原稿が消えた瞬間の悲しさは物凄いですね……
では第十夜お楽しみ下さいませ。
二月十四日からしばらくの間は店に来る客が口を揃えて言うことはバレンタインの話である。誰からどれくらい貰ったとか誰が誰にあげたとかという酒の肴になるような話ではある。聞いていたものの中で気になったのは大してない。ウチに来る客自体あまりそんなイベント事に絡みたがらない奴が多い。ただ、チョコは貰っていたりする。それにこめられた意味に気付かないのもウチの常連の特徴の一つだろう。
さてと、今日は誰が来るだろうか…
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「泊、いつもの。」
「だから、スキマで直接入るなよ。突然顔だけ出てきて驚かない訳ないだろ……」
「なら、どうやって入れって言うのよ。真面目にドアを開けろとでも言うの?」
「その通りだよ。」
いつものように暖簾を掛け、中に入って新聞を読んでいると紫が来た。珍しいのはこの時間に来ることである。いつも来るときには俺が暖簾を掛けている時に店内にいるのが普通だ。そうではない時、そんな時は大体誰かを連れてくる事が多い。紫の分の酒を用意しつつ、もう一つグラスを出しておく。まぁ来なかったら自分で使うことになるだけだろうしな。
紫のグラスを置き、肴を作るために厨房にもどるとドアを開く音がした。恐らくだがこあや咲夜で無いことはこれで分かった。さて、誰だろうか……
「いらっしゃい……、珍しいな。」
「何?私が来るのがそんなに珍しいの?」
「そりゃそうだろ。いつもウチには来ないじゃねぇか」
「そうね〜いつも誰かが連れて来ないとこないものね。」
「しかも連れて来た奴の奢りだしな……」
うるさいわよ、と呆れつつ紫の隣に座ったのは紅白の脇があいた巫女服を着こなす少女。彼女の名前は博麗霊夢、言わずと知れた博麗神社の巫女である。博麗の巫女は代々妖怪退治を生業としていて人里の信仰はあるはずなのだがあまり賽銭が入らないと嘆いている。その原因は神社が人里からあまりにも遠いからだろう。ルールも人里の外では意味をなさなくなる。普段から参拝するには危険が伴い過ぎるのだ。だから、火急の用がある時以外は神社に赴く事もない。しかも博麗の巫女が動く前に、人里の守護者が解決する事も多い。それでも最近は異変を解決したりした事で少ないながらも参拝客がいるようだ。
「何にする?」
「そうね…………紫と同じのお願い。」
「はいよ。」
「あら、たまには珍しいの飲んだら?ここなら色々あるわよ」
「お前のせいでストックの半分以上が無いんだよ。今はそこまで珍しい酒がないんだ。」
「紫、また何かしてたって聞いたけど人に迷惑はかけるもんじゃないわよ。」
「人?ここにはあなたぐらいしか人はいないんじゃない。」
「何言ってるの?マスターも人じゃない。」
「あ〜今はそうだな。紫の言ってることが正しいかも知れない。」
「……まぁいいわ。今日は紫の奢りだし」
「やっぱりかよ」
やはり当たっていたようだ。紫が開店一番から来ない時点で何かおかしいと思っていたが今日は霊夢を飲みに誘ったんだろう。紫よりも後に飲み出した霊夢の方が早くグラスを空にした。幻想郷の住民は大体酒に強い。ほんの一部さえ外して考えると霊夢はトップクラスに強いのだろう。様々な意味で最強である。まぁ、それでも一部に挙げられる奴らから見れば少し飲める程度の奴なんだろう。願わくばそんな奴らの飲み会をこの店ではして欲しくないものだ。
「そういえばマスター、紫は何したの?この店のストックを半分も減らすなんて萃香でも出来ないと思うんだけど。」
「紫が急に言い出してバレンタインパーティしたんだ。その時にめちゃくちゃに飲んだってだけだよ。」
「あら、少し違うんじゃないかしら。あの時はあなたが全員酔い潰すって言ってあんな事になったんでしょ?」
「それはそうだけど、その原因作ったのは紫だろうが。」
「何それ、マスターの恥ずかしい話でも紫がしたの?」
「そんな所ね。霊夢聞きたいの?」
「酒の席にはそんな話の一つもあってもいいんじゃないの?大体いつも宴会でも誰かのそういった話をするじゃない。」
「俺はあんまり宴会に出ないからそっちは知らんが店でも大体そんな話はするが……この前の話は無しだ。」
