コードギアス 反逆のお家再興記   作:みなみZ

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2話

「半人前だった我らを、見放さず教育した下さった、教官達―――」

 

ブリタニア士官学校の大講堂。

今ここでは、僕達の学年の卒業式を行っている。

今は学年トップの成績で見事に主席を務めたジノが、壇上で卒業生代表として訓辞している最中である。

 

 

長かった…。

ジノの訓辞を聞き流しながら、僕は一人深い達成感にも似た感情を噛み締めていた。

入学してから幾うん年。名も知らぬ生徒たちに狙われ、迫りくる淫獣どもを、千切っては逃げ千切っては逃げ。果てにはルームメイトにすら狙われるという、安息という場所が無い世界。

信じられるのは数少ない女性達と鍛え上げた己自身のみ。

淫獣達の攻めに屈した時、それは新たなる世界―――新世界もとい、ち〇世界の幕開けとなる。

新世界にも程がある。誰かドヴォルザークに謝って来い。

 

しかし僕はやりとげたのだ。

この不条理な淫獄の世界に決して屈せず…尻を守り抜いたのだ!

貞操を守り抜き、聖男として居るのだ。

えらいぞ、僕。よくやったぞ、僕。泣いてもいいぞ、僕。

 

「―――私からの言葉はこれにて終了させていただきます。卒業生代表、ジノ・ヴァインベルグ」

 

自分が成し遂げた偉業を一人静かに称えている間に、ジノの訓辞は終わったようだ。

一礼をしてから、壇上を降りてジノが自らの席―――僕の隣の席に戻ってきた。

 

僕に対して、キラリンと王子さまスマイルで笑うジノに苦笑いで出迎える。

 

「えーでは次に当校第八ブリタニア士官学校校長からの―――」

 

進行の言葉と同時に、ダンディズム溢れたおっさんが壇上に上がる。

ちなみにこのおっさん。20年以上連れ添った奥さんがいるのだが、その奥さんに秘書のアシェリー・ラマンさん(25歳)との浮気を暴かれ、現在離婚調停中であり、現在奥さんとは別居中。

11歳と言う可愛い盛りの娘さんから、ゴキブリを見るかの様な視線に晒されているという涙を誘うおっさんだ。

大丈夫おっさん。ゴキブリだって頑張って生きてるんだから。一寸の虫にも五分の魂よ。

ちなみに情報提供者はブリタニア士官学校一の情報ネットワークを持つ、食堂のおばちゃん。イヤー・グレイトさん(42歳)誰々がガチホモとか、僕を狙っているとか、いつも有益な情報提供、本当にありがとうございます。

 

「諸君。卒業おめでとう。我らはひよっこだった諸君らがこうして―――」

 

 

 

 

早く終わんないかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大講堂での卒業式を終え、僕達学生は、己の教室に戻り、担当教官を待っている。

教官は学生たちに、配属地域と部隊を告げるのが教官としての最後の仕事だ。

 

自分の席に座って待っていると、ジノがこちらに寄ってきた。このホモともこれでお別れか。

 

「いやーこれで俺たちも卒業だな。アクア」

 

「ああ。やっとだね。早く卒業したくてたまらなかったよ」

 

この淫獄の館から。

 

「…お前らしいな。早く実戦に出たくてたまらなかったって事か」

 

そんな事はありえないのだが、流石に、君を含めたホモ達から逃れたい。

なんて言える訳が無い。曖昧に笑ってごまかす。

 

「しっかしお前との付き合いも、この学校にルームメイトになってからだから随分と経つな」

 

ジノがしみじみと頷きながら感慨深そうに言う。

 

そう―――僕はその長い間、ジノやガチホモ達の猛攻を凌いだのだ。

すごいぞ。僕。かっこいいぞ。僕。泣いてもいいぞ。僕。

 

「そうだね。でも部隊配属はバラバラになるだろうからね。ジノともこれでお別れか」

 

「おいおい。俺たちの友情はそんなもんで終わるもんじゃないだろ?」

 

友情。確かにジノとは尻の関係を抜かせば十分に友情を築いてこれたと思う。

ジノ自身も僕のような、コミュニュケーション能力が欠けた人間とも付き合ってくれるいい人だ。

尻を抜かせば。

卒業して、たまに会うくらいならば、尻を狙われる心配も無い。

ジノとは友人関係を続けても大丈夫だ。

尻さえ死守すれば。

 

「ああ、すまなかった。僕たちならば大丈夫さ」

 

「ああ。…その通りだ」

 

少し微笑みながら答えた僕の言葉に、ジノは誰もが見惚れるような満面の笑顔で応えてきた。

その笑顔にトクンと高鳴るむn…べ、別に胸が高鳴ったりなんかしてないんだからねっ!本当なんだからねっ!

