やはり俺の大学生活は間違っている。   作:おめがじょん

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第15話:大学生も年に1回ぐらいは人の役に立つ。

 騒がしかった夏が終わったと思えば、冬も色々と騒がしく忙しなかった。まさかのエアコンだと思っていたものがクーラーで、あまりの寒さに家の中で凍死しかけたり、一色が相変わらずトラブルを持ってきたりと色々あった。その辺を語るのもまぁ、悪くはないがあまり良い思い出でもないので黙っておこう。だって、喋ると腹が減るし。

 

 そんなこんなで、男三人力を合わせて協力し、ようやく春を迎える事が出来た。暖房器具は中古の電熱器のみで、電気代節約のために三人同じ部屋で寝る生活もようやく終わった。今は昼間であれば半袖でも過ごすことのできる丁度良い気候でもある。このぐらいの季節が一番良い。やはり日本に四季なんてものがあるのは間違っている。

 

 

 そして、春を迎えて俺達は進級し、大学生活最後の一年を迎える事となった。

 といっても、3年の時にほぼ単位は揃えてしまってあるので後は卒業論文と教育実習ぐらいだろうか。隼人も義輝も最近ではあまり大学には行かずに就職活動を始めたようだ。今まで半裸で暮らしていた俺達だが、スーツを着る事も多くなっており、社会人の訪れが近い事を嫌でも実感させられる。嗚呼、さようなら俺の楽園。色々と考えたが最初から専業主夫一本は辛いので、一応社会人としてダラダラと働きつつ、稼ぎの良い女性と出会い、結婚後に主夫となる事に計画変更をした。静さんなんかには、まだ諦めていなかったのか?と呆れていたが夢は容易く捨てられるものではない。専業主夫に、俺はなる! 

 

 ……なんて言ってみたものの、全くアテなんかない。唯一、身の回りで俺を養える財力があるのは陽乃さんぐらいだが、その陽乃さんはここ最近元気がない。現に今も平日昼間だというのに、ふらっと我が家にやってきてはベランダで外の景色を見ながらぼーっとしている。最初は静かで素晴らしいな、なんて思っていたがこうも頻繁にこられると何かあったのかと勘ぐってしまう。お願いだから仕事辞めたとか言わないで欲しい。ハローワークに通う雪ノ下陽乃なんか絶対に見たくない。すると──

 

「ねぇ……アンタ達。私の良いとこって何なのかな?」

 

 ぽつりとそう呟いた。俺は読んでいた本から顔を上げ、履歴書を書いていた義輝は緊張に身を強張らせ、隼人はスマホをいじるのを止めた。ここで何と答えるかは今後の展開に非常に大きく関わってくる。……考えろ。変にお世辞を言ってはしつこく絡まれそうだ。ここは正直に答えて行きたい。俺達3人は目を合わせ、お互いの意思を確認すると、声を揃え、

 

 

「顔」

 

「胸」

 

「金」

 

 

 …………おかしい。正直な気持ちを伝えた筈なのに空気が非常に悪くなった。でも、間違ってはない。とても美人だし、スタイルもいい、財力だってある。うん。俺達は絶対に間違ってない。なのに、どうしてベランダに座っていた陽乃さんはこちらを睨んでくるのだろうか。しかも何で俺だけ睨むの? そのまま陽乃さんはひとしきり俺を睨んだ後、いきなり立ち上がり部屋から出て行った。

 

「なんなんだありゃ」

 

「流石に、金はないと思うぞ八幡」

 

「そうだな。八幡が悪い」

 

 ……味方が居ない。義輝と隼人がこちらを見る目は冷たい。というか、顔も胸も結構酷いと思うんだけど、こいつらの真意はそこにないのだろう。つまるとこ、一番暇そうなお前が相手をしにいけといったところか。バイトと教育実習前で就職活動どころではないし、義輝と隼人は大手が募集をかけている今が一番大事な時期だ。渋々と立ち上がり、飯でも奢ってくれないかなぁなんて思いながら部屋を出て行こうとすると、隼人がぽつりと漏らした。

 

「あの人、今大変みたいだから、助けてやってくれよ」

 

 その言葉に、特に返事はせず俺はそのまま部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玄関まで行くと、不機嫌そうな顔をした陽乃さんが立っていた。ここ数年わかってきたが、この人は結構な構ってちゃんだ。大学生になってまで、自分の母校にあれほど頻繁に顔を出す人もそうは居ないだろう。というか、俺は卒業以来一度も総武高校に近づいてすら居ない。それも後一月、教育実習でまたあの学校の門を潜ることになるとは、高校生の頃の俺に言ったら絶対に信じないであろう。今の俺だって少しだけ信じられない。

