コードギアス 反逆のお家再興記   作:みなみZ

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4話

今の僕の心情を言葉で表すとするならこれしかないだろう。

 

 

ちょっとまってちょんまげ。

 

 

 

 

僕が呆然としている間に、二人は勝手に盛り上がっている。

気がつけば、何故か敵の基地に突撃する話になっていた。

僕は死亡フラグを回避するために敵に投降しようと思ったんだよ?

その為にはE.U.の阿部さんにも、この身を捧げる覚悟もできたっていうのに…。

何?この死亡フラグは?

これだったらまだデブのフラグ。

脂肪フラグの方がマシに思えてきた。

 

「で?どうやって攻める?俺たち三人でフォーメーションを組むとなると…」

 

「それは…」

 

「まってくれ!」

 

なにやら具体的な話が始まりそうだったので、とりあえずまったをかける。

 

僕の言葉にモニターの二人が僕に視線を向けてきた。

 

「どうした?アクア」

 

どうしたじゃねェェ!お前らがどうしたんだよォォォ!

たった三機で敵の本部を襲撃なんて、お前らは何処の起動戦士ですか!?ブンダムですか!?ブンダムなのかァァ!?

違うだろ!?違うだろォ!?大事な事だから、二回言っちゃうぐらい違うだろォォォ!?夢から醒めてくださいよォォ!現実を見やがれェェェェ!

 

って言ってやりたい。

 

しかし此処は熱くなったら負けだ。

クールになるんだアクア!クール・アクアになるんだ!

…なんかの商品の名前見たいだなぁ。

 

先ずは二人に現実を見せるのが先だな!

 

「二人とも。

三人で敵の本部に襲撃しても、無駄に命を散らすだけだ。

そんな事に、二人を付き合わせるわけにはいかない」

 

「だからって、お前一人を敵に突っ込ませられる訳無いだろ!」

 

 

そんな事誰も言ってないし。

僕が敵に突っ込むなんて一ミクロンたりともありえねえよ!

もういいよ。

とりあえずこの場は、僕が一人で突っ込むとか言っておこう。

そして、二人と別れたら即効に投降しよう。

 

「僕たち三人では今までフォーメーションを組んだことがない。

そんな状況で勝算があると思うのか?」

 

その言葉にジノは言葉を噤んできた。

 

そう。

僕達はこの三人で一度もフォーメーションを組んだことが無いのだ。

 

ブリタニアの軍隊でのKMFは基本、三体小隊を作る。

そして小隊によるフォーメーションには必ず、隊長―――リーダーがいるのだ。

しかし僕達三人は全員が新人だ。

新人三人がフォーメーションを組むなど、考えてすらいなかった。

今まで必ず歴戦の先輩が、リーダーとなり、指示を飛ばしてくれていた。

そのお陰で僕たちは今まで戦ってこれたのだ。

 

「敵に襲撃をすると言い出した身として、こんな勝算の無い戦いに君たちを連れ込むことなど出来ない!

だから、ここは僕に任せて、君たちは本部「ある」…に?」

 

 

やっと自分の望む展開になって来た事に気を良くした僕が、少し芝居が掛かった台詞を紡いでいたら、アーニャタンに途中で遮られてしまった。

しかしあるって…何がっすか?

 

「アーニャ。

何があるっていうんだ?」

 

アーニャの言葉足らずの言葉の意味を考えていると、同じ疑問を持ったジノが質問してくれた。

疑問を顔に貼り付けた僕と、ジノの顔を見渡しながら、アーニャはいつもの無表情な表情の中に、自信を伺わせながら言葉を紡いだ。

 

「勝算はある」

 

え゛。

 

「勝算ならある。

私たち三人ならば、敵本部を襲撃して、帰還できる」

 

 

 

 

ボンバーイェッ!

ボンバーイェェェェッ!

ボンバーイェェェェェェェッ!

 

 

 

 

 

…はッ!?

あまりのアーニャタンの爆弾発言に僕の思考回路がおかしくなってしまった。

しっかりしろ。僕。

現実を直視するんだよ!僕。

 

「本当なのか!?アーニャ!」

 

「うん。

私たち三人だったら出来る」

 

現実を直視したくない。

 

やっとの事、死亡フラグを回避したかと思ったのに、また死亡フラグが舞い戻ってきやがった!

なんだ!?僕は死亡フラグを司る神に愛されているのか!?

そんなフラグの神より、ラブコメのフラグを司る神に愛されたい!