 

自分では絶対に認めたくない心のドキマギに苦しんでいると、教官が教室に入ってきたので、ジノは自らの席に戻る。

ナイスタイミング教官。

危うく道を踏み外し、自ら〇ん世界への道へと旅たつ所だった。

あとドヴォルザークさん、すいません。

 

 

 

 

 

 

「スヌア・ボラギノール。イオーヤ・オロナイン。両名は所属地域はブリタニア本国。所属部隊は―――」

 

教官が学生たちに配属地域と部隊を告げる。

 

しかし配属地域と言っても殆どがブリタニア本国に配属だ。

士官学校卒業したてのほやほやに、いきなり侵略作戦中の前線に出ろというのは無理な話しだ。

殆どが戦争の無い本国や、もしくはすでに統括したエリアに配属となる。僕としても功績を取ってさっさと軍を退役したい所だが、功績の為に死ぬのは真っ平ごめんだ。

ここはまずは安全な所で軍人を経験してから「ジノ・ヴァインベルグ。アクア・アッシュフォード。配属地域―――E.U.」なんですと?

 

E.U.―――ヨーロッパ地方を中心とした国家で、民主主義の政治体制を取る国家である。

ブリタニアと対立している二強国の一つであり、現在もブリタニアとの戦争が激しく続いている国である。

つまりは最前線。死亡率ナンバー1。そんなバナナ。

 

一瞬聞き間違いかと思ったが、学生たちの間にざわめきが起こっているので、悲しいことに聞き間違いではなさそうだ。

それでは教官の勘違い。もしくは言い間違えか?

こう、E.U.じゃなくて。そう、良い・湯ー。だな。はぁービバノンノン。 見たいな世界のどこかにあって欲しいエリアとか。

 

「あの教官、失礼ながら、二人の配属場所…間違いでは?」

 

ナイス。名も無き生徒Aよ。

 

一人の生徒が席を立ちながら、教官に質問する。

そうだ。間違いであれ。間違いであってくれ。

 

「間違いではない」

 

 

ピッチャー投げた!三振!バッターアウト!ゲームセット! さよなら!僕の甲子園!  

 

 

現実はこれ位に非常だった。

 

 

「ジノ・ヴァインベルグ。アクア・アッシュフォード。両名はE.U.―――最前線への配属となる」

 

ジーザス。

神は死んだ。ついでに僕も死にそうだ。

 

教官の駄目だしに、教室の中はさらにざわめいていく。

もう一人の当事者であるジノに視線を向けると、さすがのジノも驚きの表情を顔に貼り付けていた。

 

「教官。

自分たちの配属地域がE.U.である事の理由をお聞きしたいのですが」

 

席を立ち上がり教官に尋ねる。

軍人は上官からの命令は絶対服従。

本来ならばこんな質問聞いてはならないのだが、まだ軍隊に配属される前。

ならばここは、可能性がある限りごねて見よう!

 

「それはだな…」

 

「その質問には私が答えよう」

 

口を開こうとした、教官の言葉を遮る様に、ガラっと教室のドアを開き、入ってきたのは…校長!?

 

突然の校長の乱入にざわめく生徒たち。

教官も驚いてるし。つーか、あんた廊下でずっと待ってたんですかい?

士官学校の校長って暇なのだろうか?そんな暇があるんだったら、奥さんとよりを戻すように頑張って、娘さんからの信頼を取り戻せよ。

 

「校長…」

 

「オードリー君。ご苦労様。

ここからは私から言わせてくれ」

 

校長の言葉に教官は、一つ頷いて、教卓の場所を校長に譲る。

一つ咳払いをしてもったいぶるように間を取ってから校長は語りだした。

 

「さて、ジノ・ヴァインベルク君。アクア・アッシュフォード君。

君達二人の配属地域がE.U.と知って、さぞ驚いていることだろう。

この人事に付いては私から推薦させてもらった」

 

なんたる余計な事を。

あんた僕に死ねってか?