 

「遅い。女が走っていったら、男はすぐ追いかけてくるもんだよ。だから、八幡はモテないのよ」

 

「別に、陽乃さんにモテたくはないんで」

 

「……ふぅん。ご飯奢ってあげようと思ったけど、やっぱやめようかな」

 

「モテたいです! 申し訳ございませんでした!」

 

 非道なり雪ノ下陽乃。今日も朝からバナナ一本しか食べていないのにそういう事言いますか? その辺りもわかっているのだろう。何時ものとってつけた笑顔に変わった。言われて見れば、この人がイラっとした所とか、本気で嫌味たれてくるところは大学になってみるようになったが、笑った所は見た事がない。高校時代から知っている誰にでも愛されるようないつものとってつけたような笑顔だけだ。俺はこれを笑っているとは思っていない。嘲笑しているといった方が近いだろうか。

 

「よろしい。じゃあ、ちょっとお姉さんに付き合ってくれない? ドライブしようよ」

 

「はぁ……。でも車なんかないじゃないですか」

 

「大丈夫よ。すぐに持ってこさせるから」

 

 ……呆れたお嬢様である。それから20分ぐらい経っただろうか、家の前に多分一生俺には縁のないであろう黒塗りの車が家の前に止まった。降りてきたスーツのお兄さんは恭しく陽乃さんに頭を下げるとキーを渡す。結構強面の人なのに陽乃さんは「ありがとっ」と非常に軽い。怖かったので俺も会釈だけして車の中に乗り込む。……なんなんだろう、このシート。凄く乗り心地がいい。これが、高級車というものなのだろうか。

 

「陽乃さん……これって……」

 

「うん。私の愛車。就職祝いに親が買ってくれたの」

 

 すげぇな雪ノ下家。我が家の俺の就職祝いはなんなんだろう…………。思いつかない、うちの親父辺りなら就職祝いにお前の奢りで何か買ってくれとかいいかねん。この家の子供に生まれたかった。ただし母ちゃんはチェンジで。雪ノ下ママ、陽乃さんや隼人とつるんでると年に二回ぐらい会うけど相変わらず怖いんだもん。謎に包まれた真っ黒な組織でスナイパーとかやってそうなあの鋭い眼光は未だに慣れないし、慣れたくもない。

 

「んじゃ、れっつごー」

 

「…………ちなみに行き先は?」

 

「ん? とりあえず山梨」

 

「とりあえずって距離じゃないと思うんですけど……。ちなみに、俺明日の朝からバイト入ってますから泊まりとかは勘弁ですよ」

 

「え? お泊りじゃなくて休憩がいいの? いやらしい子ね」

 

「何の話をしてんだよ!」

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陽乃さんの車に乗ってから大体一時間が経過しただろうか。快適な車で、運転も多少スピードは出ているが、特に怖くも何ともない。高速道路に乗ってからは、信号も渋滞もないので車がスムーズに進んでいるのもあってか、大分リラックスできている。他人の運転でドライブするのが好きな女の気持ちが少しだけわかった。これからも、助手席は俺の定位置にして行きたい。

 

「どう、八幡? 綺麗なお姉さんの運転する高級車の助手席に座るなんて初めてでしょ?」

 

「いや、静さんが過去に何回か……」

 

 そう言うと、左手でわき腹を殴られた。痛い。

 

「やり直し」

 

「ハジメテデス。サイコウノキブンデス」

 

「よろしい」

 

 陽乃さんは満足したようだが小声でこっそりと「流石にアストンマーチンは……」と毒づいていた。本当にこの姉妹負けず嫌いである。BMだって負けてないと思いますけど(庶民感)それにしても意外と山梨は近いもんだ。まぁ、千葉の方が全然近いんだけどと適当に頭の中で張り合っていると、ふと陽乃さんの顔が目に入ってきた。やはりというか、最近元気がなさそうに見える。

 

「何かあったんすか?」

 

「んー? いや、別に大丈夫だよ。自分で何とかできるし」

 

「一色曰く、その言い方は話を聞いてくれアピールって聞いたんですけど、マジですか?」

 

「そうかなぁ。お前には関係ないからいちいち話しかけるなって意味もあるんじゃないかな?」

 

「うわ、ムカつく。じゃあ思わせぶりな態度するなよって話っすよね」

 

