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――――落ちこぼれ
彼はそう告げる。
『救う』ということは『力』が必要だ。
――――落ちこぼれ
彼はそう言った。
なぜなら――――
――――彼は『救う』ことが出来なかったから
弐録目『落ちこぼれ』
これは昔の話。
彼――――ナオヤがまだ100の時。
100と言っても、この時代では若い分類だ。
その時に彼は、天照大神から『竜堂』という『名』を与えられる。
彼は舞い上がった。
それも当然だ。
『名』をもらえたということは、神に自分の力を認めてもらえたということになるからだ。
彼は神に尋ねた。
『竜堂』とは、どんな『名』か?
神は言った。
『竜堂』とは、『救う』こと。
この瞬間、彼は舞い上がっていた気持ちが一気に冷めていく。
彼は尋ねた。
『救う』と言っても、もう綿月がいる
神は答えた。
『守る』と『救う』は同じ意味ではない
彼は思った。
確かにこの二つの言葉の意味は違う
しかし、元をたどれば結局やることは同じでは無いのか――――と。
神は、その疑問を読み取ったかのように応えた。
その『救う』という言葉の意味をもっと深く考えなさい
そうすれば自ずと答えが見えてくる――――と。
そうして彼は、天照大神から『竜堂』という名をもらった。
時は流れ――――50年
50年も経てば、彼も『名』をもらった興奮は冷め、普通に暮らしていた。
そしてある日、事件が起こった。
それは彼にとって、一生のトラウマになるものだった。
その日、彼はいつも通り山の中で修行をしていた。
あたりが暗くなった時、彼はいつも通り修行を終え、自宅に帰る。
そして自宅についた時、彼はふと思った。
静かすぎる
そう、静かすぎるのだ。
自分の家がじゃない。
周りが、街自体が、不気味なほどに静かすぎるのだ。
彼は嫌な汗を拭いつつ、気のせいだと言い、玄関を開ける。
玄関を開けた瞬間、彼を襲ったのは『臭い』だ。
今まで嗅いだことのない、胃袋の中身をぶちまけそうなほどの『臭い』。
彼は急いで、リビングに走った。
嫌な予感がしたからである。
――――その予感は、外れることなかった。
家族が殺されていた。
父親が、母親が、殺されていた。
彼は絶望した。
なぜ…なぜ、こんなことを?
俺の家族が何をした?
誰が、誰が…こんなことを?
なぜ?
なぜ?なぜ?
繰り返し、繰り返し、彼は心の中で問う。
そして彼は――――絶望した。
自分自信に。
俺は…俺は『名』を…『竜堂』という『名』を与えられたのに、一体何をしていたんだ?
誰も救えなかった…
誰も…
畜生…
畜生、畜生…
「ちくしょぉおおおぁああああ!!」
彼は心底、自分自身に絶望した。
そのあと犯人は捕まった。
犯人の動機は、「ただ殺したかった」というもの。
彼はそれを聞いて、激怒した。
そんな理由で、俺の家族は殺されたのか?
そんな理由で、街にいる人を殺したのか?
そんな理由で、未来がある人を殺したのか?
自分自信にも、怒りがこみ上げる。
そして自分自信に、失望した。
結局俺は『名』だけで、何も出来なかった
少しでも空気を感じ取れれば、こんなことにはならかった
俺自信が招いた事件だ
俺が悪い
俺が…
彼は、天照大神に会い『名』を返上しよとした。
しかし、天照はこれを拒否。
これを糧として、次に励みなさい
その言葉に彼は、激怒した。
ふざけるな!
これを糧にしろだと!?