 

「君達二人は実に素晴らしい素質を持っている。

この第八ブリタニア士官学校中ではトップの素質を。

そしてそれは他の士官学校を含めても、君たちの才能は逸脱した存在だと私は思って…いや、確信をしている。

そんな君たちの才能を後方勤務や、哨戒任務。治安行為が殆どの非戦地に赴かせていいのか!?せっかくの天から授かった君たちの才がそんなことに使われて!」

 

 

はい。モーマンタイです。

つーか、むしろそっちに行かせてください。

 

 

「私は絶望した。

君たちの才がそんなことに使われる事に。

そんな中私は、私と同じ思いをした者を見つけたのだ。」

 

 

しかしそんな僕の思いを悟らずに、校長は自分に酔っているかのように演説を続ける。

なんかどっかで見たような眼つきしてんなぁ。

 

 

「それは以前から親交のあった別の士官学校の校長だった。

聞くと彼の学校の生徒にも非常に才溢れる生徒が一人居ると。

そしてその生徒の才が潰されることを嘆いてたのだ」

 

 

顔を手で覆い、全身で苦悩を表現している。

演技派っすね。校長。

その演技で奥さんも騙せたらよかったのに。

 

 

「私たちはお互いの生徒の情報を見せ合った。

そしてお互いに確信したのだ。

この三人なら今すぐに戦場に行っても、通用すると。いや、戦場のエースになれる実力があると!」

 

あ、思い出した。この眼つき。

俺を売り出したじいさんの眼つきにそっくりだ!こいつも逝ってやがんのか!?

 

「私とその同士は、君たちの実力を表したデータや映像を、前線基地の司令官、部隊長に送り、説得したのだ。

本来ならば、最前線に新兵を送ることなどあってはならない事だ。

新兵は戦力になるどころか、邪魔になることが多々ある。

一瞬の油断が即死に繋がる前線では尚更だ。

しかしそれでも前線の勇将達は、君たちの実力を見て、自らの部隊への入隊を認めたのだ!」

 

なんちゅー余計なことを。

あんた一寸の虫にも五分の魂と、慰めたこの僕に死ねってか!?

 

「君達も軍人になり、自らの才覚に応じた働きをし、上へと駆け上がっていくのだろう。

私はそんな君たちを少しでも手伝えた事を誇りに思う!

ジノ・ヴァインベルク君!アクア・アッシュフォード君!君たちは私の…いや当校の誇りだ!

思うが侭に突き進んで何処までも高く、遠くへ飛翔してくれたまえ!オール・ハイル・ブリタァニアァ!」

 

自己陶酔度120パーセントを突破した校長は感極まったように、涙を流しながら両手を大きく広げながら、演説を終えた。

この学校潰れればいいのに。

 

いや、別に僕は軍人に命掛けるつもりは微塵たりともないし、勝手に誇りにされても困る。

ちょっと功績が取れたら即効に退役するつもりだから、ぶっちゃけすごくありがた迷惑っす。

めっちゃノーサンキュー。

 

しかし僕の思い等、自分に酔いしれまくった校長には微塵たりとも察してくれない。

マジで潰れてくれないかなぁ。この学校。

いや、むしろ僕が潰したい。

 

その後校長は暫しの間、そのポーズのまま、静止していたが、無粋な邪魔者に再起動を余儀無くされる。

校長の携帯が鳴ったのだ。

着メロは「ブジャ魔女カーニバル」しっかりしてくれ。校長。

 

「おお…すまない君達。

まったく人がいい話をしている時に、何処の誰だ?一つ文句をいってやらん、と…」

 

不快の表情を露にし、ブツクサ文句を垂れながら、自らの携帯を懐から出し、液晶画面を覗いた校長の動きがピタリと止まった。

心なしか脂汗が出てる気がする。

 

なんだ?

