コードギアス 反逆のお家再興記   作:みなみZ

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1話

運命とは流れる大河のごとく。そして人などはただその運命と言う川を流されているだけに過ぎない。故に人の思いも涙も、全ては運命の流れなのかもしれない。

 

しかし…人間たまには運命という大河をクロール等とは言わず、バタフライで歯向かってみたいものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、朝である。

窓の外からは陽気な朝日と、小鳥が可愛らしく囀る。

麗らかな新たなる日の始まり。

しかし僕にとっては自らの誇りと尊厳と貞操を賭けた戦いの一日を告げるものである。

 

一度伸びをしてからベッドを立ち上がり、床に片ひざを付き、神に祈る。

 

 

 

神よ…今日も僕の尻を守りたまえ…

 

 

 

「んがーー」

 

 

日課の祈りをしていると、中々に豪快なイビキが聞こえてきた。

確かめるまでもない。

これは僕のルームメイトのイビキだ。

このイビキを聞いた瞬間に僕のテンションはガタ落ちだ。

イビキを立てているほうに視線を向けると、上半身マッパという男の裸など見たくない姿で、布団を抱き枕のように抱きしめながら眠っている男がいる。

とりあえず寝る時位、肌着着てくれよ。

 

 

「んごーんごー…ぎりぎり…でへへ…いいじゃないかよぉ…」

 

 

そんな僕の気持ちも知らずにルームメイト―――ジノ・ヴァインベルグは豪快なイビキを立てながら、歯軋りをして、気色悪くにやついていた。

何がいいのかは、僕には永遠に解らないが、とりあえずきしょいっす。

 

時計を見て見ると、朝の六時半。

そろそろこのルームメイトを起こしてもいい時間帯である。

僕としては、このまま起こさずに眠っていて欲しいものだが、如何せん。

同居人が寝坊などして、遅刻などすると連帯責任で、僕にも罰が来るのだ。

ああ、悲しきかな。ブリタニア士官学校。

ああ、潰れてくれないかなぁ。ブリタニア士官学校。

 

壁際に立て掛けて置いた棒、目覚まし棒を手に取り、一定の距離を保ちながら眠りこけるジノをつつく。

最初の頃は、近くに近寄り、揺すって起こしていたが、この男は寝ぼけているのか狙っているのか解らないが、何故か目覚めと同時に人に抱きついてくるのだ。

想像して欲しい。朝っぱらから上半身裸の男に抱きつかれて嬉しがる男がいるだろうか?

そりゃもちろん腐女子やガチホモ系にはマジシンボウタマランシュチュエーションかもしれんが、至ってノーマルな僕にはマジ勘弁な展開だ。

 

それ以来、僕は一定の距離を保てるこの目覚まし棒を使い、ジノを目覚めさせているのだ。

 

「ぐおーぐぐおー」

 

しかし毎度の事ながらしぶとい。

もう結構な回数を突付いているというのに起きる気配が微塵足りと見当たらない。

まあ毎度のことなので、僕も慣れたものだ。今まで突付いていた強さを、抉るような強さに変える。

 

「んごっふぅ、んー…だめだってぇばよ…SMは苦手だって言っただろ…んが!?」

 

なにやら恍惚の表情になってきたので、目覚まし棒をジノの鼻の穴に抉りこんだ。

さすがに鼻の穴は性感帯ではなかったようだ。

苦悶の声を上げつつ飛び起きた。

 

「おはよう」

 

鼻の穴を押さえながら呻いているジノに、爽やかに朝の挨拶を告げる。

あ、鼻血だ。

 

「おはようじゃねえよ!