 

「アクア!アーニャには勝算があるって言うんだ。

これで文句は言わせないぜ!」

 

「ああ…そうだね…

文句は…ないさ…」

 

ジノがアーニャの言葉に我が意を得た!と言わんばかりに声を掛けてくる。

その返答に僕は死にそうな声で返す。

死にそうって言うか、もはやお前は死んでいるってレベルだ。

楽に死なせてください。お願いしますから。

 

 

 

しかし良く考えて見れば、これはチャンスかもしれない。

 

アーニャがどのような戦略を持っているかは知らないが、あんなに自信満々なのだ。

かなりの戦略なのだろう。

 

僕とて好きで敵に投降するのではない。

無事にこの死亡フラグを避けられる選択をしたいだけだ。

そして投降する以外で、死亡フラグを避けられると言うならば、やってみる価値はあるな。

それどころか、この逆境を上手く乗り越えられれば、功績が手に入るかもしれない。

功績が手に入ったら、僕は軍人を辞めることができる。

良い事尽くめだ。

 

そうとなれば、俄然とやる気がと湧いて来ましたよぉ!

そうだよ!この試練さへ乗り切れれば、僕の自由への道は確約されるかもしれないのだ!

やってやるよ!僕は出来る子のはずだ!やってやんよ!

 

「わかった。

二人ともすまない。僕に力を貸してくれ」

 

僕の貞操と自由の為に。

 

「へッ。当然の事をそんなすまなそうに言うんじゃねえよ」

 

「ん」

 

覚悟を決めた僕の言葉に、二人は頼もしくも頷いてくれた。

でもアーニャタン『ん』はまずいっす。

毎度の事ながら萌えてしまいます。

 

「それで、アーニャ。

君が考えている作戦を教えてくれないか?」

 

「私の考えているのは一つ…」

 

僕の言葉にアーニャは一つの作戦を教えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「…それだけ?」

 

「それだけ」

 

アーニャが教えてくれた作戦は、とても作戦とは言えないものであった。

思わず、聞き返してしまった。

そして僕の質問に無慈悲に頷いてくるアーニャタン。

色んな意味で死ぬ。

 

おいおい!僕の人生を賭けた、一戦がこんなもんでいいのか!?

こりゃ間違いなく死亡フラグ全開だよ!

『俺…この戦争が終わったら、故郷に戻って、彼女と結婚するんだ…』

並みの死亡フラグ展開だよ!

マジ勘弁してくれ!

ジノ!お前はこの戦法に何か意見はないのか!?

このままじゃ僕達仲良く死んじゃうぞ!僕の最後を看取る相手がお前だなんて嫌だァァァ!ちなみにアーニャタンならOKかも。

 

「へっ…いいんじゃないか?

シンプルでわかりやすい。そして俺たち向きの戦い方だな」

 

ジノォォォーー!

お前それでいいんかい!?いいのか!本当にいいのか!?本当にいいんだなお前はァ!?駄目だと言ってもいいんだぞ!?少しは反対意見出してもいいんだぞ!怒らないから言って見てなさいよ!というかお願いだから言ってください!

 

しかし僕の気持ちは微塵たりとも察してくれない。

というか、今までの人生で、僕の気持ちを察してくれた時はあっただろうか?

考えたら更に凹んだ。

 

「さーて…作戦も決まったことだし。

後は俺たちの腕と運次第だな」

 

え!?

本当に決まっちゃたの!?

皆考え直そうよ!まだ遅くないよ!?

この作戦ブラクエで言えば、『ガンガンいこうぜ!』を超えて、もはや『カミカゼアタック!』とか『あたってくだけろ!』って感じだよ!?

最早ブラクエの作戦にも無いよ!

ここは安全に『いのちをだいじに』で行こうよ!頼むから!

 

ようやく僕の必死の気配と視線を察したのであろう。

ジノが僕に一つ笑いながら頷いてきた。

もしかしてわかってくれたの!?僕の気持ち!

僕の気持ちを察してくれるなんて…初体験だよ!

ジノが初体験って、別の意味で考えると、物凄く死にたくなるけど!

 

「なーに!大丈夫さ!アクア。

俺たちならやれるさ!仮に…仮にだぞ。

此処で死ぬことになってもお前の事を恨む奴なんかいねえよ。

俺たちは相棒。運命共同体って奴だからな!」

 

ジノは本当に爽やかに告げた。

爽やかすぎてちょっとむかついた。

 

だから僕は絶望に陥る前に、得意の現実逃避をかますことにした。

 

 

 

 

 

 

ボンバーイェッ!

ボンバーイェェェェッ!

ボンバーイェェェェェェェッ!

皆さんのご家庭にも是非ともお一つ。

ボンバーイェェェェェェェェッッ!

