砂隠れは繁栄しました   作:布団玉
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6. 輪廻

 あれから数ヶ月が経ち、俺、バキ、サソリの3人は、なんと上忍へと昇進した。夜叉丸は中忍のままだが、暗部への内定が決まっている。
 霧隠れに捕らえられた捕虜に関しては、パクラが仲間の救出に向かったようだった。だが、そのまま帰ってくることなく霧の捕虜となってしまったことが判明。
 そんな中、任務が入ったと風影から呼び出しをくらったので、いつものごとく執務室へ向かう。

「お呼びでしょうか」

 待っていたぞ小僧、という風影の声と共に、サソリの舌打ちが聞こえた。
 ――なんでサソリがいるんだ。

「今回はサソリとの任務ですか」
「ああ。すまんが、バキと夜叉丸はパクラと捕虜の救出へ向かせた。サソリと小僧には『暁』という組織への潜入を行ってもらう」

 呼び出しをくらった時、ついに俺も戦地行きになったかと諦めかけていたが、どうやらそうではないらしい。

 ――暁。
 3代目風影の口から暁の名を聞くことになるとは思わなかった。

「紛争で名を売り、武力に頼らぬ活動をしていたようだがな。近頃、不審な動きをみせている」
「不審な動き、ですか」
「各地で『赤髪』の者を生け捕りにしているらしい。現在、風の国が標的になっているようでな。国にいる赤髪の者が失踪しているようだ。故に傀儡部隊からサソリを抜擢したのだが、流石に1人で行かせるわけにはいかんからな」

 霧隠れに続き、暁とは。
 要するにサソリを囮に暁のアジトを探し出せということか。

 戦争中にそんなに目立つことをして大丈夫なのか、暁は。各国、暁を利用していたとは言っていたが、無差別に荒らしまわれば国も警戒するだろうに。この様子では砂隠れだけではなく、ほかの国も頭を抱えているのではないだろうか。
 犯罪組織になった後であれ、プロ集団ならば利用価値があるため始末されることはないだろうが、利用価値がないと判断されれば真っ先に消されること間違いないぞ。
 ――いや、待てよ。混沌の戦禍だからこそ動きやすいと考えるべきか。

「もし、戦力として引き抜けそうであれば、引き抜いてこい。無理ならば――今のうちに潰せ」

 サソリと組むのは初めてのうえ、あの暁への潜入とは。

「おい、サボテン。せいぜい足引っ張んなよ」
「わかってるさ」

 争いを無くすための組織として活動していれば、それに越したことはないのだが。もしもすでに抜け忍を受け入れているのであれば、生きて帰れるかどうかさえ怪しいものだった。



 砂漠やオアシスを渡り、半日ほどかけ、次に狙われる可能性のある村へと到着した。

 サソリは額当てをとらせ、さらに予備の容器に入れたチャクラ入り水銀を持たせている。
 チャクラを練りこんだ水銀は、元の塊へ『収束』するというオプション付きだ。元の塊、いわば『本体』をサソリの持つ水銀のほうへ変更し、サソリ側に向かって収束するよう設定すれば、あとはその方向へまっすぐに進むだけでいい。追跡は容易であった。

 しかし肝心の暁は一向に現れず、丸1日が過ぎた。

 そして翌日、また翌日と過ぎ、村へ着いてから3日後のこと。
 まだ日の昇らない早朝、この村の人間ではないチャクラの気配を察知した。サソリを囮にするため、1人宿へ置いて場所を移動する。

 すると、狸寝入りを決めこむサソリと村在住者である赤髪の1人を、何者かが連れ去っていくのを目視。

 紫色の髪に、バラの()飾り。お馴染みの暁装束を身にまとっている。あれは――間違いない、小南だ。
 小南が去ったのを確認し、彼女が姿を消してから俺は行動を開始した。


 休むことなく追跡し続け、目論見通り暁のアジトを発見。気配を消し、アジト内への潜入を試みる。

「また『赤髪』を見つけてきたわ」

 暫く光のない廊下を進んだところで、壁の向こうから小南の声が聞こえてきた。広い空間らしい、小南の声が反響して耳へ届く。

「お願い、弥彦を解放して!」

 ――弥彦? 解放? なんのことだ?