鼻血がでてるじゃねえか!」

 

「大丈夫。ジノ。

君は鼻血を流していてもいい男だ。

いや、むしろ鼻血が似合ういい男だよ」

 

「えっ、そ、そうか?」

 

「ああ。

君ほど鼻血が似合う色男はそうはいないよ」

 

「そ、そうか。

どれ。んじゃちょっくら確かめてみっか」

 

僕の言葉に気を良くしたのか、ジノは近くにあった手鏡を手に取り、自らの表情をチェックしている。

本気にするなよ。鼻血シーツに垂れてるぞ。

 

この鼻血垂らしながら、自らの美を追求しようとせん漢の名前は、ジノ・ヴァインベルグ。

ブリタニアでも、有数の貴族の名家ヴァインベルグの嫡男として生まれながら、軍人の道を選んだアウトローな男だ。

その輝かしい生まれと、学生達の中でトップという確かな実力。本人の王子様な容姿で、ブリタニア士官学校の中では生徒達には勿論。教官たちからも一目置かれている存在だ。

鼻血垂らしながら、ポージングしている今の姿からは想像付かんが。

 

 

「どうよ?アクア。

この角度からのこのポーズいけてね?」

 

 

 

 

本当に心底到底想像が付かなすぎる。

 

 

 

 

 

 

 

場所は移動して食堂。

 

朝食を食べようと飢えた狼たちが、群れをなして獲物をかっ食らう場所である。

僕が何をしに来たのかと言えば、飯を食いに来たのだ。

それ以外の何もない。

 

配膳を貰い、席に着くとジノが僕の対面側の席に座ってきた。

しばし鏡を覗いては、ポージングを決めていた、ジノであったが、流石にあほらしくなったのか、鼻にテュッシュを詰めてから朝の準備をして、僕と共に朝食を食べに来たのだ。

辺りは活気に満ちている。それはいつもの光景であったが、今朝の食堂はいつも以上に活気に満ちていた。

 

「あー…明日から長期休みか。

アクアお前はどっかにいくのか?」

 

目の前にある朝食を食べながら、ジノは周囲の活気の要因となっている話を切り出してきた。

 

「いや、行く所も用事もないし。

あったとしても、行きたくないし。

僕は何処にも行かないよ」

 

我ながら若いもんとしてこの発言はどうよ?

と思う言葉にジノは羨ましいと言わんばかりの視線を僕に向け、ぼやく様に言葉を発してきた。

 

 

「俺は実家に帰んなきゃなぁ。

親父達と会うんだぜ…絶対めんどくせぇ事になるぜ」

 

 

 

ジノは名家ヴァインベルグの子として生まれ、両親からは花よ蝶よと育てられたそうだ。

男なのに。

行く行くは、ヴァインベルグの豊富な資金を使い、商業に精を出してほしいと考えていた、両親だが、ジノの選んだ道は、そんな真っ当な道とは180度違った軍人としての道だった。

その考えに当然激怒し、反対し、考え直すように説得する両親。

しかしジノはそんな両親の懇願に耳も貸さずに、軍人の道を進むことを熱望した。

その攻防は数年にも及び、その結果は、両親が折れた形となった。

かくして士官学校に通えることにはなったジノであったが、両親はジノに幾つかの条件を出した。

そのうちの一つが少しでも長い休みが出来たら、実家に帰る事である。ジノは決して両親のことを嫌っているわけではない。

むしろ大切に思っているだろう。両親がジノを大切に思っているのと同じように。

しかし帰省するたびに、士官学校を辞めろと言われ続けるのは、流石に堪えているのだろう。

 

 

「帰る家。

HOMEがあるという事は、幸せに繋がることだよ」

 

適当に昔見たアニメの台詞をぱくって言った言葉に、ジノははっと何かに気づいたように、こちらを見つめてきた。

なんだろうか?

 

「いや…そうだな。

すまなかったな。アクア」

 

そして目を伏せながら痛ましい者を見るような視線を向けてきた。

すまない?なにがっすか?

 

「いや…いいさ」

 

自分でも、なにが良いのかさっぱりわからんが、とりあえず、話を合わせておく。

僕の苦手なコミュニュケーションの基本だ。

 

この言葉にジノは微笑みながら、礼を言い、他愛もない話を振ってくるのだった。

 

 

しかし実家か。なついぜ。

僕の実家アッシュフォード家が…

 

 

 

 

 

 

 

 

僕、アクア・アッシュフォードは成り上がりの一族、アッシュフォード家の嫡男として生まれた。

アッシュフォードは成り上がりの一族であったが、アッシュフォード家が主体となったKMF開発計画の成功、そして皇妃のマリアンヌとの深い親密関係にあったアッシュフォード家は名家と言える程の一族となっていた。