 

 

 

 

 

僕の現実逃避は我ながら理解不能だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあいくぜ!俺が一番手を勤めるからな!

ちゃんと着いてこいよぉ!アクア!アーニャ!」

 

ジノが威勢良く声を出すと同時に、ジノのグラスゴーの脚部に装着してある、ランドスピナーが激しく回り始め、一直線に動き出す。

 

―――敵の基地に向って。

 

その後に僕が続き、少し離れながらも、その後にアーニャが続く。

 

基地を警護していた、敵のKMFの小隊が僕たちに気付き、こちらを撃退しようとするが、既に遅い。

ジノの機動しながらの、スラッシュハーケンで敵の動きを封じてからのスタントンファーの攻撃と、僕のアサルトライフルを。それに加え、アーニャのグラスゴー改専用の遠距離砲弾を喰らい、

5機居たKMFはあっという間に撃沈されることになった。

 

「よーし!

この調子でいくぜ!」

 

新たな獲物を求める獣のように、ジノのグラスゴーは動き出す。そしてその後を着いて行く僕とアーニャ。

 

 

そう―――これがアーニャが考えた勝率を出す戦法。

それは作戦でもなんでもなく、唯のフォーメーション。

否、フォーメーションとも言えない物であった。

 

ジノが先鋒を務め、高機動戦にて敵を撃破する。

 

アーニャは後方を務め、砲撃戦にて敵を撃破する。

 

そして僕は二人の間に入り、中距離から敵を撃破する。

 

唯それだけであった。

 

そしてこれがフォーメーションとは言えない理由がある。

普通フォーメーションとは、お互いをお互いがサポートするものだ。

そして熟練のフォーメーションとなると、リーダーが何も言わずとも、サポートをする。

そうしたお互いのサポートが歴戦の兵士のフォーメーションである。

 

しかし僕たちのフォーメーションは、それを一切しない。

ただ己の仕事をこなすのみ。

 

即ち、敵が己のレンジに入ったら即撃破。

三体で常に止まらず、高速で動き続けながら攻撃する事によって、敵からの奇襲や、後ろからの射撃を回避する。

 

ただそれだけという、とてもフォーメーションとは呼べないフォーメーションだ。

皆は真似しちゃだめだよ。マジで危険だから。

 

しかしこの時はまともに考える余裕が無かったが、後々よく考えて見れば、理に適ってなくも無い。

 

ジノは高機動戦闘を生かした奇襲による接近戦の攻撃を何よりも得意とする男だ。

士官学校は勿論。先輩方の兵士にも接近戦では一度たりとも負けたことが無い実績を持つ。僕も負けた。

故に、ジノのグラスゴーは装甲を薄くして、機動性や運動性能を上げている改造機を与えられている。

 

アーニャは、遠距離からの砲撃戦を得意としている。

砲撃や射撃という一点ではまさに天才という名に相応しい実力を持ち、KMFを機動させながら、精密射撃を行えるという、凄まじい能力を持つ。

それ故に、アーニャのグラスゴーは、遠距離専用の武器が満載の改造機を与えられている。

 

そして僕は―――。

 

僕は、接近戦ではジノに絶対負ける。そして射撃戦ではアーニャに必ず負ける。

しかし射撃戦ではジノに勝ったし、接近戦ではアーニャと戦ったわけではないが、勝てると思う。

 

僕は二人の中間のような実力なのだ。

二人のように特出した実力を持たないが、バランスに優れた兵士。

戦場の主役になること難しいが、近距離戦でも中距離戦でも遠距離戦でも、一定の働きは出来る。

それが僕だ。

 

その僕が二人の間に挟まり、中距離からの射撃や時には接近戦による戦闘を担当する。

 

 

これがアーニャが提案した戦法だ。

今回は他に方法が無かったので実施したが、二度としたくない戦法だよ。

命が幾つあっても物凄く足りない。

マジで。

 

 

しかし今回においてはこの戦法がピタリと上手くはまった。

 

敵の基地は、先のブリタニア側の奇襲を返り討ちにしたことで油断していた。

まさかもう一度、奇襲があるとは思っていなかったのだ。

しかもE.U.側のKMFは全体的に機動性が遅く、火力重視といった感じのKMFなのだ。

常に高速で動き回る僕たちを、その火力で捕らえることは難しかったのである。

 

そんな感じで、僕たちは調子に乗って、どんどんと敵のKMFや基地を破壊して回った。

もう脳内アドレナリン出まくりよ。

 

