今回、泊君の過去に少し触れています。
また、話の展開上会話文多めになっています。
それでは、第七夜お楽しみ下さいませ。
午後9時半、
永遠亭からから退院し、店には今二人の客がいる。
一人は妖怪の賢者、八雲紫だ。ウチの古くからの常連であり、胡散臭いという言葉が似合うのはコイツぐらいなものだ。ただ、芯の強さは紫に勝てる奴は居ないだろう。何を引き合いに出してもこの幻想郷のバランスを保ち続けるなんて事は中々出来る事ではない。本当に凄いと思う。
そんな彼女は今、不機嫌そうに一つ席を空けて座る少女を横目で見ながらお茶を啜っていた。
対して、肩を小さくして紅茶を飲みつつ、とても申し訳なさげにしているのは図書館の司書小悪魔ことこあである。いや、そんなにする必要はないんだけどな。悪いのは多分あいつだし。こあもどちらかと言わずとも被害者だ。
やたらに重苦しい空気の中、口を開いたのは紫だった。
「……さて、色々聞きたいけど、どうしましょうか。本当に色々あり過ぎるのよ。」
「だろうな。で、どっちから先に話聞くんだよ。俺は後でも先でもいいけど……」
「そうねぇ……。ならあなたからにしましょう。小さな悪魔さん。」
「は、はいっ!」
「紫、怖いわ今のお前。」
「そうかしら♪久し振りにこんな事やるから楽しくて楽しくて……」
紫の顔は満面の笑顔だ。ただし、目は笑って無い上に笑顔自体が物凄く黒い。橙が見たら本当に泣き出しそうだ。
そんな笑顔のまま、紫は話を始めた。
「まずは、あの薬は何なのかしら?医者の話では魔法系統の薬ではあるそうよ。ただ、細かい成分が分からない。あの薬は何なのかしら?」
「永琳が分からない?あの永琳が?」
「そうよ、残っていた液体の成分を調べても何もおかしな物が出ないらしいわ。」
「おかしな物は出ないと思います。」
「なら、泊はどうして倒れたのよ。説明が付かないわよ?」
「この薬にはレミリア様の力が込められていました。そこに何かあるかもしれません。」
「あなたが思う中では何が考えられる?」
「私もよく分かりません。ただ、この薬は本当にただの栄養剤でした。それは間違いありません。」
「……その言葉に嘘偽りは?あるなら今よ。」
「ありません。」
「こあが凛々しく見える。俺達が悪者になってね?」
「そうかもね。まぁ、どう見たってそうよね…」
会話が止まり、そのタイミングで二人のお茶をいれる。二人共喉が乾いていたようですぐに手を出していた。誰も次の話を始めようとせず、店には静寂が訪れる。
多分、いや確実に本当の事しかこあは言っていないだろう。なら次は俺の番だな。こういうのは平等じゃ無いと行けないしな。
「そろそろ俺の話に行こうか。頃合いだろ?」
「あら、もう行くの?もう少し位勿体ぶってもいいんじゃ無いの?」
「早くしたいのが丸わかりだぞ。なんでそんなに楽しそうなんだよ。」
「久々にあの話でもするんでしょう?私はあの話が好きなだけなのよ。」
「あれか……まぁそうだよな。」
「恐らく、原因はそれだしね。」
「分かったよ。こあもいるし、ゆっくり行くとしようか…」
今から話すのは、ただの昔話だ。それも、まぁつまらない話。
酒の肴ぐらいにしかならないと思う。まぁ気楽に聞いてくれ。
*-*====*-*
ある年の夏の日だ。その日の夜は紅い満月が輝いていた夜だった。
俺は今目の前にいる奴に呼ばれてある館の前に来ていた。
する事は簡単。幻想郷に暴れに来た奴らを叩き潰せ、みたいな感じの仕事の依頼だった。依頼主はコイツだ。
その頃の俺は、強い奴と喧嘩出来るって言われてめちゃくちゃにテンションが上がってたはずだったと思うんだ。記憶が曖昧なのは気にしないでくれ。まだ少し記憶が安定してないんだ。
とりあえず、その館に入ってすぐこの仕事の依頼のターゲットみたいな奴に会ったんだ。そりゃあすぐにバトルになるよな。まぁ強かったよ。それなりだったけど。終わってすぐ、相手からこんな事言われたんだ。
「お前は何者なんだ?」
ってな。
驚いたよ、俺と戦ってそんな事が言える奴、いや違うな。まだ話せる奴が居たんだ。それが本当にびっくりした。
俺には、その言葉が凄く重くてな。
自分が何者か?