 

僕の姉ミレイ・アッシュフォードは、マリアンヌ皇妃の息子である、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア皇子と婚約を果たし、僕はその妹であるナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女と婚約をし、両家の繋がりは更に盤石となったのであった。

 

僕は子供の頃から、社交性やコミュニュケーションと言った物が極端に苦手な子供であった。

表情は常に無表情。子供は活発という言葉とは正反対な僕であったが、お祭り好きの姉のミレイ。シスコンで執念深い未来の義兄ルルーシュ。明るく元気いっぱいな僕とは正反対な気質を持った未来の嫁ナナリー。

などといったお祭り軍団はそんな事気にも掛けず、僕にかまってきた。

ルルーシュはシスコンなだけに、ナナリーの夫となる僕にあまりいい感情は抱いていなかったようだ。

僕が未来の予行練習として『お義兄さん』と呼ぶと「誰がお前の兄だ!」と烈火のごとく怒られた。

これだからシスコンは。

 

つまり僕は、家金持ち。将来美人が確定しているような、幼女が婚約者。といった人生勝ち組人間であった。

僕の聖地、2ぶちゃんねるで、そんな僕をどうおもいますか?とスレットを立てたら、あっという間に僕への嫉妬と、批判でいっぱいのレスが付いたので、『てめえらザマァwww』とレスを付けて置いた。

優越感でいっぱいだ。

 

 

 

 

しかし人生そう上手くは行かない物である。

なんと僕らアッシュフォードと皇族の掛け橋であったマリアンヌ皇妃が暗殺されてしまったのだ。

しかも僕の婚約者である、ナナリーはマリアンヌ皇妃暗殺に巻き込まれ、視覚障害に加え、歩くことも出来ない体となってしまったのである。

これは本気で参った。

 

マリアンヌ皇妃が暗殺され、ルルーシュとナナリーは皇位継承権を剥奪され、日本へと移送されてしまった。

アッシュフォードは皇族への繋がりは閉ざされてしまったのだ。

それはアッシュフォードの没落への道を示す事であった。

 

おかげで家の雰囲気が暗くて仕方がない。僕としても最初は途方にくれていたが、ある程度時間がたつと、起こってしまったことは仕方がないじゃないかと開き直ってきた。

 

確かにアッシュフォード家は没落するかもしれない。

でも別に死ぬわけではないし、没落とは言っても、生きるのに困るような生活になるわけでも無い。

僕自身としても権力や家柄など興味も無い輩だ。

つまりは特に問題無し。

結論を出した僕は、部屋でゴロゴロとニートな日々を送った。

 

僕にとって幸いだったのは、アッシュフォードがこの大困難についての対処に終われて、僕にかまける余裕がなかった事。

そして、婚約者に悲劇があり、落ち込んでいるだろう僕を腫れ物扱いにして、ほっといてくれたお陰で、僕は十二分に毎日ニブニブ動画を楽しむ日々が送れた。

 

 

しかし僕の至福の時間は唐突に終わりを告げる。

 

運命の日。

今日も今日とて、ニブニブ動画でアイブスの美不ちゃんの動画を見ようとパソコンを起動した僕であったが、直ぐに電源を落とすことになる。

部屋のドアがノックされ侍女が声を掛けてきたのである。

当主である祖父が呼んでいると。

 

 

 

 

 

「ご機嫌麗しゅうお爺様。

アクア、参りました」

 

「うむ。

よくきたな、アクアよ」

 

爺さんは挨拶を返したっきり黙りこくってしまった。

いつも陽気でお祭りが大好きで、確実にその性格を孫のミレイに譲ったのが分かる爺さんのこんな姿を見るのは初めてのことだ。

 

よく爺さんの顔を見ると頬がコケ、目の下には大きな隈があった。

この有様が今のアッシュフォードの状況を表している。

 

「アクアよ…

今のアッシュフォードの状況が如何に苦しいかわかるか?」

 

しばし黙り込んでいた爺さんであったが、震わせながら、搾り出すようにして声を発してきた。

 

その問いに頷き返答を返す。

 