その他様々な要点はあったが、結果として僕たちは敵基地を襲撃し、敵の兵力を大幅に減らし、尚且つ本部に生還することを達成する。

奇跡だ。

まあ、常に一番手を勤めたジノのグラスゴーは大破し、機体を乗り捨てた事や。

僕とアーニャのグラスゴーは大破一歩手前。という整備士泣かせの結果ではあったが。

それでも奇跡だ。

ブノン並の奇跡が今この場に発生したのだ。

 

本部に生還した僕たちは英雄扱いを受けることになる。

 

なにしろ、僕たちが敵の基地を襲撃していなければ、襲撃されていたこの本部に、続々と敵の増援が増えてくるのは必至だったのだ。

僕たちの活躍によって、このブリタニア本部は無事に存在しているようなものである。

崇めくれてもいいよ。君たち。

 

整備のおっちゃんや、本部に残っていた、兵士の皆さん。

というか、基地の全ての人が物凄い勢いで僕たちのが成し遂げたことを褒め上げてくれている。

物凄く鼻高々だ。

 

この時の僕はもう気分上々↑↑って感じだ。

なにしろ、負けるのが確定したかのような戦場で、奇跡の大逆転の立役者!功績間違いなし!そしてその功績で、軍隊を退役!家に戻って、復活ニートな生活!嗚呼薔薇色の人生。

って勢いなのだ!もうジノに尻を狙われる心配も無くなる。笑いが止まらん。

 

その日の夜。眠りに着くためにベッドに横になっていた僕は、暫し嬉しさでベッドでじたばたしていた。

そんな僕をジノは生暖かい目で見つめていた。不覚。

 

 

 

しかし人生そうは上手くいかないものである。

後日。体を休めた僕たちが、上官から聞いた命令は僕を失意のどん底に叩き落すものであった。

 

なんとこれからもE.U.基地との戦いで、僕とジノとアーニャでチームを組み、禁断のカミカゼアタックをやってくれというのだ。僕に死ねというのかい。

しかし僕の気持ちなどいつもの如く、察してくれないジノは「イエス・マイ・ロード!」とかって勝手に答えてしまった。

なんて事してくれんだよ!お前って奴はァァ!空気よめや!このKYが!

しかもその後ジノの奴は僕に向って。

 

「やったな!これで俺たちの活躍の場が多くなる!

上手くすれば功績も取り放題だぜ!」

 

なんて本当に嬉しそうに言ってきやがった!

こんなCMに出てきそうな笑顔されたら怒るに怒れねえよ!これでジノがブサメンだったら、問答無用で顔の輪郭変わるまで殴るのに!

これだからイケメンはむかつくんだよ!畜生!イケメンファック!イケメンファァック!イケメンファァァァァック!

 

 

ちなみにこの間、アーニャは一人黙々と携帯をいじくっていた。

なんと協調性が無い、マイペースな娘だ。

しかしそこがまた萌える。

 

悲しい諸事情の結果、ジノとアーニャと三人で小隊を組み、戦場に出る事になった。

そして毎日カミカゼアタック。気分は特攻兵だ。

こんな気分味わいたくなかった。マジで。

 

仲良く三人で毎日一番槍で、カミカゼアタックをしていたら気がつくと、この本部で僕たちはエースの様な扱いになっていた。

そんな扱いはいらんから恩賞くれ。とっとと退役したいから。

それが僕の偽りなき思いだが、何故か知らんが、恩賞が出る気配が感じられない。

いったい何時になったら僕は、この地獄から抜け出せるのだろうか?

ジノの僕を見つめる、切なくとも情熱を含んだ視線にそろそろトラウマになってしまいそうな気分だ。

アーニャタンという萌えの中和剤をもってしても、もはや中和しきれない。

こうなったら、もういっその事。

掘られる前に掘ってしまおうか?犯られる前に犯れ。みたいな…。

 

って!?何考えてんだ!僕は!

しっかりするんだよ!何自らち○世界に素っ裸で飛び込むような真似を思いついちまったんだ!

ちょーガッテム!僕は阿部さんじゃないんだよォ!最近自信が無いけどノンケだと思うんだよォ!

こんな状況じゃ僕の思考が狂ってしまう!

何がいっその事、掘られる前に掘ってしまおうか?だよ!掘っちまったらもう、世間様に顔向けできねえよ!

まあ確かに掘られるよりは、掘ったほうが心の傷跡は少ないとは思うけど…………って!?

 

ますます何考えてんじゃーー!僕はァァ!

何よく考えて見れば、結構いいアイディアじゃね?とかって思ってきてるんだよォ!?

しっかりするんだァ!しっかりするんだよォォ!しっかりしてくれェェ!