「そこが女心の難しい所だよ、八幡」

 

「やはり他人の女は信用できないっすね。最後に信用できるのはやはり小町しか居なさそうです」

 

「……そうよね。安心したい。信じきっていたい。気持ちが通じ合っていたい。多分きっと、それが君の言う本物って奴だったのかもね……」

 

 その言葉に心が沈んだ。俺はかつてそう信じて、最終的にはそれを信じきることが出来なかった。あいつらは信じていたのに、俺は信じきれなかった。だから全部壊れて、無かった事にして、見ないように前に進もうと決めた。その果てにどんな結末が待っていようとも全てを受け入れる事に決めたんだった。

 

「そうですね……。でも、俺はそれを信じきれなかった。陽乃さんと一緒ですよ」

 

 ハンドルが一瞬曲がった。動揺したのだろうか。あんまり不用意な事言うと、命を落としかねんかもしれない。

 

「わかってたんだ?」

 

「わかってたというか、そうなんじゃねぇかなって思ってたぐらいです。大学生になって思ったんですけど、普通あそこまで母校に顔出しませんよ」

 

「う……」

 

「めぐり先輩が良い人だったから何とかなってましたけど、あれだけ妹のとことか俺らのとこ顔出してりゃ、普通嫌な顔ぐらいはされますよ。俺だったら間違いなくあの先輩大学でぼっちなんじゃねぇの?って陰口叩きますけどね。まぁ、陽乃さんはここでもラッキーで、その陰口言いたい奴がぼっちで尚且つ陰口叩く相手も居なかったっていう事もあるんですけど……。俺が陰口吐こうもんなら、つか、お前誰?って言われるのがオチです」

 

「それはラッキーだったよ。良かった」

 

「いや、良くないんですけどね。……で、この人はもしかして俺らの言う本物を信じたくないからちょっかいかけてくるのかなーって漠然とは考えてました」

 

「大まかには当たりかなぁ……。でも、私が一番気に入らなかったのは何だかわかってた?」

 

「いや……」

 

「君と、ガハマちゃんだよ。私の後をずっと追ってただけの雪乃ちゃんが、君とガハマちゃんという友人を手に入れたのが本当に不愉快だったよ」

 

 陽乃さんの声が少しだけ大きく響いた。何時もの軽やかな声ではない。心の底から搾り出したような、切ない声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やばい。凄い気まずい。あの後から、陽乃さんずっと無言だし、車は高速降りて山の中向かうし。もしかしたら、このまま俺は魔王の逆鱗に触れた罪で殺されて埋められてしまうかもしれない。さようなら、小町。愛していた。さようなら、隼人。洗濯物を取り込んでおいて欲しい。さようなら、義輝。特に何もねぇや。心の中で祈りを捧げ、来るべき審判の時を待っていると車が止まった。どうやらここが俺の墓場のようである。辺りはもう暗くなってきているし、俺を殺すなら絶好のチャンスだろう。陽乃さんが車を降りたのに続き、俺も降りた。

 

「うお……」

 

 そこは、死に場所としてはきっと最高峰であろうとても綺麗な景色が広がっていた。こんな山の奥なのに、そこはとても綺麗に桜が咲いていた。切り取られた空間のようだった。誰かが手入れをしているのだろう。丁寧に草が刈られ、ただ綺麗な桜を楽しむためだけに、この場所が在る。人工的だが、それでも自然の美しさがとても引き立っていた。

 

「嫌な事があるとね、ここに来るんだ」

 

「わかりますよ。俺も大学で嫌な事があると、すぐトイレに篭りますしね。なんだったら昼飯だってそこで──」

 

「黙って」

 

「あっ、はい」

 

 この景色の素晴らしさに何時もより少しだけテンションが上がってるのに水を差された。陽乃さんは桜の木の下に何時の間にか持ってきたシートを引き、その上に座った。そして俺を見てシートを叩く。座れという事なのだろう。これが静さんだったらシートなんか引かないし、きっと酒飲み始めるし、なんだったら煙草まで吸うと考えると涙が出てくる。

 

「君が雪乃ちゃん達と道を違えて、私とつるむようになった時、私は優越感を感じたよ。ああ、やっぱりこうなったって。これが現実なんだって。──本物なんか、ないんだって」

 

「……そうですか」

 

「でもね、八幡。去年の4月からね。雪乃ちゃん、うちの会社に入ったの。親に頭を下げに行って、今までワガママ言ったから家のために働かせて欲しいって。私、凄く驚いちゃった」

 