「お前も知っての通り、今のアッシュフォードは壊滅的なダメージを負っている。

マリアンヌ皇妃の死。それによりルルーシュ皇子やナナリー皇女の追放。

マリアンヌ皇妃を全面的にバックアップしていた我らの損害は計り知れない。没落の可能性もあるほどだ…」

 

本当に辛そうに、語る爺さんには悪いが、僕には家のことにはあまり興味はなかった。

僕たちアッシュフォードが没落するとは言っても、別に死ぬわけではないのだ。

勿論マリアンヌ皇妃やナナリーのことは気の毒ではあるが、全ては過ぎ去ってしまったこと。

大切なのは皆幸せに生きていることであろう。

大丈夫。権力なんか無くても生きていけるさ。爺さん。

 

そのまま暫し祖父はなんたらかんたら喋っていたが、右から左状態で聞いていた。

 

「我らアッシュフォードがかつての栄光を再び手にするには、功績が必要となる」

 

話がようやく本題に入ったのか、爺さんは目を伏せながら一度ため息を吐いて言葉を紡いだ。

 

「功績、ですか?」

 

「そうだ。

この度の出来事を覆すような功績。

それはアッシュフォード家全体の功績でも良いし、個人の功績でも良い。」

 

功績ねぇ。

確かにこの不祥事を覆すような功績があれば、大丈夫かもしれないが…

むしろ僕や、姉さんが政略結婚したほうが早いんじゃないかな?

なんて思考真っ黒な事を考えていたら、祖父が急ににこやかな笑顔になっていた。

さっきまでのギャップでちょいとびびった。

 

「それでだ。

お前は我らアッシュフォードが、KMFの開発を行っていたのは知っているな?」

 

「え、あ、はい。

勿論存じておりますが…」

 

いきなりの方向展開にすこしどもりながらも肯定する。

アッシュフォードは閃光のマリアンヌとまで謳われた、マリアンヌ皇妃と共に、第三世代KMF―――ガニメデの開発を行っていたのは周知の事実である。

僕も姉に引っ張りまわされて、現場に何度か訪れ、戯れにシュミレーターなどで遊んだ経験がある。

 

「うむ。

お前は戯れにシュミレーターなどで遊んでいたのだろうがな…

しかしマリアンヌ様はこう、言われていた」

 

クワッ!

という擬音が付きそうな勢いで瞼を開ける爺さん。

目が血走っていて怖いっす。爺さん。

 

「お前にはKMFの操縦に対する天賦の才があると!」

 

ジャジャジャジャーーーン!

みたいな効果音が聞こえた気がした。

目が血走りすぎてマジで怖いっす。爺さん。

 

「故にお前は軍人となるのだ!アクアよ!」

 

ドンガラガッシャーン!

と雷が落ちたような気配が感じた気がした。

は?何言ってんの?

この爺は。あと目がもう殺人鬼のような目つきになってます。

ごっつやばいっす。爺さん。

 

「功績を立てるのだ!

そしてその功績を持ってアッシュフォードに栄光を取り戻す!

これだ!これしかない!今やアッシュフォードの命運はお前が握っているのだ!アクアよ!」

 

僕の思いを微塵たりとも感じていない爺はさらに暴走していた。

 

なんすか?

この展開は。

急展開にも程がある。

軍人ですと?他国に戦争売りまくっているブリタニアの軍人になるなんて、死亡フラグを自ら立てるような事誰がしてたまるか!

僕は平穏無事に暮らしたいんだ。

その為にはこのいっちゃてる爺さんを説得しなくては。

 

 

「お爺様、それ「まずは士官学校への入学からだ!もう手続きは済ませてある!入学は明日からだからな。お前の荷物も今纏めている所だ!お前は今すぐ士官学校の寮に向うのだ!なーにあの閃光のマリアンヌ様がお前に天賦の才があるといったのだ!そのお前ならばたぶん大丈夫だ!手柄をとってくるまで家に帰ってくるんじゃないぞ!わっはははははは!ではお前たち!アクアを士官学校へと連れて行くのだぁ!オール・ハイル・ブリタニア!オール・ハイル・アクア!オール・ハイル・アッシュフォード!」爺人の話を聞けよ!あっ!?手前ら何しやがる!離せって、それスタンガン!?ちんげ!?」