このままじゃ世間様どころか、家族にすら顔向けできなくなっちまうよ!

いいのか!?アクア!父さんや母さんに顔向けできなくなっちまうんだぞ!爺はどうでもいいけど!

 

そして姉さんにも顔向けが!

 

…姉さんにも…姉さん。

 

…姉さんには顔向けできそうだな。むしろ姉さんは嬉々として受け入れてくれそうだ。

 

 

もはや何が正しいのかわからなくなってきたぁ!マジでやべええええぇ!

 

 

戦争による命の危機と貞操の危機によるダブルパンチにより、僕の精神は見事に追い詰められていた。涙そうそう。もらいなき。

 

 

 

もう世界の中心で愛とか何でも叫びますから、助けてくださーーーい!

 

 

もはや何が正しいのか僕には何もわからない。

 

暫し僕は、世界の中心(僕とジノの部屋の中の僕のベッド)でとりあえず愛を叫ぶ毎日を送ることになった。

 

そしてそんな僕を、心配するような、哀れむような視線を送るジノ。

萌える。

 

 

 

 

 

論理の境を彷徨いながらも戦い続けた僕に、ある一つの朗報が届く。

 

このブリタニア本部が相手をする、E.U.側の本部と周囲の基地を制圧することを成功したのだ。

これにより、しばしこの地での制圧作業にはいるので、いままでのようなほぼ毎日戦闘という状況から開放される事になった。

毎日カミカゼアタックして頑張ったかいがあったか。

 

基地の皆が、戦争から解放された開放感で、本部全体が明るい雰囲気に包まれている中、僕とジノとアーニャの三人はある人物から呼び出しを喰らう事になった。

 

E.U.進行最前線基地本部司令官―――つまりこの本部で一番偉い御方に。

 

 

 

 

「しっかし司令が俺達に何の用だろうな?」

 

特攻部隊の三人で司令室へと続く廊下を歩きながら、ジノが言葉を振ってくる。

 

「さあ…まあ、お叱りではないと思うけどね」

 

「説教であってたまるかよ。だったら俺は逃げるぜ。

アクア。お前も今のうちに一緒に逃げるか?」

 

「出来るわけないだろ。上官。それも司令官様に目を付けられるのは御免だよ」

 

ジノが僕の肩へと腕を回しながらサボタージュの誘いをしてくる。

何故だろう?以前このような行為をされると、サブいぼが僕の全身を駆け巡ったものだが、今は殆ど抵抗がない。これはやばい兆候なんじゃ…。

いや、きっと度重なる危機が、僕の思考回路を狂わせたんだ。

そうだ。僕がガチホモであるはずが無い。

今は疲れてるだけで、僕の心が平常を取り戻したら、またサブいぼが元気良く僕の体ではしゃいでくれるはずだ。

そう願いたい年頃だ…。

 

「ま、そりゃそうだ。

まあ、こうして唯のKMFのパイロットの俺達が司令直々に呼ばれてるって事は、既に目を付けられている証拠だけどな。

それが良い事なのか悪い事なのかは判らねえけど」

 

「着いた」

 

歩きながら携帯をいじっていたアーニャの言葉で、ジノと話している間に、司令官室に着いていた事に気付いた。

しかし部屋に着いていた事にも気付かないなんて相当疲れているな。

もう、いっその事心労で倒れて、病院送りになって、戦場とジノから離れようかな。

いや、駄目だ。戦場からは離れられても、ジノは何処までも着いてくる気がする。

それに今アーニャタンという萌えのファブリーズから離れたら、僕の心が本当にやばいことになる気がする。ガチホモ一直線みたいな。

嗚呼。僕はどうすればいいんだぁ…。

 

僕が負のスパイラルに陥っている間に、ジノが気軽にドアを二度ノックし、入室の許可を願うと、直ぐに許可が下りたので、三人で入る。

 

そして司令室の中に居た人物を見た瞬間に、今まで抱えていた暗雲とした気持ちが虚空の彼方にぶっ飛ぶのを感じた。

 

其処に居たのは金髪、碧眼というジノと同じ王子さまなルックスと素敵な顎をもつ人物。

しかし稀代稀なる王子さまオーラを持つ、ジノをも遥かに凌ぐ皇子さまオーラをもっている美丈夫であった。

 

つーか本物の皇子様です。

 

「シュ、シュナイゼル殿下!?」

 

「いきなり呼び出してすまなかったね。君たち。

まずは席に座ってくれないかな?」

 

