第十六夜お楽しみくださいませ
欠伸を一つ、
らしくもないと思いつつも止まらないもので堪える事ができない。とりあえず、の準備はできた。あとは始まるまで少し休もう。
「少し寝るの?」
「なんだ、いたのか。てっきりまだ休んでると思った。」
「そこまで老いてないわ。それよりも休むんでしょ?」
「あ、そうだった。悪い、一時間前には起こしてくれ。それまで起こさないでくれよ。」
「さっさと寝なさいよ。あとはしといてあげるわ。」
「賢者様がしてくれるなら心配無いな」
「言ってなさいよ、まったく」
店の奥にある部屋に入り、そのまま畳に倒れこむ。眠い。布団か何かかける余裕もない。とりあえず、休むとしよう。
さて、今日は上手くいくだろうか……
*-*side in *-*
奥の部屋の襖を閉めた私はある名前を呼んだ。
「藍」
数秒経って、目の前に現れたのは狐の尻尾。相変わらず、毛並みが良さそうだ。
どこからといえば、この店内からでしょう。手に箒も持っている。
「どうされました?紫様」
「進捗は?」
「殆どの手筈は整っています。後はあの鳥が帰って来るのを待つのと、泊の最後の支度ぐらいかと」
「そう。あぁ、藍。勿論、邪魔が入らないようにしてるんでしょうね」
「ご安心を、抜かりはありません。が、」
「が、何なの?」
「一部の者には声が掛かっていません。それは何か意図があっての事なのですか?乗り込んで来る可能性は拭えません」
「……まぁいいんじゃないの?折角の宴会なんだから飛び入り参加は大歓迎、弾幕で華でも添えてくれるなら更に良し。ってね」
「それは泊の台詞では?」
「使っちゃいけないなんて聞いてないでしょ?無茶振りに答えてあげたんだからこれくらいはね」
それもそうですね、
といいながらもとりあえず残っている支度を考える。後残っているといえばそれこそ泊の仕事とあのブン屋の帰りを待つぐらい。
私はいつものカウンターの席に座ってこの宴会の段取りを組むことにした。恐らく、泊の奴はみんなを和ませる為に料理と酒を振舞うことしか考えてないだろうから。宴会に添える華くらい私が用意してあげるとしよう。
*-*side in *-*
昼下がりの幻想郷にも関わらず、今日は鋭い風音が響いている。
最近は大したネタがなく、号外を刷る事も無かったのでこれだけあちらこちらに行ったのは少し久しぶりだ。
予定より早く仕事を終えるほど報酬は増える。そういう約束を取り付けてある。今回の報酬を思い浮かべて思わず顔が緩んでしまう。使えるケースや場所は限られるしこのカードを使える人も少ない。が十二分に、いやもっと価値はある。それに何より
「あの甘味を独り占めできるんですよねぇ……あややや、本当、いい仕事です」
時間はまだまだ充分ある。でも、それを言えば更なる量を引き出せるかも知れない。
体に力を入れ、空を翔ける、その私の後ろには雲が筋を書いていた。
最後の目的地は湖のほとりにある紅い館。急いで向かうとしよう。
*-*side out *-*
ペチペチと音がする。なんだか頬に感触がある。痛くはないし、優しい手付きだ。だが人が心地よく寝てるのに誰だ。安眠の邪魔をするのはロクな奴がいないはずだ。
「うー寝かせろ……」
微睡みから冴えない頭で一応抵抗する。だめだ。眠たい。体が起きようとしてくれない。
「泊さん?起きないといけないんじゃないですか?」
「やだ、」
「起きてますよね。あのー紫さん、この人どうすれば、というかこんなに起きないなんていつもと違って面白いですね。泊さん」
「まぁ、いつも起きないし…とりあえずほっぺたでも叩いておけば起きるわ。多分」
「紫さん、どこに行かれるんですか?」
「藍にお茶淹れてもらおうと思って、貴女もどう?確か、紅茶よね?」
「もしよろしければお願いします」
「いいのよ、どうせ泊の秘蔵品使うから。じゃ、泊よろしくねー」
襖が開いた後、またペチペチと頬を叩かれる感じがする。今度はさっきよりも強い。思わず体を振って寝返りをうってしまう。誰かに当たったか?鈍い音がした。それに遅れて頭に走る痛み、意外と痛い。その衝撃でやっと頭が動きはじめた。
