呑み屋『和み』   作:朝日月

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早いもので、もう八夜です。
花粉が辛い今日この頃。

それでは第八夜、お楽しみ下さいませ。




第八夜〜枯れない花の思う事〜

午後1時

人里での買い出しを終え、戻って来るとこのぐらいの時間になる。荷物を下ろして、傷みやすい物だけを優先的に下ごしらえだけしておいて余った材料で自分の昼飯を作る。時折、この時間にも来る変わった奴もいるが今日はいないようだ。

買い出しはできるだけ早い時間に行くようにしているが、10時頃から出掛け、この時間に帰って来る。まぁ、店を開けるまでには十分にあるので問題ないが、出来る事ならもう少し早く帰って来たいものだ。

さっと作った昼飯を食べつつ、今日の新聞を読む。最近は何だかゴシップ記事が増えているような気がするな。

さてと、今日は誰か来るだろうか……。

 

**********

 

暖簾をかけて、店の前にある花壇に目をやる。今も花こそ開かせていないが、向日葵が元気よく根を張り、その身の存在を主張している。世話の仕方が詳しく分からず、水をあげたり、周りの雑草を取ってみたりと色々としてはいるがそれ以前からこの向日葵は元気である。植物も元の持ち主に似るのだろうか?何分俺はこういったものには疎く分からない。あまりに多くの水をあげるべきではないぐらいの事しか知らないのである。たまにはもっときちんとした手入れをしてあげるべきだろう。今度図書館にでもいって本を借よう。あの図書館ならあるだろうし。

そんな事を考えつつ、店の前で屈んでいると後ろから足音が聞こえて来る。どうやら俺は相当な時間ここにいたようだ。立ち上がりつつ後ろを振り向くと誰もいない。気のせいだったようだ。それか何か動物でもいたんだろう。ここは人里から離れている。何かがいてもおかしくはない。それが妖怪であってもだ。体をそのまま後ろに向けつつ目の前を見る。

 

「花を大切に思ってくれるのはいいけども、お客に気づかないなんて貴方にしては珍しいわね。」

「え…………うおっ!いつから居たんだよ!居たなら声ぐらいかけてくれ。」

「…フフッ、楽しそうに見てくれていたからね。まるで、何か目的を見つけたみたいに。」

「この花達ぐらいなら育ててやれるだろう。店やりながらでもな。」

「頑張りなさい。でもこの子達を傷つけたら叩き潰すわよ。」

「おぉ怖い怖い。で、今日は何しに来たんだ?」

「あら、この時間に店に来るならする事は一つじゃないかしら?そんなのも分からない?」

「分かるよ流石に。ゆっくりしていってくれ。」

「言われなくてもそうするわ。」

 

彼女が来ると、心做しか向日葵達が喜んでいるように見える。流石、フラワーマスターと呼ばれているだけはあると思う。ただし、その性格さえ無ければもっと良い奴だと俺は思うが。

 

**********

 

「何にする?」

「そうね……前の飲み会の時に貴方が持って来ていた酒はある?あれがいいわ。」

「いつの飲み会だよ。多すぎて覚えてない。」

「年明けから暫くして慧音の家に集まった時」

「あの時の酒か…………お、まだあった。というかあの飲み会覚えてたんだな。珍しい。」

「忘れっぽい、って言われていると取っていいのかしら?」

「分かった。頼むからその日傘を置け。店が壊れる。」

「自分の心配はしないのね。みんなまず自分なのに。」

「俺はそんなに自分を大切にする必要は無いと思ってるからな。この店の方が大事だ。」

「そういうものなのかしら?」

「はい、おまちどう。コイツは冷やで飲むのが一番だ。」

 

彼女ー風見幽香はカウンターに置かれたグラスを手に取ると、そのまま勢いよく傾けた。半分ほどになったグラスを置くと少しため息のような深い呼吸をしてその余韻を楽しんでいる。こうしている姿はとても穏やかで、彼女を知らない者はただゆっくりと酒を楽しんでいるようにしか見えない。知っている者でも一部の奴らはゆっくりしているのだろうと考える事が出来るだろう。なら知っている他の大半の者はどうか、わかりやすく単純である。ただ風見幽香という存在を見るだけで恐怖し逃げていく。いや、恐らくそんな奴らは間違いなく「風見幽香」としては見ていない。「最凶の妖怪」としてしか見ていないのだろう。確かに彼女は強い。幻想郷のパワーバランスの一角を担う程に。だからといって、彼女を見ない理由にはならないと思う。まぁこんなこと本人の前では死んでも言えないのだが。