 

「あー君たち。

申し訳ないが、私は重要な用件が入ったから直ぐに戻らなければ。

では二人とも、頑張りたまえよ!」

 

言いたいことだけ言って、校長は廊下に出て行ってしまった。

校長の不振な態度に、一瞬教室中がざわつくが、校長が廊下で電話を話す声が聞こえてくると、ピタリと静かになり、皆耳を傾ける。

ナイス反応だ。皆。そして僕も耳を傾ける。野次馬根性いっぱいだ。あ、君。そこのコップ取って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…もしもし?どうした?急に電話してきて…いや、そんな訳ないだろう!そう。今仕事中で生徒たちに、講義をしていて直ぐに電話に出れなかったんだ。

…ああ、そうだ。信じてくれ。私がお前に嘘を言ったことがあるのか?

い、いや、その事は!?その…すまなかった。

どうだ?ここいらでもう一度考え直して、話し合わないか?リーネもまだ11歳だ。

リーネの今後のことも考えて…ああ。良ければやりなおしてくれないか?私も反省している。いや!?その!彼女のことは…向うから言い寄られてつい」

 

「酷い…校長…」

 

「アシェリー君!?」

 

「貴方のほうから、奥さんと別れるからといって言い寄ってきたくせに…」

 

「いや、その、違うんだ!

アシェリー君!決してその、私はそんなつもりじゃ!」

 

「嘘つき!さっきの奥さんとの話聞いてたんだから!

何よ!何よ!私の事、皆馬鹿にして!嫌い、嫌い!皆大嫌っい!」

 

「ア、アシェリー君」

 

「でも…でも嫌いになれないんです…校長のことは…」

 

「…アシェリー君」

 

「奥さんがいるって知ってた…私の事遊びだって事も心のどこかでわかってた。

でも…それでも」

 

「…………」

 

「貴方のことが…

貴方のことが好きなんですっ!愛しているんです!」

 

「……アシェリー」

 

「ぐす…ひっく…」

 

「…ありがとう。

君の気持ちは、とても嬉しく思うよ」

 

「ぐす…ひっく…いえ。すみません。

大人気なく癇癪を起こしてしまって…」

 

「いや、謝らないでくれ。

私が、そう全て私が悪いのだよ」

 

「そんなことありません!私が悪いんです!」

 

「いや!私だ!君にそんな思いをさせた…私が悪いのだ」

 

「…校長」

 

「すまない。アシェリー君…私の中途半端な行動が君をここまで追い詰めていたとは…私は人として最低な人間だ」

 

「そんな…そんなことありません!

校長は私にひと時の幸せを与えてくれました!私にはそれで十分です!」

 

「いや違う!違うんだ!君の言うとおりだよ…私は遊びのつもりで君と付き合っていた」

 

「……」

 

「しかし今君に愛していると言われてやっと気づくことができた」

 

「…?」

 

「虫のいい話と笑ってくれていい。下種な男と罵ってくれてもいい。私は君の事を…愛していたんだ!やっと、やっと気づいたよ」

 

「!?」

 

「私は妻と離婚するよ。しかしそれは今回の事が原因で離婚するのではない。

君と結ばれたいから離婚するのだ」

 

「あ…あぁ」

 

「だから君にこの言葉を贈る。アシェリー君。いや、アシェリー!私と結婚してくれ!」

 

「あ…」

 

「返答を…返してくれないか?」

 

「はい…はい!喜んで!」

 

「アシェリー!」

 

「校長!」

 

 

 

 

 

 

 

「「「おめでとうございます!!」」」

 

「うお!?」

 

「きゃあ!?」

 

二人だけの世界と化していた共同廊下に、突如乱入する生徒達に驚愕する二人。

アシェリーさんは大粒の涙を瞳に溜めていた。萌える。

 

「き、君たち!?どうして!?」

 

「そりゃ教室の直ぐ外の廊下でこんなことされたら、誰だって気づきますよ」

 

校長の詰問にクラスメイトの一人が、目を糸のように細めながら答える。

そりゃそうだ。

 

士官学校の廊下でプロポーズが成功。

こりゃブリタニア士官学校始まって以来の快挙だ。しかも成し遂げたのは校長。

これは伝説になるぜ。桜の木の下で告白したものは両思いになる位の伝説に。

 

「おめでとうございます!」

 

「おめでとう!二人とも!」

 

「校長!もうアシェリーさんを泣かせるなよ!」

 

「結婚式には呼んでくださいね!」

 

「むしろ今が結婚式でいいんじゃね!?」

 

「き、君たち。ありがとう!本当にありがとう!

