呑み屋『和み』   作:朝日月

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遅くなってしまいましたが、明けましておめでとうございます。これからもよろしくおねがいします。
では第三夜お楽しみください。


第三夜〜新年は風祝と神と来る〜

午前11時半

あの二人を送り届けて店に戻ると時計はこの時間を差していた。去年最後の仕事としては少し延長が過ぎるものだ。……本当に止めて欲しい。まぁ、常連の面倒を見るのも店を続けて行く為の秘訣だったりする。こういった地道な努力を積み重ねないと新規のお客さんも来ない。ゆっくり宣伝活動して行くべきだろうか……今度マスコミ烏天狗に広告掲載費を聞いておこう。

時刻はもう元旦を終えようとしているがウチの営業は相変わらず夕方から。それまで磨り減ってしまった精神力を回復させよう。本当に..何で送って行ったのにお説教喰らうんだろう……。

さて……元日の今日、誰か来るだろうか?

 

**********

 

荒れに荒れた店内を片付けて今日の仕込みを終えると、時計は5時14分を差していた。これは拙い。急いでカウンターに置いている暖簾を掴み取り表に出る。俺としたことが少し疲れているのかも知れない。まだ精神力が戻っていないみたいだ。表に駆け出して暖簾を掛け終えて後ろを向くとそこには笑顔で微笑む少女達がいた。

 

「マスター、遅いんじゃないのかい?新年で飲まされ過ぎたか?」

「珍しい事もあるんですね。諏訪子様。何かあったんですか?マスターさん。」

「あらら、拙い所を見られたな。そういえば神奈子は?」

「まぁまぁ立ち話もなんだから上げてくれないか?寒くて仕方ないよ。」

「おっと、それは失礼。二人共ゆっくりしていってくれ。」

 

**********

 

守矢神社--元は幻想郷の外にあった神社で、信仰が得られなくなった為に妖怪の山に引っ越して来た神社である。まぁこんぐらいのことは今や幻想郷では周知の事実であり、今では信行も外にいた頃よりも多く得ているそうだ。

 

「マスター、取り敢えず聞いとくけどボトル残ってる?」

「おいおい、遂にボケが来たのか諏訪子?一週間前に来て「年納めだー」って飲み潰して帰っていったろうに。」

「そうだった?まぁ新しいの頼むよ。」

「あいよ、早苗はどうする?」

「私は……お猪口貰えますか?今日は飲んでみます。」

「いい事だねぇ……、諏訪子ほんとに大事にしろよ。」

「アンタに言われなくても分かってるよ。」

 

洩矢諏訪子-土着神の頂点に立つ祟り神で、守矢神社の本当の祭神である。「本当の」という意味は誰もが分かると思うので詳しくは語らないが、まぁ早い話が幼女の格好した神様である。諏訪子と共に店に来ているのは東風谷早苗。本当に何で一緒について来てしまったんだろうか?こんなにいい子を誑かすとは本当に許すわけにはー

 

「ていっ」

「いた!なにすんだ、諏訪子!」

「アンタまた失礼な事考えてたろう?違うかい?」

「そ〜だよ悪いか!」

「本当に1回その性根叩き直してやろうかダメ半鬼!」

「上等じゃねえかロリ神がァ!」

「え?というか半鬼って誰ですか諏訪子様?」

「「…………」」

「早苗。飲もうか、今日は俺も付き合うよ。いいだろ?」

「そうだね、新年だし、パァーっとやろうか!さぁ早苗!」

「え?あ、ハイ!頂きます!」

「それじゃあ……早苗頼むよ、」

 

全員の猪口に酒を注ぎ終えたら諏訪子からそんな号令が入った。少し強引だが仕方が無い。今度早苗にはサービスしよう。

 

「それでは……乾杯!」

「「乾杯!」」

 

早苗と諏訪子の猪口に当て、勢いを付けそのまま一息に飲み干す。喉が焼けるような心地の良い感覚がする。酒ってのはこうじゃないといけないと思うのは実は俺だけでは無い。目の前の諏訪子も同じような事を良く言っている。ただ……

 

「諏訪子、これで良かったのか?」

「どうしたの?あってるよこの酒で」

「いや早苗が、」

「あ」

 

二人で顔を合わせてこの酒の事を思い出す。

酒の名前は「守矢の風」

名前の通り守矢神社の二神が好む味が出る様に人里の杜氏達が試行錯誤の末造り出した名酒である。味は文句無しの満点だが、困った事にこの酒はとんでもなく強いのである。それこそ酒にあまり耐性が無い人が飲んでしまうと倒れてしまう程に。

 

「う〜〜ん…………すわこさぁまぁ……」

「やっちまったな。これは」

「アンタのせいだよ。ほんとに……」

「まぁ、奥座敷で寝かしとこうか?まだ飲むんだろ?」

「うん。頼むよ、その後でなんか美味しいの頼むよ、お詫び代わりにね。ウチの巫女潰してくれたんだからね。」

「はいはい、大人しく飲んでろ。」

 