「残念だがどちらも()()()のようだ」

 小南ではない、別の人間の声。長門だろうか。それにしては少し若い声の気もするが。

「そんな……」
「風の国はもういい。次は――」

 急に会話が止んだ。

「――小南、お前やらかしてくれたな」
「え?」
「出てこい、いるのはわかっている」

 ――気づかれたか。
 観念して堂々と姿を見せれば、そこにはまだ狸寝入りをしているであろうサソリに、赤髪の村人と、小南、そしてぽっかりと空いた右目の穴へ吸い込まれるように渦巻く仮面をつけた人間。背丈は低く、恐らくまだ少年と呼ぶべき年齢なのだろう。
 オビトか、と思ったのだが。髪の色は『銀』であった。

「――ちょうどいい。まとめて弥彦に始末してもらうとしよう」
「や、やめて!!」

 おかしい。長門の姿がどこにも見当たらない。弥彦がいるならば長門もいるはずなのだが。それにあの仮面の少年、オビトでないとしたらいったい誰なのか。

「行け」

 仮面の少年の指示声で、部屋の奥、暗く落ちた闇の中から人影がぬらりと現れた。

 その人影は、足、胴、と色形をあらわにしていく。

 ゆっくりと機械のように足を動かし、最後に頭部の姿もあらわになった。

 オレンジ色の髪。
 そして、薄紫色をした波紋様の眼――輪廻眼。
 黒いピアスなどなにもつけていない。

 ――嫌な予感がした。

 まさか。弥彦の代わりに長門が死んだ、なんてこと、あるはずだないだろう。
 ――ないはずだ。
 長門は輪廻眼持ちである。長門自身が死を選ばない限り、死ぬことは考え難い。
 が、幻でもなんでもなく俺たちは今、伝説上の瞳術である輪廻眼を目の前にしている。
 どうするべきか。輪廻眼を相手にするのは死にに行くようなものだ。ならば『対話』か。元々暁が掲げていたものは、対話による世界平和だ。弥彦がいるならば話くらいは聞いてくれるかもしれない。

「ウウゥゥ……」

 ――などと思った矢先、弥彦の様子が変わった。
 唸り声をあげながら、白目は黒く、黒目は金色に、肌は灰のかかった褐色に。顔や体は歪に変形し、サスケや重吾などの呪印を連想させる。
 オレンジ色の髪がかろうじて弥彦だと分かる部分であった。

 ――あれは本当に弥彦なのか?

「うおおぉぉああああああああああああああああ!!」

 人間の雄叫びというよりも、まるで猛獣の咆哮だった。

「弥彦! お願いやめて! お願い!!」

 白い紙切れが、ひらひらと花びらのように遊びながら小南の周りへまとう。
 小南の一声で、しなやかに動き回っていた紙切れが下敷きのようにピンと張り、次々と弥彦へ飛んでいった。
 だが紙は弥彦に当たることなく、見えない壁があるかのようにすべて弾かれ落ちた。

「ああぁぁああッ!!」

 弥彦は叫びながら、制止をかけるように両手を俺と小南に向かって突き出す。
 刹那。
 空気が膨れたように、俺と小南は後方へと吹き飛んだ。

「ぐあッ!」
「きゃあ!」

 ――神羅天征か!
 小南は壁へ頭を強く打ちつけ、そのまま気絶してしまった。

 千手の系統以外が輪廻眼を扱っているため暴走状態になっているわけか。
 呪印らしきもので身体能力が仙人並みになっているからこそ、死なずに済んでいるのだろう。

 ――まずいな。こんなのを相手にするなんて。

「サソリ!」
「わかっている!」

 弥彦の後ろで起き上がったサソリが、懐から巻物を取り出して開く。すると、白い煙をあげながら1つの傀儡が出現した。

「この『ヒルコ』――初披露にして初勝利をおさめてやるよ!」

 サソリは素早くヒルコの中へ籠り、戦闘態勢に入った。

「完成したのか!」
「ああ!」

 それは心強い。

「ううゥゥウウぅぅ……」

 弥彦が両眼を手で押さえ、苦しそうに低く唸っている。輪廻眼を1度使用するごとに相当の苦痛を伴うらしい。

 ならば、と俺は弥彦の元へ走った。

 ――水遁・水牢の術!