怒り口調で彼は天照にまくし立てる。
いくら神でもその言葉だけは許せなかった。
しかし天照は聞く耳持たず、彼を地上に返した。
彼は全部に絶望した。
そして彼は自分自身をこう呼んだ。
――――『落ちこぼれ』と
―――――――――――――――――――
時は変わって、現在。
突然だが今彼―――竜堂ナオヤは困っている。
「う~い、わたしゅにょしゃけがにょめにゃいってきゃ~?」
それはこの酔っぱらい女―――八意永琳の絡みである。
「おい、永琳。いい加減、ウザったいんだが?」
「きょんにゃびじんににゃんてきょといゆのよ?」
もはや何を話してるのか分からない
完全にできあがっていた。
だんだんうっとおしくなってきたため、彼はヨミを呼んだ。
「おーい、ヨミ。お前の妹がうっとうしいから、早く引き取ってくれ」
「はいはい…」
そうやって言って、ヨミは永琳のもとに行く。
「ほら、永琳。もう寝ようか?」
「にゃによぉ~。ヨミまでじゃにゃしゅりゅにょ~?」
「呂律もろくに回ってないじゃないか。ほら、もう寝よ?」
うるしゃ、うるしゃい――などと言いながら彼女は彼に引きずられて退出する。
「はぁ・・・やっと静かに飲める」
そういい手元に置いてある酒瓶に手を伸ばす。
(俺はあの日からはたして強くなったのだろうか?)
それは自分に毎回問う、言葉。
―――――――――――――――――――
あの日―――家族を殺された時次の日、彼は修行を行っていた。
修行―――それは己を強くすると同時に、己の限界を知ることができる。
だが彼が行う修行は過酷―――いや、もはや修行と言えるものなかどうかすらも危うい。
彼の修行―――それは、自分自身に刃を向けること。
別の言葉で言い表すなら、自傷行為。
自分で傷を付け、武器を振るい、痛みに耐え続ける。
そんな修行。
戦いとは『痛み』。
戦えば必ず何かしらの傷―――痛みを背負う。
戦えば味方、敵は必ず死ぬ。
戦いに情けは不要。
敵を殲滅し、そのためには仲間の死も尊い犠牲だ。
一度、その修業を永琳に見られてしまったことがある。
その時、彼女はこう言った。
―あなたの修行は修行じゃない。それは心、体を共にすり減らす『自殺行為』よ―
自殺行為?
上等だ。
敵を殺すのに、余計な情け《痛み》は不要だ。
そのような痛みは余計だ。
俺には不必要だ。
俺はただ自分のために動く。
民のことなぞ知ったことか。
そう言った瞬間―――永琳は彼を殴っていた。
そして彼女は泣きながらこう言った。
―それじゃあアナタは、ただの機械じゃない!!―
機械?
それならそれで構わん。
第一、俺の修行を貴様にとやかく言う必要性も無い。
邪魔をするな。
―いいえ、あのような修行、もう二度とさせないわ・・・。そうよ、私がアナタをカンリすればいい・・・。―
その瞬間、彼は痛みとはまた違う『感情』というものが湧いた。
それは『恐怖』。
今まで痛みだけを見てきた彼は、感情というものを感じてこなかった。
だが今の永琳を見て、彼には恐怖しか感じなかった。
お前は――誰だ?
―私?おかしなことを聞くのね。私は永琳、『八意』永琳よ―
彼女の目には光がない。
知らない。お前みたいな八意は知らない。
―いいえ、よぉーく知っているはずよ。私は『八意』永琳。アナタに知恵を授けるもの・・・―
彼女の目が底のない沼に見える。
彼女が近づいてくる。
やめろ・・・、こっちに来るな。
―何を怯える?私がアナタに正しいシュギョウの知恵を授けようとするのに・・・―
歩みを止めない。
来るな・・・、こっちに来るなぁあ!!
―フフッ、鬼ごっこかしら?いいわよ、童心にもどって遊んであげましょう―
彼は逃げる。
彼女は追う。
逃げる。
追う。
逃げる。
追う。
逃げ
追う。
逃
追う。
に―――
―捕まえたぁ―
捕まった。
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(昔の『あれ』は怖かったな)
昔の自分の行いを省み、あれ――鬼ごっこを思い出す。
(しかし・・・アイツのあの『目』はいったい何だったんだろうか)
考えを耽らせていると―――
「何を難しい顔をしておる?」
―――何者かに声をかけられる。
「・・・綿月様か」
「その様付け、やめろと何回言わせるんだ?」
彼の目の前には、現当主『綿月玄王』がいた。