 

信じられない。

何処の世界に実の孫をスタンガンで気絶させる祖父がいるんだよ。

 

意識を失う前に目に焼きついた光景は、孫にスタンガンを突きつけながら笑い続けている爺だった。

この爺マジにいかれてやがる…。

 

 

 

 

後から聞いた話だとこの時、爺は躁病になっていたらしい。

やはりいかれていたか。

 

 

 

 

かくして、僕は、賭博漫画のブイジに出てくるような黒服のサングラス姿の爺の手下につれさられ、士官学校へと入学された。

人身売買された気分だ。

 

入学して最初の頃は、どうやって、学校を辞めて家に帰るか?

そのことばかり考えていたが、冷静に考えて見れば、あのクソ爺の様子では、仮に士官学校を中退して実家に帰っても、そこに僕の居場所はないだろう。

仕方ないから、とりあえず軍人になって、頑張って死なないように、そこそこの功績を上げ、退役するしかない。

そう考えた僕はとりあえず、軍人になった時死なないように訓練を頑張った。

お陰で成績もまあまあ。

ルームメイトとなったジノともそこそこに仲良くやって、僕の仕官学校生活は最初は中々に順調満風と言えた。

 

しかし後に僕はこのブリタニア士官学校の真の恐ろしさを知り、恐怖に慄くことになる。

 

軍人は当たり前だが、女よりも男のほうが数が多い。

ブリタニア帝国は男尊女卑ではなく、男女平等なので、女の軍人もいるが、やはり男の方が多いのが実情である。

したがって軍人の養育施設である、士官学校も必然的に男の方が圧倒的に多い。

考えて欲しい。

そんな男だらけの中で、性欲を滾らせた青少年はどうやって性欲を発散するのか?

 

 

1 砂漠の中で一粒のダイヤの欠片を見つけるかの如く、彼女を作るか。

 

2 右手を恋人にして、自らを慰めるか。

 

3 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・男同士で交わるか。

 

恐ろしすぎる事実だが、ブリタニア士官学校では3が盛んだったのだ。

なんと恐ろしい。

 

僕は今ままで自分の容姿には無頓着であった。周りの人間が綺麗所であったのも災いしたのかもしれない。

自分の容姿を普通と思っていた。

 

しかしどうやら、僕の容姿は綺麗所に入るようだ。

僕はこの淫獄の館においては格好の餌だったのだ。

僕の尻が狙われたのは1度や2度ではない。

マジ勘弁してください。

 

僕の貞操のピンチだ。

 

そしてよくよく考えて見れば、ジノも油断できないと云う事に気づいた。

あの金髪碧眼という王子さまなルックス。

そしていつも何かと、べたべたと抱きついて引っ付いてくる態度。

時折僕のことを切なそうな瞳で見つめる視線。

 

間違いない。

僕の灰色の脳細胞はある事実を確信した。

奴は薔薇の王子さまだと。

 

その事実を確信した後、僕は自らの体を鍛えた。鍛えまくった。

ジノは年齢の割に体が大きく、ブリタニア人の標準の体を持つ僕よりも体が出来上がっている。

そんなジノに今の僕が押し倒されたら、あっという間に僕は強制的に

「やらないか?」で「アッーーー!」

のコンボになってしまう。

僕の貞操の大ピンチだ。

そうならないように、少しでも体を鍛え、反抗しなくてはいけない。

そしてそれは、他の奴に押し倒された時にも同じだ。

 

それ以来、僕は朝に神に貞操の祈りをし、体を鍛え、1日始終気を緩めず、貞操の為に日夜切磋琢磨しているのであった。

 

 

ジノよ!

そして僕の尻を狙うその他大勢よ!

僕の尻は僕の物だ!誰にもわたさんぞぉ!