 掌からはガラスのように透明な水が、球にとどまりちゃぷんと音を立てながら波立ち、弥彦を丸々と包む。

「うぅ……ウゥゥ……」

 弥彦が右手で片眼を押さえたまま、ガタガタと小刻みに震わせ左手を俺のほうへと向ける。
 すると球を保っていた水はすべて手の平へと吸収され、あとかたもなく消え去った。

 ――やはりダメか。

 水牢の術が吸収された直後、後ろからサソリがヒルコの『尾』を振らせた。
 足に錘でもつけているかのように鈍かったが、弥彦は寸前のところで尾をさけた。鋭くとがった尾の先はそのまま床を砕く。

「サボテン!」

 ヒルコの右手から、サソリに渡していた小さな鉄容器が投げられた。容器は俺の手へ吸いこまれるように見事な弧を描いて宙を舞い、見失うことなく両手で捕らえた。

 自身の持っている鉄容器も取り出し、2つの容器から水銀を床へと垂らした。

 ――流遁・銀鏡の術!

 膨らんだ水銀はその身を一部を引き延ばし、地を這いながら弥彦へと一直線に走る。
 わずか、水銀が弥彦の足に触ったが、地を蹴り宙へと避けられた。
 休ませることなく水銀を弥彦へ追跡させ、空中で弥彦の足を捕らえる。

「っらァ!!」

 足首へ絡ませ、鞭のように床へ叩きこんだ。
 弥彦は硬い床へ打ちつけられ、へばりつくように倒れた。だがすぐに、潤滑油のさしていない歯車のようにぎりぎりと顔と右手をあげた。
 俺は、胸倉を捕まれたまま背中を強い力で押されているように、弥彦のほうへと引き寄せられていく。

「まず、は……オマエ……」
「サボテン!!」

 俺は頭をつかまれ――




 目覚めると、上下左右も分からないような真っ黒い場所にいた。
 ――死んだのだろうか。

「ここに人が来るのは初めてじゃ」

 諭すようなやわらかい口調。低くしゃがれた声が辺りへ響く。
 ぼうっと仄明るい光が優しく広がり、いつのまにか目の前には老人があぐらをかいて座っていた。老人の隣には、歴戦をあらわしているであろうひび割れや傷跡が刻み込まれた、おんぼろの傀儡が静かに横たわっている。

「あの、ここはどこでしょうか」

「ここは『傀儡の墓場』じゃよ。戦いで壊れ、直すこともできなくなった傀儡が、その身を休めるためにここへやってくる」

 しゃがれた声ではあったが、ゆっくりと、落ちつきのある丁寧な話し方だった。

「その傀儡も戦いで壊れたんですか?」

 老人の横にある傀儡を見て言った。

「ああ。最高の相棒じゃった。会うことは叶わんが」
「そこにいるのに、ですか?」
「こやつは不思議な傀儡での、本当の意味で魂があった。今のこやつには魂がないのじゃよ」

 そこで会話は途切れた。老人は多くを語ろうとはしない人物のようだ。しかしそれが苦ではなく、当たり前のように思えた。
 こちらが問わなければ、答えてくれないだろう。

「よろしければ、あなたのお話を聞かせてください」
「つまらんよ、老いぼれの話なんぞ」
「つまらないかは関係ありません。俺はあなたの話が聞きたい」

 明確な理由はなかった。ただ漠然とそう思っただけだ。

「……そうか」

 ならば話そう、と老人は粛然と語りはじめた。

「あれは、煌々と輝く満月の夜のことじゃったかのう。天から“傀儡”が落ちてきたのじゃ。はじめは星が落ちてきたのかと思うたがの、すぐに違うと気づいた。不思議な“傀儡”じゃった。“傀儡”は、まるで生きているかのようにふるまった」

 “傀儡”は、落ちてきたばかりの頃は感情など持っていなかった。だが老人と過ごしていくうち、変化が起こりはじめたという。笑ったり、悲しんだりするようになったのだ。

「その時からじゃろうて。しきりに『月へ帰りたい』と言うようになった」

 感情が芽生えたようだったという。事実、芽生えたのだろう。
 夜な夜な月を見る“傀儡”をかわいそうに思った老人は、こう考えた。月には“傀儡”と同じように、動く傀儡がたくさんいると。“傀儡”の孤独を癒せるよう、老人は“傀儡”に友をつくってやろうとした。
 いくつも傀儡をつくった。そのうち、老人は有名な傀儡師になっていた。しかし“傀儡”のように自ら動く傀儡は、1度たりともつくることはできなかった。

