やはり俺の大学生活は間違っている。   作:おめがじょん

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初投稿です。
男率高めですがよろしくお願いします。
女性キャラはおいおい出てくるかと。


第1話:やはり俺の大学生活は間違っている。

 

 

 

 

 静かな夜だった。

 場所はファミレスだというのに客の姿は俺たちしかおらず、夏の気配と共に徐々に活発になっていくウェーイ系集団がかれこれ一時間ほど経つが入ってくる気配もない。

 俺の前にはこの時期だというのに冬用の厚いコートを着込んだデブと、初夏の季節にぴったりな薄手のジャケットを綺麗に着こなした、背の高い顔も良い忌々しい生き物が座っている。

 沈黙は嫌いじゃない。むしろ大好きまである。だがしかし、携帯も無い、本もない状態でかれこれ30分程黙り込んでいるのも、些か飽きてきた。

 目の前のデブ──材木座義輝も誠に遺憾ながら同じような事を考えていたようで、

 

「ふむ……」

 

 と唸った。いや、お前何か喋ってくれよ。俺はコミュ症のぼっちなんだぞ。と思うも、こいつも似たようなものだった事を思い出す。はぁ、仕方ねぇ……。

 

「あれからもう2年か……」

 

「ふむ。そうだな。光陰矢の如しというが、もう我らが高校を卒業してから2年も経つのだな……」

 

「ああ……。まさか雪ノ下家が汚職で捕まるなんてなぁ。あの強化外骨格も豚箱行きになったし。人生何が起こるかわからねぇわ」

 

「……確かに、あの人が学校に来ている時に警察が踏み込んで来た時は、本当にびっくりしたよな」

 

 背の高い忌々しい生き物──葉山隼人も会話に加わってきた。少し意外だった。この男が、こういったくだらない話に首を突っ込んでくるとは昔では考えられなかったからだ。

 

「あの強化外骨格。裏で色々えげつない事やってたからな。余罪も含めて10年は出てこれねぇみたいだぞ」

 

「ふむ。10年か……。意外と短いな。無期懲役でも良いレベルだろうに」

 

「あの女絶対反省してねぇよ。むしろ、独房の中で犯罪者纏め上げてクーデターでも起こすんじゃねぇの。早く国外追放でもしないと」

 

「何時の日かテロリスト集団の幹部になって戻って来そうだな。笑いながらノリで我らの家とかに銃弾とか撃ち込んできそう」

 

「あの人ならやりかねないな。自分を裏切った人間は、昔から絶対に許さなかったから」

 

「怖すぎるわ……。何かその内夢とかにでてきそうで嫌だ。あんなん出てきたら心臓ひっくりがえるっての」

 

「お前、人の事言える風体か? あの人は喋らなきゃ凄い美人じゃないか」

 

「はぁ?」

 

「しゃーなしだな。八幡、貴様の目は濁ってるし腐ってるし、擁護のしようがない」

 

「あれおかしくね? 強化外骨格の話をしてた筈なのに、何で何時の間にか俺を責める流れになってるの?」

 

 俺がイライラしながらそう言うと、2人は俺の背後を指差した。振り向こうとすると、頭を後ろから小突かれる。

 かなり痛いと同時に、甘い香りが漂う。こんな匂いをさせて、更にこんなに痛いのは一人しか居ない。振り向くと、青みがかかった黒髪が目に入った。

 

「アンタ達ねぇ……。こんな夜更けにくだらない話ばっかしてるんじゃないよ」

 

 心の底から呆れた声を出したのは川なんとかさん改め、川崎沙希である。一応、高校時代からのぼっち仲間で、今では立派な腐れ縁というわけである。

 この川なんとかさん。友人と付き合ってみれば非常に気安く、また向こうもぼっちである為、俺へのぼっち気遣いが行動の随所に感じられ、今では小町ぐらい俺は心を許している。

 今日も今日とて、愚かな俺達の為に、こうしてバイト帰りに助けによってくれたわけだった。

 

「すまんな沙希。それにしても、意外と面白いもんだったな。雪ノ下陽乃が逮捕されてから二年後ごっこも」

 

「最初は何を血迷った事を言い出したかと思ったが……まぁでも暇つぶしにはなったな」

 

「あの人が聞いたら恐ろしい事になりそうだけどね。悪いけど、アタシを巻き込むのだけはやめてよね」

 

「何だかんだで、沙希殿はあの悪魔に好かれているからのぉ……」

 

「そうなんだよな。喜んでいいと思うよ沙希。あの人が自分の本性を曝け出すって俺たちを抜かせば、君ぐらいだし」

 

「それ、全然喜べない」

 