 

 

僕の孤独な戦いは続く…。

 

 

 

 

 

 

 

■ジノ・ヴァインベルグ■

 

 

 

 

アクアと共に食事を取りながらつい振ってしまった、実家の話に、俺は自らの失敗を悔いた。

 

 

 

アクア・アッシュフォード。

 

初めて会った時感じた印象は『綺麗なお人形さん』だった。

少し青みが掛かった白い髪に、青い瞳。こいつの両親がアクアと名づけた理由が人目で分かる容姿に、無表情な、女のような顔つきに細い体。

どう見ても軍人の卵とは思えない容姿だ。

あまりにも頼りにならない印象。

どこぞのアイドルグループに紛れていたほうが違和感が無いくらいだ。

 

しかしそんな印象は直ぐに吹き飛ぶことになる。

常に周囲を威圧するような空気。

訓練の際のあまりの真剣振りには教官も驚くほどだ。

そう―――まるで戦いに恋焦がれているように。

 

何がそこまであいつを戦場へと思いをはせるのか?

俺はアクアに興味を持つことなり、奴を少し調べて見た。

そしてその調べた結果により、奴が何故こんなにも戦場へ思いを寄せる事となる原因を知る事になる。

 

アクアの実家アッシュフォードはあのマリアンヌ皇妃と繋がりの深かったことで有名であった。

しかしそこであのマリアンヌ皇妃の暗殺テロ。

今やアッシュフォード家は没落の危機に大いに晒されている。

そんな中でアクアは軍人となりて、功績を立てる事を、アッシュフォードの家の者から期待されているのだろう。

なにしろあの才能だ。期待せずにはいられないだろう。

そしてアクアもその期待に応えようと、ひたすらに己を磨き続ける…。

そう、まるで尖り過ぎた鉛筆のように。

己を削りすぎ、尖りすぎた鉛筆は直ぐに折れることになる。

しかしアクアはそのような事は構わないとばかりに、己を磨き、酷使し続ける。

 

まあ、でも別にそれもまた奴の人生だ。

人生を楽しむ。というコンセプトの俺からして見れば、理解できないが、あいつの人生。それもまたいいさ。

あれを見るまで俺はそう思っていた。

 

それは、ある日偶々俺はいつもより早く目が覚めた。

いつもならアクアに起こされている俺が、起こされる前に目が覚めるなんて、なんと珍しいことよ。

なんて思って目を彷徨わせたら。

 

其処には唯ひたすらに何かに祈っているアクアがいた。

 

それはまるで無垢なる赤子のように。

または純白なる聖者のように。

それはあたかも宗教画に描かれた殉教者のように。

神聖なる雰囲気を辺りに醸し出していた。

 

それ以来、何度か早めに目を覚まし、確かめたが、あいつは毎日祈っているのだ。

唯ひたすらに純粋に。穢れなき思いを神に。

 

アッシュフォード家再興の為だけにあいつが、自らを磨き続けているのかはわからない。

きっと俺なんかが、考えも付かない思いを抱きながら、あいつは自らを磨き、悩み、悔やみ、挫折し、それでも自らの願いを、そして誰かの願いを叶えようとしているのだろう。

 

そう、自らの命すらも掛けて。

 

 

それから俺はこの危なっかしくも、純粋なルームメイトが放って置けなくなっていた。

この危険な小僧と一緒に道を歩んでやる。嬉しい時は共に喜び、楽しい時は共に笑い、悲しい時には共に泣いてやり。

人生を楽しむのだ。

 

それが相棒である俺の役目って奴だ。

なあ、そうだろ?アクア…

 

 

 

 

■アクア・アッシュフォード■

 

 

 

 

 

ううぅ…またジノから切ない視線を感じる。

間違いない。

これは恋する乙女の瞳だ。もはや120パーセント間違いない。

 

僕の尻はジノに狙われている!

こんな熱い視線を向けられるのは初めてだが、向けられたくなど無かったぁ!

 

やられてたまるか!

僕の尻は僕の物なんだよぉ!

そんな瞳を向けられても駄目だからな!

くくぅ・・・この調子では近いうちに実力行使で

「やらないか?」で「アッーーー!」が来るかもしれない。

もっと強くならなければ!頼むから早まらないでくれよ!ジノ(泣)!

 

 

 

自由への道は遥か遠く、孤独な戦いはさらに続く…。






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