 

「ここの酒って全部貴方が選んでるの?」

「あぁ、ほとんどの酒は俺が選んでる。時々例外はあるんだけどな。」

「例えば?」

「そうだな……この酒がいい例だな。コイツはある人が友人に贈りたいからって言って造った酒なんだ。」

「貴方前もそんな話あったわよ?この酒はまた違う物でしょう?」

「そう、全く違う物だ。まぁ、この酒以降もう造るのは辞めたんだけどな、なにせ予算が掛かり過ぎる。まぁ、酒自体がいい酒だったから今でも造られてるし、販売もされてる。ただもうウチの店が主導して新酒造るのは無いと思うがな。」

「まぁある意味貴方が選んでいるような物ね。良くやるわ。」

「そうでもないさ。俺はあちらとこちら、酒蔵と味を求める人とを繋いだだけだ。大したことはしちゃいない。」

「本当は貴方が飲みたいだけじゃないのかしら?」

「ま、気にすることでも無いだろう。そんな事」

 

またグラスを手に取り、中身の一息に飲み干す。同じ物を、と短く告げてグラスを置く姿はただの少女のようにしか見えない。俺の目にはそう見えてしまう。なぜみんな彼女を忌み嫌うのか、それが俺には理解しがたい。ただ、俺と同じような視点から幽香を見る奴は増えてきている。俺や紫は昔から知っているが、最近では人里にも顔を出しているらしいし。

 

「はい、おまちどう。」

「ん。」

 

カウンターに置かれたグラスを手に取り、飲み始める彼女を見つつ、俺は今朝聞いたばかりの噂の真偽を聞くことにした。とても面白そうな噂である。

 

「今日聞いたんだけどな幽香、お前最近は慧音の家に割と行ってるって本当か?」

 

そう聞くと、幽香はグラスを落としながら盛大に咳き込んだ。幸いな事にグラスは無事なようである。幽香はと言えば苦しそうにまだ咳き込み続けている。どうやら俺は聞いてはいけない事を聞いてしまったようだ。その証拠に、今俺の左手に鋭い痛みが走り出した。これはまずい。

 

「ゆうかさーん、離してくれないかな左手、ホントマジで。」

「何を言っているのかしら?好奇心には代償が付き物よ?」

「ぁちょっとまって痛い痛い痛いって!」

 

ぎりぎりと音を立てつつ俺の左手が握られていく。どうすれば止めて貰えるのだろうか?そろそろ感覚が無くなって来た。

悶えつつ痛みを耐える事数分、ようやく開放された俺は幽香が話始めるのに気づいて顔をあげた。

 

「その話は本当よ。よく家にいくわ。」

「最近ではすっかり評判も良くなったな。噂どうりの奴じゃねぇって人里のみんなも言ってるぞ?」

「私は何も変えて無いわよ。何も変わってもいないし。」

「そうか?あの飲み会にも来ただろ?昔のお前なら有り得ない。」

「有り得ないなんて酷い言い草ね。もう一度味わいたいのかしら。」

「それは勘弁してくれ。まぁ、お前の心を掴めるなんて寺子屋の先生はやっぱり凄いもんだな……。」

「そうやって遠い目ばかりしていると老けるわよ。」

「お前より若いから大丈夫だ。」

「嘘は良くないと思うわ。あまりにもわかり易い嘘なら特にね。」

 

二人でカウンターを挟み笑い合う。彼女を知る者ならば……なんて言うのはもういいだろう。もう今は「最凶妖怪」ではなく「風見幽香」としては見られている。

それだけでいいんだ。孤独から、孤高から解放された少女の笑顔は本当に眩しい。それは辺りのみんなを幸せな気持ちにする程に。

 

「もう一杯。」

「はいよ。」

 

願わくばこの笑顔が無くなりませんように。

 

 

飲んで、話して、笑って、

「和んで」いってくれればいい。

呑み屋「和み」今日も明日も営業中……

 

 

---

追記

後日、買い出しに行った際、人里の甘味屋で顔を綻ばせて団子を頬張る寺子屋の先生と花妖怪の姿が「文々。新聞」にて報道された。とても仲睦まじく、楽しそうに談笑している姿が一面を騒がせたのは記憶に新しい。

ただ、その後しばらくの間定期購読しているはずの新聞が来なくなった。このことに関しては恐らく追求しない方が身のためかも知れない。




いかがでしたか?
いつもの和みに戻ってますでしょうか……
更新が遅れてしまい申し訳ございません。

また次回でお会い出来ることを楽しみにしております。
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