呑み屋『和み』   作:朝日月

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最近、本当に寒くなってきました。
風邪を引かないようにお気を付け下さいませ。
それでは第五夜、ゆっくりしていって下さいね。


第五夜〜ブン屋と店主も白狼と〜

午前10時

店の仕込みや片付け等を済ませて、食材の買出しに出ようかと時計を見上げるとこの時間だった。いい頃合いだろう。今日、この時間にはとあるお客が来るはずだ。いつものように遠くから風を切り裂くような鋭い音が聞こえてくる。到着まで後八秒といった所だろう。

さてと、表に出ておくか……、たまには出迎えてやるのも良いだろう。周りに風圧を与える事無く静かに、それでもとても追いつく事の出来ないスピードで降り立つ彼女の姿はとても優雅である。名前を射命丸文。幻想郷の最速を誇る伝統ブン屋だ。ウチの店でも定期購読(半強制だが)している「文々。新聞」の記者である。新聞の内容は少し誇張されているが、最速で届く情報を無駄にしない訳には行かないからな。

 

「おはようございます!マスターさん。今日の新聞です!」

「おはようさん、文。今日も御苦労だな。」

「いえいえ、これが私の仕事ですから。あ、マスターさん。今晩なんですけど、二人いいですか?」

「ん?あぁ、いいぞ。いつでも来な、ちなみにお連れは?」

「今日は椛を連れてきます。何か、美味しい肴をお願いしますね。それではっ!」

「あぁ、よろしくな。」

 

短いやり取りを終えると文は飛び立った。一瞬にして最高速まで加速し、空の彼方へ消えていく。 幻想郷最速は伊達では無い証拠だろう。

まぁ珍しく予約を貰ったし、最近は前まで来なかった客層も増えてきている。やはり、定期購読して広告まで打った甲斐があったようだ。今日は普段よりも手の込んだ料理を作ってやろう。その為にもまずは買出しに出かけるとしよう。さて……今日は何を作ろうか……。

 

**********

 

「よっ……と……。こんなもんでいいか。」

 

傍から見ればあまりにも多過ぎる荷物を抱えて人里から戻って来るのは少し注目を集めたが、そこまで気にすることでも無いだろう。むしろ、注目を集めて少しでも一般的な客が増えてくれる事を祈るしか無い。本当に、多くの客が来てくれる日はいつになるんだろうか?このくらいの規模の方が自分に合っているような気がして宣伝も移転も考えれてない自分はあまり商売人向けでは無いんだろう。まぁ、趣味の延長でしていると揶揄される店だし仕方ないだろうな。

 

「さぁ……て……、始めるか。」

 

趣味だと揶揄されても必要とされているのなら俺は全力で答えるだけだ。出来る事をして喜んで貰えるならそれよりいい事は無い。今出来る事は、今日来るあの二人をもてなす為の準備くらいなものだ。ぶつくさ言っても仕方が無い。仕込みを始めるとしよう。

 

**********

 

「こんばんわ。マスターさん。文様はまだでしたか?」

「いらっしゃい。文ならまだだ。先に始めるか?」

「始めたいのは山々なんですが、文様は意外と拗ねたりしますからね……、少し我慢します。」

 

白狼天狗の犬走椛。下っ端天狗とよく言われるのは文の手伝いをさせられているからだろう。実は警備班の統括長に就任してここでバカ騒ぎしたのはまだ記憶に新しい。本人は知らないが、その時の費用は全て文が払っていたりするのはまだ本人に告げない方が良いだろう。よく、文との仲が悪いと言われるが俺にはあまりそうは見えない。まぁ、見方によっては仲が悪そうに見えるかもしれないが、傍からよく見ていれば腐れ縁でお互いがお互いを気にし合っているようにしか見えないのは俺だけかもしれないな。

椛が席に着いて少しして、遠くから鋭い風きり音が聞こえて来た。まだ椛は気付いていないようだ。この辺りでも聞こえる程の風きり音がする。よほど急いでいるようだしもうすぐ着くだろう。支度を始めるとしよう。厨房に入ると直ぐにドアが開く音がする。本当に最速だ。その力をパパラッチにさえ使わなければもっと購読申し込みが増えると思うんだが、そういう訳にも行かないんだろうな。

 

