく恨まれている気がするのは決して気の所為では無いと思う。
結局、鉄心先生とルー先生が落ち着かせるまでずっとマルギッテさんに絡まれていた。連行されていくマルギッテさんの「李颯斗ォ…………覚悟しなさい!」という捨て台詞が印象的だった。出来れば二度と聞きたく無い。
何より驚いたのは、あの騒がしい中でまだ気絶していたフリードリヒさんだった。
あの人、肝座ってるなあ。
◇ ◇ ◇
フリードリヒさんとの決闘があった後だろうと基本的に放課後の鍛錬は行う。
決闘があった所為で鍛錬の時間は短くなってしまうが、それでも時間があるのなら身体を鍛えるべきだろう。それが例え一秒だろうと一分だろうと、だ。只でさえ師匠に及ばぬ未熟者なのだ、毎日鍛えなくては意味が無い。
槍を振り下ろすと空を斬る音が響く。槍の柄を最大限まで長く持ち、それを棍棒のように振り回した。棒なら単純な打撃にしかならないこれも、槍の穂先が付けば話は変わってくる。刀よりも長いリーチで相手を攻め立てる事が出来るのが槍の強みと言えるだろう。
何度か振るったら持ち直し、大地に向かって叩きつけた。土地は抉れ、大地は裂ける。轟音が河川敷に響き、叩き付けた槍を振り上げる。振り上げた槍を右手で持って――――真正面に向けて投げ付けた。
何故だか知らないが師匠が作った練習メニューには「槍を投げる」という攻撃が入っている。確かに槍の投擲も立派な攻撃方法だが…………それでも、自分の得物を投げるのは抵抗がある。
「オラァッッ!!」
イメージするのは赤い彗星。かの英雄が振るった赤い槍を放つ――――!
自分の槍は気を込めて放った所為か熱を帯び、摩擦を帯びて赤く燃え上がる。それはとてつもない速度で進んでいき、夕焼けに染まる空の彼方へ消えていった…………アレ?
「俺の槍が…………」
キラーン、と。
空の彼方へと消えている愛槍を見送って、なんだか淋しい気持ちになったので川辺に体育座りで座る。嗚呼、師匠が自分の為に特注で作ってくれた槍が…………割と高かったらしいし。
――――はあ。鍛錬するやる気が無くなってしまった。槍術ではなく拳法を大人しくすることにしよう。槍は気が失せたが拳はまだやる気がある。この無念を晴らす為に拳を……って、ん?
――――槍が飛んでいった方向から、寸分違わず同じ槍が戻ってくる。
咄嗟に立ち、飛んできた槍に備える。数秒もしない内に槍は自分目掛けて迫ってきた。赤い軌跡を描きながら返って来るそれを片手で受け止めた。
「なんじゃこら」
まさか自分の槍にこんな機能(?)があるとは…………。流石は師匠お手製の槍だぜ! まさにゲイボルクじゃないか。まああの人なら付けそうな機能ではある。本当に愉快な人だ。
「それじゃま、鍛錬続けますか」
奇妙な槍も気になるが鍛錬は欠かせない。日の入りまで残り十分程度。それまでに朱槍を振るとしよう。
最後の鍛錬は気にしないで。アレはネタだから。
時系列にすると、
クリスと李の決闘(マルさん興奮)
↓
李、止めの一撃を放とうとする(マルさん発情)
↓
決着、そしてルーが確認
↓
鉄心が判定し、李の勝利(この時点でマルさんは歩き出しており、クリス回収)
↓
主人公絶叫、そして告白(意味深)
こんな感じです。括弧の中は気にしないでねっ!
それとR-15タグを付けるかも…………下腹部がきゅん、とか青少年に見せられないからね。
後すっげー今更なんですけど、今まで感想を頂いた方のほとんどがログインしている人だと気付いた。
…………ログインしてない方も感想くれていいのよ?