ジノの驚愕の言葉に目の前の美丈夫―――シュナイゼル・エル・ブリタニア殿下は優雅に微笑みながら、僕たちに席に着くように促してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュナイゼル・エル・ブリタニア。

 

世界の三分の一を領土に納める超大国、神聖ブリタニア帝国の第二皇子にして帝国宰相を務める傑物。

第二皇子である為王位継承権こそは第二位であるが、類まれなる才能を誇り、第一皇子であるオデュッセウス・ウ・ブリタニアを超えた実力と人望を持ち、皇帝を抜かせば、ブリタニア帝国の実質的なトップである。

次代の皇帝の座に最も近い立場である。

世界の二番目に偉い人物。そして将来は世界で一番偉い人物となるといっても過言ではない。

つまりは超VIP。つーかVIP所の話ではない。真面目に僕たちにとっては、雲の上の人物だ。

 

そんな雲の上の人物が何故か今僕の目の前の席に座っている。

 

ドッキリTVじゃないよね?

もしくはそっくりさん?

 

「さて。先ずは初めましてだね。

ジノ・ヴァインベルグ君。アーニャ・アールストレイム君。そしてアクア・アッシュフォード君。

私のことは知っているとは思うが、改めて自己紹介をさせてもらうよ。

私はブリタニア帝国第二皇子。シュナイゼル・エル・ブリタニア。

宜しく頼むよ」

 

本物だったよ!

サイン欲しい!

あと一緒に写真を撮ってください!

 

「はっ、はい!自分はE.U.進行最前線基地本部第8KMF部隊小隊長ジノ・ヴァインベルグ少尉であります!お会いできて光栄です!シュナイゼル殿下!」

 

「第8KMF部隊。アーニャ・アールストレイム少尉です」

 

「同じく第8KMF部隊所属。アクア・アッシュフォード少尉です。お会いできた事を光栄に思います。シュナイゼル殿下」

 

豪胆であり、どんな時でも、例え其処が戦場であろうとも恐れや、緊張を見せない男である、ジノが緊張しながら挨拶を交わす。

それに続きアーニャと僕もシュナイゼル殿下に挨拶を交わす。

見た目アーニャは何時もと変わらないように見えるが、目の前のシュナイゼル殿下の存在に対して困惑の雰囲気を醸し出している。

それはもちろん僕だって同じだ。

表面上僕はお得意の無表情で、感情を見せてはいないが、内面では困惑と疑惑が渦巻きまくっている。渦潮並みに。

 

「ああ、宜しく。

君たち、そんなに固くなることはないよ。

もっと友人のように、フランクに話しかけてくれてもいいんだよ?」

 

シュナイゼル殿下は僕たちの心情を悟って、笑いながら冗談のように言葉を紡ぐ。

 

その言葉に大分楽になった僕達は、シュナイゼル殿下との暫しの談笑にしゃれ込むことになった。

主にジノがしゃべってばっかだったけど。

 

しかし少し話しただけだが、このシュナイゼル殿下はなんちゅーか…深い人物だ。

その度量の深さ。僕達のような唯の新兵にも、フランクに接してきて、対象の懐にするりと入るような印象を受ける。

僕も少ししか話をしていないと言うのに、この皇子に対して何時の間にか、好意を持っている自分に気付いた。

…もちろん!LOVEの方じゃなくてLIKEのほうだからな!

最近自分の気持ちが自分でも理解不能になってきているので確証は持てないけど。orz

 

 

 

「あの…ところで殿下。

何故自分たちを殿下の前に御呼びになったのですか?」

 

暫しの談笑で、大分気を楽にしたジノがこの会談の本筋を聞き出す。

アーニャもその事を気にかけていたようだ。

ジノが話を切り出すと、いつもの感情が見えない表情に、何処か真面目な色が伺えた。

 

「ああ…。

これはまだ公式には発表してはいないのだが」

 

シュナイゼル殿下は此処で表情を引き締めてから言葉を紡ぐ。

 

「E.U.侵攻に対する、全指揮を私が取ることになってね。

その関係でこの司令部に訪れていたのだがね。

今このE.U.に存在するブリタニア軍で。

そして敵軍のE.U.に置いても『ブリタニアの三連星』と、その名を轟かす君達に一度会ってみたいと思っていたのだよ」

 

三連星?

なんすかそれ?

ジェットストリームアタックを繰り広げるお方たち?

 

「あの…殿下?

その、三連星とは?」

 

僕と同じ疑問を持ったジノがシュナイゼル殿下に問いかける。

横に座っているアーニャに視線を向けて見ると、アーニャも疑問に思っているような表情をしている。

 

 

「知らないのかい?

