戦争状態となった二つの王国、白夜王国と暗夜王国。

二つの王国と強い関わりを持つ一人の人物、カムイ。
その人物は、育てられた国である暗夜を選び、白夜を選ぶことなく姿を消した。



選ばれることのなかった白夜王国。
そんな国の中で書かれた、名もなき男の日記。


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沈み逝く王国 名もなき男の記録

これからしばらくの間、国で起こった事について日記を書くことにする。私は王家の血筋でもなければ精強な戦士でもない。元より身体が弱く激しい動きをすることすらできない軟弱な者だ。

 

私には何も秀でている点はない。何も干渉することなく、何も意見することなく、全てを受け入れようとする、抵抗の意志を持たない、傍観する者であるのみだ。

 

***

 

あの日、カムイ様は去ってしまった。共に育った家族を見捨てることはできないという言葉を残して。

 

その後、白夜王国は激しく揺れている。中には白夜王国に刺客を呼び、甚大な被害をもたらしたことはおろか、ミコト様の命を奪ったのもカムイ様の差し金だったのだと意見する者もいる。カムイ様をよく知るリョウマ様やヒノカ様の言葉を借りれば、決してそんなことはないという。私自身もカムイ様については詳しいとは言えないが、カムイ様は聡明で心優しい性格だったと昔から聞いている。

 

***

 

あの事件が終わったのち、白夜の国内では不穏な動きが広まっている。白夜に住む者であっても、生まれが暗夜という者も少ないにせよ全くいないという訳ではない。町ではそういった者に対して、陰湿な行いが行われているようだ。確かにあのような事件が起きた後では無理もないだろうが……

 

そして、そういった動きは白夜城内でも広まりつつある。王城に関係する人物で生まれが暗夜の人物―――、即ちアクア様のことだ。極力リョウマ様やヒノカ様がそういった動きは取り締まってはいるが、日に日にそうした動きが激しくなっており、対応が難しくなっているというのが現状のようだ。

 

敵を前にして仲違いをしている場合ではないのだが、そう思っている者は私以外にも沢山いるはずだ。そのうえ、武器を持つ力のない私が言ったところで何の解決にも繋がらないだろう。

 

***

 

今後どうするかはまだ決まってはいない。だが、白夜平原で相対した暗夜軍も一度は退いた。カムイ様と共に、という形にはなるが。

 

白夜と暗夜は互いに精強な国だ。状況次第でどちらもが勝利・敗北する結果にもなりうる。

諜報の者の情報、及びユキムラ殿の推測によれば、暗夜軍が再びこの地へ進軍してくるまでは多少は時間があるだろうとのことだ。その間を利用して、白夜は少しでも戦力を増強させねばならないという方針となった。そこで。前白夜王スメラギ様の行いに乗っ取って、リョウマ様もノートルディア公国へ向かうこととなった。戦局を少しでも有利にするため、虹の賢者と呼ばれる存在から力を得ることが必要とされる。私はそのあたりの伝承には疎いのだが、どうやら皆の話から察するに相当大きな存在であることは間違いないのだろう。

 

友人のヒナタにはそのくらいは常識で俺でも知っているぞと言われたが私は語学や算術はある程度できるにしても、歴史の勉強が苦手なのだ。だが、流石に一般常識を知らないというのは勉強不足以外の何物でもないだろう。身体が弱く戦いで何の役にも立たないのならば、少しは勉学を行うべきかと反省した。

 

***

 

王族の主だった面々が全て城を出ている最中、どうやらこの時を好機とみた反暗夜の過激派が動きを見せたという。なんと、過激派の集団がアクア様を連れ去って何処かへと消えたという。その様子を見ていた者は誰一人としていないらしく、アクア様を連れ去った過激派が現在どこにいるのかは分からない。城で留守の番をしていた面々、とりわけユキムラ殿はこのことをリョウマ様やヒノカ様にどう説明するべきか悩んでいるという。

 

アクア様と共に姿を消した者達が事件に絡んでいることは間違いない。姿を消した面々の中で一団を指揮する程の実力がある者が一人いた。それはハイタカという男だ。彼は白夜の中では優秀な槍術の使い手で武人肌なのだが、良くも悪くも直線的で、その性格を利用されて悪事の主犯に仕立て上げられ、片棒を担がされた可能性が高いとユキムラ殿は見ているようだった。それはともかくとして、現状打てる手がない以上、リョウマ様が率いている忍び達にアクア様、及び過激派の消息を調べてもらうのが吉か、と言っていたようだが、皆が戻ってくるのがいつになるかはまだ分からない。あまり時間はないようにも思えるのだが……。