 “傀儡”と共に過ごしていたある日のこと。“傀儡”は道行く子連れを見て『子には親がいるものなのか』と老人に問うたという。また悲しそうにする“傀儡”を見て、老人は傀儡で父と母をつくってやった。あいかわらず動かなかったが、それでも“傀儡”は嬉しそうにしていた。
 父と母の傀儡をなんとか動かせるように、老人は『チャクラ糸』を開発した。一時的には傀儡を動かすことに成功したが、やはり“傀儡”のようには動かなかった。

 老人が傀儡師として有名になってからというもの、彼はたびたび命を狙われるようになる。チャクラ糸の技術を欲しがる者、傀儡の技術を欲しがる者、老人という人間を勘違いし恐れる者。様々な者が彼の技術や命を狙った。
 老人も、はじめは自らが造形した傀儡を戦闘に活かそうとは思っていなかった。
 そんな時だった。

「こやつはこう言ったのじゃ。『俺を使え』と」

 こうして、老人は命を狙われるたびに“傀儡”を使い、傀儡師としてだけでなく、傀儡の操演者としても瞬く間に有名となった。

 戦いの中で、何度も、何度も、何度も、何度も、“傀儡”は壊れては直されを繰り返した。
 “傀儡”は痛みを感じなかったが、“傀儡”が壊されるたび、老人は心を痛めた。
 そして、傀儡は――

「――死んでしまった。誰の手に受け継がれることもなく。こやつは、ワシを守るために自ら死んだ」

 “傀儡”を『壊れた』ではなく『死んだ』と表現しているということは、老人は複雑な想いで“傀儡”を操っていたのだろう。

「こやつが最期に言い残した言葉を、ワシは一生忘れなかった。『今度はチャクラなんてものは存在しない世界へ、“人形”ではなく、人間として生まれたい』と。今でもずっと、覚えているよ」

 老人は、ため息を吐くように「忘れたことなどなかった」と小さくつぶやく。

「あやつは今、そんな世界に生まれ変わって暮らせているのかのう」

 ――この老人はその“傀儡”のために、こんな暗い場所にいるのだろうか。ずっと、ひとりきりで。

「こんな老いぼれの話を聞いてくれてありがとうよ」
「……いえ。こちらこそ、俺に話をしてくれてありがとうございます」

 地面が小さくひび割れ、そこから白い光が漏れている。
 ひびはどんどん広がっていく。

「お主は死んではおらんよ。すぐに目覚めるじゃろう」

 ひび割れを見て、老人が言った。

「お主がここへ来たのも、なにかの縁じゃ。最後にお主の名を問うてよいかの」
「俺の名前は、“サボテン”です」

 その名前を聞いた瞬間。
 老人の目が――大きく見開かれた。

 老人がなにかを言いたげにしていたが、それよりも先に、真っ暗な世界がガラスのように砕け崩壊した。
 ――そうだ。老人の名前を聞くのを忘れていたな。




「――う」

 おぼろげに目をあけた。辺りの床は隕石が落ちたかと思うほどに砕け、瓦礫が散らばっている。

「おい、サボテン! こんなところでへばってる場合じゃねェんだぞ。目ェ覚ませ!」

 サソリの声で今度こそ意識がはっきりと覚醒した。

「やっと起きやがったか!」
「すまん。のんきに眠ってたみたいだな」

 どうやら俺は気絶していただけらしい。
 サソリのおかげで間一髪、術の使用は免れ、魂が抜かれることはなかったようだ。あれは即死の術だ。点1秒でも遅れていたら本当に死んでいただろう。

 しかし、俺が気絶している間にも戦いは続いていたようだった。ヒルコはほとんど破壊された状態で、サソリの姿があらわになっている。
 このまま、サソリの言っていた通りに足手まといとなるわけにはいかない。

「十機近松の集は」
「ありゃ借りモンだ。ババアが戦いでどうしても必要だっつって持って行きやがった」
「……他には」
「ヒルコしかねェ」

 3代目の傀儡も、百機の操演もない。多くの傀儡を造形していても、それらはすべて発注品だ。発注の嵐のなか自分用の傀儡をつくるため、合間にやっと仕上げたのがこのヒルコなのだろう。

 ――ならば。

「サソリ。……俺を使え」

 サソリの目が見開いた。

「頭でも打ったか」
「本気だ」

 死体でもあれば良いのだろうが、ここにいるのは生きた人間ばかりだ。赤髪の村人はどういうわけか眠ったままだが、死んではいないだろう。
 不幸中の幸いにも弥彦は暴走状態で、長門のように使いこなせているわけではないようだ。
 使い勝手のいい餓鬼道と天道ばかり使用している。