考えなくもなかった事を考えさせられて、
考えたくない目を背けてる事に思いっきり直面させられて、
〝俺〟という存在を問われて、
相手が言ったのは多分、こんな意味じゃ無かったはずだ。
でも俺はそう捉えた。だから俺の今があるんだよ。あいつがいなかったら、今も俺はただ自分のやりたいようにやっていただろうし。そういう意味では、良い奴かも知れないが、あの時は少なくともそうは思えなかった。まぁ、そんな事はどうでもいいんだけどな。
ん、なんでどうでもいいかって?この話は後日談みたいな話がある。俺達が言ってるのはその話なんだ。
その後、まぁ色んな話し合いが行われて、この館は暫く表舞台には出てこないんだ。その頃俺はある方法で、
〝俺〟という存在を無くしたんだ。
恐らく、今回は俺が俺に戻るように仕組まれたんだろう。その戻すためのカギ、それが-ーー
*-*====*-*
「あの箱、なんですね。泊さん。」
「そう。ご明察。あの箱が今回の全てのカギなんだよ。」
「なら、〝泊さんの全てを知っている〟って言うのは何なんですか?説明がなかったと思うんですけど」
「それはこの話とは全然違うんだよ。まぁ、俺こんなのだけど紫より歳いってるしな。色々あるんですよ。」
「その戻す理由は何よ?なんであいつがそんな事したのよ。何かいい事あると言える?というかしれっと年寄り扱いしないでくれるかしら?」
「多分、リベンジしたいだけじゃないの?もうすぐいい日だし。」
「…………紅い満月の日……!この話はそういう事だったんですね。」
「そうそう、最近あいつがテンション高いって聞いたし。そういう事なんだよ。だから言ったろ?面白く無いって。」
「泊、まぁ面白くは無いし大して目立った事もない。でも、そんなに卑下する様な事でもないと思うわ。あなたという存在がまた戻って来たんだから。」
「…………まぁ久し振りに遊んでやるとしますかね。こあ、その時は迷惑かけると思うけど、頼むな。」
「はい、私に出来る事なら何でもしますよ。泊さん。」
「なら、この話は終わり。泊、何か酒出してよ。疲れたわ……」
「あ、私もお願いします。良かったら一緒に飲みませんか?泊さんも。」
「それもそうね、泊、暖簾下ろして来なさいよ。」
「おいおい、朝まで飲む気かよ……」
歴史から消え、周りの記憶から消え、いつしか、名前は語られなくなった。後に残った俺は中途半端な存在になったと思っていた。でも違ったんだ。みんなで笑い合い、グラスを持ちぶつける。誰も何も言わず、ただ時間が過ぎていく。平穏で俺が一番好きな時間が過ぎていく。そんな時間を過ごせるんだ。俺は……、俺の存在はまだ消えてなかったんだな。
願わくば、この日常を守れますように。
飲んで、食べて、話して、
〝和んで〟いってくれればいい。
呑み屋「和み」今日も明日も営業中……
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追記
数日した夜ある館に行くとそこにはある少女が門の前に立っていた。彼女曰く、俺が飲んだ薬は本当に栄養剤であり、気絶したのはシンプルに魔力を込めておいて、飲む時に魔法を発動させるようにしたらしい。しかも、信じないだろうから、なんて思って普通に仕留めるレベルの物をかけていたらしい。
そんな事は俺にはさして問題ではない。それは相手も同じなようである。
今宵は紅い満月、あの日と同じだ。なら、俺も全力で応えないとな。やれやれ、とんだ差し入れだったものだ。
その後、館とその周囲が荒れ果て、その影響で結界が揺らぎ、当人二人や妖怪の賢者、また館の従者達全てが暫く眠れない日々が続いたのは言うまでもない。
いかがでしたか?
泊君が自分を消した方法は容易に分かると思います。
あの小箱についてはまたどこかで書きたいと思います。
ではでは、次回お会い出来る事と幸いです