 

***

 

情報によれば、リョウマ様は無事に試練を乗り越え、力を得られたという。これで有利に立つことはできるだろうが、おそらく暗夜にとっても目的は同じだろう。虹の賢者は世界中に知られている。それでも力を得られる者は一握りだけだが、力が暗夜の手に渡ることは対策しておく必要がある。折角つけた差を取り戻される訳にはいかない。従って、七重の塔の防衛をヒノカ様に、さらにそこに渡る唯一の場所である港町ディアをタクミ様の指揮のもと制圧することとなったという。

 

***

 

暗夜軍と白夜軍が港町に到着するのはほぼ同時になった。厳密にいえば暗夜軍の方がやや早く港町に到着していたことになる。港町は戦場となったが、先に町に陣を敷いていた暗夜軍に地の利が働いたのか、白夜軍は撤退することになった。タクミ様も、ヒナタもオボロ殿も深手を負ったが、命には別条がないようで安心した。

 

なお、今回の戦闘ではもう一つ別に驚くべきことがあった。なんと、先日から行方の分からないアクア様がカムイ様と共にいるというのだ。ヒナタが自分の目で見たと言っていたが、一体どういう経緯でそうなったのだろうか。

 

***

 

ヒノカ様までもが敗れ、その結果暗夜に虹の賢者の力を得た者が増えてしまった。これで状況は全く同じになってしまった。ただ、今回の戦で奇妙な噂を聞いた。今回の戦では白夜には一人の戦死者も出ていなかったそうで、それを指揮していたのはカムイ様だという。ヒノカ様の言葉によれば、それがカムイ様の性格だそうなのだが、悪逆非道で知られる暗夜のガロン王がそのような行為を許すものなのだろうか。

 

それから数日が経過したある日、白夜の王城に奇妙な文が残されていた。“マカラス宮殿に汝らの求めるものはある”、とただそれだけだった。暗夜の罠である可能性は十分にあった。しかし求めるもの、というのが何なのかは不明のままだ。気になっていたのは確かだが、罠である可能性がある以上十分な戦力がないままで行くのは避けた方がいいという意見が多かった。しかし、そこでリョウマ様はそれならば自分が行く、と言った。ヒノカ様もタクミ様もまだ先日の戦いの傷が完治していない。サクラ様が行くには不安が大きい。確かにリョウマ様の言葉は最もだが―――。

 

***

 

ヒナタから相談を受けた。まだ先日の戦いで負った傷が完治していないというのに、タクミ様が激しい訓練をしているという。ヒナタやオボロ殿、ヒノカ様も何度も説得を試みたようだが、今のタクミ様はまるで聞く耳を持っていないという。一度だけ私もタクミ様の姿を見たことがあるが、以前とはまるで別人のようだ。

 

***

 

リョウマ様の言葉によれば、マカラス宮殿にはカムイ様がいたという。交戦となったが、戦局は白夜の不利に傾き、包囲網を突破されたことでリョウマ様は撤退を選んだ。それにより白夜軍にも大した痛手は受けずに済んだ。

ただ、わざわざ自分たちの居場所を敵国に知らせるというのは一体どういうことなのだろうか。先日のヒノカ様の件といい、暗夜軍のやり方には疑問が多い。

 

丁度そのころ、ある情報が舞い込んだ。シュヴァリエ公国で反暗夜の集団が決起したという。だが、規模は決して大きいとはいえない。それだけで暗夜に真っ向から立ち向かうのは難しい。リョウマ様は彼らと手を組むべきだと言われていたが、反暗夜とはいえ、暗夜王国の民と手を組むのはいかがなものか、と賛否両論だった。

 

結局、白夜から援軍を送ることにはなったが、その使者として誰が行くかが次の課題となった。生半可な者では彼らの信用を得ることは難しいだろうが、行くことができそうなリョウマ様、ヒノカ様、タクミ様は皆戦いで傷を負ったばかりだ。