私は歴代のブリタニア士官学校の中でも、最高に生徒に恵まれた校長だよ!」

 

「ぐす…えぐ…ありがとう皆!」

 

生徒たちからの祝福に本当に嬉しそうにする二人。

アシェリーさんは涙を流しながらも本当に幸せそうに笑っている。テラ萌える。

 

 

この二人の選んだ道は、決して祝福されるものではない。

世間的にも論理的にも反したものであろう。

妻を捨てて新しい女を娶った男。妻から夫を奪った女。

二人が選んだ道は茨の道だ。誰からも理解されることは無いのかもしれない。

 

しかし其処には確かに愛があるのだ。

 

ならば愛が芽生えた瞬間。愛が誕生した時、祝福する事位、神様も許してくれるだろう。

いや、許さなければならない。

 

だから僕達は心から二人を祝福した。

もう二度と、祝福されることは無いのかもしれない二人を祝福することしか出来なかった。

 

 

 

 

「いよっしゃー!それじゃ二人の新たな門出を祝って胴上げだ!」

 

「「「よっしゃー!」」」

 

一人の生徒が、腕を天へと突き出しながら発した提案に、生徒たちは威勢良く応え、胴上げの準備をする。

二人なので、二つ、輪っか状のスクラムを作ると、主賓を寝かせ準備を整えた。

 

「おいおい、こんな歳になって胴上げとは。ははは!久しぶりで胸が躍るよ!」

 

「こんな嬉しい思いは久しぶり…ううん。初めてよ!」

 

喜ぶ二人を尻目に、僕達は視線を合わせ、頷きあう。そして一度腰を低くしてから、一気に腕を頭上にまで持ち上げる。

 

二人の体は高く舞い上がった。

 

 

「「「わっしょい!わっしょい!」」」

 

「わっはははは!」

 

「きゃー!きゃー!」

 

二人は嬌声を上げながら、生徒たちに委ねた体が舞い上がるのを楽しむ。

 

 

 

「「「わっしょい!わっしょい!」」」

 

「わっはぐほ!?ちょ、君たちうぼ!?高すぎて天井にめきょ!?」

 

「きゃー!きゃー!」

 

 

何故だろう?アシェリーさんの方の胴上げは、天井ににぶつからない一定の高さであるのに対して、校長のほうの胴上げは天井にぶつかっている勢いだ。

まるで手前何、美人な年下の女性を取ってんだよ!ゴラァ!と言わんばかりに、今まで士官学校で鍛え上げた筋力を有効活用している感じがする。

 

 

「「「わっしょい!わっしょい!」」」

 

「ちょ!やめてくぶれぇ!?マジでやばいんご!?」

 

「きゃー!きゃー!」

 

 

特に何時の間にか校長の胴上げに参加している教官が力はいりまくってる気がする。

ブツブツと何かを呟きながら腕に血管が浮き出るほど力を込めている。気のせいだろうか?

 

 

「「「わっしょい!わっしょい!」」」

 

「ぶぼ!?は、鼻が!?今めきゃ!?って音ぐへ!?」

 

「きゃー!きゃー!」

 

 

しかし気のせいだろう。此処にいるのはただこの二人を祝福するだけに居る者たちだけだ。

今までお世話になった校長に対して、つい力を込めてしまっているだけのはずだ。

校長は祝福されているのだから。

ちなみに僕も校長の胴上頑張っています。

力のあらん限りに。愛を込めて。

 

 

「「「わっしょい!わっしょい!」」」

 

「ごふ!ぐふ!めきゃ!ずしゃ!」

 

「きゃー!きゃー!」

 

 

 

いつまでも、いつまでも僕たちの祝福は続いた・・・。

 

 

 

「「「わっしょい!わっしょい!」」」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「きゃー!きゃー!って、きゃーー!?校長!?」

 

 

 

ちなみにこのとき、奥さんと話していた携帯が、通話中のままで、向うの奥さんと近くに居たリーネちゃん(11歳)に駄々漏れだったそうだ。

後日娘さんと校長が会った時、この世の屑が!と言わんばかりのブリザードの如く冷たい視線で見つめられたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて。

ジノ・ヴァインベルク。アクア・アッシュフォード。

先ほどの話の続きだが」

 

その溢れる愛ゆえに校長を病院送りにした僕達は、教室に戻り、僕たちの配属地域の話しの続きをしていた。

教官が壇上に戻り、説明を告げる。

 

「二人の配属地域だが、私から校長に変更を進言しようと思っている」

 

え!?マジっすか!?