「接近戦で叩きこまないとダメだ。輪廻眼に忍術は効かない」
「輪廻眼? 伝説上の眼か。なんだってそんなもんがここにあるんだよ」
「さあな。とにかく、俺たちはとんでもないものを相手にしているってことだ」
「どうする」
「実体物質を操作する術ならいける。さっき忍術を使ったのに流遁は吸収されなかったろ」
「……ああ」
「接近戦用に形態を変えればなんとか隙ができるかもしれない」
「よし」

 ――流遁・水銀刀(すいぎんとう)

 右手に水銀をまとわせ、刀の形へ硬化させる。
 持続のためにチャクラを消費し続ける術だ。早めにケリをつけなければならない。

「……やってやろうじゃねえか」

 サソリが言い、俺の体へチャクラ糸を取りつけた。

 仮面の少年が、ほう、と声を漏らす。
 端のほうで見ているだけのあいつにどうにか叩きこんでやりたいが、輪廻眼が盾ではそれも叶わない。

 サソリがチャクラ糸を動かせば、驚くほど体が身軽に動いた。
 体が弥彦のほうへと引き寄せられる。サソリは神羅天征の射程内に入らないよう、後ろへと下がっていった。

「ッ、らアアァァ!!」

 体のほうはサソリが操作してくれている。なので俺のほうは右手に神経を集中させ、銀の刃を光で瞬かせながら振りかざした。
 弥彦が避けきる前に、肩へとわずかにかすった。

「うァァ、アア……」

 今度は弥彦の右手が斥力を生み出す。
 俺は両手を合わせ、水銀で円状の盾をつくりあげた。

「ソォラァ!!」
「押し切れェェェェ!!」

 耐えようとする俺たちに対して、神羅天征の威力がより強く、そして範囲が広がっていく。

「ぐああッ」
「ぐッ――」

 耐えきれず、こちら側が吹き飛んだ。距離をとっていたはずのサソリも床へ倒れている。
 神羅天征によって浮いた床の破片が体の至る所にあたり、はがれた肉から滴る血が床を染めていた。
 サソリのほうは、俺が盾になっていたため傷はないようだった。

「相変わらず派手だな」

 仮面の少年が、つまらなさげに言う。
 先ほどの神羅天征の衝撃か、小南と村人が目を覚ました。

「ツゴモリ!」

 小南が仮面の少年に向かって叫び、村人は状況が把握できていないのかうろたえている。

「お願い……お願い、もう止めて!」
「はい、はい。ま、そろそろ飽きてきたし、使い過ぎたからな」

 唸る弥彦へと仮面の少年が間を詰め、人さし指で勢いよく腹を突いた。たったそれだけで、一瞬にして弥彦は気絶した。呪印も解け、肌も血の気を取り戻していく。

「まるで狂犬だ」
「弥彦!」

 人形のように倒れた弥彦へ、小南が駆け寄る。

「おい、回収」

 仮面の少年が言うと、床からアロエのような植物の男が生えてきた。男の顔はまるでアロエに食われているようだった。あれはゼツか。
 ゼツが弥彦を背負い、小南はそれを心配そうに見つめている。

「人使いが荒いよねぇ、キミも」

 ゼツが言えば、仮面のほうは「どちらが」と吐き捨てた。

 仮面の少年は、オビトではない。神無毘橋の戦いにもまだ早いはずだ。さらに、徹底的に隠れていたオビトがこんな行動を起こすだろうか。
 加えて、髪の毛が黒とは正反対の銀色。これはオビトとの決定的な違いである。

 ――いったい、なにが起こっているんだ。

 グルグルの面をつけているということは、マダラと接触した人物であることには違いないだろう。
 しかし、マダラがオビトを助けたのは「うちは」であったからだ。さらにそのオビトすら信頼していなかったというのに、はたしてうちはの人間以外を計画へ引き入れるのだろうか。
 考えにくいが、うちは以外の人間を手駒にしている、という可能性を捨てるのは危険だ。

 それにしても、銀髪と言えばある人物を思い浮かべてしまうが――。年齢も、ちょうど少年ほどのはずだ。

「こいつらどうすんの?」
「もちろん――始末する」

 仮面の穴から、眼が見えた。
 ――その眼は白かった。
 白ということは、写輪眼ではない。
 ――あれは白眼か?