そんな中、タクミ様は自分が行くと言って譲らなかった。ヒナタもオボロ殿もまだ傷が完治していないのだから、まだ行くべきではないと止める者もいたが、タクミ様はそれなら一人で行くと言われていた。当然反対は出たが、タクミ様の意志は固く、誰もその意志を曲げさせることはできなかった。ただ、リョウマ様は一人だけで行くことは許さないと言われ、亡きミコト様の臣下であるオロチ殿とユウギリ殿を小隊長とする一団を同行させることで白夜の決定とした。

 

***

 

またしてもカムイ様の手によって白夜軍は大敗を喫した。既に何度も白夜軍と暗夜軍は交戦となっているが、どうやら暗夜軍はカムイ様が率いる軍が先鋒や遊撃を行っているようだ。またしても敗北と撤退を余儀なくされ、反暗夜の軍もほとんど助けることができなかった。何一つ得られるものがなく、完全にこちらの負けと言ってもいいような敗北だったという。

 

そんな中、新たな情報が舞い込んだ。暗夜軍の他、ガロン王までもがアミュージアに来るという。暗夜の頭を狙えるという、こちらにとっては絶好の機会だが、皆が十分な状態でないことからこれ以上の消耗は避けたい所ではある。

 

結果、少数の軍を潜ませる作戦となり、部隊長としてはクマゲラという男が選ばれた。最も、彼が自ら名乗りを上げたという。以前にヒナタから聞いた話では、あの男は白夜軍の中で実力は確かだが、素行が悪く色々な揉め事を起こしたことがあるという。ヒナタが言うには、あの男は賊同然で、あんな奴は仲間だとは思いたくない程らしい。あのヒナタがあそこまで言う程の男だが、実力と闘志だけは有り余っているという。かつてスメラギ様が中立国で討たれたのだからやり返すだけだ。確かにクマゲラの言い分は間違ってはいないのだが……

 

***

 

情報通り、ガロン王を含めた暗夜軍がアミュージアに現れた。作戦を実行する直前まで身を潜めていたために見つかることはなかったのだが、カムイ様を含めた暗夜軍がその場に居合わせたほか、暗夜の第二王子レオンが助太刀したこともあってか、白夜軍は大敗、作戦は失敗した。クマゲラは戦死したそうだ。

 

暗殺が失敗した以上、暗夜も警戒を強めるはずだ。ならば、しばらく目立った動きは控えるべきだとリョウマ様は言われた。しばらくは国境付近の警備を強化する方針で合議は終了となった。

 

***

 

王城にイザナ公王から手紙が届いた。両国の戦争が激化してお疲れだろうから国で宴を開くつもりでいる。客人として白夜の王族の皆を招きたい、と。リョウマ様は皆の緊張を少しでも和らげるためだと、この誘いを受けることにした。あまり大勢で動くと暗夜に感づかれやすいのであれば王族の皆だけで来て欲しいと手紙には書かれていたことが少し引っかかる。

私の思い込みであればいいのだが……。

 

***

 

悪い予想が当たってしまった。どうやら今回の一件は罠だったようで、暗夜の魔導士がイザナ公王になりすまし、皆を罠にはめたという。

 

後にサクラ様が言われていたのを聞いたのだが、暗夜軍に捕らえられた皆を救出したのは他ならぬカムイ様の軍だという。暗夜軍と暗夜軍が戦うという、もはや完全に仲間割れとなる戦いだった。一体暗夜王国に何が起こっているのだろうか。

 

***

 

イズモ公国でカムイ様の軍と鉢合わせしたこともあり、おそらく暗夜軍はこのまま本国へ向かって進軍するだろうとの見立てにより、急激に本土防衛を強めることとなった。

最前線であるテンジン砦にはサクラ様とユキムラ殿、さらにツバキ殿やカザハナ殿を中心とする面々を。スサノオ長城にはタクミ様とヒナタ、オボロ殿が布陣するという。リョウマ様とヒノカ様は城を離れず、本国の防衛に専念されるという。先に言った二つはどちらも防衛に特化した造りで、白夜の誇る最大の拠点だが、同時にこれが陥落することは即ち白夜にとって最大の痛手を意味する。そしてシラサギ城が落ちるということはあってはならないが、今までのカムイ様の戦いを考えるにそうは言いきれない―――