 

「君達の配属先はE.U.の中でも特に最前線の所だ。

君たちの実力は私も良く知っている。

しかし、だからこそ私は変更を進言したい。」

 

こ、校長の野郎。

僕をどんだけ危ないところに放りなげるつもりだったんだ。

もっと愛を込めて祝福するんだった。

でも教官GJ!マジGJ!なんか教官が校長にこれ以上いい思いさせてたまるか・・・とかって言った気がするけどノープロブレム!

 

「二人ともそれでいいか?」

 

「もち「いいえ、教官。俺たちはそのままで結構です。」ローン!?」

 

開始早々、国士無双食らった気分だ。

 

痔ノ!じゃなかった。ジノ!お前は何を抜かしてんだ!?

何を考えて、好き好んで最前線に赴く!?と言うかなんだ、この「俺たちは」は!?「俺は」の間違いだろ!?僕を巻き込むな!

 

ジノに視線を向けると、ジノは何もかも分かっていると言わんばかりの、顔で一つ頷いてきた。

解ってくれたか!では直ぐに嘘デース。てへ☆とかって言うのだ!

 

「わかってるさ。アクア。お前は例え一人でも、前線に赴くつもりだろう?だったら相棒の俺も付いて行くさ!」

 

わかってなかった。

何もかも。

神は死んだ。

そして僕も死ぬ。

 

「さすがはジノとアクアだ…」

 

「あそこまで二人の間には愛の絆があるのか」

 

「くぅ!妬けるぜ!」

 

辺りからざわめきが聞こえてくる。愛の絆とかマジで勘弁してください。

あと妬けるんだったら、いつでも立場交換するから助けてください。

 

「わかった。では改めて告げる。ジノ・ヴァインベルク!アクア・アッシュフォード!配属地域E.U.!貴官らの武功を祈る!」

 

今正に僕の魂が燃え尽きようとする時に、教官からのトドメ言葉で僕は真っ白に燃え尽きた。

ついでに灰も吹き飛ばされた。

もう僕のライフは0です。楽に死なせてください。

 

「へへ。また改めて、宜しくな!アクア」

 

 

がんばれ。僕。尻を守るんだ。僕。泣いてもいいぞ。僕。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様ら!お待ちかねの新入りどもだ!

たっぷりとかわいがってやれよ!」

 

今僕の目の前には、厳つくゴリラのようで、いかにも歴戦です。

と、言わんばかりの軍人が居る。認めたくないが僕の上官だ。現実を認めたくない年頃だ。

そしてどういう意味でかわいがるのだ?

尻で可愛がるのは本当に勘弁してください。自殺したくなるんで。

 

上官の後ろには20から30のむさくるしい人が一律に整列している。

ここはヘルだ。僕はなんて所に来てしまったのだ。

家に帰りたい。ニブニブ動画を見たいよ。

 

「では新人共!右から順に自己紹介しろ!」

 

目の前の筋骨隆々な上官が無駄にでかい声で、こちらに促す。

 

「はっ!自分はジノ・ヴァインベルク少尉であります!」

 

新入りの中で一番右にいたジノが敬礼をしながら、自己紹介をする。

はきはきとジノらしい自己紹介だ。

 

「…アーニャ。アーニャ・アールストレイム少尉です」

 

ジノの左隣に居たちんまい少女が次に応える。新入りは僕を含めて三人。

この少女が校長が言っていた他校の優秀の生徒であろう。とても凄腕には見えない。ちなみに萌えた。

 

「アクア・アッシュフォード少尉です」

 

僕らしい、平坦な声で告げる。何故僕はこんな僻地で、こんなむさくるしい男たちに自己紹介をしているのだろうか?

とりあえず爺と校長はあとで殴っておこう。

顔つきが変わるまで。

 

とりあえず現実逃避で、このような状況になった原因である二人に殺意を抱いていた。

なんと僕らしい。

 

果たして僕はこの状況で生きて帰れるのだろうか?ジノから僕の尻は守れるのだろうか?

 

 

 

自由への道は遥か遠く、孤独な戦いは続く…。

 

 


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