 白眼にしろ写輪眼にしろ、輪廻眼と戦いチャクラを削られた後に相手をするのはまずい。
 ――白眼を持ってるならこの少年が赤髪を探せばいいとは思うのだが。恐らく、自身の姿をあまり人前で見せるわけにはいかないのだろう。

「……逃げるべきだな」

 サソリの言う通り、これは逃げるべき場面だろう。チャクラが枯渇している。玉砕しに行くよりも、手に入れた情報を生きて持ち帰ることのほうが重要だ。

 ただし、逃げ切れるかどうかは別問題になってくる。
 俺の水銀が空でも飛べたら簡単に逃げれただろうに。気体も扱えたらまた違ったのだろうか。

 サソリが「行くぞ」と言い、俺はうなずいた。
 サソリがチャクラ糸で村人を回収し、俺たちは一目散に逃げだした。

「逃がすか!」

 アジトを出て後ろを振り向けば、仮面の少年が追いかけてきていた。

 ――逃げている今しか、あれは使えない。
 懐から何枚もの紙切れを取り出し、チャクラを注いだ。

 第1段階、解除。

「チィ……。アイツ、ピッタリくっついてきやがる」
「確信はないが、見たものが確かならあれは『白眼』だった。追跡に長けているのは、そのおかげだろうな」

 第2段階、解除。

 本当に白眼だとして、仮面の少年はどうやって白眼を手に入れたのだろうか。分家の人間を生捕りにしたか、宗家の人間から奪ったか。前者、分家の目立たない人間を生捕りにした可能性のほうが高いだろう。銀髪であるため、日向の人間でないことは確かだ。

「木ノ葉の瞳術か。写輪眼といい、反則技ばかり保有しやがって……。あの里、眼に呪われてるんじゃねェのか」
「どこもかしこも似たようなもんだ。俺たちだって、油断したらすぐに堕ちるぞ」

 第3段階――解除完了。
 全身に這う痛みをこらえながらも、準備は整えた。

「サソリ、速度を落とすなよ」
「あ? 逃げてんのにそんなバカなマネするわけねェだろ」
「だよな」

 解除の終わった紙切れを、辺りへ一斉にばらまいた。

 紙切れから発生する白く濃い煙がたちこめ、仮面の少年にまとわりつく。

「……ぐあぁっ!」

 仮面の少年が足を止めた。

 先ほどばらまいたのは、いわゆる『催涙ガス』の化薬札だ。
 眼で俺たちを探しているのならば、一時的にでも眼を使用不可にしてしまえばいい。仮面をしていても、右目の穴から入りこめばこちらのものだ。
 向こうも、起爆札なら避ければいい程度に考えたのだろう。煙が出ると知っていたら真っ先に風遁を使うはずだ。
 1度使えば同じ相手には2度と通用しないうえ、戦闘にも使えず、こういう場面でしか役立ちはしないが。俺自身が気体を扱えたら、失明にまでもっていけたかもしれないな。

「お前、なにをしたんだ」
「暫くの間、眼を休めてもらうことにした。酷使していただろうからな。お礼代わりさ。いろいろと」
「……小癪な礼だったろうな」
「派手じゃあないが、堅実なお礼だろ? 今頃、嬉しくて嬉しくて感動の涙を流しているはずだ」

 またの名を苦痛の涙とも言う。これで奴はしばらくの間動けないだろう。
 青のようにきちんと眼の保護をしておくべきだったな。保護し忘れたのだろうか。いや。右目しかないため、その右目を保護してしまうと常に白眼を発動しなければならない状態に、ということもありえる。両目を使えるのならば、仮面の穴は2つにするはずだ。
 それとも、左目が使えない理由でもあるのか。左目側へ別の眼を入れて保護している可能性もあるな。

 なんにせよ、これで数百メートル離れる時間は稼げたはず――

 ――だった。

「……ウソだろ」

 思わず口からこぼれ出た。

 仮面の少年は未だ諦めず。
 仮面の上から手で右目をおさえているが、まだ白眼を発動させているのだろう。正確に俺たちを追ってきている。
 焼けるような痛みのはずだが、恐るべき執着心だ。

「しつけェなアイツ」
「生きて帰すわけにはいかないだろうからな」

 また鬼ごっこがはじまるかと思いきや、仮面の少年が突然速度を落とし、ついには引き返していった。

「なんだ? 急に退きやがったぞ」

 まだ追いかけてくるかもしれないため俺たちは走り続けたが、結局仮面の少年が追ってくることはなかった。




ツゴモリです。

【挿絵表示】