 

いや、深く考えるのは止そう。これは白夜の命運を賭けた戦いなのである。敗北は許されない。

 

***

 

テンジン砦が陥落したという知らせが入った。

サクラ様やユキムラ殿を始めとした、砦に布陣していた皆がどうなったのかは分からない。

ごく僅かに生存していた兵が持ち帰った情報によれば、戦闘後に生き延びた兵もガロンの直属軍の手によって見せしめのように殺されたという。しかし、サクラ様やユキムラ殿が戦死及び処刑されたという情報はまだ入っていない。まだ確定はしていない以上、可能性を信じて何かしらの連絡が来るのを待つべきなのだろうか……

 

加えて、今回の戦いの中で再び奇妙な噂を耳にした。なんと暗夜王国の第二王子レオンには子供がいるというのだ。真相は定かではないが、戦場で一人の少女がかの男のことをお父様と呼ぶのを聞いたという。レオン王子はおそらくタクミ様と同じ年齢のはずだが、一体どういうことなのだろうか?今までの件と合わせて、暗夜王国にはもはや疑問とは言うにはおかしい、いうなれば不可解な点が多い。

 

***

 

スサノオ長城までもが陥落した。タクミ様は戦闘が決してから消息不明だという。

 

長城の部隊は壊滅。ヒナタとオボロ殿も戦死したという報告が入った。今まで何人もの白夜の民が同じように命を散らせたというのにこの感覚の違いは何なんだろう。私も彼らのように武器を持って戦っていた方がよかったのだろうか。

 

私のような貧弱な者が武器を持ったところで何の足しにもならないことは明白だっただろう。しかし、犠牲が積み重なる時こそ自らの非力を恨まずにはいられない。

 

***

 

ついにカムイ様の率いる暗夜軍の王都入りを許してしまった。

 

これからは王都も戦場となるのは間違いない。そんな中、非戦闘員である者々にはある指示が出た。戦うことができない者は暗夜軍が侵攻するよりも前に王都より立ち去れ、と。強制する気は一切なく、残るも去るも自由だという。私の周りには、戦うことができなくともここに残るという者も多いようだが、おそらくは私は去る側になるだろう。私には戦う力はない。しかし私には失いたくない大切なものがある。

 

やはり私はただ見ていることしかできないだろうか。力を貸そうとはしていないのだろうか。他人に頼っているだけだというのだろうか。私自身であってもそれは分からない。

 

 

 

どうやら今の私は色々と混乱しているようだ。しばらくの間日記を書くのは難しいだろう。

 

***

 

 

 

 

 

 

 

***

 

この日記を書くのは随分と久しぶりのように思える。戦争は終結した。白夜の敗北によって。

 

リョウマ様とタクミ様は戦死されたようだが、あの激しい戦闘の後行方が分からなくなっていたヒノカ様とサクラ様はカムイ様に匿われており、生存していたということが分かった。

 

後になって知ったことだが、暗夜軍は元から二派に割れていたという。一つはガロン王やその側近を初めとする過激派、もう一つはカムイ様を中心とする穏健派。カムイ様の率いる派閥の規模は少しずつ大きくなってはいたが、やはりガロン王に真っ向から反逆するのは難しかったようで、終始に渡ってガロン派の大頭、それによる葛藤が続いていたらしい。そして、白夜を制圧した後にその二派では最後の内乱が起こり、結果としてガロン王の一派は敗北、ガロン派を構成する者の大半は戦死、カムイ様の率いる派が勝利したらしい。その結果、最後に生き延びた白夜の者たちは皆助命されたのだと。

確かに改めてそのように説明されれば暗夜軍の不可解な動きにも説明がつく。我々が払った犠牲は大きかったが、カムイ様は我々が知る人物のままだった。ヒノカ様もそう言われていたように、彼らの行動、そして彼らの執った手による犠牲の大きさを考えれば、決して許せるようなものではないだろう。だが、それでもカムイ様は必死に皆を救おうとしていた。結果的には多くの犠牲が出てしまったにせよ、カムイ様がまだ我々の知る人物であったからでこそ、ヒノカ様やサクラ様、更には命を失わなかった白夜の勇士たちは落命せずに済んだと思えば納得できないこともない。

私はそう考えて、筆を置くことにする。

 

 


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