「あれ?恥ずかしいの?泊ぃ〜こあちゃんにした事でも思い出した??」
紫に言われ数日前の事を思い出す。頭にあの光景が思い浮かぶと、一瞬で顔が熱くなるのが分かる。それを見て霊夢はおおよそ分かって呆れ顔というか、紫におもちゃにされている俺に哀れみの目線を向けている。紫は扇で口を隠しつつも面白くて仕方が無いようだ。その証拠に左手で持っているグラスが面白いほど揺れている。いや、今この場では一番面白いのは恐らく俺だろう。誰がどう見たってそうだ。
しばらくの間、俺は顔の赤みが引くまで顔をうずくめていた。それを見て紫が笑っていたのは言うまでもない。
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「バレンタインなんて嫌いだ……」
「そんな事言わないの、次の十四日はあなたも返してあげないとねぇ。」
「嫌いにした原因は紫でしょうが、少しは慰めてあげなさいよ」
ようやく赤みが引いた顔をあげ、紫を見ておく。紫はまだまだ笑いが止まらないようだ。霊夢はそれを横目にゆっくりと一人酒である。一番楽しんでるのは霊夢かも知れない。
紫が手に持つ扇を見ると前に使っていたものとは違い新しくなっていた。少し時期が早いような気もするが黒地に大輪の花火が咲いている。なかなかに綺麗なデザインをしている。俺も人里で見繕って見ようか……
「マスター、紫の扇どう思う?私は少し季節はずれだと思うんだけど。」
「いいんじゃないか?季節はずれは季節はずれだが、あれだけ綺麗なものはいつ持っていても違和感を与えないからな。俺は好きだぞ。」
「そういうものなの?」
「俺はそう思うぞ。だけど人から貰ったものだから持っておきたいってだけかもな………ってそう思うのは俺だけかも知れん。」
「え、あれ、マスターが紫にあげたんじゃないの?」
「俺じゃねえよ。誰に貰ったんだ?紫」
「藍とか幽々子とかから。前の扇が壊れた時に前から用意してたみたいにくれたのよ。」
そう語る紫は心底嬉しそうである。酒も入っているから感情が出やすくなっているのだろう。この様子を見ていると、藍達の計画は成功したようだ。藍が自分を避けている訳では無いと分かった事と合わさってより嬉しいのかもしれない。
「浮かれてるな……、霊夢どう思う?」
「浮かれてるって言うより惚気てるって言うのかもね。まぁいいんじゃない?楽しそうだし。」
「あら、私を見て言うのはいいけど自分達はどうなのよ。泊なんかもういい歳なんだし。」
「俺より霊夢だろ、俺はあんまり昔から好かれないからな。」
「ねぇ紫、あんたの話疑って悪かったわ。」
「いいのよ、分かってくれたのなら。」
「おい、しれっとバカにしてるだろお前ら」
二人は笑うばかりである。俺は昔から人から好かれる事がない。自分の自己分析は出来ているとは思うんだが他から見れば違うようだ。
「先の事なんて分かんねぇよ。明日、いやほんの少し先さえ分かんないんだしな。」
「それもそうね…レミリアじゃあるまいし」
「まぁ泊にとっての春が来るのはいつになるのかしらね。その時は私を呼びなさいよ。何でも相談に乗るわ。」
「霊夢、この酔っぱらいをどうにかしてくれ……」
「無理ね、諦めたら?あ、後おかわりちょうだいね。」
三人で笑いつつ、夜が過ぎていく。俺は春を見つけるよりもこんな日常が過ごせればいいんだ。この横に居てくれる人なんていないだろうしな……。
飲んで、食べて、笑って、
「和んで」行ってくれればいい
呑み屋「和み」今日も明日も営業中……
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追記
この後結局紫がハイペースに飲んで潰れてしまい、俺が送っていくことになった。霊夢は酔ってはいるものの、確かな足取りで帰っていた。
紫の家の近くに着くと藍が迎えに来てくれていた。そのまま引き継ぐ時に扇の話をを聞いてみると無事バレること無く渡す事が出来たらしい。扇は幽々子が選んだそうだ。季節はずれだとは考えたが一番綺麗な物を選んだ結果これにしたそうだ。渡した時には子供みたいに喜んでいたらしい。俺も誰かからこんなプレゼントを貰いたいものである。
いかがでしたか?
定期的に更新していきたいです……
本当に原稿が消えた瞬間((ry
では次回お会いできると幸いです