君たち三人の異名だよ」

 

異名!?

初耳だ!

そんなのあったんかい!?

 

「うん。

君たち三人による、高速戦闘が、さながら流れる星の様に見える事から、三つ並んだ流星。

つまり三連星と、軍の間でその名を轟かせているんだよ。

E.U.は君たちの事を警戒し、そして君達を討って名を上げようと躍起になってるようだね」

 

僕たちの反応を見て、シュナイゼル殿下は僕達が自分達の異名を知らない事を察してくれたのであろう。

疑問を顔に出す僕たちに説明をしてくれた。

 

どうりで最近戦場に出ると、物凄い勢いで襲われると思った…。

敵から狙われるなんて全然うれしくないっすよ殿下!

しかも、そんなブンダムにやられそうな不吉な異名、いらねっす!

やっぱり黒○三連星より蒼○巨星でしょ!あの渋さに憧れてしまうよ。死ぬのは勘弁だけど。

ってどっちみ両方の異名の奴ら死んでるじゃんかよ!また死亡フラグが舞い降りてきやがった!

どんだけ僕は死亡フラグに愛されてる男なんだよ!ファックミー!

 

「しかし君たちの戦績や、戦闘記録を拝見させてもらったが大したものだね

異名に恥じない働きと腕前だよ。

その若さで本当に大したものだ」

 

どこか誇らしげに語る殿下には申し訳ないが、僕の心は更にやばい方面に一直線だ。

 

 

「ありがとうございます。シュナイゼル殿下。

自分たちの働きに免じて、自分から一つ頼みがあるのですが、宜しいでしょうか?」

 

ジノ?

 

「ふむ。

なんだい?ジノ君」

 

「はい。

アクア・アッシュフォードに恩賞を授けて欲しいのです」

 

ジ、ジノ!?

 

「アクア君に恩賞を?」

 

「はい。

このアクア・アッシュフォードはある事情から、功績が必要としている身分なのです。

そして、此度の私たちの働きは恩賞に値する働きであると自分は思います。

自分には恩賞はいりません。自分の分の功績も合わせて、どうかアクアに恩賞をお願いします!」

 

ジ…ジノ。

 

僕は感動している。

何が、今までの人生で、僕の気持ちを察してくれた時はあっただろうか?だよ。

僕の隣には、こんなにも僕を理解してくれている友人がいるじゃないか!

軍人を辞める為に功績を求めるという、あまり自慢できない理由で働いてきた僕をこんなにも理解してくれるなんて…。

感動した!僕は感動しましたよ!

今ならジノに抱かれてもいい感じがする!

やっぱり抱かれるのは勘弁!

だって僕はノンケだから!

 

「私も」

 

アーニャ?

 

「殿下。

私の分の功績もアクアに」

 

いつもどおりの言葉足らずのアーニャの言葉。

しかし、その短い言葉の中に彼女の気持ちがたっぷりと込められているのを感じる。

僕としては是非とも愛を込めていて欲しいと願うぜ!

 

ア…アーニャタン!

萌え萌えっす!

 

「…君は素晴らしい友人たちを持ったね。

アクア君」

 

「…はい」

 

殿下の言葉に、素直な気持ちで頷く。

こんな僕には本当に勿体無い友人たちだ。

なんだ?この青春ドラマのワンテイクは。

涙無しには見られないぜ。

 

「三人とも安心したまえ。

君たちが働いてくれた結果は、非常に素晴らしいものだ

我が、ブリタニア帝国は、結果を出した者には、それ相応の褒賞を与える。

君たち全員には相応の恩賞を与える事を、このシュナイゼル・エル・ブリタニアが約束しよう」

 

その言葉を聞いた瞬間に僕の瞳から涙が零れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

■アーニャ・アールストレイム■

 

 

「三人とも安心したまえ。

君たちが働いてくれた結果は、非常に素晴らしいものだ

我が、ブリタニア帝国は、結果を出した者には、それ相応の褒賞を与える。

君たち全員には相応の恩賞を与える事を、このシュナイゼル・エル・ブリタニアが約束しよう」

 

 

 

目の前のシュナイゼル殿下の口からこの言葉が出された時、隣に居たアクアの透き通った、空のような青い瞳から涙が零れ落ちていた。

 

私はそれを純粋に綺麗だと思った。

 

 

 

 

私はアクアとジノと、出会ってからそんなに時が経っていない。

 

それでもアクアが何かの為に、必死になっている事。

そしてそれを叶えようとしているアクアを支えようとしているジノには直ぐに気付いた。

 

私は他人に興味がわかない。

 