新年早々三人目になる早苗を介抱しながら、諏訪子の好きな物があったかどうか考えている俺であった。

 

**********

 

「はい、お待ちどうさん。」

「お、鰤かい?アンタは毎年それじゃないかい?たまには鯛にしないのかい?」

「どの口が言ってんだよ。毎年これがないと始まらないって言ってんのはお前だろ?」

「そこを突かれると何とも言えないね。」

 

新年は俺はめで鯛よりも出世魚の鰤を選ぶようにしている。俺の考えだがめで鯛だと、それだけで終わってしまうような物悲しさがある。そういった理由で俺は新年は鰤を使った料理を松の内の間は出している。それを家族三人で食べに来る所が守矢一家である。まぁ、もう一家族来る所があるんだか、そちらの方はご想像にお任せするとしよう。

 

「そういや諏訪子、神奈子は?」

「神奈子なら、今頃寝てるんじゃないの?」

「まぁ、面倒だからあんまり聞かないでおくか。」

 

本当にいつも仲が良い。羨ましいな。万年独り身の俺には遠い遠い夢だろう。まぁ、嫁さんが欲しいと思った事はあまり無いのが救いだろう。そんな事を思いながら猪口に入った酒をあおる。いい酒を飲むと心が落ち着くな。まぁ今は仕事中だ。しっかりしよう。

 

「ねえ、アンタはさ、いつになったら皆に名前を明かすんだい?」

「…………いいじゃねえか、俺の名前なんてさ。新年からどうした?」

「初夢さ…早苗の結納の日だったんだよ。」

「いい夢じゃねぇか。あの子は幸せになる……いや、ならないといけないと思うんだがな。それとなんか関係あんのか?」

「その婿がさ、見間違いかも知れないけどね……」

「俺?」

「見間違いだったら良かったのにほんと。」

「だな、俺みたいな奴と、あの子じゃ釣り合わない。」

「そうかい?私はいいんだけどね。アンタでも」

「何?酔ったのか?だらしがねぇな。」

「本気だよ。〝泊〟」

「フン……言ってろよ。」

 

**********

 

その後も、諏訪子と俺はゆっくり新年を祝いつつ飲んでいた。早苗の意識を刈り取った「守矢の風」が空いた頃、奥座敷の障子が開く音がした。恐らく、早苗が起きたんだろう。水出しておいてやろう。

 

「あ、早苗大丈夫?」

「う〜ん……まだ少しふわふわしてますけど大丈夫だと思います。あ、マスターさん。お水貰えますか?」

「あぁ、大丈夫か?まぁゆっくり飲みな。」

「すみません、頂きます。」

 

会話が止まり、静寂が店の中に訪れる。そうしていると不意にカウンターに置いている右手に何か当たる感覚がした。目線を動かすと、諏訪子が紙を握らせてきた。それも早苗の目に映ることの無い角度からである。本当にこんなスキルばかり上げてどうするんだろうか?少しは信行を多く得る方法でも考えればいいのに。

紙を開くと一文だけ、こう書かれていた。

〝覚悟を決めろ。もう、昔のアンタじゃない。〟

昔……か、

 

「なぁ、早苗。」

「はい?」

「前に俺の名前が知りたいって言ってたよな、確か。」

「はい、今でも聞きたいですよ。マスターさんの名前。」

「そうか……」

 

少し大きめに呼吸をして心を落ち着ける。それだけだが、大きな効果がある。さて、覚悟を決めるか。

 

「お年玉代わりに教えてやるよ。俺の名前。皆に言うなよ。約束だぞ。」

「はい」

 

まだ、この幻想郷で数人しか知らない名前 、何人しか〝覚えて〟いない名前を、とっくの昔に〝歴史から消えた〟名前を俺は早苗に告げた

 

「俺の名前は〝月夜 泊〟だ。改めて宜しくな早苗。」

「よろしくおねがいします!泊さん。」

 

今日、俺の名前を知る人が一人増え、俺の心の中で引っ掛かっていた物がやっと外れたような気がした。

 

 

飲んで、食べて、愚痴って、〝和んで〟いって、明日からの仕事を頑張ってくれればいい。

呑み屋「和み」

今日も明日も営業中……

 

---

追記

後日守矢神社に参拝した際、神奈子に会うことがあった。この日の事を聞くと、どうやら本当に寝ていたらしい。酒盛りしていて気づいたら二人はいなかったらしい。どうやらあの二人は神奈子を置いて来ていたようだ。まぁ、気にする事じゃないだろう。むしろ、その位の事じゃあもっと仲良くなりそうなものである。




第三夜にしてやっとマスターの名前を発表出来ました。
また、泊君の過去には本編で触れて行きたいと思っています。
本年も
呑み屋和みをよろしくおねがいします。
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