 ……確かに俺も驚いた。俺の知っている雪ノ下雪乃は親の望む道を歩く事を嫌がっていたように見える。だとすれば、きっとあいつも色々考えて、自分なりに答えを出したのだろう。それならば、良かった。由比ヶ浜も幸せそうだし、本当に良かったと心の底から思う。あの時の、俺の選択は間違っていなかったのかもしれない。

 

「あの子、昔と違って今とても活き活きとしてる。私の後もついてこないし、八幡が居なくなったのに、高校の時よりもずっと楽しそうなのよ……」

 

「なら、いいじゃないですか。それに俺があいつに与えた影響なんて小さなもんですよ。あいつに言わせりゃ、この発言だっておこがましいって否定されますよ」

 

「それは違うよ、八幡。だって、私が高校の頃には──貴方も、ガハマちゃんも居なかったもの。誰も、私と同じ目線で話してくれる"友達"なんて居なかったよ」

 

 ここ数年、陽乃さんは昔と違って本心で話してくれる事が偶にあったが、今回は特にそれが顕著だ。これだけこの人が動揺するのだ、雪ノ下の変わりっぷりは相当なのだろう。なんだかんだ陽乃さんの元気がない理由がわかってきた。

 

「陽乃さん。雪ノ下と何かありました?」

 

「いや、特にはないよ」

 

「じゃあ、周りですね」

 

「…………そうよ。皆変わった雪乃ちゃんが可愛くてしょうがないみたい。私が跡継ぎだと思ってた連中も、私を見限って皆雪乃ちゃん派になっちゃった。

だから最近暇で仕方ないのよ。──そう、それだけの話よ。お姉さんもう飽きちゃったから海外でも行こうかな。教育実習終わったら、一緒にいかない? モルディブ辺りでも──」

 

「悔しいんですよね?」

 

「…………何が?」

 

「ずっと1人で頑張って来たのに、自分の真似をして、人に頼りきりだった妹が自分を越しちゃって──。じゃあ、自分は何だったんだろうって」

 

 陽乃さんは答えない。俯いたまま返事すらしない。中華料理屋の件の時と一緒だ。この人は、本当に図星を突かれると肯定も否定もしないのだ。本心を曝け出すのが怖いから。誰も信用できないから。己の本心を誰かに利用されかねないから。まるでどこかの誰かさんみたいだ。

 

「……随分と私の事わかった気になってるのね」

 

「間違ってたら笑えばいいじゃないですか。それに、何だかんだ、妹の方よりも一緒に居た年月が長くなりましたしね」

 

 暫く黙っていた陽乃さんだが、やがてゆっくりと立ち上がった。一度深呼吸をして、桜を見て目を細める。そこに、どんな感情が浮かんでいるかはわからない。

 

「お腹すいたし、何か食べて今日は帰ろうか」

 

「……そうですね」

 

 俺と陽乃さんは並んで歩き出した。特に言葉はない。この後、一緒に飯を食うのが少し気まずい。すると──

 

「ねぇ、八幡。いつか、私を助けてね──」

 

「そうですねぇ……。ま、この前も飯奢って貰ったし、その分ぐらいは働きますよ」

 

 俺がそう言うと陽乃さんはニヤリと笑った。

 

「優しいね」

 

「そう言って貰えた方が、楽でいいかなって思いまして」

 

 きっと陽乃さんはこれからも本物を否定し続けるだろう。この人の生き方には"今は"きっと不要な物だし、間違ってても何とかしてしまうのだろう。それが俺の知っている雪ノ下陽乃だ。陽乃さんは笑うだろうが、俺は今でも本物を信じている。壊してしまっても、信じきれなくとも、ある物だと信じて精々足掻いて生きていく。願わくば、あいつらもそう信じてくれていると、少しだけ嬉しい。許される事は無いだろうが、今もきっとこれからも、そう願いながら俺は生きていく。

 

 

 

 




お久しぶりでございます。
今後の更新予定も全くの未定でございます。

何せ
病気療養中だわ
しばらくしたら新しい職場だわ
ここ半年近く毎日がデスマーチでございました。


というわけでこれが最終話となってもいいように、
独自解釈で色々書いてみたり、
一応、綺麗に話し終わってない?みたいな
空気を出しつつこの話を書きました。
陽乃EDっぽいけど、普通のEDっぽいかなって思います。


原作も新刊が出るという事で楽しみに待っているとこです。
では、次の職場が平和で定時帰宅できるようなら、
教育実習編でまたよろしくお願いします。


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