アクアもジノも所詮は他人。アクアとジノが何を思おうとも、私には関係ない。

それがいつもの私だ。

 

でもあの二人は、何かが違うと思った。

 

何かが違うと確信したのは、初めて私たちがチームを組んだ時。

あの絶望的な状況で、自らが犠牲になってまで、アクアは私とジノの身を案じてくれた。

 

アクアをジノは馬鹿野郎と怒り、自らも戦地に赴く事を決意したのだ。

 

そんな二人を見て、気付いたら私も参戦していた。

 

なんてことは無い。私もこの二人の中に入りたかったのだ。仲間として。

 

何絶望的な戦場から何とか生きて帰ってきてから、私はジノにアクアの事情を聞いた。

 

それは、家族の為に自らを犠牲にすることを決めた一人の馬鹿な少年の話。

 

でもとても暖かい、その話を聞いた人間も馬鹿になり、その馬鹿な少年を支えようと思わせる話。

 

この時、私たちは本当の意味でチームになったと思う。

 

そして今、アクアの夢は達成し、今涙を流しながら、ジノから祝福を受けている。

 

アクアは本当に喜んでいる。

 

そしてジノは本当に心から祝福をしている。

 

だから私も心からこの言葉を贈ろう。

いつも使わない表情を笑顔に変えて。

 

おめでとう、と。

 

 

 

 

 

 

 

■アクア・アッシュフォード■

 

 

 

 

「やったな!やったなアクア!」

 

ジノが本当に嬉しそうな顔で僕を祝福してくれている。

 

「おめでとう…アクア」

 

アーニャタンも普段見せることが無い笑顔で僕を祝福してくれる。

その笑顔に萌えます。

 

「ああ…ありがとう。

皆、本当にありがとう!」

 

 

出世しすぎると、直ぐに辞められなくなっちゃうから、少しでも恩賞がもらえたら退役すると僕は決めていた。

そして今僕は恩賞を与えられる事を約束されたのだ。

僕はこの時全ての柵から解き放たれたのである。

 

ふと脳裏には今までの思い出が駆け巡っていく。

クソ爺にブリタニア士官学校に送り込まれてから、幾うん年。

淫獣どもに尻を狙われ続けた仕官学校の日々。

日本で絶望した日々。

戦争に赴き、毎日ダイハードを日常とした日々。

 

…ろくな思い出しか無い!

 

しかし今思えば、それすらも僕の大切な思い出だったんだよ。

僕はこの思い出を心の中に大切にしまい、軍を離れ、僕が求める日常の世界を生きていく。

 

しかし生きていると言うことは、辛い事や、大変なことはいっぱいある。

 

それでも僕は生きていくんだ。

 

楽しかった事。辛かった事。全てを受け入れながら…。

 

これが僕の新しい任務。

 

英雄でもなんでもなく、唯の一人の人間として。この広い世界の中で生きていくんだ。

 

 

 

コードギアス 反逆のお家再興記 完!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、では君達に恩賞を与えなくてはね」

 

心の中でエンディングを迎えていた僕を現実の世界に戻したのは、華麗なる殿下の一言であった。

 

早ッ!もう恩賞くれるの!?

 

「実は君たちに恩賞を与えることは、既に決まっていたことなのだよ

君たちに恩賞を与える準備は行っているさ。じゃあ君達行くとしようか」

 

は?何処に?

基地の外にいくんすか?

 

「行くとは…何処へですか?」

 

ジノの質問に殿下は優雅に微笑みながら物凄い答えを返してきた。

 

「ブリタニア本国だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今僕たち三人は並んで、片ひざをつき、目の前の人物からの言葉を授かっている。

 

 

ブリタニア本国の王宮。

世界の頂点と言っても過言ではない、第98代ブリタニア皇帝―――シャルル・ジ・ブリタニアが住まう、世界の中心。

 

何故か僕達は今、そんな世界の中心にいます。

 

そして僕の目の前には世界の頂点なブリタニア皇帝がいらっしゃいます。

 

これは夢だ。それか幻だ。もしくはあの独特な皇帝にうりそつな、稀有なそっくりさんだ。

 

 

「ジノ・ヴァインベルグ。

アクア・アッシュフォード。

アーニャ・アールストレイム」

 

 

目の前のそっくりさんであって欲しい皇帝は、独特の発音で僕達の名前を呼ぶ。

ははは。あの独特な声までそっくりなんて、このそっくりさん一味違うぜ。

 

「お前たちを、我が直属の騎士団。

ナイトオブラウンズへの加入を認める」

 

 

 

えーーーーーーー。


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