 げんなりとした表情を作る沙希。それでも、頬は少しだけ緩んでいるので満更でもないのだろう。だが、すぐに表情を引き締めると、再び俺を睨みつけた。

 あの……そんなにガンつけられると怖いんですけど。ただでさえ、斬り捨て御免みたいな雰囲気漂ってるのに。段々と、その可愛いポニテが丁髷に見えてきたよ……。

 

「で、アンタ達お金は今いくら持ってるの?」

 

 俺達はポケットをごそごそと探り、あるだけの小銭を取り出した。俺は760円。隼人が672円。義輝が735円と、どいつもこいつも札一枚すらない。

 テーブルにおかれた伝票は、2450円とある。日雇いのバイトが終わって、給料も後日でるし、金が無いながらもぱーっとファミレスでも行こうかと来て見れば、

 完全に深夜料金の事を忘れていて、伝票がくればこのザマである。俺と義輝はぼっち。自分のブランドイメージが下げられない隼人では、頼れる人間が沙希しかいなかったのだ。

 

「細かいのめんどくさいから1人100円貸してくれ。そうすれば、何とか足りる」

 

「はいはい。次からは、きちんと深夜料金も頭に入れて食べるんだよ」

 

 沙希から300円を受け取り、隼人がレジに向かった。とりあえず、これで全員文無しだが、腹は満ち足りた。昨日までの一日100円生活が嘘のようだ。 

 明日のバイト先は弁当が出るし、夜には給料も貰える。これで何とかなるだろう。明日の朝ごはん? もう朝ごはんなんて10日も食ってねえよ。

 そして、四人でファミレスを出ると、

 

「沙希。もう遅いし送ってくわ。義輝と隼人は先に帰ってろよ」

 

「いいよ、八幡。アンタや義輝と一緒に歩いてたらまた職務質問くらうし、隼人と歩いてるとまた変な女に文句つけられそうだしね」

 

 本当に役に立たねぇな、俺達。まぁ、事実なんですけど。隼人何かは何時もの愛想笑いが引きつっている。未だに気にしているのだろう。

  

「じゃあ、三人で送っていけばいいんじゃないかな。それなら、何とか釣り合いがとれるだろ」 

 

 引きつった笑みを何とか維持しながら隼人が提案すると、沙希もようやく納得してくれたようだ。本当に、ご迷惑ばかりおかけします。

 隼人が居れば俺達は職質をくらわなくて済むし、俺達が居れば隼人ファンのビッチ共も騒がない。あれ、これってとても良い関係じゃね。ミトメラレナイワァ。

 そのまま4人で沙希が暮らしているアパートの方へと向かって歩いていく。義輝と隼人は最近読んだ本について語っている。その後ろを俺と沙希が歩くような形だ。

 

「……今じゃ何とも思わないけど、高校時代にこんな風になるなんて予想できた?」

 

「……いや。そもそも、俺があいつらやお前の事を下の名前で呼ぶなんて事自体想像できなかった」

 

「そうだよね。ま、色々あったしね」

 

「ああ、本当に色々あった」

 

 高校生活を振り返ると後悔ばかりだ。あの時、ああしていたら。こうしていたら。後悔は尽きない。あの時欲しかった本物も、結局手には入らなかった。

 応えられなかった言葉。守りたかった約束。そして、俺はまだ何とかなりそうだったそれすらも自分の手で叩き壊した。あの時は、それが最善だと思ったから。

 だが、それが最適だったかと今思い返すと自信がない。俺の青春ラブコメは間違ったまま終わってしまった。その事実だけが残っている。

 そんな感情が顔に出ていたのか、沙希が俺の背中を一発叩いた。……あの、すいません。貴女の一撃一撃、本当に響くんですけど。格闘技でも始めたの? グラップラー沙希なの?

 

「辛気臭い顔しない。アンタの青春だって、まだまだこれからでしょ」

 

「そうだな。俺にはもう彩加ルートしか残って……すいません。その振り上げた手は下ろしてください」

 

「最近、向こうも満更でもなさそうなのが凄い怖いのよね……」

 

 それでも楽しそうに笑う沙希の横顔から目を背け、空を見上げる。こいつの言う通り、まだ俺の青春は終わってないのかもしれない。

 あの眩しすぎた毎日を取り戻すことはもうできない。でも、あれからはこいつらとずっと過ごしてきた。この関係も、大学を卒業するぐらいまでは続きそうだ。

 

「やはり、俺の大学生活は間違っているな……」

 

「そうね。何せ、ヒロインは男だし」

 

 そう言うと、沙希は優しく笑った。確かにその通りだと、俺も釣られて笑ってしまうほどに納得がいく言葉だった。

 

 

 

 


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