「こあちゃーん、お紅茶がはいりましたよー…ってあら、お邪魔だったかしら?」
「何言ってんだ?もう酔ってるのか」
「あ、あのー…泊さん、」
「こあ?どこに居るんだ?」
「貴方の下よ」
「へ?」
そう言われて、顔を下に向ける。そこには、顔を横に向けているこあの姿があった。いや待て、何があったんだ。
「藍、カメラ無かったかしら?それかあの鴉でもいいわ。」
「私を呼びましたか?」
「なんだいたの、てっきりあの子送って来て帰ったのかと思ったわ。」
「流石に帰りませんよ。それよりも、これ写真撮っていいんですよね、」
「言いながら撮っている時点でどうかと思うけど、いいわよ。大々的に広めなさい。」
紫がそう言う前から続いているシャッターの音が更に増える。しかし何を撮って……
「泊さんそろそろ気付いて下さい……紫さぁん……この人こんななんですか?」
「諦めなさい。三日も徹夜で仕込みしてたのよ。まともな思考力が残ってるとでも思う?」
「うぅ…そろそろどいて下さい!泊さん!」
こあの声と共に俺の腹部に鋭い痛みが走る。
「ぐっ…なかなかいい拳じゃないか、」
「いいからぁ!のいてくださいぃ!」
「鴉天狗のブン屋さん、写真は撮れたかしら?」
「バッチリですよ、明日の全面この記事で行きましょう!」
「その前に、その写真は渡してもらうわ。これさえあれば暫くいじりがいがありそうだもの」
「どうぞどうぞ、いくらでも回させてもらいます!なんなら、この前ぐでんぐでんに酔って絡んできた時の写真もありますよ!」
「やめろぉ!というかお前なんでそんな写真撮ってんだ!」
一つが火種になりどんどん話が酷くなっていく。もしもだが、ここで話された内容が他に出回れば確実に死ねる。恥ずか死ぬ。もうなぜか俺への愚痴になっているし、どうにもならない。これはしばらく時間が経つのを待つしかないだろう。
**********
「さて……みんな落ち着いたか?」
「何がなの?手伝いに来てみればこあちゃんの上にいるあなたを撮った写真を持つ変な烏天狗と同じ写真を持ってあなたを扇でつついている賢者みたいなのがいるというか状況で誰が落ち着けるのかしら?」
「そうですよ、泊さん。どんな人が来たってあの状況を見れば誰だって混乱しますよ」
「こあちゃんは混乱してた当人じゃない。ま、あんなことになって焦らない子はいないのが当然ね」
「咲夜さんこそ来て目真ん丸になってたじゃないですか、あんな咲夜さん久しぶりに見ましたよ」
「あーっと、いいか?そろそろ」
二人が頷くのを確認してから話を始める。ここまで話が大きくなった以上頼まざるを得なかったのだ。会費代わりに紅魔館から二人を借りる。我ながらいい考えだったんじゃないだろうか、
「とりあえず、概要は前に話した通りだ。始まってからのオーダーを捌いたりしてくれ。いつもの宴会とは違って裏方だから、面白味が少ないが十分に報酬は用意させてもらう」
「つまり、普段泊さんと藍さんがしている事を手伝うんですね」
「そういう事だ、藍にも手伝ってもらうようにしている。今日は恐らくだが普段の数倍オーダーが多いはずだ。気合い入れといてくれ」
「まぁ、お嬢様の無茶振りよりはマシでしょう。」
「とか言いつついっつも咲夜さん無茶に答えるの楽しいそうじゃないですか」
「今そんな事言わなくていいんじゃないの?こあちゃん」
「まぁ、頑張ってくれ。なにか分からない事があったら聞いてくれ。じゃあ今日は頼むぞ」
二人共返事をして店の中の配置を見てまわっている。これは前に藍もやっていた。曰く、慣れた光景だからこそ良く見る必要があるらしい。
二人を気にしつつ、最後の仕込みを終わらせる。恐らく今日は目が回る程忙しくなるだろう。時間はそんなに長くはないがその間に休みをはさむ事は難しいだろうし、なによりそんな予定は組めてない。大きな宴会はこのところ久しく開いていなかった。腕がなる、なんて言えないが精一杯頑張るとしよう。