「こんばんわー、マスターさん。あ、椛早かったんですね。」

「早かったんですねって、文様こそ遅刻してるじゃ無いですか。何をしてたんですか?」

「フッフッフッ、これを見てまだ言いますか?椛」

「これは…………「守矢の風」じゃないですか!どうやって手に入れたんですか!?」

「まぁ色々として手に入れたんです。」

「あ、「守矢の風」ならウチにあるんだけど、」

「えぇっ!?あるんですか?」

「その酒が造られる時に一枚噛んでいてな。ウチには定期的に入って来るよ。」

「その辺を詳しくお願いしますマスターさん。」

「まあまあ、飲めよ、それ今年の一番酒だろ?時間はたっぷりある。ゆっくり行こうぜ。」

 

そう言いながら、グラスを渡すと椛はとにかく嬉しそうにしていた。最近、「守矢の風」の人気が上がって来ていて、少し希少価値が出始めて来ている。ウチの店は大して問題は無いんだが、美味い酒が広まりにくくなるのは些か気が引ける。まぁ、時間が解決してくれるだろう。

 

「文様、お入れしますよ」

「あ、ありがとう。さてと、今日は楽しんで下さいよ椛。」

「はい、それでは……今日もお疲れ様でした。乾杯っ!」

「乾杯!」

 

二人共、一息で飲み干して叩き付けるようにカウンターに置くと、もう顔が赤くなってきていた。流石、「守矢の風」驚く程美味い代わりに、本当にキツイ酒だからな……。俺でも多分三本飲めたらいい方だろうな。

 

「ふぅ……よく回りますねこの酒は……」

「でもこれが私は一番好きですね。こんなに美味しいお酒は他にはありませんから。文様から貰うわいんとかも好きなんですけど、やっぱり普通の酒が一番好きです。」

「文なんかよりもよく分かってるじゃないか。でも、大事な事を忘れて飲んだりするなよ。」

「?……飲み過ぎない事とかですか?」

「いや、まぁそれも大事なんだか、どちらかと言えば酒は楽しむものだ。飲み過ぎたって別に構わないが、溺れるもんじゃ無いからな。そこだけは間違えたりするなよ。」

「……それ私にも言いましたよね?最近すっかり言って貰えてない気がするんですが。」

「自覚あるならまだマシだ。」

「うぅ……気を付けます。」

 

気ままに話して楽しく飲める間はいい。溺れたら、後は沈んで行くだけだ。酒はそんな為に飲む物じゃ無いからな。

さて……夜が更けていく。今日はどっちが先に潰れるだろうか?

**********

 

「マスターさん、最初の話をして下さいよ。どうやってこんなに美味しいお酒を仕入れているんですか?」

「椛……、お前実は酒強いの黙ってたな。」

「弱いともいったつもりはないんですが……」

 

椛の顔色を見ると少しは余裕があるようだ。一方の文は早々に寝てしまっていた。恐らく、「守矢の風」を手に入れるのに相当体力を使ったんだろう。それかただ仕事の疲れが出たか。どちらにしても今日は本当に早く潰れていた。珍しい事もあるもんだ。

話が逸れたが、この話をすると言ってもどこからするべきだろうか?まぁ、神社の事は分かっているはずだからな……。

 

「……この酒は、諏訪子と神奈子が好きな味が出せるように研究を重ねて造った酒なんだ。」

「諏訪子と神奈子って事は……、それで守矢の風なんですね。」

「そう、それでこの酒を造る時に手伝ってたから、今でも回して貰ってるって言うのが、ウチにこの酒がある理由なんだよ。」

「なるほど……、しかし、このお酒は……...ほんとに……強い……です…ねぇ……。」

「おーい、椛。起きろー。お前が寝たら誰が送って行くんだよ。」

「マスター……さん?」

「はぁ……、準備したらすぐ出るからな、ゆっくりしとけ。」

 

返信は無いか……。まぁ仕方ないだろう。時間もいい頃合いだろうし、山までなら送って行くとしてもそこまで遠くは無いからな。大事な常連客を逃がす訳にも行かないしな。

 

 

 

飲んで、食べて、話して「和んで」

潰れて寝ても、今日の疲れを置いていって明日からの仕事を頑張ってくれればそれでいい。

呑み屋「和み」今日も明日も営業中……

 

---

追記

最近、よく椛が仕事終わりに来るようになってきた。毎日は来ないが、それでも来ている日の方が多いくらい来ている。しかも、普段から来ている常連とも仲良くなって、飲む酒の種類が増えて来た。どうやら椛は元から酒が好きだったようだ。まぁ、それに合わせて、文の一人酒の頻度が上がって来ているのは気にすることでも無いだろう。




いかがでしたか?
もっと、色々な表現ができるように精進して行きたいと思います。
それではまた次回も読んで頂けると幸いです。
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